人生8周目の悪役令嬢、今世は『推し(悪役宰相)』を救って死亡フラグごと燃やし尽くします!

白桃

文字の大きさ
10 / 13

第十話 反撃の狼煙、二人の共闘

しおりを挟む
 宰相アシュター・フォン・ナイトレイが、スカーレット・アリア・ヴァーミリオンの持つ「未来の知識」を受け入れ、共に戦うことを決意した瞬間から、執務室の空気は一変した。
 それまでの重苦しい沈黙と疑念は消え去り、代わりに二人の間には、国の未来を賭けた極秘作戦を共有する、共犯者としての濃密な緊張感が漂っていた。

「……では、詳しく聞かせてもらおうか。君の知る『未来』について。特に、我々を陥れようとしている者たちの、具体的な計画を」

 アシュターは、冷静さを取り戻し、宰相としての鋭い目でスカーレットを見据えた。

 スカーレットは頷き、記憶の糸を一つ一つ手繰り寄せながら語り始めた。
 隣国ガレリア帝国と内通している保守派貴族の名前。
 彼らが計画している次なる一手――国境付近での偽装襲撃事件と、それを口実にしたアシュターへの更なる弾劾。
 その事件の実行日時と場所。
 そして、彼らがアシュターを失脚させた後、傀儡の王を立てて国を掌握しようとしていることまで。

 スカーレットの口から語られる情報は、あまりにも詳細で具体的だった。
 アシュターは、その一つ一つを注意深く聞き取り、自身の持つ情報と照らし合わせながら、頭の中で反撃の戦略を組み立てていく。
 彼女の知識は、まさに神からの啓示のようだ。
 いや、それ以上に、この国の未来を誰よりも憂い、必死で守ろうとしている、彼女自身の強い意志の表れのようにも感じられた。

「……なるほどな。奴らの狙いはそこにあったか」

 一通り聞き終えたアシュターは、静かに呟いた。
 スカーレットの情報により、これまで断片的だったパズルのピースが繋がり、敵の陰謀の全貌が見えてきた。
 そして同時に、それを打ち破るための道筋も。

「スカーレット嬢。君の情報は、この国の命運を左右するかもしれない。感謝する」

 アシュターは、初めて真っ直ぐに、感謝の言葉を口にした。
 その言葉に、スカーレットの胸が温かくなる。

「いいえ……わたくしは、わたくしにできることをしているだけですわ」
「謙遜は不要だ。君の勇気と知性には敬意を表する」

 アシュターはそう言うと、素早く地図を広げ、ペンを取った。

「さて、ここからが我々の反撃だ。君の情報に基づき、奴らの計画を逆手に取る」

 そこからの二人の作戦会議は、驚くほどスムーズに進んだ。
 スカーレットが未来の出来事を提示し、アシュターがそれに対応するための具体的な戦略と実行計画を立てる。
 スカーレットの持つ「結果」という情報と、アシュターの持つ「現状」に関する深い知識と権力。
 その二つが組み合わさることで、これまで考えられなかったような、大胆かつ緻密な作戦が次々と形になっていった。

「まず、隣国の偽装襲撃計画。これは、事前に察知し、逆に彼らの密使を捕縛する。その際、保守派貴族との繋がりを示す証拠も押さえたい」
「それならば、密使が通るであろう秘密のルートを、わたくしは知っていますわ。過去の人生で……いえ、確かな情報筋から」

 スカーレットは、危うくループのことを口にしそうになり、慌てて言い直す。

「ふむ。ならば、オルコット卿の騎士隊に、そのルートで待ち伏せさせよう。証拠の確保も厳命しておく」

 アシュターは、迷いなく指示を出す。

「次に、国内で流されている私に関するデマ。これは、情報操作で対抗する。保守派貴族たちの不正の証拠の一部を、匿名で新聞社などにリークし、彼らへの疑惑を煽るのだ」
「それも良い考えですわね。マルティン侯爵には、後ろ暗い噂がいくつもありましたから」

 スカーレットは、ループ知識から得たゴシップ情報(?)を提供する。

 二人の間には、もはや以前のような探り合いや疑念はなかった。
 あるのは、共通の目的のために協力し合う、強い信頼感だけだ。
 スカーレットは、アシュターの迅速かつ的確な判断力と、国を動かすことのできるその力に改めて感嘆し、彼への尊敬と恋心を深めていた。
 アシュターもまた、スカーレットの持つ情報の価値と、その冷静な分析力、そして何より、自分と共に戦おうとする彼女の強い意志に、これまでにない感情――おそらくは、信頼と、そして庇護欲を超えた何か――を感じ始めていた。

 最初の反撃は、数日後に実行された。
 スカーレットの情報通り、隣国からの密使は秘密ルートで捕縛され、保守派貴族との繋がりを示す密書も押収された。
 同時に、マルティン侯爵の過去の不正に関する情報が匿名でリークされ、王都の新聞はそれを大々的に報じた。
 保守派貴族たちは、予想外の展開に動揺し、計画に狂いが生じ始めたのが見て取れた。

「……まずは、順調な滑り出しだな」

 アシュターは、部下からの報告を受け、小さく頷いた。
 その横顔には、確かな手応えと、そして隣に立つスカーレットへの信頼の色が浮かんでいた。

「はい。ですが、油断はできませんわ。彼らも、これで諦めるはずがありません」

 スカーレットは気を引き締める。
 これは、まだ戦いの始まりに過ぎない。
 敵は、必ずや次なる、より危険な罠を仕掛けてくるだろう。

「ああ、分かっている」

 アシュターは、スカーレットの瞳を見つめ返した。
 その視線は、以前よりもずっと温かく、そして力強い。

「だが、君がいる。それだけで、私は負ける気がしない」

 その言葉に、スカーレットの胸が高鳴った。
 悪役令嬢と悪役宰相。
 孤独だった二つの魂が、今、確かに重なり合い、未来を変えるための戦いへと歩みを進め始めていた。
 反撃の狼煙は、確かに上がったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

転生賢妻は最高のスパダリ辺境伯の愛を独占し、やがて王国を救う〜現代知識で悪女と王都の陰謀を打ち砕く溺愛新婚記〜

紅葉山参
恋愛
ブラック企業から辺境伯夫人アナスタシアとして転生した私は、愛する完璧な夫マクナル様と溺愛の新婚生活を送っていた。私は前世の「合理的常識」と「科学知識」を駆使し、元公爵令嬢ローナのあらゆる悪意を打ち破り、彼女を辺境の落ちぶれた貴族の元へ追放した。 第一の試練を乗り越えた辺境伯領は、私の導入した投資戦略とシンプルな経営手法により、瞬く間に王国一の経済力を確立する。この成功は、王都の中央貴族、特に王弟公爵とその腹心である奸猾な財務大臣の強烈な嫉妬と警戒を引き寄せる。彼らは、辺境伯領の富を「危険な独立勢力」と見なし、マクナル様を王都へ召喚し、アナスタシアを孤立させる第二の試練を仕掛けてきた。 夫が不在となる中、アナスタシアは辺境領の全ての重責を一人で背負うことになる。王都からの横暴な監査団の干渉、領地の資源を狙う裏切り者、そして辺境ならではの飢饉と疫病の発生。アナスタシアは「現代のインフラ技術」と「危機管理広報」を駆使し、夫の留守を完璧に守り抜くだけでなく、王都の監査団を論破し、辺境領の半独立的な経済圏を確立する。 第三の試練として、隣国との緊張が高まり、王国全体が未曽有の財政危機に瀕する。マクナル様は王国の窮地を救うため王都へ戻るが、保守派の貴族に阻まれ無力化される。この時、アナスタシアは辺境伯夫人として王都へ乗り込むことを決意する。彼女は前世の「国家予算の再建理論」や「国際金融の知識」を武器に、王国の経済再建計画を提案する。 最終的に、アナスタシアとマクナル様は、王国の腐敗した権力構造と対峙し、愛と知恵、そして辺境の強大な経済力を背景に、全ての敵対勢力を打ち砕く。王国の危機を救った二人は、辺境伯としての地位を王国の基盤として確立し、二人の愛の結晶と共に、永遠に続く溺愛と繁栄の歴史を築き上げる。 予定です……

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

処理中です...