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第十話 反撃の狼煙、二人の共闘
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宰相アシュター・フォン・ナイトレイが、スカーレット・アリア・ヴァーミリオンの持つ「未来の知識」を受け入れ、共に戦うことを決意した瞬間から、執務室の空気は一変した。
それまでの重苦しい沈黙と疑念は消え去り、代わりに二人の間には、国の未来を賭けた極秘作戦を共有する、共犯者としての濃密な緊張感が漂っていた。
「……では、詳しく聞かせてもらおうか。君の知る『未来』について。特に、我々を陥れようとしている者たちの、具体的な計画を」
アシュターは、冷静さを取り戻し、宰相としての鋭い目でスカーレットを見据えた。
スカーレットは頷き、記憶の糸を一つ一つ手繰り寄せながら語り始めた。
隣国ガレリア帝国と内通している保守派貴族の名前。
彼らが計画している次なる一手――国境付近での偽装襲撃事件と、それを口実にしたアシュターへの更なる弾劾。
その事件の実行日時と場所。
そして、彼らがアシュターを失脚させた後、傀儡の王を立てて国を掌握しようとしていることまで。
スカーレットの口から語られる情報は、あまりにも詳細で具体的だった。
アシュターは、その一つ一つを注意深く聞き取り、自身の持つ情報と照らし合わせながら、頭の中で反撃の戦略を組み立てていく。
彼女の知識は、まさに神からの啓示のようだ。
いや、それ以上に、この国の未来を誰よりも憂い、必死で守ろうとしている、彼女自身の強い意志の表れのようにも感じられた。
「……なるほどな。奴らの狙いはそこにあったか」
一通り聞き終えたアシュターは、静かに呟いた。
スカーレットの情報により、これまで断片的だったパズルのピースが繋がり、敵の陰謀の全貌が見えてきた。
そして同時に、それを打ち破るための道筋も。
「スカーレット嬢。君の情報は、この国の命運を左右するかもしれない。感謝する」
アシュターは、初めて真っ直ぐに、感謝の言葉を口にした。
その言葉に、スカーレットの胸が温かくなる。
「いいえ……わたくしは、わたくしにできることをしているだけですわ」
「謙遜は不要だ。君の勇気と知性には敬意を表する」
アシュターはそう言うと、素早く地図を広げ、ペンを取った。
「さて、ここからが我々の反撃だ。君の情報に基づき、奴らの計画を逆手に取る」
そこからの二人の作戦会議は、驚くほどスムーズに進んだ。
スカーレットが未来の出来事を提示し、アシュターがそれに対応するための具体的な戦略と実行計画を立てる。
スカーレットの持つ「結果」という情報と、アシュターの持つ「現状」に関する深い知識と権力。
その二つが組み合わさることで、これまで考えられなかったような、大胆かつ緻密な作戦が次々と形になっていった。
「まず、隣国の偽装襲撃計画。これは、事前に察知し、逆に彼らの密使を捕縛する。その際、保守派貴族との繋がりを示す証拠も押さえたい」
「それならば、密使が通るであろう秘密のルートを、わたくしは知っていますわ。過去の人生で……いえ、確かな情報筋から」
スカーレットは、危うくループのことを口にしそうになり、慌てて言い直す。
「ふむ。ならば、オルコット卿の騎士隊に、そのルートで待ち伏せさせよう。証拠の確保も厳命しておく」
アシュターは、迷いなく指示を出す。
「次に、国内で流されている私に関するデマ。これは、情報操作で対抗する。保守派貴族たちの不正の証拠の一部を、匿名で新聞社などにリークし、彼らへの疑惑を煽るのだ」
「それも良い考えですわね。マルティン侯爵には、後ろ暗い噂がいくつもありましたから」
スカーレットは、ループ知識から得たゴシップ情報(?)を提供する。
二人の間には、もはや以前のような探り合いや疑念はなかった。
あるのは、共通の目的のために協力し合う、強い信頼感だけだ。
スカーレットは、アシュターの迅速かつ的確な判断力と、国を動かすことのできるその力に改めて感嘆し、彼への尊敬と恋心を深めていた。
アシュターもまた、スカーレットの持つ情報の価値と、その冷静な分析力、そして何より、自分と共に戦おうとする彼女の強い意志に、これまでにない感情――おそらくは、信頼と、そして庇護欲を超えた何か――を感じ始めていた。
最初の反撃は、数日後に実行された。
スカーレットの情報通り、隣国からの密使は秘密ルートで捕縛され、保守派貴族との繋がりを示す密書も押収された。
同時に、マルティン侯爵の過去の不正に関する情報が匿名でリークされ、王都の新聞はそれを大々的に報じた。
保守派貴族たちは、予想外の展開に動揺し、計画に狂いが生じ始めたのが見て取れた。
「……まずは、順調な滑り出しだな」
アシュターは、部下からの報告を受け、小さく頷いた。
その横顔には、確かな手応えと、そして隣に立つスカーレットへの信頼の色が浮かんでいた。
「はい。ですが、油断はできませんわ。彼らも、これで諦めるはずがありません」
スカーレットは気を引き締める。
これは、まだ戦いの始まりに過ぎない。
敵は、必ずや次なる、より危険な罠を仕掛けてくるだろう。
「ああ、分かっている」
アシュターは、スカーレットの瞳を見つめ返した。
その視線は、以前よりもずっと温かく、そして力強い。
「だが、君がいる。それだけで、私は負ける気がしない」
その言葉に、スカーレットの胸が高鳴った。
悪役令嬢と悪役宰相。
孤独だった二つの魂が、今、確かに重なり合い、未来を変えるための戦いへと歩みを進め始めていた。
反撃の狼煙は、確かに上がったのだ。
それまでの重苦しい沈黙と疑念は消え去り、代わりに二人の間には、国の未来を賭けた極秘作戦を共有する、共犯者としての濃密な緊張感が漂っていた。
「……では、詳しく聞かせてもらおうか。君の知る『未来』について。特に、我々を陥れようとしている者たちの、具体的な計画を」
アシュターは、冷静さを取り戻し、宰相としての鋭い目でスカーレットを見据えた。
スカーレットは頷き、記憶の糸を一つ一つ手繰り寄せながら語り始めた。
隣国ガレリア帝国と内通している保守派貴族の名前。
彼らが計画している次なる一手――国境付近での偽装襲撃事件と、それを口実にしたアシュターへの更なる弾劾。
その事件の実行日時と場所。
そして、彼らがアシュターを失脚させた後、傀儡の王を立てて国を掌握しようとしていることまで。
スカーレットの口から語られる情報は、あまりにも詳細で具体的だった。
アシュターは、その一つ一つを注意深く聞き取り、自身の持つ情報と照らし合わせながら、頭の中で反撃の戦略を組み立てていく。
彼女の知識は、まさに神からの啓示のようだ。
いや、それ以上に、この国の未来を誰よりも憂い、必死で守ろうとしている、彼女自身の強い意志の表れのようにも感じられた。
「……なるほどな。奴らの狙いはそこにあったか」
一通り聞き終えたアシュターは、静かに呟いた。
スカーレットの情報により、これまで断片的だったパズルのピースが繋がり、敵の陰謀の全貌が見えてきた。
そして同時に、それを打ち破るための道筋も。
「スカーレット嬢。君の情報は、この国の命運を左右するかもしれない。感謝する」
アシュターは、初めて真っ直ぐに、感謝の言葉を口にした。
その言葉に、スカーレットの胸が温かくなる。
「いいえ……わたくしは、わたくしにできることをしているだけですわ」
「謙遜は不要だ。君の勇気と知性には敬意を表する」
アシュターはそう言うと、素早く地図を広げ、ペンを取った。
「さて、ここからが我々の反撃だ。君の情報に基づき、奴らの計画を逆手に取る」
そこからの二人の作戦会議は、驚くほどスムーズに進んだ。
スカーレットが未来の出来事を提示し、アシュターがそれに対応するための具体的な戦略と実行計画を立てる。
スカーレットの持つ「結果」という情報と、アシュターの持つ「現状」に関する深い知識と権力。
その二つが組み合わさることで、これまで考えられなかったような、大胆かつ緻密な作戦が次々と形になっていった。
「まず、隣国の偽装襲撃計画。これは、事前に察知し、逆に彼らの密使を捕縛する。その際、保守派貴族との繋がりを示す証拠も押さえたい」
「それならば、密使が通るであろう秘密のルートを、わたくしは知っていますわ。過去の人生で……いえ、確かな情報筋から」
スカーレットは、危うくループのことを口にしそうになり、慌てて言い直す。
「ふむ。ならば、オルコット卿の騎士隊に、そのルートで待ち伏せさせよう。証拠の確保も厳命しておく」
アシュターは、迷いなく指示を出す。
「次に、国内で流されている私に関するデマ。これは、情報操作で対抗する。保守派貴族たちの不正の証拠の一部を、匿名で新聞社などにリークし、彼らへの疑惑を煽るのだ」
「それも良い考えですわね。マルティン侯爵には、後ろ暗い噂がいくつもありましたから」
スカーレットは、ループ知識から得たゴシップ情報(?)を提供する。
二人の間には、もはや以前のような探り合いや疑念はなかった。
あるのは、共通の目的のために協力し合う、強い信頼感だけだ。
スカーレットは、アシュターの迅速かつ的確な判断力と、国を動かすことのできるその力に改めて感嘆し、彼への尊敬と恋心を深めていた。
アシュターもまた、スカーレットの持つ情報の価値と、その冷静な分析力、そして何より、自分と共に戦おうとする彼女の強い意志に、これまでにない感情――おそらくは、信頼と、そして庇護欲を超えた何か――を感じ始めていた。
最初の反撃は、数日後に実行された。
スカーレットの情報通り、隣国からの密使は秘密ルートで捕縛され、保守派貴族との繋がりを示す密書も押収された。
同時に、マルティン侯爵の過去の不正に関する情報が匿名でリークされ、王都の新聞はそれを大々的に報じた。
保守派貴族たちは、予想外の展開に動揺し、計画に狂いが生じ始めたのが見て取れた。
「……まずは、順調な滑り出しだな」
アシュターは、部下からの報告を受け、小さく頷いた。
その横顔には、確かな手応えと、そして隣に立つスカーレットへの信頼の色が浮かんでいた。
「はい。ですが、油断はできませんわ。彼らも、これで諦めるはずがありません」
スカーレットは気を引き締める。
これは、まだ戦いの始まりに過ぎない。
敵は、必ずや次なる、より危険な罠を仕掛けてくるだろう。
「ああ、分かっている」
アシュターは、スカーレットの瞳を見つめ返した。
その視線は、以前よりもずっと温かく、そして力強い。
「だが、君がいる。それだけで、私は負ける気がしない」
その言葉に、スカーレットの胸が高鳴った。
悪役令嬢と悪役宰相。
孤独だった二つの魂が、今、確かに重なり合い、未来を変えるための戦いへと歩みを進め始めていた。
反撃の狼煙は、確かに上がったのだ。
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