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剣聖と氷結の精霊術師
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捕虜?人質?
まぁ、どっちでも良いけど、兎に角私は暇だった。
部屋から出られないので、仕方なく室内でストレッチを始める。
この部屋に移されてから、美味しい再現和食にありつけて少し食べ過ぎかもしれない。
帝国ではまだ味噌と醤油は出来ていない。確か早くても半年先になるって聞いた。
エリーナが送るって言ってくれたカレーのルーも、結局帝国に届く前に前線に送られたから、食べれなかった。
それなのにまさか王国で食べられるなんてね。
王国と帝国は国交が無いから全く情報が無かったのね。
キースに聞けば、王国の南東にある聖国カルキントスとは国交があるらしく、カレーのルーや米を輸出してるらしい。醤油や味噌は作ってる量が少ないので国内消費に留まってるらしいけど。
この米も日本米に近いものがあるのよね。もちもちして甘みがあって。
醤油や味噌を作る時に必要な麹菌は精霊に探させたらしい。精霊ってそんなことも出来るの?便利じゃない?って言ったら、「木と土の精霊とは契約してなかったから、結構苦労したぞ」って言ってた。
何でも契約してない精霊に頼み事する時は対価が必要らしい。
そもそも話し掛けても無視されるらしいけど、何故かキースの場合、話だけは聞いてくれるらしい。
まぁ、それは置いといて、今は少しでも身体を動かして食べた分を消費しないと、子供体型になってしまう。
私が腕立て伏せをしているとキースがやって来た。
毎食届けてくれて、一緒に食べるんだけど、この人暇なのかしら?
「立花くん、ちょっと手伝ってくれない?」
「え?」
「人手が足りなくてね。取り敢えずこの指輪付けてくれるか?」
キースは銀色のツルリとした指輪を私に差し出した。
受け取って見れば、内側に文字が彫られてるみたい。
「それつけると髪と目の色が変わるから」
そう言われて付けてみる。
この人の言うことを素直に聞いてしまうのは何故か自然体で話せるからだと思う。
帝国が最大限に警戒してる相手なんだけど、一週間以上こまめに相手されて絆されたのかもしれない。
何せ私は帝国に見捨てられる予定の人間だから。
別にキースにそう言われた訳では無い。
帝国の情報を話してしまったから悲観している訳でも無い。
私が役立たずだからだ。
何も出来ずにこうして敵国に捕われた勇者の内の一人を戦後交渉の題材に上げるだろうか?
だって、帝国はやろうと思えば何回も勇者召喚が出来るのだから。
それに田代も如月も変わってしまった。あやめは本心を隠さなくなった。
私だって変わったはず。
だから救い出されなくても田代達を恨んだりしない。
そんな私にキースは普通に接してくる。最初こそ自白剤を盛られたけど、それ以降は力が抜ける程気安い。
指輪を付けると私の黒髪が茶色に、濃い茶色の目が薄い茶色になった。
この王国で一番無難な色らしい。
キースに案内され王宮から空を飛ぶ。田代の『飛翔』とは違って足元に空気の渦がある。
そのまま私達二人は王都の壁を越えて着地する。
「え?一体何事なの?」
くたびれた様な簡素な服を来た200人程の老若男女がその場に居た。
立って話している者や、座って俯いてる者、泣いている子供も居る。その場が騒然としていた。
「立花くん、料理出来る?出来るならあそこで炊き出し手伝って欲しい」
「え?ええ、貴方は何処に行くの?」
「俺は簡易的な住居作るから」
「ねぇ、行く前に説明してよ」
急いでいるキースには悪いがここは聞いておかないと。
「砦周辺からの避難民だ。帝国が追い出したらしい。すまんが、皆着の身着のままで来てて疲れきってるから」
そう言ってキースは何人かで集まって話している大人の男性の輪に入って行った。
周りを見れば大釜が火の上に設置されており、何人もの人達が材料を切り刻みながらその大釜に入れていた。
飲料水を配っている人も居る。
私は慌ててその人達に声を掛けて手伝うことにした。
「芋は腹に溜まるから、それをメインに皮を剥いてくれる?」
大柄なおばさんに包丁を渡される。
簡単な下拵えなら出来るので、手際良く皮を剥いていく。
そのついでにこの状況もおばさんに聞いてみた。
「何やら帝国が侵略して来たって言うじゃないか。この国はどうなっちまうのかねぇ。大きな声では言えないけど、王様達がアレだからねぇ。氷結様お一人じゃ出来ることも限られてるだろうし」
おばさんは大きな溜息を吐く。
「でもあれ、見てみなさいよ。流石氷結様だね」
別のおばさんが顎で向こう側を示し、それに従って最初に話してたおばさんと私はその方向に視線を向けた。
気付けば既に三階建ての建物が幾つか建っていた。
その横にもキースが手を上下させながら地面の土を操っている。
「凄い……」
「氷結様って割と気遣って下さるのよね」
「え?そうなんですか?」
「あら、貴女知らないの?マダカル商会の三男坊は昔から神童って言われて有名でね。しかも精霊術師なのにウチらみたいな市井の者にも気さくに話し掛けてくれるんだよねぇ」
「同じ平民でも精霊術師になったら態度がコロっと変わる奴も居るのにさぁ」
「「そうそう」」
「氷結様が怖いって言うのは大抵貴族らしいけどね」
そんなおばさん達の話を聞きながらキースが避難民から拝まれながら建物を建てているのを見た。
炊き出しの配給も済み、建てられた仮設住宅(にしては頑丈そうに見えるが)に毛布等を手分けして持ち込むと、その場は一応落ち着いた状態になった。
片付けを手伝っているとキースがやって来て「ありがとうな」って声を掛けて来た。
その笑顔にいつもの口調で喋れなくなった。
え?何で?
「疲れたろう?今日は何食べる?」
「あ、え、うん、親子丼?」
「何で疑問形なんだよ」
キースは笑って裏手で私の肩にツッコミを入れる。
実はこれ、田代達にはされたことが無い。
田代はそんなタイプじゃないし、如月はどちらかと言えばツッコまれる方だし。あやめとは表向きは喋ってたけど、趣味は全く違ったし、道場での稽古が忙しかったから遊んだことも無い。
だから余計に普通の友達みたいな仕草が嬉しく思えた。
「そうだ、今日は頑張って貰ったから良いもの見せてやるよ」
「え?何?」
「夕食後、楽しみにしとけよ」
そう言って私は又キースの起こした風に乗って王宮へと戻った。
食事は大抵キースと一緒に食べている。今日は私が親子丼、キースは筑前煮定食だ。
この日の夕食では当然避難民の話になった。
「そうか、立花くんは知らないんだったな。王国は帝国と事前に取り引きをしてたんだ。この国の王族と、あわよくば残っている精霊術師を排除する為に最小限の資源を含めた領地を渡すことを条件に侵略させたんだ」
私の思考は一瞬固まった。
「……王妃の復讐、じゃないの?」
「まぁ、それを大義名分に掲げてるんだけどな。田代くんは知ってたぜ?」
は?あいつ、知ってて黙ってたの?
ここから釈放される時に私に会いに来て「必ず助け出すから」って言ってたのは信じてなかったと言うか、多分無理だろうとは思っていたけど。
「まぁ、言わなかった理由があるんじゃないか?」
キースはそう言うと話を続ける。
「うちの宰相も避難民は誤算だったみたいだな。村民は鉱山で働いてた人達が多いから、そのまま帝国が管理すると思ってたらしい。俺はそれもどうかと思うがな。新しく他の土地に村を作るにしても前と同じ程度の生活基盤が整うのにも時間掛かるし、忙しくなりそうだ」
「それって精霊に手伝ってもらうの?貴方は排除対象じゃないってこと?」
「まぁ、そうだな。宰相とは話をつけたし」
精霊術師って、もう殆ど居ないってタナトスさんは言ってたよね?
「ねぇ、精霊術師ってもう殆ど居ないんでしょ?一人でやるの?」
あの避難民をキース一人に丸投げするのか?何故か私はこの国の顔も知らない偉い人達にムッとしてしまう。何故だろう?
「一人でも出来ないことではないが、まぁちょっと考えがあるから」
そう言ってキースは悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
年齢は陛下よりも上らしいが、普段の見た目は20代後半ぐらいに見えるキースは、その時だけは少年の様だった。
夕食後、私は精霊の風に乗せられて王都内にある、とある場所に連れて来られた。
聞けばキースの実家の裏側にある敷地で、そこには植物園にありそうな大きな温室があった。
ビニール張りではなく、ガラスの様な透明な薄いもので覆われたその温室にはほぼ一面に草花が区分されて栽培されていて、中央に、もう見る事が出来ないかもしれなかったものがあった。
「さ……くら?」
実は帝国で聞いたことがあった。
春に花見をすると如月がマッシモに言ったことがあり、桜ってどんな花?みたいな話になったのだ。
四人で絵を描きながら説明したが、帝国では見た事が無いと言われた。
これはバルカン王国のエリーナにダンジョンで会った時も聞いてみたが、国を股にかけていた冒険者であるエリーナも見た事無いと言っていたのだ。
実は私は桜が好きだ。正確に言えば、あの散り際の美しい時が。
「実際は桜に似た何かなんだけどな。ずっと精霊達に協力して貰いながら生やしてみるんだけど、この世界に無いものを作るのは精霊でも難しいらしい。まぁ、精霊達はこの木がめちゃくちゃ好きらしいけど」
「でも私には桜にしか見えないわ」
「桜は散る時が一番綺麗に感じるんだよなぁ。俺は人と花見をしたこと無かったし」
「ボッチだったのね」
「うっ」
「私にもブーメランだったわ、今の」
そう言うとキースは吹き出した。
「あの勇者友達とは花見しなかったのか?」
「あの三人は満開が好きなのよ。あやめは花吹雪は身体に付くから嫌だって言ってたし」
「マジか~~、俺とは合わないな」
「一番綺麗なのにね」
キースが指を鳴らすとブワリと風が起こり、枝が揺らされ花びらがフワリと舞った。
「え?いいの?」
「桜に似たものだって言っただろ?花びらが落ちても直ぐに再生されるんだよ。ワビサビもあったもんじゃない」
溜息を吐くキースが何かおかしくて堪らなかったが、桜モドキの花吹雪に心が震えた。
「少しは元気出たか?一応人質って立場だから腹から笑えないだろうが、今日は特に凹んでただろ?」
なんてことだろうか。
帝国では悪名高い氷結の精霊術師が、私の為に花吹雪を起こしている。
確かに今日は避難民を見て微力な自分に対して凹んでいた。
「又、見に連れて来て貰っていい?」
「いいぞ」
キースは見惚れる様な笑顔を浮かべた。
まぁ、どっちでも良いけど、兎に角私は暇だった。
部屋から出られないので、仕方なく室内でストレッチを始める。
この部屋に移されてから、美味しい再現和食にありつけて少し食べ過ぎかもしれない。
帝国ではまだ味噌と醤油は出来ていない。確か早くても半年先になるって聞いた。
エリーナが送るって言ってくれたカレーのルーも、結局帝国に届く前に前線に送られたから、食べれなかった。
それなのにまさか王国で食べられるなんてね。
王国と帝国は国交が無いから全く情報が無かったのね。
キースに聞けば、王国の南東にある聖国カルキントスとは国交があるらしく、カレーのルーや米を輸出してるらしい。醤油や味噌は作ってる量が少ないので国内消費に留まってるらしいけど。
この米も日本米に近いものがあるのよね。もちもちして甘みがあって。
醤油や味噌を作る時に必要な麹菌は精霊に探させたらしい。精霊ってそんなことも出来るの?便利じゃない?って言ったら、「木と土の精霊とは契約してなかったから、結構苦労したぞ」って言ってた。
何でも契約してない精霊に頼み事する時は対価が必要らしい。
そもそも話し掛けても無視されるらしいけど、何故かキースの場合、話だけは聞いてくれるらしい。
まぁ、それは置いといて、今は少しでも身体を動かして食べた分を消費しないと、子供体型になってしまう。
私が腕立て伏せをしているとキースがやって来た。
毎食届けてくれて、一緒に食べるんだけど、この人暇なのかしら?
「立花くん、ちょっと手伝ってくれない?」
「え?」
「人手が足りなくてね。取り敢えずこの指輪付けてくれるか?」
キースは銀色のツルリとした指輪を私に差し出した。
受け取って見れば、内側に文字が彫られてるみたい。
「それつけると髪と目の色が変わるから」
そう言われて付けてみる。
この人の言うことを素直に聞いてしまうのは何故か自然体で話せるからだと思う。
帝国が最大限に警戒してる相手なんだけど、一週間以上こまめに相手されて絆されたのかもしれない。
何せ私は帝国に見捨てられる予定の人間だから。
別にキースにそう言われた訳では無い。
帝国の情報を話してしまったから悲観している訳でも無い。
私が役立たずだからだ。
何も出来ずにこうして敵国に捕われた勇者の内の一人を戦後交渉の題材に上げるだろうか?
だって、帝国はやろうと思えば何回も勇者召喚が出来るのだから。
それに田代も如月も変わってしまった。あやめは本心を隠さなくなった。
私だって変わったはず。
だから救い出されなくても田代達を恨んだりしない。
そんな私にキースは普通に接してくる。最初こそ自白剤を盛られたけど、それ以降は力が抜ける程気安い。
指輪を付けると私の黒髪が茶色に、濃い茶色の目が薄い茶色になった。
この王国で一番無難な色らしい。
キースに案内され王宮から空を飛ぶ。田代の『飛翔』とは違って足元に空気の渦がある。
そのまま私達二人は王都の壁を越えて着地する。
「え?一体何事なの?」
くたびれた様な簡素な服を来た200人程の老若男女がその場に居た。
立って話している者や、座って俯いてる者、泣いている子供も居る。その場が騒然としていた。
「立花くん、料理出来る?出来るならあそこで炊き出し手伝って欲しい」
「え?ええ、貴方は何処に行くの?」
「俺は簡易的な住居作るから」
「ねぇ、行く前に説明してよ」
急いでいるキースには悪いがここは聞いておかないと。
「砦周辺からの避難民だ。帝国が追い出したらしい。すまんが、皆着の身着のままで来てて疲れきってるから」
そう言ってキースは何人かで集まって話している大人の男性の輪に入って行った。
周りを見れば大釜が火の上に設置されており、何人もの人達が材料を切り刻みながらその大釜に入れていた。
飲料水を配っている人も居る。
私は慌ててその人達に声を掛けて手伝うことにした。
「芋は腹に溜まるから、それをメインに皮を剥いてくれる?」
大柄なおばさんに包丁を渡される。
簡単な下拵えなら出来るので、手際良く皮を剥いていく。
そのついでにこの状況もおばさんに聞いてみた。
「何やら帝国が侵略して来たって言うじゃないか。この国はどうなっちまうのかねぇ。大きな声では言えないけど、王様達がアレだからねぇ。氷結様お一人じゃ出来ることも限られてるだろうし」
おばさんは大きな溜息を吐く。
「でもあれ、見てみなさいよ。流石氷結様だね」
別のおばさんが顎で向こう側を示し、それに従って最初に話してたおばさんと私はその方向に視線を向けた。
気付けば既に三階建ての建物が幾つか建っていた。
その横にもキースが手を上下させながら地面の土を操っている。
「凄い……」
「氷結様って割と気遣って下さるのよね」
「え?そうなんですか?」
「あら、貴女知らないの?マダカル商会の三男坊は昔から神童って言われて有名でね。しかも精霊術師なのにウチらみたいな市井の者にも気さくに話し掛けてくれるんだよねぇ」
「同じ平民でも精霊術師になったら態度がコロっと変わる奴も居るのにさぁ」
「「そうそう」」
「氷結様が怖いって言うのは大抵貴族らしいけどね」
そんなおばさん達の話を聞きながらキースが避難民から拝まれながら建物を建てているのを見た。
炊き出しの配給も済み、建てられた仮設住宅(にしては頑丈そうに見えるが)に毛布等を手分けして持ち込むと、その場は一応落ち着いた状態になった。
片付けを手伝っているとキースがやって来て「ありがとうな」って声を掛けて来た。
その笑顔にいつもの口調で喋れなくなった。
え?何で?
「疲れたろう?今日は何食べる?」
「あ、え、うん、親子丼?」
「何で疑問形なんだよ」
キースは笑って裏手で私の肩にツッコミを入れる。
実はこれ、田代達にはされたことが無い。
田代はそんなタイプじゃないし、如月はどちらかと言えばツッコまれる方だし。あやめとは表向きは喋ってたけど、趣味は全く違ったし、道場での稽古が忙しかったから遊んだことも無い。
だから余計に普通の友達みたいな仕草が嬉しく思えた。
「そうだ、今日は頑張って貰ったから良いもの見せてやるよ」
「え?何?」
「夕食後、楽しみにしとけよ」
そう言って私は又キースの起こした風に乗って王宮へと戻った。
食事は大抵キースと一緒に食べている。今日は私が親子丼、キースは筑前煮定食だ。
この日の夕食では当然避難民の話になった。
「そうか、立花くんは知らないんだったな。王国は帝国と事前に取り引きをしてたんだ。この国の王族と、あわよくば残っている精霊術師を排除する為に最小限の資源を含めた領地を渡すことを条件に侵略させたんだ」
私の思考は一瞬固まった。
「……王妃の復讐、じゃないの?」
「まぁ、それを大義名分に掲げてるんだけどな。田代くんは知ってたぜ?」
は?あいつ、知ってて黙ってたの?
ここから釈放される時に私に会いに来て「必ず助け出すから」って言ってたのは信じてなかったと言うか、多分無理だろうとは思っていたけど。
「まぁ、言わなかった理由があるんじゃないか?」
キースはそう言うと話を続ける。
「うちの宰相も避難民は誤算だったみたいだな。村民は鉱山で働いてた人達が多いから、そのまま帝国が管理すると思ってたらしい。俺はそれもどうかと思うがな。新しく他の土地に村を作るにしても前と同じ程度の生活基盤が整うのにも時間掛かるし、忙しくなりそうだ」
「それって精霊に手伝ってもらうの?貴方は排除対象じゃないってこと?」
「まぁ、そうだな。宰相とは話をつけたし」
精霊術師って、もう殆ど居ないってタナトスさんは言ってたよね?
「ねぇ、精霊術師ってもう殆ど居ないんでしょ?一人でやるの?」
あの避難民をキース一人に丸投げするのか?何故か私はこの国の顔も知らない偉い人達にムッとしてしまう。何故だろう?
「一人でも出来ないことではないが、まぁちょっと考えがあるから」
そう言ってキースは悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
年齢は陛下よりも上らしいが、普段の見た目は20代後半ぐらいに見えるキースは、その時だけは少年の様だった。
夕食後、私は精霊の風に乗せられて王都内にある、とある場所に連れて来られた。
聞けばキースの実家の裏側にある敷地で、そこには植物園にありそうな大きな温室があった。
ビニール張りではなく、ガラスの様な透明な薄いもので覆われたその温室にはほぼ一面に草花が区分されて栽培されていて、中央に、もう見る事が出来ないかもしれなかったものがあった。
「さ……くら?」
実は帝国で聞いたことがあった。
春に花見をすると如月がマッシモに言ったことがあり、桜ってどんな花?みたいな話になったのだ。
四人で絵を描きながら説明したが、帝国では見た事が無いと言われた。
これはバルカン王国のエリーナにダンジョンで会った時も聞いてみたが、国を股にかけていた冒険者であるエリーナも見た事無いと言っていたのだ。
実は私は桜が好きだ。正確に言えば、あの散り際の美しい時が。
「実際は桜に似た何かなんだけどな。ずっと精霊達に協力して貰いながら生やしてみるんだけど、この世界に無いものを作るのは精霊でも難しいらしい。まぁ、精霊達はこの木がめちゃくちゃ好きらしいけど」
「でも私には桜にしか見えないわ」
「桜は散る時が一番綺麗に感じるんだよなぁ。俺は人と花見をしたこと無かったし」
「ボッチだったのね」
「うっ」
「私にもブーメランだったわ、今の」
そう言うとキースは吹き出した。
「あの勇者友達とは花見しなかったのか?」
「あの三人は満開が好きなのよ。あやめは花吹雪は身体に付くから嫌だって言ってたし」
「マジか~~、俺とは合わないな」
「一番綺麗なのにね」
キースが指を鳴らすとブワリと風が起こり、枝が揺らされ花びらがフワリと舞った。
「え?いいの?」
「桜に似たものだって言っただろ?花びらが落ちても直ぐに再生されるんだよ。ワビサビもあったもんじゃない」
溜息を吐くキースが何かおかしくて堪らなかったが、桜モドキの花吹雪に心が震えた。
「少しは元気出たか?一応人質って立場だから腹から笑えないだろうが、今日は特に凹んでただろ?」
なんてことだろうか。
帝国では悪名高い氷結の精霊術師が、私の為に花吹雪を起こしている。
確かに今日は避難民を見て微力な自分に対して凹んでいた。
「又、見に連れて来て貰っていい?」
「いいぞ」
キースは見惚れる様な笑顔を浮かべた。
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