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8.ヴァルハラ
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波のうねりと風の音が聞こえていたように思ったが、しばらくするとそれは断続的に聞こえる機械音と、人の声に変わった。
自分のすぐそばで誰かが話しているらしい。
目はまだ開かないが、声だけが耳に入ってくる。
「これは……ひどいな!」
「この傷は、サメですね」
「こちらブリュンヒルデ。帰還途中で遭難者を発見して、現在救助活動中です。……ちょっと待ってください。フィル、遭難者の状況は?」
「左腕は肘から先を、左足はほぼ欠損している。どうやら漂流中にサメに食われたらしい」
「エルド、遭難者は存命と伝えてください」
声は三人、一人はどこかに連絡を入れているらしく、少し離れたところで喋っている。
「……そうです。巡回中に微弱な魔導通信で遭難信号をキャッチ。潜水艇と思われますが、信号を発したらしき海域は、魔力を吸収する物質で汚染されています。捜索を諦めてヴァルハラへの帰還中、漂流者を発見したところです」
「ミーミル、これで本当に息があるのか?」
「うん。実に驚くべきことだが、生きている」
「足をそこまでやられていたら、人間なら普通はショック死するだろう?」
「おい! おい、きみ。聞こえるか?」
呼びかけられているのが自分だと理解は出来たが、ミスティは返事が出来なかった。
答えようとしたが、声が出なかったからだ。
「不思議だな、サメにやられているにしては出血が少ない……?」
「これだけの怪我じゃ、どう手当すりゃいいんだよ……」
「おや、おや、おや! フィル、これを見たまえ」
「どうした、ミーミル」
「傷がすでに盛り上がっている。驚いたな!」
重く、遠くに感じていた意識が晴れてきて、ミスティはゆっくりとまぶたを開く。
煌々と照明が輝く、天井が見えた。
それから、ぼやけた視界に人の顔が三つ。
「きみ、僕がわかるかい? 名前は?」
「僕は……」
言いかけて、自分が暁闇の騎士であることを名乗るのが適切なのか? という考えが脳裏をよぎった。
しかしそこで個人名を名乗ろうとして、咄嗟にミスティはそれを思い出せなかった。
頭のどこかに霞がかかったようで、確かに存在していたはずの名前が、するりと指の間から零れ落ちる。
「声が出ないのかもしれないな……」
覗き込んでいる分厚い眼鏡の小男が言った。
どうやら、彼が "ミーミル" らしい。
彼らの背後に見えるのは、見慣れぬ文字と見慣れぬ素材で出来た、飛空艇の壁のようだった。
「うーん、これは回復力が異常に早いどころではないな」
「まだなにかあったのか?」
「エルド、フィル、見たまえ。腕も足も再生してきている……」
「まさかっ! 俺達森人だって、手足を失ったら元には戻らないぞ」
「いや……ちょっと待って。そういえば、聞いたことがある……」
「なにか、心当たりが?」
「噂程度の話は聞こえていたけど……、まさか実在していたとはね。正直、眉唾物の話だと思っていたから、驚きだ。エルド、フィル、──この人は不死身の英雄ミステリーナイトだ」
「人間と魔人の戦争終結に寄与した英雄が、不死身のような強さを持っている……って噂なら聞いたが。こんなのありえないだろう!」
「では今、自分たちが見ているこの状況を、どう説明する?」
完全に意識を取り戻したミスティは、ようやく出せた声で言った。
「僕は……ミステリーナイトで間違いない。それで、きみたちは誰なんだ?」
長く海面を漂い、手足をサメに食いちぎられた人間が、冷静に口を利いたことにエルドとフィルは驚いたが。
知識と判断に間違いがなかったことに満足したように、ミーミルは頷いた。
「僕たちは森人だ。ヴァルハラとか野人と言ったほうが、きみの知ってる名称かもね。ところできみが、こんな状態で海を漂っていた理由を、聞かせてもらえるかい?」
自分のすぐそばで誰かが話しているらしい。
目はまだ開かないが、声だけが耳に入ってくる。
「これは……ひどいな!」
「この傷は、サメですね」
「こちらブリュンヒルデ。帰還途中で遭難者を発見して、現在救助活動中です。……ちょっと待ってください。フィル、遭難者の状況は?」
「左腕は肘から先を、左足はほぼ欠損している。どうやら漂流中にサメに食われたらしい」
「エルド、遭難者は存命と伝えてください」
声は三人、一人はどこかに連絡を入れているらしく、少し離れたところで喋っている。
「……そうです。巡回中に微弱な魔導通信で遭難信号をキャッチ。潜水艇と思われますが、信号を発したらしき海域は、魔力を吸収する物質で汚染されています。捜索を諦めてヴァルハラへの帰還中、漂流者を発見したところです」
「ミーミル、これで本当に息があるのか?」
「うん。実に驚くべきことだが、生きている」
「足をそこまでやられていたら、人間なら普通はショック死するだろう?」
「おい! おい、きみ。聞こえるか?」
呼びかけられているのが自分だと理解は出来たが、ミスティは返事が出来なかった。
答えようとしたが、声が出なかったからだ。
「不思議だな、サメにやられているにしては出血が少ない……?」
「これだけの怪我じゃ、どう手当すりゃいいんだよ……」
「おや、おや、おや! フィル、これを見たまえ」
「どうした、ミーミル」
「傷がすでに盛り上がっている。驚いたな!」
重く、遠くに感じていた意識が晴れてきて、ミスティはゆっくりとまぶたを開く。
煌々と照明が輝く、天井が見えた。
それから、ぼやけた視界に人の顔が三つ。
「きみ、僕がわかるかい? 名前は?」
「僕は……」
言いかけて、自分が暁闇の騎士であることを名乗るのが適切なのか? という考えが脳裏をよぎった。
しかしそこで個人名を名乗ろうとして、咄嗟にミスティはそれを思い出せなかった。
頭のどこかに霞がかかったようで、確かに存在していたはずの名前が、するりと指の間から零れ落ちる。
「声が出ないのかもしれないな……」
覗き込んでいる分厚い眼鏡の小男が言った。
どうやら、彼が "ミーミル" らしい。
彼らの背後に見えるのは、見慣れぬ文字と見慣れぬ素材で出来た、飛空艇の壁のようだった。
「うーん、これは回復力が異常に早いどころではないな」
「まだなにかあったのか?」
「エルド、フィル、見たまえ。腕も足も再生してきている……」
「まさかっ! 俺達森人だって、手足を失ったら元には戻らないぞ」
「いや……ちょっと待って。そういえば、聞いたことがある……」
「なにか、心当たりが?」
「噂程度の話は聞こえていたけど……、まさか実在していたとはね。正直、眉唾物の話だと思っていたから、驚きだ。エルド、フィル、──この人は不死身の英雄ミステリーナイトだ」
「人間と魔人の戦争終結に寄与した英雄が、不死身のような強さを持っている……って噂なら聞いたが。こんなのありえないだろう!」
「では今、自分たちが見ているこの状況を、どう説明する?」
完全に意識を取り戻したミスティは、ようやく出せた声で言った。
「僕は……ミステリーナイトで間違いない。それで、きみたちは誰なんだ?」
長く海面を漂い、手足をサメに食いちぎられた人間が、冷静に口を利いたことにエルドとフィルは驚いたが。
知識と判断に間違いがなかったことに満足したように、ミーミルは頷いた。
「僕たちは森人だ。ヴァルハラとか野人と言ったほうが、きみの知ってる名称かもね。ところできみが、こんな状態で海を漂っていた理由を、聞かせてもらえるかい?」
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