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3.暗闇の森
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次に意識が戻った時、ミスティは柔らかな下草の上、寝袋の中にいた。
「自分では "そういう無茶はするな" と言ったのに、自分は真っ先にやったのよ! 信じられないわ!」
耳に届いたのは、怒りに震えるダイアナの声だった。
「……仕方ない。全員が安全に脱出するプランは、私兵が乗り込んで来たところで使えなくなった。やつだってプランBなんざ、使いたくなかったろうさ」
「プランBって、なんだ?」
ミスティは寝袋から体を起こし、声の主に訊ねた。
「あら、お目覚め、お姫様」
ダイアナは焚き火の前に腰かけており、その向かいに黒髪の男が座っている。
彼もまたラディアントの一人、薄暮騎士団の長、薄暮の騎士だ。
「ここは? なにがどうなってる……?」
「確認だが、最後の記憶は?」
「転送魔法陣の設営中、クリスに交代を言い渡されて……」
「それで、休憩を取ったでしょ?」
「そうだ……。でも、その後の記憶が……曖昧で……」
「ま、一服盛られて寝かされたからな」
「でも、飲み物を渡してきたのはクリスだぞ?」
「インフェリオンに設置された転送魔法陣には致命的な欠陥があって、第一陣のほとんどが次元の狭間に飲まれて死んだわ」
「なんだって……!?」
ミスティは、思わず声を荒げていた。
「叫ぶなよ」
「僕は……その第一陣で帰還する予定だった……」
「そう。あなたも "次元の狭間で行方不明" ……つまり殉職ってことになってるわ」
「殉職……? 僕が?」
死を知らぬ自分が、殉職扱いになっている。
とはいえ、例え不死身であっても。
──次元の狭間に囚われ、肉体が帰還できなければ、再生しようが意味はない。
己の身が "向こう側" で何度再生を繰り返そうと、こちら側から見れば居ないもの……つまり "死んだ" ことになるのだろう。
「しかし……僕はここにいる……」
「ええ、殉職は偽装よ。あなたの身柄は、クリスが "荷物" として浮遊城に持ち帰ったの」
「なぜ?」
「魔人との戦いが終われば、君の体の秘密が、もっと "有用な資産" になるからさ」
その一言が、ミスティの胸に深く沈んだ。
戦場にあれば "兵器" として、平時であれば "資源" として。
自分の存在は、どこまでいっても "道具" に過ぎないのだ。
ミスティは、そこで焚き火の向こうに座るダスクを見た。
「きみは誰だ? 薄暮の騎士は荒涼の丘の戦いで戦死の公報が入ったはずだ」
男は黒髪に黒い瞳、陰のある顔立ちで──確かにそれは、ダスクの顔なのだが。
記憶にある彼とは、どこか違って見えた。
その違和感と、妙に馴染む空気。
訓練を長く共にしただけの仲間としては、この距離感はどこか馴れすぎている。
言葉にできない居心地の悪さが、苛立ちへと変わる。
再生とは違う、仮死からの目覚めで感覚がおかしいのかもしれない……。
「その戦死公報は "偽装" さ。プランBの仕込みってやつだ」
「そのプランBというのは、なんだ?」
「順に話そうか。まずは、魔人との終盤戦、同盟連邦評議会内部でちょっと不穏な動きがあってな。きみは魔人との戦いが始まってすぐのころ、ルミナリア王国の騎士団が壊滅した歴史は知ってるか?」
「ああ、知ってる。ルーファ……いや僕が騎士を目指そうと思ったのは、子供の頃に読み聞かされた伝説のルミナリア騎士団と、悲劇の騎士団長アルダン・レスタークの物語がきっかけだからな」
「そうか。そして歴史は繰り返すさ、騎士団壊滅の責をアルダン・レスタークにおっつけた同盟連邦評議会は、魔人との戦いで勝利を確信したところで、今度は全ての戦争責任を閃光の騎士様におっつけることに決めたんだ」
「しかし魔人の魔導実験に過剰反応して、インフェリオンの村を焼いたのはルミナリアの騎士団だ。ラディアントの騎士団長たるグリント様は、同盟連邦評議会が選んだ軍事トップじゃないか」
「だが、ルミナリア出身で、当時のルミナリア騎士団にいた。それに同盟連邦評議会は、英雄としてラディアントの支持が上がるのも由としなかった」
「そんなメチャクチャな……」
「結局、グリント様は更迭されたわ」
「団長が!?」
「もっとも罪状は表向き、戦争責任となってるが、実際はきみの引き渡しを断ったのが理由だがな」
「僕の? なぜだ、どうせ死なないんだ、渡せばよかったのに……」
「莫迦ね。そんなことになったら、あなた、本当に次元の狭間に投げ出されるよりひどい目にあわされたわよ」
ダイアナに呆れた顔をされても、ミスティにはその理由がわからなかった。
なぜならミスティにとって、自分の存在は "人間" ではなく "消費されるべき物" だったからだ。
「自分では "そういう無茶はするな" と言ったのに、自分は真っ先にやったのよ! 信じられないわ!」
耳に届いたのは、怒りに震えるダイアナの声だった。
「……仕方ない。全員が安全に脱出するプランは、私兵が乗り込んで来たところで使えなくなった。やつだってプランBなんざ、使いたくなかったろうさ」
「プランBって、なんだ?」
ミスティは寝袋から体を起こし、声の主に訊ねた。
「あら、お目覚め、お姫様」
ダイアナは焚き火の前に腰かけており、その向かいに黒髪の男が座っている。
彼もまたラディアントの一人、薄暮騎士団の長、薄暮の騎士だ。
「ここは? なにがどうなってる……?」
「確認だが、最後の記憶は?」
「転送魔法陣の設営中、クリスに交代を言い渡されて……」
「それで、休憩を取ったでしょ?」
「そうだ……。でも、その後の記憶が……曖昧で……」
「ま、一服盛られて寝かされたからな」
「でも、飲み物を渡してきたのはクリスだぞ?」
「インフェリオンに設置された転送魔法陣には致命的な欠陥があって、第一陣のほとんどが次元の狭間に飲まれて死んだわ」
「なんだって……!?」
ミスティは、思わず声を荒げていた。
「叫ぶなよ」
「僕は……その第一陣で帰還する予定だった……」
「そう。あなたも "次元の狭間で行方不明" ……つまり殉職ってことになってるわ」
「殉職……? 僕が?」
死を知らぬ自分が、殉職扱いになっている。
とはいえ、例え不死身であっても。
──次元の狭間に囚われ、肉体が帰還できなければ、再生しようが意味はない。
己の身が "向こう側" で何度再生を繰り返そうと、こちら側から見れば居ないもの……つまり "死んだ" ことになるのだろう。
「しかし……僕はここにいる……」
「ええ、殉職は偽装よ。あなたの身柄は、クリスが "荷物" として浮遊城に持ち帰ったの」
「なぜ?」
「魔人との戦いが終われば、君の体の秘密が、もっと "有用な資産" になるからさ」
その一言が、ミスティの胸に深く沈んだ。
戦場にあれば "兵器" として、平時であれば "資源" として。
自分の存在は、どこまでいっても "道具" に過ぎないのだ。
ミスティは、そこで焚き火の向こうに座るダスクを見た。
「きみは誰だ? 薄暮の騎士は荒涼の丘の戦いで戦死の公報が入ったはずだ」
男は黒髪に黒い瞳、陰のある顔立ちで──確かにそれは、ダスクの顔なのだが。
記憶にある彼とは、どこか違って見えた。
その違和感と、妙に馴染む空気。
訓練を長く共にしただけの仲間としては、この距離感はどこか馴れすぎている。
言葉にできない居心地の悪さが、苛立ちへと変わる。
再生とは違う、仮死からの目覚めで感覚がおかしいのかもしれない……。
「その戦死公報は "偽装" さ。プランBの仕込みってやつだ」
「そのプランBというのは、なんだ?」
「順に話そうか。まずは、魔人との終盤戦、同盟連邦評議会内部でちょっと不穏な動きがあってな。きみは魔人との戦いが始まってすぐのころ、ルミナリア王国の騎士団が壊滅した歴史は知ってるか?」
「ああ、知ってる。ルーファ……いや僕が騎士を目指そうと思ったのは、子供の頃に読み聞かされた伝説のルミナリア騎士団と、悲劇の騎士団長アルダン・レスタークの物語がきっかけだからな」
「そうか。そして歴史は繰り返すさ、騎士団壊滅の責をアルダン・レスタークにおっつけた同盟連邦評議会は、魔人との戦いで勝利を確信したところで、今度は全ての戦争責任を閃光の騎士様におっつけることに決めたんだ」
「しかし魔人の魔導実験に過剰反応して、インフェリオンの村を焼いたのはルミナリアの騎士団だ。ラディアントの騎士団長たるグリント様は、同盟連邦評議会が選んだ軍事トップじゃないか」
「だが、ルミナリア出身で、当時のルミナリア騎士団にいた。それに同盟連邦評議会は、英雄としてラディアントの支持が上がるのも由としなかった」
「そんなメチャクチャな……」
「結局、グリント様は更迭されたわ」
「団長が!?」
「もっとも罪状は表向き、戦争責任となってるが、実際はきみの引き渡しを断ったのが理由だがな」
「僕の? なぜだ、どうせ死なないんだ、渡せばよかったのに……」
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