10 / 21
なに、これ……。
しおりを挟む
「おーい、お前、全然喋らないよな、口あるのか? おーい」
いじめっ子のガキ大将と呼べるくらいやんちゃな男の子が、一人の男の子に話しかけている。
てかあの子は、いじめっ子のガキ大将になる存在なんだけどね。
ボブカットのなよなよした男の子は、無愛想に、でも少し嫌そうな顔でいじめっ子のことを無視していた。
「おい! 聞いてんのかよ!」
そうしつこく、ダン!とボブカット男子の机を叩き、いじめっ子はずいと、彼に顔を近づけた。
知っている。やっぱり知っている。
このあと、いじめはどんどんエスカレートしていく。
ボブカットの男の子は、その年齢で知るには早すぎるほど酷いいじめを受け、最終的にグルになった男の子二人も加わり、掃除の雑巾を入れたバケツの水を飲ませたり、暴力を振るったり、次第に大怪我させて学級問題になった。
その後の男の子は、不登校になり、私が中学二年生頃に聞いた噂では自殺してしまったと。
中学卒業してふと気になった時、卒業アルバムを見たけど、小学校のものには載っていた名前が、中学のものにはなかった。
彼は、本当に迫害されて死んだのだ。
彼は必ず……死ぬんだ。
目の前の光景が、脳裏に焼き付いた未来の記憶と重なる。机を叩く音、怯える顔、そして――誰もいなくなった彼の机。
あの時の後悔が、冷たい手のように心臓を掴む。息が詰まる。
ダメだ、ここで見過ごしたら、私はまた、一生この記憶に苛まれる。
席を立つ。足が、鉛のように重い。
たいきくんの前に立ち、心の中で叫ぶ。
(やめて。あなたも苦しむことになる。私も、もう誰も苦しむところを見たくない!)
「たいきくん、これはあなたのために言うわ。こういうのはよくない!」
そう、いじめっ子のたいきくんに強く言う。
言うんだけど、当然この年の子を諭すのは簡単じゃなくて。
「そんなん知らねえよ! 別にどーでもいいだろ! お前は引っ込んでろよ!」
そう言い、乱暴なたいきくんは私の体をばんと突き飛ばし、体重の軽い私は簡単に倒れてしまった。
いてて、と尻もちついた私に、周りは「あっ! たいきくんがひいらぎちゃんに暴力振るった!」「ひいらぎちゃんかわいそう!」と批判の声が上がる。
「知らねえよ! こいつが勝手に突っかかってきたんだよ! 俺は悪くねえよ!」
お尻のヒリヒリに耐え、彼に反論しようと立ち上がりかけた時、ズン!と頭を中心に凄い重力がかかった。
何もなく、突然衝撃が走り、あの時のような頭が割れるような痛みが頭部に広がる。
まるで刃物で脳みそをかき乱されているような、言葉にできない激痛が頭を襲う。
「ぐあぁぁぁあ! ああぁぁあ! 痛い! 痛い!」
私はみっともなく叫び、頭を掴んでじたばたした。
永遠に感じる痛みの中、次第に痛みを忘れていく。
私はいつの間にか、太陽が照らす色鮮やかな空間にいた。とても陽気な、生暖かな場所だ。
気づけば、身体の感覚もしっかりある。
周りを見渡すと、制服を着た若者がいて、私も高校の制服を着ていた。
桜がひらひら舞う、希望に満ちた場所でみんな泣いたり、やった!と喜んだりしている。
景色を眺めていると、前にボードがあることに気づく。
そこには数字の羅列の後に合格、不合格が書かれていた。
どうやら受験結果の確認の風景らしく、そういえばここでドキドキしながら自分の受験番号を探したなと思い出す。
そして、まあ合格してたし、この光景の中でも合格してるだろうと、記憶通りに受験番号を探した。
不合格。
私の脳裏にその言葉が過ぎた。番号が見当たらないからだ。
(あれ? おかしいな)
持ってる受験番号の紙と照らし合わせ、ちゃんと確認する。
やっぱりない。
……??? 不合格……???
え? なぜ……?
そこからまた感覚がなくなり、浮遊感が身体を襲った。
私という存在は、母胎の中にいる胎児のように身体を丸めていて、瞼を開くと私は高校生くらいの身体で。
体育座りをぎゅっとした体勢を解き、今浮いている暗闇の空間に身を任せてみる。
すると、目の前にシャボン玉のようなものがふよふよ浮いて近づいてくる。
中には一人の「高木柊」が映し出されていて、生活の様子というべきか。一定の場面が映っては次々と変わる。
その中の私は、記憶通りアパートを借りているんだけど、様子が変。ずっと家でごろごろしていると思ったら、深夜に急に支度して外に出る。
向かった先は食品工場で、アルバイトしているみたいだった。
そういえば、今この映像の私の記憶のようなものが頭の中にある。
私は受験に失敗して、フリーターになり、一人暮らしでアパートを借りる。でもお金が足りず、夜の仕事や風俗嬢、コンビニ店員など様々な経験をしていた。
記憶を探っていると、気づけば映像は変わり、六十歳くらいの自分が映っていた。
その自分は変で、口を開けて「あ、う……、あえー」と言い出し、急に走り出したりする。
今まで記憶にある認知症の老人がするような行動だ。
よく見ると、同じような老婆や老人が周りにたくさんいて、受付など病院のような造りから、何かの施設だと思われた。
そういえば、老衰して動けなくなった母を入れた老人ホームがこんなだった。
ま……まさか……ね。
でも、怖いことにこの私がおかしくなる頃の記憶が既にインプットされていて、ヒヤッとした恐怖に襲われながら少しずつ記憶を探る。
奇行を行うようになった記憶は曖昧だが、それまでの記憶は確かにある。
大学に行くはずだった私は、アルバイト漬けの毎日に変わっていて、サークルで出会うがくとさんとも出会うきっかけがないからだろう。一生独身で、孤独のストレスに苛まれ、六十代早々に認知症にかかり、ただひたすらおかしくなっていく人生に変化している。
なぜ。なぜ……!?
なぜこうなったの!?
私の、あの苦労した幸せな人生は!? どこに行ったの!? こんな寂しい人生をなぜ送っているの!?
嫌だ……! こんな人生、嫌だ!
………………………………………………………………………………。
……あっ、そうだ。あのいじめに関わったからだ。
私の記憶に入ってる。あの子は死なずに、あれから明るくなり、高校生まで同じ学校に通ってた。遠巻きに助けられて良かったと思っていたんだ。
きっとあの子に深く関わりすぎて、人生を変えてしまったんだ。
だから、私の人生が……。
私の人生が……。
……壊れた。
もう、嫌だ。
いじめっ子のガキ大将と呼べるくらいやんちゃな男の子が、一人の男の子に話しかけている。
てかあの子は、いじめっ子のガキ大将になる存在なんだけどね。
ボブカットのなよなよした男の子は、無愛想に、でも少し嫌そうな顔でいじめっ子のことを無視していた。
「おい! 聞いてんのかよ!」
そうしつこく、ダン!とボブカット男子の机を叩き、いじめっ子はずいと、彼に顔を近づけた。
知っている。やっぱり知っている。
このあと、いじめはどんどんエスカレートしていく。
ボブカットの男の子は、その年齢で知るには早すぎるほど酷いいじめを受け、最終的にグルになった男の子二人も加わり、掃除の雑巾を入れたバケツの水を飲ませたり、暴力を振るったり、次第に大怪我させて学級問題になった。
その後の男の子は、不登校になり、私が中学二年生頃に聞いた噂では自殺してしまったと。
中学卒業してふと気になった時、卒業アルバムを見たけど、小学校のものには載っていた名前が、中学のものにはなかった。
彼は、本当に迫害されて死んだのだ。
彼は必ず……死ぬんだ。
目の前の光景が、脳裏に焼き付いた未来の記憶と重なる。机を叩く音、怯える顔、そして――誰もいなくなった彼の机。
あの時の後悔が、冷たい手のように心臓を掴む。息が詰まる。
ダメだ、ここで見過ごしたら、私はまた、一生この記憶に苛まれる。
席を立つ。足が、鉛のように重い。
たいきくんの前に立ち、心の中で叫ぶ。
(やめて。あなたも苦しむことになる。私も、もう誰も苦しむところを見たくない!)
「たいきくん、これはあなたのために言うわ。こういうのはよくない!」
そう、いじめっ子のたいきくんに強く言う。
言うんだけど、当然この年の子を諭すのは簡単じゃなくて。
「そんなん知らねえよ! 別にどーでもいいだろ! お前は引っ込んでろよ!」
そう言い、乱暴なたいきくんは私の体をばんと突き飛ばし、体重の軽い私は簡単に倒れてしまった。
いてて、と尻もちついた私に、周りは「あっ! たいきくんがひいらぎちゃんに暴力振るった!」「ひいらぎちゃんかわいそう!」と批判の声が上がる。
「知らねえよ! こいつが勝手に突っかかってきたんだよ! 俺は悪くねえよ!」
お尻のヒリヒリに耐え、彼に反論しようと立ち上がりかけた時、ズン!と頭を中心に凄い重力がかかった。
何もなく、突然衝撃が走り、あの時のような頭が割れるような痛みが頭部に広がる。
まるで刃物で脳みそをかき乱されているような、言葉にできない激痛が頭を襲う。
「ぐあぁぁぁあ! ああぁぁあ! 痛い! 痛い!」
私はみっともなく叫び、頭を掴んでじたばたした。
永遠に感じる痛みの中、次第に痛みを忘れていく。
私はいつの間にか、太陽が照らす色鮮やかな空間にいた。とても陽気な、生暖かな場所だ。
気づけば、身体の感覚もしっかりある。
周りを見渡すと、制服を着た若者がいて、私も高校の制服を着ていた。
桜がひらひら舞う、希望に満ちた場所でみんな泣いたり、やった!と喜んだりしている。
景色を眺めていると、前にボードがあることに気づく。
そこには数字の羅列の後に合格、不合格が書かれていた。
どうやら受験結果の確認の風景らしく、そういえばここでドキドキしながら自分の受験番号を探したなと思い出す。
そして、まあ合格してたし、この光景の中でも合格してるだろうと、記憶通りに受験番号を探した。
不合格。
私の脳裏にその言葉が過ぎた。番号が見当たらないからだ。
(あれ? おかしいな)
持ってる受験番号の紙と照らし合わせ、ちゃんと確認する。
やっぱりない。
……??? 不合格……???
え? なぜ……?
そこからまた感覚がなくなり、浮遊感が身体を襲った。
私という存在は、母胎の中にいる胎児のように身体を丸めていて、瞼を開くと私は高校生くらいの身体で。
体育座りをぎゅっとした体勢を解き、今浮いている暗闇の空間に身を任せてみる。
すると、目の前にシャボン玉のようなものがふよふよ浮いて近づいてくる。
中には一人の「高木柊」が映し出されていて、生活の様子というべきか。一定の場面が映っては次々と変わる。
その中の私は、記憶通りアパートを借りているんだけど、様子が変。ずっと家でごろごろしていると思ったら、深夜に急に支度して外に出る。
向かった先は食品工場で、アルバイトしているみたいだった。
そういえば、今この映像の私の記憶のようなものが頭の中にある。
私は受験に失敗して、フリーターになり、一人暮らしでアパートを借りる。でもお金が足りず、夜の仕事や風俗嬢、コンビニ店員など様々な経験をしていた。
記憶を探っていると、気づけば映像は変わり、六十歳くらいの自分が映っていた。
その自分は変で、口を開けて「あ、う……、あえー」と言い出し、急に走り出したりする。
今まで記憶にある認知症の老人がするような行動だ。
よく見ると、同じような老婆や老人が周りにたくさんいて、受付など病院のような造りから、何かの施設だと思われた。
そういえば、老衰して動けなくなった母を入れた老人ホームがこんなだった。
ま……まさか……ね。
でも、怖いことにこの私がおかしくなる頃の記憶が既にインプットされていて、ヒヤッとした恐怖に襲われながら少しずつ記憶を探る。
奇行を行うようになった記憶は曖昧だが、それまでの記憶は確かにある。
大学に行くはずだった私は、アルバイト漬けの毎日に変わっていて、サークルで出会うがくとさんとも出会うきっかけがないからだろう。一生独身で、孤独のストレスに苛まれ、六十代早々に認知症にかかり、ただひたすらおかしくなっていく人生に変化している。
なぜ。なぜ……!?
なぜこうなったの!?
私の、あの苦労した幸せな人生は!? どこに行ったの!? こんな寂しい人生をなぜ送っているの!?
嫌だ……! こんな人生、嫌だ!
………………………………………………………………………………。
……あっ、そうだ。あのいじめに関わったからだ。
私の記憶に入ってる。あの子は死なずに、あれから明るくなり、高校生まで同じ学校に通ってた。遠巻きに助けられて良かったと思っていたんだ。
きっとあの子に深く関わりすぎて、人生を変えてしまったんだ。
だから、私の人生が……。
私の人生が……。
……壊れた。
もう、嫌だ。
0
あなたにおすすめの小説
離れて後悔するのは、あなたの方
翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。
岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。
財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。
だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。
結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。
しかしそれは、一つの計画の為だった。
そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる