わたしは知っている、君の最期を。

蒼井瑠水

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なに、これ……。

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「おーい、お前、全然喋らないよな、口あるのか? おーい」

 いじめっ子のガキ大将と呼べるくらいやんちゃな男の子が、一人の男の子に話しかけている。

 てかあの子は、いじめっ子のガキ大将になる存在なんだけどね。

 ボブカットのなよなよした男の子は、無愛想に、でも少し嫌そうな顔でいじめっ子のことを無視していた。

「おい! 聞いてんのかよ!」

 そうしつこく、ダン!とボブカット男子の机を叩き、いじめっ子はずいと、彼に顔を近づけた。

 知っている。やっぱり知っている。

 このあと、いじめはどんどんエスカレートしていく。

 ボブカットの男の子は、その年齢で知るには早すぎるほど酷いいじめを受け、最終的にグルになった男の子二人も加わり、掃除の雑巾を入れたバケツの水を飲ませたり、暴力を振るったり、次第に大怪我させて学級問題になった。

 その後の男の子は、不登校になり、私が中学二年生頃に聞いた噂では自殺してしまったと。

 中学卒業してふと気になった時、卒業アルバムを見たけど、小学校のものには載っていた名前が、中学のものにはなかった。

 彼は、本当に迫害されて死んだのだ。

 彼は必ず……死ぬんだ。

 目の前の光景が、脳裏に焼き付いた未来の記憶と重なる。机を叩く音、怯える顔、そして――誰もいなくなった彼の机。

 あの時の後悔が、冷たい手のように心臓を掴む。息が詰まる。

 ダメだ、ここで見過ごしたら、私はまた、一生この記憶に苛まれる。

 席を立つ。足が、鉛のように重い。

 たいきくんの前に立ち、心の中で叫ぶ。

(やめて。あなたも苦しむことになる。私も、もう誰も苦しむところを見たくない!)

「たいきくん、これはあなたのために言うわ。こういうのはよくない!」

 そう、いじめっ子のたいきくんに強く言う。

 言うんだけど、当然この年の子を諭すのは簡単じゃなくて。

「そんなん知らねえよ! 別にどーでもいいだろ! お前は引っ込んでろよ!」

 そう言い、乱暴なたいきくんは私の体をばんと突き飛ばし、体重の軽い私は簡単に倒れてしまった。

 いてて、と尻もちついた私に、周りは「あっ! たいきくんがひいらぎちゃんに暴力振るった!」「ひいらぎちゃんかわいそう!」と批判の声が上がる。

「知らねえよ! こいつが勝手に突っかかってきたんだよ! 俺は悪くねえよ!」

 お尻のヒリヒリに耐え、彼に反論しようと立ち上がりかけた時、ズン!と頭を中心に凄い重力がかかった。

 何もなく、突然衝撃が走り、あの時のような頭が割れるような痛みが頭部に広がる。

 まるで刃物で脳みそをかき乱されているような、言葉にできない激痛が頭を襲う。

「ぐあぁぁぁあ! ああぁぁあ! 痛い! 痛い!」

 私はみっともなく叫び、頭を掴んでじたばたした。

 永遠に感じる痛みの中、次第に痛みを忘れていく。

 私はいつの間にか、太陽が照らす色鮮やかな空間にいた。とても陽気な、生暖かな場所だ。

 気づけば、身体の感覚もしっかりある。

 周りを見渡すと、制服を着た若者がいて、私も高校の制服を着ていた。

 桜がひらひら舞う、希望に満ちた場所でみんな泣いたり、やった!と喜んだりしている。

 景色を眺めていると、前にボードがあることに気づく。

 そこには数字の羅列の後に合格、不合格が書かれていた。

 どうやら受験結果の確認の風景らしく、そういえばここでドキドキしながら自分の受験番号を探したなと思い出す。

 そして、まあ合格してたし、この光景の中でも合格してるだろうと、記憶通りに受験番号を探した。

 不合格。

 私の脳裏にその言葉が過ぎた。番号が見当たらないからだ。

(あれ? おかしいな)

 持ってる受験番号の紙と照らし合わせ、ちゃんと確認する。

 やっぱりない。

 ……??? 不合格……???

 え? なぜ……?

 そこからまた感覚がなくなり、浮遊感が身体を襲った。

 私という存在は、母胎の中にいる胎児のように身体を丸めていて、瞼を開くと私は高校生くらいの身体で。

 体育座りをぎゅっとした体勢を解き、今浮いている暗闇の空間に身を任せてみる。

 すると、目の前にシャボン玉のようなものがふよふよ浮いて近づいてくる。

 中には一人の「高木柊」が映し出されていて、生活の様子というべきか。一定の場面が映っては次々と変わる。

 その中の私は、記憶通りアパートを借りているんだけど、様子が変。ずっと家でごろごろしていると思ったら、深夜に急に支度して外に出る。

 向かった先は食品工場で、アルバイトしているみたいだった。

 そういえば、今この映像の私の記憶のようなものが頭の中にある。

 私は受験に失敗して、フリーターになり、一人暮らしでアパートを借りる。でもお金が足りず、夜の仕事や風俗嬢、コンビニ店員など様々な経験をしていた。

 記憶を探っていると、気づけば映像は変わり、六十歳くらいの自分が映っていた。

 その自分は変で、口を開けて「あ、う……、あえー」と言い出し、急に走り出したりする。

 今まで記憶にある認知症の老人がするような行動だ。

 よく見ると、同じような老婆や老人が周りにたくさんいて、受付など病院のような造りから、何かの施設だと思われた。

 そういえば、老衰して動けなくなった母を入れた老人ホームがこんなだった。

 ま……まさか……ね。

 でも、怖いことにこの私がおかしくなる頃の記憶が既にインプットされていて、ヒヤッとした恐怖に襲われながら少しずつ記憶を探る。

 奇行を行うようになった記憶は曖昧だが、それまでの記憶は確かにある。

 大学に行くはずだった私は、アルバイト漬けの毎日に変わっていて、サークルで出会うがくとさんとも出会うきっかけがないからだろう。一生独身で、孤独のストレスに苛まれ、六十代早々に認知症にかかり、ただひたすらおかしくなっていく人生に変化している。

 なぜ。なぜ……!?

 なぜこうなったの!?

 私の、あの苦労した幸せな人生は!? どこに行ったの!? こんな寂しい人生をなぜ送っているの!?

 嫌だ……! こんな人生、嫌だ!

 ………………………………………………………………………………。

 ……あっ、そうだ。あのいじめに関わったからだ。

 私の記憶に入ってる。あの子は死なずに、あれから明るくなり、高校生まで同じ学校に通ってた。遠巻きに助けられて良かったと思っていたんだ。

 きっとあの子に深く関わりすぎて、人生を変えてしまったんだ。

 だから、私の人生が……。

 私の人生が……。

 ……壊れた。



 もう、嫌だ。
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