暁闇の騎士

琉斗六

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 レヴィアタン号は、想像よりもずっと小さな艦だった。
 乗組員は、艦長のトリスタンと、副官兼通信士のヒューレルのわずか二名。
 だが艦内は驚くほど広く、ブリッジの他に、休憩スペースにも余裕があり、設計の妙が感じられた。
 学者肌の深海遺構調査団レガッタ・デ・ガルディアが開発した最新鋭艦と言うだけあって、かなりの深度まで潜ってもゆう視界航行が可能で、ブリッジには大きな窓がある。
 しかし陽光の届かない海中は暗く、操縦室の窓の外は、レヴィアタン号の照らすライトにマリンスノーが舞うのが見えるだけだった。

「とりあえず、ガルディア基地に戻る」
「しかし、ガルディアは公的こうてきに保護は出来ないと言ってませんでした?」

 シェイドの問いに、ヒューレルがニヤッと笑う。

「海上に漂流ひょうりゅうしていた "身元不明" の遭難者なら、保護もやむなし……って話ですよ」
「ああ、それで小型艇を放棄して、海上に残してきたんですね」
「おい、ヒューレル。おしゃべりもいいが、警戒を怠るなよ」
「この辺りなら、敵影てきえいはまず──」

 軽口を叩きながら、ヒューレルはソナーとレーダーのチェックをしたが。
 そこで真剣な表情で黙り込んだ。

「どうした?」
「海中を所属不明のなにかが進んできています。コントロール魔力波を感知、魔導無人機フロートギアです」
「数は?」
「多いですね。10以上はいるかと……」

 トリスタンは振り返ると、ミスティとシェイドに向かって言った。

「戦闘はできるだけ避けて回避行動を取る。かなり乱暴な操艦そうかんになるから、しっかりつかまっててくれよ」
「探知されるまでが早いですね」
「だが、浮遊城の爆発から数日経過しているし、僕の魔力は探知されやすい。ダスクの言ったとおり、向こうも必死なんだろう」
「敵、船影を確認。魚雷型のフロートギア」
「コントロールしてる魔力を乱して、少し数を減らそう。ヒューレル、魔力攪乱してくれ。回避は僕がする」

 改めて操縦桿を握り直し、トリスタンはぐっと身構えた。

「了解、魔力攪乱波、放射します」

 復唱して、ヒューレルはパネルを操作した。
 レヴィアタン号の船体から、周囲に向かって撹乱の魔力波が放出される。
 コントロールを失ったフロートギアは、不規則に軌道を逸れながら、隣接する機体に激突していく。
 青白い火花が散り、次々と水中で爆ぜるように大破した。

「艦長、レーダーとソナーがイカれました!」
「なにっ! なぜだっ?」
「フロートギアの中に、なんか仕掛けられてたっぽいですね。レーダーソナーを同時に潰せる妨害物質……聞いたことないな……」
「手が足りないなら、成分分析を僕がしましょう!」

 ラディアント騎士団に入る前、ガルディアに在籍していたシェイドは、深海の知識も、潜水艇の扱いも知っていた。
 その申し出に、トリスタンが頷く。

「頼む! 俺は目視で回避をする!」

 トリスタンの操艦技術は抜きん出ていたが、しかし目と耳を潰された状態ではそれも長くは続かない。
 数発が着弾し、艦がグラグラと揺れる。

「艦長! 魔導エンジンに異常を確認。内部の温度が異常上昇しています!」
「魔石エンジンに切り替える! 向こうも数がだいぶ減った、もうちょっと持ちこたえてくれ……」

 祈るようなトリスタンの願いも虚しく、艦が大きく揺れて、照明がチカチカと瞬く。
 艦内の照明が落ち、真っ暗になった。

「魔力供給路、切り替えます!」

 ヒューレルが暗闇の中、手元のパネルを操作する。
 艦内に薄暗がり程度の明かりが灯った。

「あの暗闇で、操作できるんですか?」
「出来ますよ~。艦長と一緒に仕事してると、暗闇は慣れっこですね」

 シェイドの問いに、ヒューレルは笑いながら答えた。
 フロートギアの攻撃が止まったらしく、艦内は少し落ち着いた。

「ふう~、危機一髪だったっすね~」
「ああ。まだ攻撃が続いていたら、やられてたかもしれない。ヒューレル、被害報告を」
「船体センサー起動……、あ、やっぱり推進装置ハイドロジェットの噴出孔に、なんか異物がありますね」
「瞬間噴出力を上げて、抜けてくれるといいんだが」

 トリスタンが操作をすると、船全体がガタガタと揺れた。

「駄目っすね。魔導エンジンを吹かすと、炉内の温度が上がるので、これ以上は危険です」
「船外アームで、取り除けないか?」
「届きません」

 二人は忙しなく、パネルのチェックと操作を繰り返す。
 ミスティは、立ち上がって操舵席に歩み寄った。

「説明してくれないか?」
「現状、マギア炉が動かせない状態になっている」
「魔導エンジンの動力の核だな。なぜ、動かない?」
「動かないんじゃない、動かしたらまずいんだ。レヴィアタンの魔導エンジンは、推進と排熱を兼ねた一体式構造になってる。噴出孔の異物が排熱を邪魔してて、炉内温度が急上昇する」
「救難信号を出して、助けを待つのは駄目なんですか?」

 シェイドが問うた。

「ばらまかれた妨害物質の所為で、魔導通信が届いてるかどうかわかりませんね」
「時間もあまりない。魔導エンジンが動かないと、バラストの排水も出来ないし、艦内の酸素供給にも影響が出る」

 少しの間を置いてから、ミスティが口を開いた。

「つまり、噴出孔の異物が取り除ければいいんだな?」
「何度か試したか、がっちり食い込んでいる」
「外に出て、直に異物を取り除くことは出来ないのか?」
「おいおい、いくらガルディア特製の深海探査スーツだって、この水圧じゃ数十分しかもたない。外に出るなんて自殺行為だ」
「あいにく、僕は死なないんだ」

 ミスティの発言に、トリスタンは目を見開き、言葉を失った。

「おい……本気で言ってるのか?」

 ミスティは、淡々と頷いてみせる。
 トリスタンは絶句し、ひたいに手を当てた。

「英雄暁闇の騎士ミステリーナイトは不死身だ、と聞かされたが……、比喩だと思ってたよ」
「黙って海底に沈むより、まだマシだ。いざとなったら、ワイヤーで僕を収容してくれればいい」

 トリスタンはシェイドに目をやったが、シェイドはこうなったら誰にもめられないと言った様子で、肩をすくめただけだった。
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