人生8周目の悪役令嬢、今世は『推し(悪役宰相)』を救って死亡フラグごと燃やし尽くします!

白桃

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第十一話 迫る凶刃、試される絆

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 スカーレットとアシュターによる最初の反撃は、確かに保守派貴族と隣国ガレリア帝国の計画に打撃を与えた。
 しかし、それは同時に、彼らをより追い詰め、さらなる過激な行動へと駆り立てる結果にもなっていた。
 水面下で蠢く陰謀の気配は、日増しに濃密になっていくのを、スカーレットは肌で感じていた。

(次は、もっと直接的で、大規模な罠を仕掛けてくるはず……)

 ループの記憶を探り、スカーレットはある出来事を思い出した。
 近々開催される、国王陛下臨席の王宮騎士団観閲式。
 過去の人生のある回で、スカーレットはこの観閲式の最中に起こった「事故」――実際には保守派貴族が仕組んだ爆破テロ――に巻き込まれ、命を落としたことがあったのだ。
 そして、その混乱に乗じて、アシュターもまた暗殺されかけた。

(間違いないわ、奴らの狙いは観閲式!)

 スカーレットは、すぐにアシュターに警告を発した。

「宰相閣下、近々行われる観閲式ですが……妙な噂を耳にいたしました。不穏な動きがあるやもしれません。どうか、ご注意を」

 アシュターは、スカーレットの言葉を真剣な表情で受け止めた。
 彼自身の情報網もまた、観閲式当日に何らかの騒乱が計画されている可能性を探知していたのだ。

「……承知している。警備は最大限に強化するつもりだ」

 しかし、アシュターの声には重い響きがあった。

「だが、陛下がご臨席される以上、私が出席しないわけにはいかない」
「では、わたくしも同行いたします!」

 スカーレットは、即座に言い切った。

「閣下お一人に危険な思いはさせません。わたくしにも、何かできることがあるはずですわ」
「馬鹿を言うな!」

 アシュターは、珍しく声を荒らげた。
 その瑠璃色の瞳には、強い拒絶と、そしてスカーレットを案じる色が浮かんでいる。

「君を危険な場所に連れて行くわけにはいかない! 君は、安全な場所に……」
「いいえ!」

 スカーレットは、彼の言葉を遮った。

「わたくしは、もう閣下の『協力者』なのでしょう? ならば、危険も共にすべきです。それに……わたくしには、未来を知る知識があります。きっと、お役に立てますわ」

 彼女は、アシュターの目を真っ直ぐに見つめ、訴えた。
 その瞳に宿る強い意志に、アシュターは言葉を失った。
 彼女は、ただ守られるだけの存在ではない。
 共に戦う覚悟を持った、対等な協力者なのだ。

「……分かった」

 長い沈黙の後、アシュターは重々しく頷いた。

「だが、決して私のそばを離れるな。必ず、私が君を守る」
「はい。信じておりますわ、アシュター様」

 二人の間には、言葉以上に強い、覚悟と信頼が交わされていた。

 そして、運命の観閲式当日。
 快晴の空の下、王宮前の広場には、整然と並んだ騎士団と、着飾った貴族たち、そして多くの見物人で埋め尽くされていた。
 国王陛下が観閲台の中央に立ち、アシュターはその隣に控えている。
 スカーレットもまた、公爵令嬢として、貴族席の前列に座っていた。
 華やかな雰囲気とは裏腹に、スカーレットの心臓は早鐘のように打っていた。
 周囲に異常はないか、アシュター様の様子はどうか、神経を研ぎ澄ませる。

 観閲式が粛々と進み、騎士団の行進が始まった、その時だった。
 ドォォォン!!!
 突如として、広場の端で大きな爆発音が響き渡った!
 黒煙が上がり、悲鳴と怒号が飛び交い、会場は一瞬にしてパニックに陥る。

(始まった……!)

 スカーレットは身構えた。
 爆発は陽動だ。
 本命は、この混乱に乗じたアシュターへの襲撃のはず!

 案の定、混乱の中で、数人の騎士――いや、騎士の制服を着た暗殺者――が、国王陛下とアシュターのいる観閲台へと駆け上がってきた!

「陛下、お下がりください!」

 アシュターは、即座に国王を庇いながら剣を抜き、暗殺者たちに応戦する。
 周囲の護衛騎士たちも動き出すが、敵の数は多く、連携も取れている。
 明らかに、周到に準備された襲撃だった。

「アシュター様!」

 スカーレットは叫び、貴族席から飛び出そうとした。
 しかし、別の方向からも、黒装束の者たちが現れ、逃げ惑う貴族たちに紛れてスカーレットへと迫ってくる!
 狙いは、やはりアシュターだけではなかったのだ。

「くっ……!」

 アシュターは、国王を守りながら暗殺者たちと斬り結び、同時にスカーレットの危機にも気づいた。
 彼は、一瞬の隙をついてスカーレットの元へ駆け寄り、彼女を背後にかばうように立ちはだかった。

「言ったはずだ、私のそばを離れるなと!」

 鋭い声で言いながらも、その背中は、スカーレットを絶対に守るという強い意志を示していた。

 しかし、敵の攻撃は激しい。
 アシュターは優れた剣士だが、多勢に無勢だ。
 飛び交う剣戟、そして隠し持っていたらしい短剣や毒針による卑劣な攻撃。
 アシュターの腕や肩に、浅いが確実な傷が増えていく。

「閣下!」

 スカーレットは、彼の傷を見て悲鳴を上げた。

(このままでは……! わたくしが、何とかしなければ……!)

 ループ知識をフル回転させる。
 敵の攻撃パターン、連携の隙、そして……彼らが次に狙うであろう場所。

「閣下、右ですわ! 三人同時に!」

 スカーレットが叫ぶ。
 アシュターは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに彼女の言葉を信じて身を翻し、迫りくる三人の暗殺者の剣を見事に捌いた。

「次は背後から魔法が!」
「なっ!?」

 スカーレットの警告通り、貴族席に紛れていた敵の魔術師が、アシュターの背後から呪文を唱えようとしていた。
 アシュターは即座に反応し、魔術師の呪文詠唱を剣で妨害する。

 スカーレットの未来知識による警告と、アシュターの卓越した戦闘能力。
 二人の連携は、絶望的な状況の中で、わずかな光明を生み出していた。
 しかし、敵の数は減らない。
 じりじりと包囲網が狭まってくる。
 アシュターの呼吸も荒くなり、流れる血が彼の体力を奪っていく。

「……ここまで、か……」

 アシュターが、悔しげに呟いた。

「いいえ!」

 スカーレットは、彼の前に毅然と立ち、叫んだ。

「まだ終わりではありませんわ! わたくしたちは、こんなところで終わる運命ではないのですから!」

 その瞳には、恐怖ではなく、諦めを知らない強い光が宿っていた。

 絶体絶命の状況。
 しかし、互いを見つめ合う二人の瞳には、揺るぎない信頼と、共に未来を切り開こうとする、不屈の闘志が燃え上がっていた。
 彼らの最後の戦いが、今、始まろうとしていた。
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