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しおりを挟む私達は14歳になった。
学校に入学してから1年、王子の人気ぶりはそれはそれは恐ろしいもので、ゲームをやっている時は"まぁこんな綺麗な顔ならそうだよね~"くらいの感想だったのだけれど女性陣の熱気が凄すぎて、正直コワイ。
そして、王子と同じ1番上のクラスにはこの物語の主人公であるソフィアがいる。
薄桃色の長い髪に金色の瞳、まるで天使が舞い降りて来たのかと錯覚するその容姿は殿下の横にいても全く引けを取らない。
"やっぱりあの二人はお似合いだなぁ"と、私は2人が喋っている様子を見る度にそう思うのだった。
「先日のアラン先生の講義で出された占魔術のレポートに使えそうな良い文献があったのですが」
「もしかしてスキヘンティア著の"タハトの咆哮"かい?」
「そうです! 先生が話されていた星座の利用の応用儀式について詳しく書かれていましたね」
「うん、そうだね。 明日までに大体はまとめておくから後はレオも一緒にまとめよう」
…………ちんぷんかんぷーん……………。
2人はクラスの授業でも同じ班らしく、よく放課後残って一緒にレポートをまとめている。
学校の生徒達からも容姿端麗、頭脳明晰、完璧超人な2人は一目置かれている。
生まれた時から殿下とはずっと一緒にいて、その私の居場所が段々とソフィアのものになっていくのには少し心がチクリと傷んだ。
…………けれどこれはストーリー上、やむを得ないこと!!!
殿下がアリスを好きになることなんて絶対ないのだから。
悪役令嬢アリスもきっとこんな感情に悩まされたんだろうな。
だけど、嫌がらせとかそういうのは良くない。
もしも殿下のことが好きなら正々堂々しないと!
それが立派な令嬢ってものでしょう!アリス!
記憶の中の悪役令嬢アリスに叱咤する私。
私も読者に宣誓をしておこう!!
主人公ソフィアに絶対に嫌がらせをしないことを誓います!!!
…………………はっ!!!いや待つのよ……私、今とんでもないことを考えてしまった。
このチクリとした感情はゲームの"強制力"のせいかもしれない………っ!!
だってソフィアに嫌がらせをしていない私は、悪役令嬢として役不足だ。
私が悪役令嬢として、立派に嫌がらせをさせるための感情なのかも~~!?!?
その事実に私は頭を抱える。
思っていたよりゲームの強制力は強いみたいだ。
まさか私の心情にまで影響してくるなんて!!!
………緊急事態すぎる。
処刑エンド回避のためにはどうすれば……!?!?!?
「…………あれ?アリス?」
中庭のベンチで1人、愕然としているところにタイミング良く王子がやって来た。
「あぁぁぁあ、殿下!大変です!!!」
「……………う、うん? 何がかな?」
「私このままだと立派な悪役令嬢になってしまいます!! は、は、早く回避しないと首が………首が…………っ!!」
「………………うん。1回、落ち着こうか」
王子に肩を掴まれた私は、息を深く吐き出し呼吸を整える。
「…………で、何があったの?」
「危機が迫っていますの、殿下。
は、は、早く婚約破棄していただかないと、私………凄い嫌な女になってしまいますわ!」
「……………嫌な女?」
「えぇ! 今日殿下とソフィア様が一緒にいるところを見た時、こ、心がモヤッとしたのです! 私の黒き心が目覚めかけているに違いありません!!
………これはいけませんわ…………破滅ルートへまっすぐですわ!」
「………………う、ん?
えぇとつまり、僕とソフィア嬢が一緒にいるところを見て嫌な気持ちになったってことかな?」
「そうですね……………これが悪へ傾く瞬間なのだと悟りました。 」
危ないところだった…………。
前世の記憶を思い出していなかったら、私は悪役令嬢アリスの人格に乗っ取られていたかもしれない。
前世ゲームをしていた私もナイス!
思い出したこの世界の私もナイス!!
私ってなんてラッキーなの!!!
「それってつまり……………嫉妬???」
「………………………………………????」
…………んん?
今、王子はなんて言った?
………しっと? シット?? sitto??? 嫉妬??????
………ナニソレオイシイノ???
「だって僕がソフィア嬢といるのを見て嫌な気持ちになったんだよね?
他の人にそんな気持ち思ったことないでしょ?」
王子がぐいっと距離を縮めて来たから私は10歩後ずさる。
「…………で、でもでもでもでも、これは強制力ってやつでっ! そ、その、そういうことじゃないんです!殿下!」
私が下がる度にこっちに歩いてくる王子。
「ねぇ、そろそろ認めて素直になりなよ。
君、僕のこと好きでしょ?」
「……………!?!?!?
な、な、な、な、な、何をおっしゃってますの!?
そんな訳な…………………………」
私の言葉がいきなり止まったのは王子が私の頭に触れたから。
「……葉っぱ落ちてきてたよ」
そう言いながら王子は緑の葉っぱを指でクルクルと弄る。
ようやく王子の興味が移ったことに私はしっかり安堵した。
「で、アリス。 僕に何か言うことない?」
………安堵できなかったぁぁあ!!!
王子はニッコリ微笑んでいるけど、その笑顔はなんだかブラックだった。
黒いオーラが全身から漏れだしていた。
…………コワスギル。
「あ、あ、あ、ありませんわ!」
最終手段、逃走。
破滅エンドを乗り切るために鍛えた私の脚力をなめるべからず!!!
コーナーで殿下に差をつけてやる!!!
「………!? アリス!そっち危ない!!!」
王子の叫ぶ声が聞こえた時にはもう遅かった。
私は校内の池の中に頭から落ちていったのだった。
綺麗な放物線を描いた見事な着水だったと思う。
後にも先にもあんな唖然とした王子様の顔は見られまい。
………………そして、こんな恥ずかしい記憶はきっと数十年後も忘れられない。
その日の夜、私は頭を抱え羞恥に身を悶えながら眠りについた。
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