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ガートの憂鬱
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「それでは父上、母上、行ってまいります」
僕はこの国の王と王妃である両親にそう告げると城を出る。
広い広いロビーには、何人もの従者たちが僕がやってくるのを待っていてくれていた。
一国の王子が他国へ留学するにしては少ない荷物はすでに馬車に積み込まれ、先に出立している。
僕は広いロビーを見回し、一人の人物を探す。
だが、どこにも僕が探している人物は見当たらなかった。
「結局あれ以来マリアは一度も来なかったな」
僕の婚約者マリア=アナベル。
彼女に留学のため婚約を破棄してくれるように告げてからすでに二十日もの日が過ぎ去っていた。
あの日、十日だけ時間をくださいと僕に頼み込んで出ていった彼女は、十日経っても顔を見せず、さり気なく従者を通じて様子を確認させたが、特に変わった所も見当たらないという返事しか帰ってこなかった。
「いったいマリアは何がしたかったのだろうか」
今まで、何度も何度も僕が彼女に婚約破棄を申し出ても、全て断ってきたと言うのに、今回はやけにおとなしい。
もしかして十日の間に色々手を打っても同仕様もなくて諦めたのだろうか?
あのマリアが?
「ありえない」
「王子? いったい何がありえないのでございますか?」
従者の一人が、思わず出てしまった僕のつぶやきを耳にしてそう尋ねる。
だが、まさか「婚約者が何もしてこないのが不思議だ」などと言えるわけがない。
「ああ、なんでもないよ」
僕は曖昧に笑顔を返して足をすすめる。
もしかしたら馬車の中にマリアが居たりしてとも思ったが、それも杞憂に終わった。
「マリアのことだ。エリーザ連邦に入る前になにか仕掛けてくるんじゃないだろうか」
僕は時々馬車の窓のカーテンを少しずらして外の景色にマリアの姿を探した。
だが、結局僕が国境を超えてもマリアは現れなかった。
「本当に僕との婚約を解消することを認めたのだろうか」
長い間、僕がまだ十歳になる前からマリアには苦労させられてきた。
勉学、剣術、魔法、体術。
僕が何をしようとも彼女には敵わず、仕舞には「ガート様は私がお守りしますから、安心してください」とまで言われる始末。
「あの言葉がどれだけ僕のプライドを傷つけて来たのか、マリアにはわからないんだろうな」
僕だって別にマリアのことが嫌いなわけじゃない。
だけど、男として、一国の王子としてどうしても譲れない一線があるのだということをわかってほしい。
だから僕は彼女に事あるごとに婚約破棄を申し入れてきたんだ。
「今回も彼女が絶対邪魔してくると思っていたんだけどね」
僕はゆっくりと近づいてくるエリーザ連邦の首都近郊に作られたエリーザ高等学園の巨大な校舎を目に映しながら一つため息を付いたのだった。
僕はこの国の王と王妃である両親にそう告げると城を出る。
広い広いロビーには、何人もの従者たちが僕がやってくるのを待っていてくれていた。
一国の王子が他国へ留学するにしては少ない荷物はすでに馬車に積み込まれ、先に出立している。
僕は広いロビーを見回し、一人の人物を探す。
だが、どこにも僕が探している人物は見当たらなかった。
「結局あれ以来マリアは一度も来なかったな」
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彼女に留学のため婚約を破棄してくれるように告げてからすでに二十日もの日が過ぎ去っていた。
あの日、十日だけ時間をくださいと僕に頼み込んで出ていった彼女は、十日経っても顔を見せず、さり気なく従者を通じて様子を確認させたが、特に変わった所も見当たらないという返事しか帰ってこなかった。
「いったいマリアは何がしたかったのだろうか」
今まで、何度も何度も僕が彼女に婚約破棄を申し出ても、全て断ってきたと言うのに、今回はやけにおとなしい。
もしかして十日の間に色々手を打っても同仕様もなくて諦めたのだろうか?
あのマリアが?
「ありえない」
「王子? いったい何がありえないのでございますか?」
従者の一人が、思わず出てしまった僕のつぶやきを耳にしてそう尋ねる。
だが、まさか「婚約者が何もしてこないのが不思議だ」などと言えるわけがない。
「ああ、なんでもないよ」
僕は曖昧に笑顔を返して足をすすめる。
もしかしたら馬車の中にマリアが居たりしてとも思ったが、それも杞憂に終わった。
「マリアのことだ。エリーザ連邦に入る前になにか仕掛けてくるんじゃないだろうか」
僕は時々馬車の窓のカーテンを少しずらして外の景色にマリアの姿を探した。
だが、結局僕が国境を超えてもマリアは現れなかった。
「本当に僕との婚約を解消することを認めたのだろうか」
長い間、僕がまだ十歳になる前からマリアには苦労させられてきた。
勉学、剣術、魔法、体術。
僕が何をしようとも彼女には敵わず、仕舞には「ガート様は私がお守りしますから、安心してください」とまで言われる始末。
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僕だって別にマリアのことが嫌いなわけじゃない。
だけど、男として、一国の王子としてどうしても譲れない一線があるのだということをわかってほしい。
だから僕は彼女に事あるごとに婚約破棄を申し入れてきたんだ。
「今回も彼女が絶対邪魔してくると思っていたんだけどね」
僕はゆっくりと近づいてくるエリーザ連邦の首都近郊に作られたエリーザ高等学園の巨大な校舎を目に映しながら一つため息を付いたのだった。
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