拉致られて箱庭掃除をやらされてます。~きっと犯人は闇の組織に違いない

那珂川

文字の大きさ
53 / 58

広場で首は転がされる

しおりを挟む
 王都には数年前まで国民の為の祭りが開かれた大きな広場がある。
 中央には女型の精霊が肩に水瓶を乗せ両手で支えている彫像が設置され、王都全域に張り巡らされた上水道を伝い、その水瓶から飲める水がこんこんと湧いて出ている噴水が有る。
 この噴水は王都の名物であり、王国の少額硬貨を願い事をしながら噴水に投げ込む風習があった。

 以前はその硬貨が噴水の底の部分を埋め尽くす程であった為、週一で回収され慈善事業に使われていたが、税金が上がった現在では底にポツポツと見掛ける程度になった。

 その広場の王城寄りの場所は、祭りの司会進行や演奏、演劇等が行われる広い台座があるのだが、今日は様子が違っている。
 いつもは喜びや期待が溢れた王国民の形相は怒りに満ちていた。
 台座には重硬そうな黒い四角の箱型の物が置かれ、その両横には胸まで覆う目の部分が開いた赤い布を頭から被った筋骨隆々の男二人が、大きな刃が付いた両手持ちの武具を手にしている。

 既に国民のには帝国との一方的な戦争に敗戦したことが告知されており、その発端となったアナスタシア王妃の死因が暗殺であったこと、その暗殺を企てたのが国王であること、そして、敗戦の原因は王族が国費を私用に使い軍部へ回されなかったことと、精霊術師を保身の為に王都に引き留めていたことであると号外紙によって知らされていた。

 ここ数年の税金引き上げの原因も噂で薄々と知っていた王国民はそれをまるまると信じきった。
 王都外で避難民を気遣いながら仮設住宅を作っていたキースの姿を王都の人々も知っている為、キースが戦地に行けなかったと誰もが信じた。
 帝国の捕虜となった王国兵士は少しずつ解放されており、中には勿論戦死した兵士もいた為、その遺族達は広場の台座の一番近い場所で台座に連れて来られた五人を睨みつけ、そして罵倒していた。

 現ヴェズリー国王、側妃イレーヌ、王太子、第二王子、王太后の五人は後ろ手に魔力封じの魔道具で拘束され、それぞれ連れて来た近衛兵によって膝まづかされた。

 台座に上がっている処刑執行人と近衛兵保護の為、事前に石等を投げないように言われているので、罵倒はここそこで上がるものの、怒りに任せて物を投げる者は居なかった。中には興味本位で見ている者も居り、そういった者達は美貌の寵妃と言われたイレーヌに視線を向けていた。

 最後に宰相が近衛兵と共に現れ、先ずは集まっている王国民に謝罪が述べられた。
 前宰相と現宰相は王国民に支持されているので、その謝罪は素直に王国民に受け入れられる。
 皆、あの王族達を宰相が止めることは難しかっただろうといった気持ちになっていた。
 所々から「宰相様、頑張ってー!」「次はメモルラル様が王様になって下さーい!」等と声が上がる。
 メモルラルはその声を手を上げることで了承する。

「何故高貴なる私がこんな目に合わなくてはならないのだ!」

 五人の中で最初に声を上げたのは王太子である。
 アナスタシアの前の亡くなった正妃の産んだ子であり、容姿はかなり良い王太子だが、婚約者が居るにも関わらず気に入った女を常に侍らせていた。
 お忍びと称し市井に出掛けた時等はかなり態度が酷く、気に入った女が居れば、無理矢理にでも城に連れ帰った。その女が既婚であったとしても、その夫を含めた家族は我慢するしかなかった。抵抗した者は付き添いの騎士からその場で斬り捨てられていたからだ。
 お陰でこの王太子への恨みは日々加算されていたので、幾ら王太子が喚こうが、王国民に戸惑いは全く無い。
 第二王子もほぼ同じ様な屑であった。
 立場を利用し、自分を支持する貴族が携わっている事業を優先させ、粗悪品をカモフラージュに他国から密輸した麻薬を王国内に徐々に広めようとしていたことが、更にこの広場でメモルラルによって明かされると、第二王子へ非難が集中した。

「知らん!私は知らんぞ!」

 関わった貴族も既に爵位剥奪、当主は処刑、血族は犯罪に加担していたか綿密な取り調べが行われ、相当する者は刑罰として奴隷の身分に落とされた。

「何で?何でなの?私は王様の為に綺麗でいただけよ!」

 今まで着けていた宝石や豪奢なドレスは取り払われ、簡素な服に身を包んだ側妃イレーヌは泣き叫んでいた。
 それを横目に黙って大人しくしていたのは王太后だ。
 王太后はこの横柄なる愚かな国王を育てたとしてこの場に連れて来られた。
 何もせず、放置した罪だ。
 彼女自身はおっとりした、人に害を与える様な人物では無かったが、兎に角息子である現国王に甘過ぎた。
 そのことも現時点で周知とされ、それまで目立たなかった王太后は一躍無能な愚母として王国の歴史の一行に名を残すことになる。

 そして現国王はみすぼらしい姿をしたイレーヌを見て漸く自らの行いを悔いた。
 しかし王族としての矜恃を貫き、王国民への謝罪どころか、一言も告げず断頭されこの世を去ったのである。
 これには少々王国民も肩透かしを食らった感じになったが、次々と喚いている王族の首全てが切り離されるとメモルラルを称える様に国歌を王国民は口ずさんだ。
 そうして宰相メモルラルが起こした茶番は一先ず締め括られる。

 これから最終的な戦後交渉が綿密に行われるのだが、本来この戦後交渉、及び調印は第三国を仲介して行われる。
 しかし精霊に守られた特例のヴェズリー王国は僅かな国交を聖国カルキントスとしかしておらず、帝国も又、侵略等によって広大な強国になった為、仲介に名乗りを上げる国が存在しなかった。
 因みに聖国カルキントスはライソン帝国に否定的な国である。今回の侵略戦争についてもアナスタシア王妃暗殺の報復にしては勇者召喚は些かやり過ぎではないかと発言した。
 ライソン帝国はこの発言に対し、アナスタシアは国の宝であったことを主張し勇者の件にしても無理強いをしていないと押し退けた。
 そのことがあり、聖国と帝国の溝は更に深まることとなった。



 公開処刑を見に来ていた坂下は、一瞬国王と目が合った様な気がして身体を硬直させた。
 坂下の気の所為ではあるのだが、剣聖として意気込み、戦争に参加した身である坂下は、跳ねられた首がゴロリと転がる光景が刃の如く心に刺さった。

「現実逃避してないだけ、君は偉いな」

 そう言って頭を撫でたキースに、坂下は惹かれていく自分を自覚する。

 少し前に、態度や言葉が砕けてきた坂下はキースに「ストックホルム症候群か?」と少し微笑みながら聞かれたことがある。
 その時はそうかもしれないと思いながら、牢屋から綺麗な部屋に変わってからは怖い思いをしてないことに気付き、それならストックホルム症候群にならないのでは?と頭を捻った。
 それに伝魔鳥が使えるにも関わらず、田代や如月、陣野から連絡は来ず、坂下も又自分から送ることは無かった。
 最も坂下の場合は一応監視下に置かれている捕虜の身だからこそなのだが。
 それでも田代達から連絡が無いことで坂下は帝国にとっての自分の価値が無いことを悟る。

「なぁ、暇なら王国兵士の練習場を案内しようか?そこなら剣も各種置いてあるし、『剣聖』の君なら身体を動かしたいだろ?」

 全くキースは何故こんなに自分の欲しい言葉をくれるのだろうか。
 坂下は素直にお願いする。
 練習場に一緒に行くだけでも坂下の心は弾んでいく。
 時々キースの口からアナスタシア王妃のことが放たれるが、キースの一途なとこを含めて、坂下は惹かれていくのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...