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Scene.3
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「ホントに良いの? 今ならまだ返金可だよ?」
精算を済ませたというのに、ヒトの好い新田店長はまだそんな事を言っている。
「いいんです。他の買って後悔するより、これ買って後悔した方が自分で自分に納得出来るから」
「そお? まぁ、俺は厄介払いが出来るからそれに越したコトはないけど」
店の奥にあるライティング用のマリオネットライター室に向かう間も、新田店長はずっとそんな事を言っている。
「じゃあ、そこの椅子に座らせて」
ニュートラルの半スリープ状態になっている柊一は、手を引くとひかれた方向へトコトコと付いてくる。
取った手の感触はやっぱり筋張っていてゴツイ感触がしたけど、ほんのりと温かい体温とひかれるままに付いてくる感じが奇妙に「カワイイ」ような気がした。
俺が指し示された場所に柊一を座らせると、新田店長は上からぶら下がっているいくつかのコードを柊一の頭に手際良く装着する。
「なんか、痛々しいッスね…」
「ああ、うん、そうだねぇ。いきなり刺すってのは確かにどうかと思うけど。結局マリオネットのロボっぽい部分って頭の中のチップだけだから、頭にプラグの差し込み口作るワケにもいかないからねぇ…。じゃあ、ハルカ君はそっち側の正面に座って」
指示された椅子に腰を降ろすと、柊一と真っ直ぐに向かい合う格好になった。
新田店長は柊一の頭に必要なコードを装着し終わると、部屋を出て行ってしまう。
マリオネットのメモリカードにオーナーをライティングする…と言うのは、簡単に言えばヒヨコが生まれた時に初めて見たモノを母親だと思いこむのと、基本的な部分では同じコトだと新田店長は言う。
しかし実際にメモリーカードに記録をするのは、ヒヨコみたいに目を開ければ済むという簡単な問題ではなく、専用のリーダライターが必要なのだ。
人工知能のメモリーカードにアクセスをして、向かい側に座らせたオーナーの顔(もしくは写真)をマリオネットに見せながら必要な情報を書き込むのである。
だからその間、別の人間の顔を見せる訳にはいかない。
ファミリーで使うと言うなら家族全員の顔を覚えさせる場合はあるけど、そういうのは例外であって、基本的には「使う人間」とマリオネットだけを向かい合わせ、リーダライターの操作をする人間(この場合は新田店長)は別室の操作室で書き込み作業を行うのだ。
「じゃあ、ハルカ君、始めるよ~」
壁に取り付けられているスピーカーから新田店長の声がして、さほどもしないうちに、向かい側の柊一に変化が現れる。
長い睫毛が揺れて、緩やかに瞼が開いたのだ。
それは「覚醒した」ワケではなくて、単に視覚に俺の顔を映す為だけに動作として「目を開けた」に過ぎず、双眸は俺を見てはいるけれど意識しているワケじゃない。
と解っているのだけど………。
なんだか、無駄にどきまぎしてしまう。
だいたいマリオネットの瞳というのは人間と容易に区別がつけやすいように、虹彩部分がCG処理された美少女みたいになっているモノで。
その「キラキラな瞳」は、ただ無表情にジイッと俺を映しているだけなんだけど。
感情がないはずのその視線に、俺の心臓は無駄に心拍数を上げているのだ。
「ゴメン、やっぱりダメだよ、ハルカ君」
スピーカーからいきなり新田店長の声がして、俺は無意味にびくうっ! と椅子の上で飛び上がる。
バタバタ慌ただしい音がした後、部屋の扉が開いて新田店長が顔を出した。
「いろいろやってみたけど、やっぱり弾かれちゃったよ」
柊一は座らせた時と同じように目を閉じているだけだったけど、書き込みに失敗したという新田店長の言葉に、まるで俺が買った事を柊一に拒絶されたみたいだなぁ…とか思った。
しかしその反面で、簡単にはなびいてくれないは孤高のプライドみたいな気がして、この買い物に対する後悔は全く感じなかった。
手を取って立ち上がらせると、柊一はやっぱり先刻と同じように素直に付いてくる。
「ああ、早かったなぁ」
新田店長に店番を押しつけられたマツヲさんは、すっかり飽き飽きしているんじゃないかというこちらの危惧など吹っ飛ばすような余裕の顔で俺達を出迎えた。
「あ! マツヲ君なにやってんだよ!」
マツヲさんの周りを数人のマリオネットが取り巻いているのを見て、新田店長は思わず叫ぶ。
「ええ~? 大丈夫大丈夫! ちゃんとテストモードで動作させてるから~」
「全くもう、こんなところ見たらノリカチャンが泣くよ?」
ノリカチャンとは、マツヲさんが所有しているマリオネットの名前だ。
量産品だが最新のモデルで、マツヲさん自慢のカワイコチャン、なんである。
販売時の名前はシンシアだかシルビアだかのガイジン的な物だったが、黒髪ロングの美人タイプなので日本風の名前がイイと言う理由と、マツヲさんが藤原紀香のファンだったコトから「ノリカチャン」になったらしい。
「やっだなぁ! マリオネットが泣くワケ無いでしょ? そりゃ形ばかりはヤキモチのひとつも焼いてくれるけど、それだってプログラムパターンの一つじゃないの! ね~え、マリンちゃん?」
「もちろんですわ、ご主人様」
マツヲさんの肩を揉んでいたギャルゲーのキャラクターみたいなマリオネットは、まるっきりコッチの会話の流れなんて解ってないパターンな返答をしただけだった。
「テストモードつったって、起動した記憶は残るんだから~。店頭の現品限りは買っちゃダメって昔教えてあげたでしょ~?」
「そりゃ、店頭でこ~んな風にされてたら……」
「ああ、いやん」
マツヲさんが手を伸ばして後ろに立っているマリオネットの乳房を無造作に揉むと、彼女(?)は恥ずかしげに身をくねらせたが、特に抵抗らしい抵抗をしない。
「…すれちゃうに決まってンじゃん!」
「解ってるならやるな~!」
新田店長の叫びに、マツヲさんは面白がって笑っている。
「んで、ライティング出来たの?」
「やっぱりダメでした」
「それじゃしょうがないじゃん! いっそ、このマリンちゃん買ってくか?」
「よろしくお願いしま~す」
店頭のマリオネットは衣装コミで売られた素体を除けば、ほとんど半裸に近い格好をしている。
それこそ「パラオを巻いただけです!」みたいな彼女(?)が、バストに対して「とりあえず乳首だけは隠してみました」的なビキニの乳房を両腕でグッと真ん中に寄せながら、あからさまに谷間をアピールするみたいにしてお辞儀をする様は、確かに可愛いけど。
これって、バーとかクラブに遊びに行って、フロアレディに愛想をまかれているのまったく同じ気もする。
「ライティング出来ないと、部屋の掃除して貰えないですか?」
「ん~ん、どうかなぁ? ライティングに失敗したマリオネットを起動させた話そのものもあんまり聞かないからねェ……」
「そうッスか」
「な? それはもう店長に処分頼んじゃって、マリンちゃん買っていこうぜ」
「もしかして、マツヲさんが欲しいだけじゃないですか?」
「オマエなぁ、ウチにノリカチャンというカワイコチャンがいるのにマリンちゃんを買って帰るワケには……」
「ええ~、マツヲ様ひどいデス~」
両手を握って口元に添え、涙目でマツヲさんを見上げ(つつ、おっぱいを寄せてさりげなく谷間をアピールして)るマリンちゃんに、マツヲさんはググッと来てしまったらしい。
「店長、マリンちゃんちょうだい!」
「毎度あり~。マリンちゃんはオマケ付きのお買い得品だよ」
「オマケの衣装付き? でもマリンちゃん、服なんか着てないじゃん」
「服じゃない。ほら、この『サム』がオマケだ!」
新田店長が出してきたのは海パン姿で筋肉ムキムキのMモデルのマリオネットだった。
精算を済ませたというのに、ヒトの好い新田店長はまだそんな事を言っている。
「いいんです。他の買って後悔するより、これ買って後悔した方が自分で自分に納得出来るから」
「そお? まぁ、俺は厄介払いが出来るからそれに越したコトはないけど」
店の奥にあるライティング用のマリオネットライター室に向かう間も、新田店長はずっとそんな事を言っている。
「じゃあ、そこの椅子に座らせて」
ニュートラルの半スリープ状態になっている柊一は、手を引くとひかれた方向へトコトコと付いてくる。
取った手の感触はやっぱり筋張っていてゴツイ感触がしたけど、ほんのりと温かい体温とひかれるままに付いてくる感じが奇妙に「カワイイ」ような気がした。
俺が指し示された場所に柊一を座らせると、新田店長は上からぶら下がっているいくつかのコードを柊一の頭に手際良く装着する。
「なんか、痛々しいッスね…」
「ああ、うん、そうだねぇ。いきなり刺すってのは確かにどうかと思うけど。結局マリオネットのロボっぽい部分って頭の中のチップだけだから、頭にプラグの差し込み口作るワケにもいかないからねぇ…。じゃあ、ハルカ君はそっち側の正面に座って」
指示された椅子に腰を降ろすと、柊一と真っ直ぐに向かい合う格好になった。
新田店長は柊一の頭に必要なコードを装着し終わると、部屋を出て行ってしまう。
マリオネットのメモリカードにオーナーをライティングする…と言うのは、簡単に言えばヒヨコが生まれた時に初めて見たモノを母親だと思いこむのと、基本的な部分では同じコトだと新田店長は言う。
しかし実際にメモリーカードに記録をするのは、ヒヨコみたいに目を開ければ済むという簡単な問題ではなく、専用のリーダライターが必要なのだ。
人工知能のメモリーカードにアクセスをして、向かい側に座らせたオーナーの顔(もしくは写真)をマリオネットに見せながら必要な情報を書き込むのである。
だからその間、別の人間の顔を見せる訳にはいかない。
ファミリーで使うと言うなら家族全員の顔を覚えさせる場合はあるけど、そういうのは例外であって、基本的には「使う人間」とマリオネットだけを向かい合わせ、リーダライターの操作をする人間(この場合は新田店長)は別室の操作室で書き込み作業を行うのだ。
「じゃあ、ハルカ君、始めるよ~」
壁に取り付けられているスピーカーから新田店長の声がして、さほどもしないうちに、向かい側の柊一に変化が現れる。
長い睫毛が揺れて、緩やかに瞼が開いたのだ。
それは「覚醒した」ワケではなくて、単に視覚に俺の顔を映す為だけに動作として「目を開けた」に過ぎず、双眸は俺を見てはいるけれど意識しているワケじゃない。
と解っているのだけど………。
なんだか、無駄にどきまぎしてしまう。
だいたいマリオネットの瞳というのは人間と容易に区別がつけやすいように、虹彩部分がCG処理された美少女みたいになっているモノで。
その「キラキラな瞳」は、ただ無表情にジイッと俺を映しているだけなんだけど。
感情がないはずのその視線に、俺の心臓は無駄に心拍数を上げているのだ。
「ゴメン、やっぱりダメだよ、ハルカ君」
スピーカーからいきなり新田店長の声がして、俺は無意味にびくうっ! と椅子の上で飛び上がる。
バタバタ慌ただしい音がした後、部屋の扉が開いて新田店長が顔を出した。
「いろいろやってみたけど、やっぱり弾かれちゃったよ」
柊一は座らせた時と同じように目を閉じているだけだったけど、書き込みに失敗したという新田店長の言葉に、まるで俺が買った事を柊一に拒絶されたみたいだなぁ…とか思った。
しかしその反面で、簡単にはなびいてくれないは孤高のプライドみたいな気がして、この買い物に対する後悔は全く感じなかった。
手を取って立ち上がらせると、柊一はやっぱり先刻と同じように素直に付いてくる。
「ああ、早かったなぁ」
新田店長に店番を押しつけられたマツヲさんは、すっかり飽き飽きしているんじゃないかというこちらの危惧など吹っ飛ばすような余裕の顔で俺達を出迎えた。
「あ! マツヲ君なにやってんだよ!」
マツヲさんの周りを数人のマリオネットが取り巻いているのを見て、新田店長は思わず叫ぶ。
「ええ~? 大丈夫大丈夫! ちゃんとテストモードで動作させてるから~」
「全くもう、こんなところ見たらノリカチャンが泣くよ?」
ノリカチャンとは、マツヲさんが所有しているマリオネットの名前だ。
量産品だが最新のモデルで、マツヲさん自慢のカワイコチャン、なんである。
販売時の名前はシンシアだかシルビアだかのガイジン的な物だったが、黒髪ロングの美人タイプなので日本風の名前がイイと言う理由と、マツヲさんが藤原紀香のファンだったコトから「ノリカチャン」になったらしい。
「やっだなぁ! マリオネットが泣くワケ無いでしょ? そりゃ形ばかりはヤキモチのひとつも焼いてくれるけど、それだってプログラムパターンの一つじゃないの! ね~え、マリンちゃん?」
「もちろんですわ、ご主人様」
マツヲさんの肩を揉んでいたギャルゲーのキャラクターみたいなマリオネットは、まるっきりコッチの会話の流れなんて解ってないパターンな返答をしただけだった。
「テストモードつったって、起動した記憶は残るんだから~。店頭の現品限りは買っちゃダメって昔教えてあげたでしょ~?」
「そりゃ、店頭でこ~んな風にされてたら……」
「ああ、いやん」
マツヲさんが手を伸ばして後ろに立っているマリオネットの乳房を無造作に揉むと、彼女(?)は恥ずかしげに身をくねらせたが、特に抵抗らしい抵抗をしない。
「…すれちゃうに決まってンじゃん!」
「解ってるならやるな~!」
新田店長の叫びに、マツヲさんは面白がって笑っている。
「んで、ライティング出来たの?」
「やっぱりダメでした」
「それじゃしょうがないじゃん! いっそ、このマリンちゃん買ってくか?」
「よろしくお願いしま~す」
店頭のマリオネットは衣装コミで売られた素体を除けば、ほとんど半裸に近い格好をしている。
それこそ「パラオを巻いただけです!」みたいな彼女(?)が、バストに対して「とりあえず乳首だけは隠してみました」的なビキニの乳房を両腕でグッと真ん中に寄せながら、あからさまに谷間をアピールするみたいにしてお辞儀をする様は、確かに可愛いけど。
これって、バーとかクラブに遊びに行って、フロアレディに愛想をまかれているのまったく同じ気もする。
「ライティング出来ないと、部屋の掃除して貰えないですか?」
「ん~ん、どうかなぁ? ライティングに失敗したマリオネットを起動させた話そのものもあんまり聞かないからねェ……」
「そうッスか」
「な? それはもう店長に処分頼んじゃって、マリンちゃん買っていこうぜ」
「もしかして、マツヲさんが欲しいだけじゃないですか?」
「オマエなぁ、ウチにノリカチャンというカワイコチャンがいるのにマリンちゃんを買って帰るワケには……」
「ええ~、マツヲ様ひどいデス~」
両手を握って口元に添え、涙目でマツヲさんを見上げ(つつ、おっぱいを寄せてさりげなく谷間をアピールして)るマリンちゃんに、マツヲさんはググッと来てしまったらしい。
「店長、マリンちゃんちょうだい!」
「毎度あり~。マリンちゃんはオマケ付きのお買い得品だよ」
「オマケの衣装付き? でもマリンちゃん、服なんか着てないじゃん」
「服じゃない。ほら、この『サム』がオマケだ!」
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