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深海探査スーツを身に着けたミスティは、ハッチの扉を開いた。
海水が注入されてくる間、通信機にトリスタンの声が響く。
「聞こえるか?」
「ああ、聞こえている」
「今、ヒューレルと計算してみたんだが、現在の水深と沈下速度だと、耐久時間は最大で15分だ。注水が満水になった時点からカウントダウンを始める」
「グリン」
装備に緩みがないかの最終確認をして、ミスティは静かに水が満ちるのを待った。
「グリンって、なんだ?」
「煌環騎士団の合言葉……ですね。 "チェック" が準備はいいか? で、 "グリン" はすぐ行けるとか、了解したとかって意味です。駄目な場合は "レッド" ですね」
トリスタンの疑問に、シェイドが答えた。
「現状は充分、レッドだろ」
ため息と共に、トリスタンが言った。
満水を伝えるブザーと同時に、ヒューレルがカウントダウンを始める。
外部ハッチが開き、ミスティは艦の外に出た。
ズシンと、全身に圧が掛かった。
だが、ガルディア特製というだけあって、アクアラングはその圧を防いでくれている。
ミスティは額に付けたライトを頼りに、船体後部へと移動した。
事前にトリスタンに見せてもらった図面通り、後部にハイドロジェットの噴出孔があり、そこにフロートギアの破片が深々と突き刺さっている。
腰に付けたベルトから道具を取り出し、ミスティはそれを取り除こうとした。
「あと、10分」
ヒューレルのカウントダウンが聞こえる。
破片はガッチリと食い込んでいて、自分の身体は鉛を全身に巻きつけられているかのように重い。
焦れば手元が狂う。
手袋越しだが、深海の冷たい水が手をかじかませる。
鈍った指先が道具を取り落とし、レンチは暗い水底へと沈んでいった。
「あと、5分」
ミスティは両手を伸ばし、食い込んだ破片を掴んで引く。
破片が少しだけ動いた。
それに勢いを得て、両手に力を込め、足を船体に付けて踏ん張る形で、全身の力を込める。
ぐいと引くと、破片は少しの抵抗を見せたあとに、噴出孔から外れた。
「……取れた。戻る」
無線越しのミスティの声に、艦内の空気がほっと緩んだ。
「残り1分です。ハッチは開いてますが、ワイヤーを引きますか?」
「頼む」
次の瞬間、レヴィアタン号の直ぐそばで爆発が起きた。
「ヒューレル、報告を」
「レーダー、未だ効きません」
「トリスタン! 敵襲だ! フロートギアが迫ってるぞ!」
船外で目視が出来たミスティは、状況を伝える。
「急いでハッチに戻れ! 今の攻撃で魔力供給路の一部が壊れた。迂回路の構築に1分ほど掛かるから、それまでウィンチの巻き上げが出来ない」
「わかった」
緩やかに沈下する船体、容赦のない攻撃をしてくるフロートギア、その中をかいくぐり、ミスティはジリジリとハッチに向かった。
だが、わずかに進んだところで──それまで確かだった手応えが、急に遠のき、手足が重く感じる。
いや……、そもそも手足の存在が曖昧だ。
まるで、自分の手足が "他人のもの" のように思える。
──まずい、窒素酔いだ……。
このタイミングで意識を失うのは、トリスタンたちの足を引く。
それは分かっているが、視界はどんどん暗くなり始めていた。
「ミスティ、どうしたっ?」
トリスタンの通信に、窒素酔いを起こしたことを伝えた……つもりだったが。
呂律の回らない、なにか音を出しただけだったかもしれない。
「おいっ、ミスティ! 返事しろ!」
「艦長、残り時間は切れてます。窒素酔いじゃないですか?」
「くそっ、魔力供給はまだか! ……ヒューレル、シェイド、艦載の魔導砲に直接魔力を注いで迎撃してくれ。人力の魔力供給だと実弾しか撃てない。威力が落ちるから念入りに撃てよ。僕は魔力供給再開後に、ウィンチの引き上げとミスティの回収をする」
「わかりました」
ヒューレルとシェイドはブリッジを飛び出していく。
トリスタンは永遠に感じる数秒をやり過ごし、なんとかエンジンを再起動させる。
ほとんどのフロートギアはヒューレルとシェイドが撃ち落とし、トリスタンの操艦で直接の攻撃はかろうじて避けたが、傍で爆発した衝撃で艦全体が何度か大きく揺れた。
ハッチの外で、ミスティを繋いだワイヤーがギチギチと軋む音を立てている。
艦内の照明が明るく輝き、ウィンチが軽快なモーター音を立てて巻き上がった。
「ヒューレル、戻ってくれ!」
「了解!」
駆け戻ったヒューレルと入れ替わり、戻ったシェイドと共にトリスタンはハッチに駆け寄った。
──間に合ったかっ?
だが、排水を終えたハッチの中には、なにもない。
「ワイヤーが切れてます! さっきの爆発の余波じゃないですか?」
「くそっ! レーダーが使えないんじゃ、探しようがない」
トリスタンは悔しげに、壁を叩く。
「え……でも死なないんすよね?」
ヒューレルが、シェイドに振り返る。
だが、シェイドは目線を落とし、首を横に振った。
「ミスティは死なないんじゃない。……死んだあと、しばらくすると蘇るんだ……」
「えっ……じゃ、それってマズくないっすか……?」
シェイドの言葉に、艦内の空気が一瞬、凍りつく。
トリスタンは、感情を押し殺すように命令を続けた。
「ヒューレル、敵の動きは?」
「えっ、あっ、……まだ追ってきます」
「まずはそっちを片付けよう。フロートギアを振り切ったら、ミスティの捜索をする」
「了解」
操縦席に戻ったトリスタンは、悔しさに唇を噛んだ。
暗い海底が、彼の無力さを嘲るようだった。
海水が注入されてくる間、通信機にトリスタンの声が響く。
「聞こえるか?」
「ああ、聞こえている」
「今、ヒューレルと計算してみたんだが、現在の水深と沈下速度だと、耐久時間は最大で15分だ。注水が満水になった時点からカウントダウンを始める」
「グリン」
装備に緩みがないかの最終確認をして、ミスティは静かに水が満ちるのを待った。
「グリンって、なんだ?」
「煌環騎士団の合言葉……ですね。 "チェック" が準備はいいか? で、 "グリン" はすぐ行けるとか、了解したとかって意味です。駄目な場合は "レッド" ですね」
トリスタンの疑問に、シェイドが答えた。
「現状は充分、レッドだろ」
ため息と共に、トリスタンが言った。
満水を伝えるブザーと同時に、ヒューレルがカウントダウンを始める。
外部ハッチが開き、ミスティは艦の外に出た。
ズシンと、全身に圧が掛かった。
だが、ガルディア特製というだけあって、アクアラングはその圧を防いでくれている。
ミスティは額に付けたライトを頼りに、船体後部へと移動した。
事前にトリスタンに見せてもらった図面通り、後部にハイドロジェットの噴出孔があり、そこにフロートギアの破片が深々と突き刺さっている。
腰に付けたベルトから道具を取り出し、ミスティはそれを取り除こうとした。
「あと、10分」
ヒューレルのカウントダウンが聞こえる。
破片はガッチリと食い込んでいて、自分の身体は鉛を全身に巻きつけられているかのように重い。
焦れば手元が狂う。
手袋越しだが、深海の冷たい水が手をかじかませる。
鈍った指先が道具を取り落とし、レンチは暗い水底へと沈んでいった。
「あと、5分」
ミスティは両手を伸ばし、食い込んだ破片を掴んで引く。
破片が少しだけ動いた。
それに勢いを得て、両手に力を込め、足を船体に付けて踏ん張る形で、全身の力を込める。
ぐいと引くと、破片は少しの抵抗を見せたあとに、噴出孔から外れた。
「……取れた。戻る」
無線越しのミスティの声に、艦内の空気がほっと緩んだ。
「残り1分です。ハッチは開いてますが、ワイヤーを引きますか?」
「頼む」
次の瞬間、レヴィアタン号の直ぐそばで爆発が起きた。
「ヒューレル、報告を」
「レーダー、未だ効きません」
「トリスタン! 敵襲だ! フロートギアが迫ってるぞ!」
船外で目視が出来たミスティは、状況を伝える。
「急いでハッチに戻れ! 今の攻撃で魔力供給路の一部が壊れた。迂回路の構築に1分ほど掛かるから、それまでウィンチの巻き上げが出来ない」
「わかった」
緩やかに沈下する船体、容赦のない攻撃をしてくるフロートギア、その中をかいくぐり、ミスティはジリジリとハッチに向かった。
だが、わずかに進んだところで──それまで確かだった手応えが、急に遠のき、手足が重く感じる。
いや……、そもそも手足の存在が曖昧だ。
まるで、自分の手足が "他人のもの" のように思える。
──まずい、窒素酔いだ……。
このタイミングで意識を失うのは、トリスタンたちの足を引く。
それは分かっているが、視界はどんどん暗くなり始めていた。
「ミスティ、どうしたっ?」
トリスタンの通信に、窒素酔いを起こしたことを伝えた……つもりだったが。
呂律の回らない、なにか音を出しただけだったかもしれない。
「おいっ、ミスティ! 返事しろ!」
「艦長、残り時間は切れてます。窒素酔いじゃないですか?」
「くそっ、魔力供給はまだか! ……ヒューレル、シェイド、艦載の魔導砲に直接魔力を注いで迎撃してくれ。人力の魔力供給だと実弾しか撃てない。威力が落ちるから念入りに撃てよ。僕は魔力供給再開後に、ウィンチの引き上げとミスティの回収をする」
「わかりました」
ヒューレルとシェイドはブリッジを飛び出していく。
トリスタンは永遠に感じる数秒をやり過ごし、なんとかエンジンを再起動させる。
ほとんどのフロートギアはヒューレルとシェイドが撃ち落とし、トリスタンの操艦で直接の攻撃はかろうじて避けたが、傍で爆発した衝撃で艦全体が何度か大きく揺れた。
ハッチの外で、ミスティを繋いだワイヤーがギチギチと軋む音を立てている。
艦内の照明が明るく輝き、ウィンチが軽快なモーター音を立てて巻き上がった。
「ヒューレル、戻ってくれ!」
「了解!」
駆け戻ったヒューレルと入れ替わり、戻ったシェイドと共にトリスタンはハッチに駆け寄った。
──間に合ったかっ?
だが、排水を終えたハッチの中には、なにもない。
「ワイヤーが切れてます! さっきの爆発の余波じゃないですか?」
「くそっ! レーダーが使えないんじゃ、探しようがない」
トリスタンは悔しげに、壁を叩く。
「え……でも死なないんすよね?」
ヒューレルが、シェイドに振り返る。
だが、シェイドは目線を落とし、首を横に振った。
「ミスティは死なないんじゃない。……死んだあと、しばらくすると蘇るんだ……」
「えっ……じゃ、それってマズくないっすか……?」
シェイドの言葉に、艦内の空気が一瞬、凍りつく。
トリスタンは、感情を押し殺すように命令を続けた。
「ヒューレル、敵の動きは?」
「えっ、あっ、……まだ追ってきます」
「まずはそっちを片付けよう。フロートギアを振り切ったら、ミスティの捜索をする」
「了解」
操縦席に戻ったトリスタンは、悔しさに唇を噛んだ。
暗い海底が、彼の無力さを嘲るようだった。
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