わたしは知っている、君の最期を。

蒼井瑠水

文字の大きさ
9 / 21

条件。

しおりを挟む
「ひいちゃん、もう小学生か。お母さん感激しちゃうな」

 そういう母を尻目に、炒めてあるしっとりチャーハンの朝食をはむはむと口に運ぶ。

 少し冷めたチャーハンをもぐもぐ食べながら、朝食に脂っこいもの出さないでほしいな、と頭の隅でぼやいていた。

 でも、母の愛情がこもったこの食事が食べられるのは今だけだろうな、と大人びた考えが頭をよぎる。

 とりあえず、うまい。うまい!

「ひいらぎ、お父さんそろそろ行くよ。ママ、ごちそうさま。朝食にしては脂っこいかもだけど、美味しいよ」

 なんて父が代弁してくれて、やっぱりそうだよね、と父の感想にうんうんとうなずく。

「あらあら、美味しいだけでいいのに。作るのも大変なのよ? まったく」

 ごめんごめん、と父は言いながらネクタイを締め直し、「じゃ」と手を挙げて居間を出ていく。

 私は子供らしくなく、口に含んだチャーハンを咀嚼しながら手を上げて応じた。

 父は少しびっくりした顔をしつつ、すぐに微笑んで家を出ていった。

「ひいちゃん、あれからいきなり大人っぽくなったよね」

 ごくんと飲み込んで、粒一つ残さず食べ終えた皿に手を合わせる。ごちそうさま。

 母に皿を渡し、美味しかったよと伝え、母の背中をそっと叩く。

「お母さん、いつもありがとうね。感謝してる。学校行ってくるね」

 そう子供の声でスラスラ言うものだから、母は「はっ!?」と父の皿を洗っていた手を止め、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「お母さん、感激しちゃうよ……。ひいちゃん、本当に大人になった……」

 ぐすん、と泣いて大げさなことを言う母に、ちょっと言葉にしすぎたかな、と宥めるように抱きしめ返す。

「ううん、お母さんのこと大好きだから。ちゃんと言葉にしないと。そんなに泣かないで」

 ぽんぽんと母の背中を叩き、どっちが親か分からないような中、そろそろ行くね、と母の抱擁から離れる。

「うん、ごめんね。学校頑張ってね、いじめられないでね」

 そう優しく諭す母に、ありがとうと言うだけで母はまたボロボロ泣き出す。

 もう面倒だからそそくさと離れ、水色のランドセルを背負って「行ってきます!」と振り返りながら残す。

「いってらっしゃい」

 母は手を振って送り出してくれて、外への扉をガチャリと開く。

 春にしては少し照りの強い陽光に、寒さを感じるそよ風。

 とてもいい天気だ。

 この田舎道を歩いて出会うのは、確か小さい男の子連れのお婆さん。

 自分の中にある情報。今、こうして記憶という形で道を辿るほどに、次々思い出す思い出は、確かに私が辿ったもの。

 これから出会うお婆さん達はこの角を曲がってすぐ。そして、

「痛いよー! ばあちゃーん!」
「あらあら、大丈夫? まってね、荷物下ろすから」

 重そうな荷包みを背に抱えたお婆さんが、転んで泣き出した男の子に手を貸そうとしている。

 やはりそうだ。男の子は出血が見て取れるぐらい膝を擦りむいていて、お婆さんは怪我におろおろしていた。

 この時が来るのを分かってた。だから、ロングスカートのポケットに絆創膏をしまってきている。

 私はすぐに男の子の元に駆け寄り、ランドセルを路面に置く。

「ぼく、大丈夫ー? お姉ちゃん、たまたま絆創膏持ってたから手当てするね。お婆さんも手伝っていただけますか?」

「えっ? ああ、ありがとう。助かるよ」

 ランドセルの中から取り出した除菌シートを使って、男の子の膝元をきれいに拭う。

「おねえちゃん、ズキッとして痛いよー」

「ごめんね、拭かないとばい菌入っちゃうから。きれいきれいしたらすぐ治るよ」

「うぅ……」

 汚れたシートを丸めて片手に握りしめ、取り出した絆創膏の包装を破って、男の子に貼ってあげた。

「はい、これで大丈夫だよ。今度からは気をつけてね」

「うん! ありがと、おねえちゃん!」

「すみません、何から何まで」

「いえいえ、こちらこそよかったです」

 小学一年生とは思えない、大人びた私の行動にお婆さんは驚きながらも、「ありがとねぇ、もう大人のお姉さんだねえ」と褒めてくれた。

 使い終わったシートと絆創膏の包装を手持ちのビニール袋にまとめて、私は彼女達にお辞儀する。

 やはり準備しといてよかった。ビニール袋も手持ちに入れながら、怪我の治療に必要な物をあらかじめ揃えていたのだ。

「よかった、男の子を助けられて」

 やっぱり、あの時見た記憶と今あるこの知識は本物だ。

 やっぱり未来を見たんだ。

 確証を得られ、ふうっ、とひと息ついた時。キンッと鋭い頭痛が頭を走った。

「いたた……」

 初めて感じた死にそうになるぐらいの頭痛ではない。

 でも、頭を抱え、ふらつくぐらいの激しい痛みだ。

 自然と涙が滲んで視界がぼやけたとき、まるで夢心地のような感覚が体を包んだ。

 あれ? なんかぼんやり景色が見える。
 それは今までにある記憶とは違う些細な行動や、私の友達になるはずだった中学、高校生の同級生が変わっていた。

 たったそれだけだ。でも私の大事ななにかが少し崩れた気がする。

「うーん……」

 気付けば私は、その場にしゃがみこんでいた。
 なんだったのだろう。まだ頭がぼんやりする。
 また、未来予知だろうか? 晴れない頭の中の霧を払うように、頭を横に振り立ち上がる。

 先程のことは気になるが、あまり立ち止まって考えていても、学校に遅刻してしまう。

 振り返ると、私が通ってきた道路に近所の子が歩いてきてるのが見えた。結構時間経ってるかも。

 考えはあとでまとめるとして、今は早く校門をくぐろう。

 そしてこのあと、小学校に登校して休み時間になると、私が後悔したリストの中の一つに直面するのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

離れて後悔するのは、あなたの方

翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。 岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。 財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。 だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。 結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。 しかしそれは、一つの計画の為だった。 そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...