追放からの逆転溺愛 ～魔力ゼロの聖女は、実は最強の魔導士でした～

婚約破棄

「リリアナ！　貴様との婚約を破棄する！　そして、この神聖な聖女の座から追放する！」

　王太子ユリウスの冷酷な声が、王宮の大広間に響き渡った。
　その声は、まるで氷の刃のように鋭く、リリアナ・フォン・ローゼンハイムの心を深く切り裂いた。

　リリアナは、淡いピンク色の髪を揺らし、薄紫色の瞳を大きく見開いた。
　まるで、悪夢を見ているかのような、信じられない光景が目の前に広がっていた。

　ローゼンハイム公爵家の令嬢であり、生まれつき聖女としての素質を持つとされていたリリアナ。
　その存在は、王国中の希望であり、未来の王妃として、誰もがその輝かしい未来を疑わなかった。
　しかし……今、その全てが崩れ去ろうとしていた。

　リリアナの瞳には、絶望の色が濃く滲んでいた。
　美しい装飾が施された広間、煌びやかなシャンデリア、そして周囲を取り囲む貴族たちの冷たい視線……全てが、リリアナを孤独の淵へと突き落とす。
　嘲笑と侮蔑の混じった視線が、針のようにリリアナに突き刺さる。

「……なぜ、ですか……？　ユリウス殿下……」

　絞り出すように、リリアナは問いかけた。
　その声は、震え、今にも消えてしまいそうだった。

　ユリウスは、冷たい視線をリリアナに向けたまま、残酷な言葉を続けた。
　その顔には、微塵の慈悲も浮かんでいない。

「貴様に魔力がないことは、既に明らかだ！　魔力を持たない聖女など、何の価値もない！　この国には、真の聖女が必要なのだ！　それに、お前のあの陰気な性格、王妃にふさわしくない！」

　ユリウスの隣には、侯爵令嬢のミレーヌが勝ち誇った笑みを浮かべて立っていた。
　ミレーヌは、燃えるような赤い髪と、強い意志を感じさせる瞳を持つ、美しい少女だった。
　彼女は、リリアナとは対照的に、強力な魔力を持つ聖女候補として、最近になって王宮に迎え入れられたのだ。
　そして、その魔力だけでなく、社交的で明るい性格も、ユリウスを魅了していた。

　ミレーヌは、リリアナを蔑むような視線を送っていた。
　その視線は、リリアナの心をさらに深く傷つけた。
　ねっとりとした嫌悪感を隠そうともしないミレーヌの視線に、リリアナは屈辱に震えた。

「……ミレーヌ様は、素晴らしい魔力をお持ちですものね……私など、及びもつかない……」

　リリアナは、自嘲気味に呟いた。

「当然よ！　あなたのような出来損ないとは違うの。ユリウス殿下のお পাশেにふさわしいのは、私だけよ！」

　ミレーヌは、高らかに笑い、リリアナを嘲笑った。
　その笑い声は、リリアナの耳にこびりついて離れない。

「……承知いたしました……」

　リリアナは、震える声で答えた。
　反論する気力も、もはや残っていなかった。
　彼女は、ただ、この悪夢のような現実から逃げ出したかった。

　リリアナは、ローゼンハイム公爵家からも見捨てられた。
　魔力のない娘は、家の名誉を汚す存在でしかない。
　父である公爵は、リリアナを一度も見ることなく、追放の決定を告げた。
　それどころか、「出来損ないの娘など、最初からいなかった」とまで言い放った。

　全てを失ったリリアナは、一人、王都の外れにある寂れた教会へと追いやられた。
　かつては多くの人々で賑わった教会も、今では朽ち果て、訪れる者もほとんどいない。
　雨漏りも酷く、床は腐りかけている。
　リリアナは、この場所で、一人孤独に生きていくことを余儀なくされたのだ。




＋＋＋＋＋今後の更新予定時間＋＋＋＋＋

2話目：7時
3話目：9時
4話目：12時
5話目：17時半
6話目：20時

全6話で完結となります。