17 / 75
4-8
しおりを挟む
クリスは何も言わず、再びキスを重ねた。
唇が触れている間だけは、現実のすべてが遠ざかる気がした。
ミスティに、何も言わせたくなかった。
いや──何も聞きたくなかっただけかもしれない。
ソファに体を預けたミスティは、力を抜いたまま動かなかった。
病衣がゆるみ、白い肌がこぼれる。
拒まれたわけでもなく、求められたわけでもなかった。
ただ横たわるミスティの体に、クリスはそっと腕をまわした。
指先で肌をなぞると、ミスティの体がわずかにすくんだ。
そのびくりとした反応に、クリスが手を止める。
──これじゃあ、シャワールームの二の舞じゃないか……。
あのときも、ミスティはただ受け入れるだけだった。
声も、抗いもなく、熱を発してはいたが、感情を見せなかった。
──違う……。今回は、そうじゃない。
今度は、ちゃんと触れる。
ちゃんと伝えるのだ。
クリスはゆっくりと身を起こし、ソファを離れた。
ベッド脇の引き出しを開ける。
奥にあった小さなボトルを取り出す。
かつて、レティシアが使っていたラベンダーの香り。
すっかり忘れていたその存在が、今は唯一の答えのように思えた。
ボトルの蓋を開け、ローションを手のひらに取る。
滑らかな感触が、ほんの少しだけ手を落ち着かせる。
ミスティの腰に、そっと手を添えた。
その体が、かすかにすくんだ。
それは拒否ではなかった。
驚きでもない。
むしろ、どう反応すればいいのかわからないまま、ただ受け入れているように見えた。
クリスは息を詰め、慎重に指を動かした。
手のひらで温めたローションが、ミスティの肌に広がっていく。
無音の中で、ミスティがわずかに息を飲んだ。
小さな音だった。
けれど確かに、感じていた。
濡れた肌が、指を受け入れていく。
やわらかく、ゆっくりと。
何かを開いていくように。
「……っ」
喉の奥で、小さく声がこぼれた。
痛みではなかった。
抗いでも、拒絶でもなかった。
ミスティは言葉を失い、わずかに喘ぎ声を漏らす。
それが快感の吐息だったのか、壊れかけた心が掻き乱される音だったのか──クリスには、判別がつかなかった。
だが、確かなことが一つだけあった。
ミスティの身体は、確かに反応していたのだ。
クリスは、自分の指先が引き出したその反応に、胸の奥をきゅうと締めつけられるような痛みを覚えた。
──きみを、もっと……。
言葉にしようとして、けれどクリスは口を開けなかった。
言葉にした瞬間、目の前のミスティが消えてしまいそうで、クリスは怖かったのだ。
クリスは、慎重に指を動かした。
ゆっくりと。
ローションをなじませながら、その内部を押し広げていく。
ミスティの腹筋が、ぴくりと引きつった。
それはほんのわずかな反射にすぎなかったが、確かに、熱は感じられた。
最初は、かすかに逃げるようだった動きが、数度繰り返すうちに──わずかに、迎えるような気配へと変わっていった。
そして、吐息が漏れた。
ごく小さく、誰にも気づかれないような、くぐもった音。
だが、クリスの耳には、はっきりと届いた。
それは、痛みのものではなかった。
声にならない快感の吐息。
逃れようとしても零れ落ちてしまった、ごまかしの効かない音だった。
クリスの胸が、熱く高鳴った。
喉が焼けるほどの歓喜と焦燥が、クリスの心に混じり合う。
ミスティの目は、閉じられたままだった。
感情は、そこに映らない。
けれど──
ミスティのつま先がそっと丸まり、足の甲にわずかに力が入る。
そのわずかな揺れが、クリスの胸に深く刺さった。
感情を表に出さないミスティのかわりに、その身体だけが真実を告げていた。
クリスは、触れ方を変えた。
より深く、角度を探りながら、指を増やし、慎重に広げていく。
水音が微かに響く。
布が擦れる音と、ミスティの震える吐息。
ミスティの肩が、またわずかに震える。
口元が、かすかに熱を漏らすように動いた。
たまらず、クリスは唇を這わせる。
首筋から鎖骨へ、乱れた病衣の隙間に唇を押し当て、その熱を確かめるように、何度も、何度も触れた。
ミスティの喉が震えた。
目を開くことはない。
だが、その表情に、ふと──
快感の余韻にとろけたような、わずかな緩みが浮かび上がった。
クリスの喉の奥から、かすれた吐息が漏れた。
届いている。
ちゃんと、感じてくれている。
その確信に、クリスの胸の奥で、喜びと、得体の知れない焦燥が混じり始めた。
──今だけでいい。
──今だけは、俺の手が、きみを "人間" に引き戻していると、思わせてくれ。
クリスはそっと指を抜き、自分の体を重ねる。
ミスティの脚は、わずかに開いた。
それはもう、拒絶でもなければ、受動でもなかった。
それは、確かに呼応だった。
深く結ばれるたびに、ミスティの指は、ソファの縁を握りしめた。
張り詰めた関節、白くなる指先。
唇から、息が漏れる。
それは言葉にはならない。けれど──
クリスには、それがわかった。
今この瞬間を、彼が確かに感じていることが。
それだけで、胸が張り裂けそうだった。
唇が触れている間だけは、現実のすべてが遠ざかる気がした。
ミスティに、何も言わせたくなかった。
いや──何も聞きたくなかっただけかもしれない。
ソファに体を預けたミスティは、力を抜いたまま動かなかった。
病衣がゆるみ、白い肌がこぼれる。
拒まれたわけでもなく、求められたわけでもなかった。
ただ横たわるミスティの体に、クリスはそっと腕をまわした。
指先で肌をなぞると、ミスティの体がわずかにすくんだ。
そのびくりとした反応に、クリスが手を止める。
──これじゃあ、シャワールームの二の舞じゃないか……。
あのときも、ミスティはただ受け入れるだけだった。
声も、抗いもなく、熱を発してはいたが、感情を見せなかった。
──違う……。今回は、そうじゃない。
今度は、ちゃんと触れる。
ちゃんと伝えるのだ。
クリスはゆっくりと身を起こし、ソファを離れた。
ベッド脇の引き出しを開ける。
奥にあった小さなボトルを取り出す。
かつて、レティシアが使っていたラベンダーの香り。
すっかり忘れていたその存在が、今は唯一の答えのように思えた。
ボトルの蓋を開け、ローションを手のひらに取る。
滑らかな感触が、ほんの少しだけ手を落ち着かせる。
ミスティの腰に、そっと手を添えた。
その体が、かすかにすくんだ。
それは拒否ではなかった。
驚きでもない。
むしろ、どう反応すればいいのかわからないまま、ただ受け入れているように見えた。
クリスは息を詰め、慎重に指を動かした。
手のひらで温めたローションが、ミスティの肌に広がっていく。
無音の中で、ミスティがわずかに息を飲んだ。
小さな音だった。
けれど確かに、感じていた。
濡れた肌が、指を受け入れていく。
やわらかく、ゆっくりと。
何かを開いていくように。
「……っ」
喉の奥で、小さく声がこぼれた。
痛みではなかった。
抗いでも、拒絶でもなかった。
ミスティは言葉を失い、わずかに喘ぎ声を漏らす。
それが快感の吐息だったのか、壊れかけた心が掻き乱される音だったのか──クリスには、判別がつかなかった。
だが、確かなことが一つだけあった。
ミスティの身体は、確かに反応していたのだ。
クリスは、自分の指先が引き出したその反応に、胸の奥をきゅうと締めつけられるような痛みを覚えた。
──きみを、もっと……。
言葉にしようとして、けれどクリスは口を開けなかった。
言葉にした瞬間、目の前のミスティが消えてしまいそうで、クリスは怖かったのだ。
クリスは、慎重に指を動かした。
ゆっくりと。
ローションをなじませながら、その内部を押し広げていく。
ミスティの腹筋が、ぴくりと引きつった。
それはほんのわずかな反射にすぎなかったが、確かに、熱は感じられた。
最初は、かすかに逃げるようだった動きが、数度繰り返すうちに──わずかに、迎えるような気配へと変わっていった。
そして、吐息が漏れた。
ごく小さく、誰にも気づかれないような、くぐもった音。
だが、クリスの耳には、はっきりと届いた。
それは、痛みのものではなかった。
声にならない快感の吐息。
逃れようとしても零れ落ちてしまった、ごまかしの効かない音だった。
クリスの胸が、熱く高鳴った。
喉が焼けるほどの歓喜と焦燥が、クリスの心に混じり合う。
ミスティの目は、閉じられたままだった。
感情は、そこに映らない。
けれど──
ミスティのつま先がそっと丸まり、足の甲にわずかに力が入る。
そのわずかな揺れが、クリスの胸に深く刺さった。
感情を表に出さないミスティのかわりに、その身体だけが真実を告げていた。
クリスは、触れ方を変えた。
より深く、角度を探りながら、指を増やし、慎重に広げていく。
水音が微かに響く。
布が擦れる音と、ミスティの震える吐息。
ミスティの肩が、またわずかに震える。
口元が、かすかに熱を漏らすように動いた。
たまらず、クリスは唇を這わせる。
首筋から鎖骨へ、乱れた病衣の隙間に唇を押し当て、その熱を確かめるように、何度も、何度も触れた。
ミスティの喉が震えた。
目を開くことはない。
だが、その表情に、ふと──
快感の余韻にとろけたような、わずかな緩みが浮かび上がった。
クリスの喉の奥から、かすれた吐息が漏れた。
届いている。
ちゃんと、感じてくれている。
その確信に、クリスの胸の奥で、喜びと、得体の知れない焦燥が混じり始めた。
──今だけでいい。
──今だけは、俺の手が、きみを "人間" に引き戻していると、思わせてくれ。
クリスはそっと指を抜き、自分の体を重ねる。
ミスティの脚は、わずかに開いた。
それはもう、拒絶でもなければ、受動でもなかった。
それは、確かに呼応だった。
深く結ばれるたびに、ミスティの指は、ソファの縁を握りしめた。
張り詰めた関節、白くなる指先。
唇から、息が漏れる。
それは言葉にはならない。けれど──
クリスには、それがわかった。
今この瞬間を、彼が確かに感じていることが。
それだけで、胸が張り裂けそうだった。
0
あなたにおすすめの小説
薄紅の檻、月下の契り
雪兎
BL
あらすじ
大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。
没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。
しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。
鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。
一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。
冷ややかな契約婚として始まった同居生活。
だが、伊織は次第に知ることになる。
鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。
発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。
伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。
月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。
大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き
メグエム
BL
伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。
恋なし、風呂付き、2LDK
蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。
面接落ちたっぽい。
彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。
占い通りワーストワンな一日の終わり。
「恋人のフリをして欲しい」
と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。
「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ルピナスの花束
キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。
ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。
想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる