追放からの逆転溺愛 ～魔力ゼロの聖女は、実は最強の魔導士でした～

孤独と絶望、そして……

　粗末な教会の寝室。
　冷たい石造りの壁、軋む音を立てる古いベッド、そして隙間風が吹き込む窓。
　全てが、リリアナの孤独を際立たせていた。

　リリアナは、ベッドの上で膝を抱え、声を押し殺して泣いていた。

　婚約破棄、聖女の座からの追放、そして家族からの絶縁……。
　愛する人たちから裏切られ、全てを奪われた彼女の心は、深い絶望に覆われていた。

「……どうして……こんなことに……」

　何度、そう呟いただろうか。
　涙は、とめどなく溢れ、枕を濡らした。

　リリアナは、自分の存在価値を完全に見失っていた。
　神に祈りを捧げても、何の答えも返ってこない。

「……もう……どうすればいいの……」

　涙が枯れ果てるまで泣いた後、リリアナは力なく顔を上げた。

　窓の外には、冷たい月光が、荒れ果てた庭を照らしている。
　まるで、自分の心の中を映し出しているかのような、寂しい風景だった。

　その時だった。

「…………誰？」

　微かな気配を感じ、リリアナは振り返った。
　誰かが、そこに立っている。

　月明かりに照らされたその姿は、漆黒の髪と、深紅の瞳を持つ青年だった。

　青年は、まるで闇から生まれたかのような、神秘的な雰囲気を纏っていた。
　その瞳は、鋭く、そしてどこか冷たい光を宿している。
　しかし、その奥底には、リリアナの知らない、何か別の感情が隠されているようにも見えた。

「……君は、魔力がないと言われている聖女か？」

　青年は、静かな、しかし、どこか威圧感のある声で問いかけた。

　リリアナは、警戒しながらも、小さく頷いた。

「……はい……そうです……」
「……ふむ……面白い。俺はアシュフォード。この国の……いや、この世界で最強の魔導士だ」

　アシュフォードと名乗る青年は、不敵な笑みを浮かべた。
　その笑みは、どこか挑戦的で、そしてリリアナの心をざわつかせた。

　アシュフォードは、リリアナにゆっくりと近づいてきた。
　その一歩一歩が、リリアナの心臓を強く鼓動させる。

「……なぜ、あなたが……ここに……？　私のような、魔力のない聖女に、何の用があるというのですか……？」

　リリアナは、恐怖と好奇心が入り混じった感情を抱きながら、問いかけた。

「君の噂を聞いて、興味を持った。魔力ゼロの聖女……そんな存在が、本当にいるのかとね。……そして、実際に会ってみて、確信した。君は、ただ魔力がないのではない……」

　アシュフォードは、リリアナの目の前で立ち止まり、その深紅の瞳で、リリアナをじっと見つめた。
　その視線は、リリアナの心の奥底まで見透かしているかのようだった。