4 / 5
焼き芋にバターを
しおりを挟む
閉じ込めたはずだった。あれから十年も経っていて、今はもうこの先も一緒にいたいと思える相手がいる。思い出す必要さえない。だから、自分でも声が震えたことに驚いて。笑顔で構える余裕を持てなかった。
――せっかく会ったんだから連絡先教えてよ。
うまく躱す言葉さえ浮かばなくて。追加された名前に、初めて登録したときのことを、自分で削除したときのことを思い出してしまう。
「高校の先輩なの?」
学校を出て、スーパーへと向かう途中。その声は道路を流れる車の音に重なった。
え、と聞き返して初めて、ここまで会話らしい会話がなかったことに気づく。家を出てから何かを見つけるたび、話していたのに。
「さっきの。白衣着た先生。連絡先交換してたじゃん」
「あ、ああ。正確には友達のお兄さん。家庭教師してもらってたんだ」
「そうなんだ」
まだ何か続く気がしたが、言葉はそこで途切れた。顔を向ければ、「あ、なんかいい匂いする」と、こちらではなく正面を見ている。
「なんだろ。焼き芋かな」
声を軽く弾ませ、わずかに歩く速度を変えられる。隣にあったはずの体が前に出て、完全に視線が合わなくなる。ケンカではない。会話はいたって普通で、声を荒げることもない。それなのに、胸がざわつく。何かを閉じられた気がしてならなかった。
言わずにすむのなら、それでいいと思ってきた。嘘をつきたいわけではないけれど、知らなくてもいいこと、知らせる必要のないことはある。
羽沢先輩と過ごした時間は一年にも満たなかったし、誰かに言えることでも、言う必要があるとも思わない。そもそも互いの認識すらズレていたのだから。
「付き合ってたの?」
だから、正面から問われてどう答えればいいのかわからなかった。
焼き芋の皮をむきながら、落とされた言葉。不要な皮を捨てる感覚で、なんでもないことのように。けれど、それが敢えてそうしているのだということは、これまで一緒に過ごしてきたのだからわかる。
それは相手も同じだろう。羽沢先輩に会ったときの自分の姿に違和感を覚えたから、わざわざ家に帰るまで聞かなかったのだろう。気にしてないふりをして、重くならないように尋ねてくれているのだ。
そこまでの気遣いをわかってしまうから、相手の優しさを知ってしまっているからこそ、うまく言葉が出てこない。自分の前に敷いたティッシュペーパーには赤紫色の皮が溜まっていく。もう十分口に運べるのに、食べようという気が起きない。
「違うの?」
黄色い部分を齧りながら、重ねられた言葉。指先は温かいはずなのに、氷を飲み込んだみたいに胸が冷えていく。それでもはぐらかすべきでないのはわかる。わかるから。
「……どう、だったんだろう」
意味もなく乾いた笑いが浮かぶ。ん? と眉を寄せられるが、続けるしかない。今ここで逃げるわけにはいかない。どんなに惨めでも恥ずかしくても。今が幸せなことは変わらない。変わらないと信じられる。それは今の相手だからだ。
「少なくとも俺は、付き合ってると思ってた」
付き合っているからできること。好きな相手だからすること。これはそういうものだと。
「でも、あっちはそうじゃなかったから」
「は?」
先ほどよりも固くなった声は、俺ではなく先輩に向けられたものだろう。
「ちゃんと『付き合おう』なんて言わなかったし、それはお互いさまで……」
うん、と小さな相槌だけが返ってくる。まだあるだろう、と。言葉にすればいい、と。
「だから、別にどっちが悪いとかじゃなくて」
乾いた笑いさえもう出ない。
「先輩に、彼女ができたって言われて、何も言えなくて」
本当は言いたかった。叫びたかった。なんで。どうして。俺のこと好きだったんじゃないの、と。
「俺は付き合ってると思ってたけど、あっちはそうじゃなかったってことなんだと思って」
違ったのだ。先輩にとって俺は「恋人」ですらなかった。違うことを認めるのがつらくて。だから自分も同じように「ただの先輩」だったと、すべては「遊び」だったのだと思いたくて。なんでもない顔で笑い続けた。傷ついた自分と向き合うことも、気持ちを言葉にすることもせず、ただ必死に閉じ込めて鍵をかけた。
ぽた、と重なった皮の上に雫が落ちる。あれ、どうして、と言葉とともに零れ落ちる。十年前、先輩に「彼女ができた」と言われたときも、一方的に連絡先を消したときも涙なんて出なかったのに。どうして今さら。話しただけで、こんな……。
「ほい」
ティッシュペーパーを箱ごと手渡される。ありがと、と引き出しながら返せば「泣くほど、だった?」と小さな声で聞かれる。泣くほど辛かった、という意味か。泣くほど傷ついた、という意味か。それとも……。
「泣くほど――好きだったの?」
「違うよ」
自分でも驚くほど素早く返していた。好きだった。先輩のことが好きだった。だけど、泣けなかった。もう一緒にはいられないとわかっても、泣いて縋るほどみっともなくはなれなかった。閉じ込めてなかったことにしたのは、傷ついた自分を認めたくなかったから。これ以上傷つきたくなかったから。それでいいと思える程度だったということ。今、涙が落ちた理由はそこじゃない。
「好きだったけど、だからって今さら泣くほどじゃないよ」
「でも」
「うん、泣いてる。今だから泣けるんだと思う」
今だから。言葉にできた。形にできた。しても大丈夫だと思えたから。自分の言葉を当たり前に受け止めてくれる相手が目の前にいてくれるから。
「お前のせいだから」
おかげ、とは言ってやらない。十年も経ってこんなみっともなく泣かされて、塞いだはずの傷と向かい合わされて。聞かれなければ、そのままでいられた。見ないふりを続けられた。
「俺のせいって」
困ったように笑う顔には、怒りも呆れもない。言葉にしなくても伝わるけど、言葉にしなくては伝わらないこともある。全部を伝え合うことは難しくて、全部を伝え合う必要もない。伝えたいと思ったときに話しても大丈夫だと、知りたいと思ったときに聞いても大丈夫だと思い合えれば、それでいい。それでいいのだと、今はわかる。
「お芋冷めちゃったな」
ぽつりと寂しそうに零され、テーブルの上を確かめれば、半分になった焼き芋からは湯気が消えていた。
「トースターであっためる?」
「……バターあったっけ?」
「さっき買った」
「よし、じゃあ俺あっためてくるわ」
半分だけ剥かれた俺の焼き芋もまとめ、素早くキッチンに行ってしまう。結局まだ一口も食べていなかった。それなのに、胸の奥は温かい。「辛かったな」という同情も慰めもない。「話してくれてありがとう」というお礼も労りも。あったのは目の前のお芋を気にする言葉。当たり前に続いていく生活の、日常だからこそのもの。
「俺も手伝うよ」
そう声をかけて、立ち上がった瞬間だった。
テーブルに置いたスマートフォンの画面が色を変え、震えだす。登録されたばかりの名前が表示され、着信を知らせる。
連絡先を交換したものの、すぐに消すつもりでいた。やり取りをする気なんてない。近所で出くわしてしまう可能性はゼロではないが、かなり低いだろうし、テキトーに誤魔化す自信もある。今回会ったのはたまたま文化祭に行ったからで、行かなければそのまま会わなかっただろう。
この状態で着信拒否ってどうやるんだっけ? と考えながら手を伸ばした、わずかな間に端末が奪われる。
「え、ちょっと」
「いいから」
取り返す間もなく、緑の応答ボタンをタップされる。
『もしもし? 名取?』
「あー、すみません。ちょっと今出れなくて」
『えっと……ああ、さっき一緒だった』
「そうです。さっきはどうも」
『じゃあ、メッセージ送っておくから』
「送らないでください」
きっぱりとした声だった。話している顔は笑っているのに。
「今後一切連絡しないでください」
『は? なんでそんなこと』
「これ以上――」
すっと声から温度が消える。大きくはないのに、口を噤まざるを得ない空気が漂う。電話越しでも伝わっているのだろう。
「俺の大事なやつ傷つけたら許さねーから」
返事を待つことなく通話を終わらせると「着拒していいよな」と操作し始める。うん、と頷くのが精一杯で、何を言えばいいのかわからない。
「これでよし。芋って何分にすれば……」
パッと上げた顔が、すぐに「え」と戸惑いに染まっていく。
「なに? やっぱやり過ぎた?」
ううん、と首を振れば「じゃあ、なんで泣いてんの?」と優しく頬に手が触れる。親指で拭われ「痛い」と文句を言えば、「泣いてるからだろ」と眉が下がる。初めてだった。あんなに冷たく低い声も。表情が一切消えた顔も。でもこわかったわけじゃない。
「……なんでもない」
両腕を回し、隙間を埋める。肩に頭を落とせば「そっか」と大きな手が乗せられる。ぽんぽんと軽く弾ませるだけで、それ以上は何も言わない――と思ったのだが。
「あのさ」
ん、と喉奥だけで答えれば「今日、やっぱ別で寝よう」と全く予想していない言葉が聞こえた。
「なんで?」
思わず顔を上げれば、先ほどとは違う戸惑いが見える。不安定に視線を揺らしたかと思えば、「はあー」と大きなため息を吐かれた。
「ちょっと、今日は無理」
「だからなんで?」
額にあてた手の隙間から聞こえたのは、とても小さな声。
「……優しくできる気がしない」
だから、今日は別! と勝手に結論づけると無理やり体を離してキッチンへと行ってしまう。「別にいい」と反論しかけて、小さな耳が赤くなっていることに気づく。
「……別にいいのに」
でも、今日だけは。それでもいいか。大事にされているとわかっているから。優しいことを知っているから。
「俺も手伝うよ」
「じゃあ、バター出して」
優しくしたい、という相手の気持ちを今日だけは尊重しようと決めた。
――今日だけ、だけど。
――せっかく会ったんだから連絡先教えてよ。
うまく躱す言葉さえ浮かばなくて。追加された名前に、初めて登録したときのことを、自分で削除したときのことを思い出してしまう。
「高校の先輩なの?」
学校を出て、スーパーへと向かう途中。その声は道路を流れる車の音に重なった。
え、と聞き返して初めて、ここまで会話らしい会話がなかったことに気づく。家を出てから何かを見つけるたび、話していたのに。
「さっきの。白衣着た先生。連絡先交換してたじゃん」
「あ、ああ。正確には友達のお兄さん。家庭教師してもらってたんだ」
「そうなんだ」
まだ何か続く気がしたが、言葉はそこで途切れた。顔を向ければ、「あ、なんかいい匂いする」と、こちらではなく正面を見ている。
「なんだろ。焼き芋かな」
声を軽く弾ませ、わずかに歩く速度を変えられる。隣にあったはずの体が前に出て、完全に視線が合わなくなる。ケンカではない。会話はいたって普通で、声を荒げることもない。それなのに、胸がざわつく。何かを閉じられた気がしてならなかった。
言わずにすむのなら、それでいいと思ってきた。嘘をつきたいわけではないけれど、知らなくてもいいこと、知らせる必要のないことはある。
羽沢先輩と過ごした時間は一年にも満たなかったし、誰かに言えることでも、言う必要があるとも思わない。そもそも互いの認識すらズレていたのだから。
「付き合ってたの?」
だから、正面から問われてどう答えればいいのかわからなかった。
焼き芋の皮をむきながら、落とされた言葉。不要な皮を捨てる感覚で、なんでもないことのように。けれど、それが敢えてそうしているのだということは、これまで一緒に過ごしてきたのだからわかる。
それは相手も同じだろう。羽沢先輩に会ったときの自分の姿に違和感を覚えたから、わざわざ家に帰るまで聞かなかったのだろう。気にしてないふりをして、重くならないように尋ねてくれているのだ。
そこまでの気遣いをわかってしまうから、相手の優しさを知ってしまっているからこそ、うまく言葉が出てこない。自分の前に敷いたティッシュペーパーには赤紫色の皮が溜まっていく。もう十分口に運べるのに、食べようという気が起きない。
「違うの?」
黄色い部分を齧りながら、重ねられた言葉。指先は温かいはずなのに、氷を飲み込んだみたいに胸が冷えていく。それでもはぐらかすべきでないのはわかる。わかるから。
「……どう、だったんだろう」
意味もなく乾いた笑いが浮かぶ。ん? と眉を寄せられるが、続けるしかない。今ここで逃げるわけにはいかない。どんなに惨めでも恥ずかしくても。今が幸せなことは変わらない。変わらないと信じられる。それは今の相手だからだ。
「少なくとも俺は、付き合ってると思ってた」
付き合っているからできること。好きな相手だからすること。これはそういうものだと。
「でも、あっちはそうじゃなかったから」
「は?」
先ほどよりも固くなった声は、俺ではなく先輩に向けられたものだろう。
「ちゃんと『付き合おう』なんて言わなかったし、それはお互いさまで……」
うん、と小さな相槌だけが返ってくる。まだあるだろう、と。言葉にすればいい、と。
「だから、別にどっちが悪いとかじゃなくて」
乾いた笑いさえもう出ない。
「先輩に、彼女ができたって言われて、何も言えなくて」
本当は言いたかった。叫びたかった。なんで。どうして。俺のこと好きだったんじゃないの、と。
「俺は付き合ってると思ってたけど、あっちはそうじゃなかったってことなんだと思って」
違ったのだ。先輩にとって俺は「恋人」ですらなかった。違うことを認めるのがつらくて。だから自分も同じように「ただの先輩」だったと、すべては「遊び」だったのだと思いたくて。なんでもない顔で笑い続けた。傷ついた自分と向き合うことも、気持ちを言葉にすることもせず、ただ必死に閉じ込めて鍵をかけた。
ぽた、と重なった皮の上に雫が落ちる。あれ、どうして、と言葉とともに零れ落ちる。十年前、先輩に「彼女ができた」と言われたときも、一方的に連絡先を消したときも涙なんて出なかったのに。どうして今さら。話しただけで、こんな……。
「ほい」
ティッシュペーパーを箱ごと手渡される。ありがと、と引き出しながら返せば「泣くほど、だった?」と小さな声で聞かれる。泣くほど辛かった、という意味か。泣くほど傷ついた、という意味か。それとも……。
「泣くほど――好きだったの?」
「違うよ」
自分でも驚くほど素早く返していた。好きだった。先輩のことが好きだった。だけど、泣けなかった。もう一緒にはいられないとわかっても、泣いて縋るほどみっともなくはなれなかった。閉じ込めてなかったことにしたのは、傷ついた自分を認めたくなかったから。これ以上傷つきたくなかったから。それでいいと思える程度だったということ。今、涙が落ちた理由はそこじゃない。
「好きだったけど、だからって今さら泣くほどじゃないよ」
「でも」
「うん、泣いてる。今だから泣けるんだと思う」
今だから。言葉にできた。形にできた。しても大丈夫だと思えたから。自分の言葉を当たり前に受け止めてくれる相手が目の前にいてくれるから。
「お前のせいだから」
おかげ、とは言ってやらない。十年も経ってこんなみっともなく泣かされて、塞いだはずの傷と向かい合わされて。聞かれなければ、そのままでいられた。見ないふりを続けられた。
「俺のせいって」
困ったように笑う顔には、怒りも呆れもない。言葉にしなくても伝わるけど、言葉にしなくては伝わらないこともある。全部を伝え合うことは難しくて、全部を伝え合う必要もない。伝えたいと思ったときに話しても大丈夫だと、知りたいと思ったときに聞いても大丈夫だと思い合えれば、それでいい。それでいいのだと、今はわかる。
「お芋冷めちゃったな」
ぽつりと寂しそうに零され、テーブルの上を確かめれば、半分になった焼き芋からは湯気が消えていた。
「トースターであっためる?」
「……バターあったっけ?」
「さっき買った」
「よし、じゃあ俺あっためてくるわ」
半分だけ剥かれた俺の焼き芋もまとめ、素早くキッチンに行ってしまう。結局まだ一口も食べていなかった。それなのに、胸の奥は温かい。「辛かったな」という同情も慰めもない。「話してくれてありがとう」というお礼も労りも。あったのは目の前のお芋を気にする言葉。当たり前に続いていく生活の、日常だからこそのもの。
「俺も手伝うよ」
そう声をかけて、立ち上がった瞬間だった。
テーブルに置いたスマートフォンの画面が色を変え、震えだす。登録されたばかりの名前が表示され、着信を知らせる。
連絡先を交換したものの、すぐに消すつもりでいた。やり取りをする気なんてない。近所で出くわしてしまう可能性はゼロではないが、かなり低いだろうし、テキトーに誤魔化す自信もある。今回会ったのはたまたま文化祭に行ったからで、行かなければそのまま会わなかっただろう。
この状態で着信拒否ってどうやるんだっけ? と考えながら手を伸ばした、わずかな間に端末が奪われる。
「え、ちょっと」
「いいから」
取り返す間もなく、緑の応答ボタンをタップされる。
『もしもし? 名取?』
「あー、すみません。ちょっと今出れなくて」
『えっと……ああ、さっき一緒だった』
「そうです。さっきはどうも」
『じゃあ、メッセージ送っておくから』
「送らないでください」
きっぱりとした声だった。話している顔は笑っているのに。
「今後一切連絡しないでください」
『は? なんでそんなこと』
「これ以上――」
すっと声から温度が消える。大きくはないのに、口を噤まざるを得ない空気が漂う。電話越しでも伝わっているのだろう。
「俺の大事なやつ傷つけたら許さねーから」
返事を待つことなく通話を終わらせると「着拒していいよな」と操作し始める。うん、と頷くのが精一杯で、何を言えばいいのかわからない。
「これでよし。芋って何分にすれば……」
パッと上げた顔が、すぐに「え」と戸惑いに染まっていく。
「なに? やっぱやり過ぎた?」
ううん、と首を振れば「じゃあ、なんで泣いてんの?」と優しく頬に手が触れる。親指で拭われ「痛い」と文句を言えば、「泣いてるからだろ」と眉が下がる。初めてだった。あんなに冷たく低い声も。表情が一切消えた顔も。でもこわかったわけじゃない。
「……なんでもない」
両腕を回し、隙間を埋める。肩に頭を落とせば「そっか」と大きな手が乗せられる。ぽんぽんと軽く弾ませるだけで、それ以上は何も言わない――と思ったのだが。
「あのさ」
ん、と喉奥だけで答えれば「今日、やっぱ別で寝よう」と全く予想していない言葉が聞こえた。
「なんで?」
思わず顔を上げれば、先ほどとは違う戸惑いが見える。不安定に視線を揺らしたかと思えば、「はあー」と大きなため息を吐かれた。
「ちょっと、今日は無理」
「だからなんで?」
額にあてた手の隙間から聞こえたのは、とても小さな声。
「……優しくできる気がしない」
だから、今日は別! と勝手に結論づけると無理やり体を離してキッチンへと行ってしまう。「別にいい」と反論しかけて、小さな耳が赤くなっていることに気づく。
「……別にいいのに」
でも、今日だけは。それでもいいか。大事にされているとわかっているから。優しいことを知っているから。
「俺も手伝うよ」
「じゃあ、バター出して」
優しくしたい、という相手の気持ちを今日だけは尊重しようと決めた。
――今日だけ、だけど。
16
あなたにおすすめの小説
ある新緑の日に。
立樹
BL
高校からの友人の瑛に彼女ができてから、晴臣は彼のことが好きなのだと認識した。
けれど、会えば辛くなる。でも、会いたい。
そんなジレンマを抱えていたが、ある日、瑛から
「肉が食べたい」と、メールが入り、久しぶりに彼に会うことになった。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる