Marionette -マルチメイド編-

琉斗六

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Scene.6

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 ソファの上に二人分のスペースを作って待っていると、思いっきり不審な顔で服を身につけた柊一が戻ってきた。

「ココどうぞ」

 少し距離を置いた場所に座る場所を作っておいたので、柊一は割と素直にそこに腰を降ろす。
 そして、やっぱり思いっきり不審な顔のまま、俺をジイッと上目遣いで睨んでる。

「落ち着いた?」
「オマエ、誰だ?」
「だから、新オーナー?」
「俺のオーナーはアイツだけだ!」
「だって、名前も顔も覚えてないじゃん」

 ものすごく不満そうに、柊一は口を噤む。

「そりゃ、1万円なんて超格安価格だったし、オーナーライティングは拒絶されちゃったけど、俺はちゃんと正規の手続きを踏んでオーナーになってるし、ご覧の通り登録証には俺の名前が書いてあるンだから、法的には間違いなく俺が現在のオーナーなの」
「でも……っ!」
「だって、俺が「じゃあ、元の持ち主の所に帰ってイイよ」つったら、どうするの?」

 柊一は、目をまん丸にして俺の顔を見た。

「そう……言うのか?」
「言われたら、帰ンの?」
「戻りたい………けど………」
「どこに行けばいいのかも、判ンないんでしょ~?」

 図星を刺されて、柊一は傷ついたみたいな顔をする。

「返品するのか?」
「なんで、そんなコト訊くのさ?」
「………役に立たないマリオネットなんて、返品されるだろう?」
「されたら、どうなると思う?」
「廃棄…されるだろうな」
「ツブされたいの?」

 その問いに、柊一は返事をしなかった。
 これまた「アシモフのロボット三原則」による、マリオネットの思考の規制の所為だろうが、マリオネットは自殺が出来ない。
 もっとも柊一の場合、俺の横っ面をひっぱたいたくらいだから、それが適用されているのかどうかはアヤシイもんだけど。
 とにかく「己の生命を守らなければならない」という第3条により、自分で自分の機能を停止させる事が出来ないから、どうしてもそうしたかったら人間に処分して貰う他に術はないのだ。
 柊一の様子からすると「顔も名前も判らない元オーナー」に対する執着が、半端なレベルじゃないみたいだが、ホントに「自殺」にほぼ等しい「廃棄処分」を望んでいるのか? と言えば、そんなコトはないんだろう。

「元オーナーの所に戻りたいんだ?」

 柊一は、俯いたままだったけど小さくコクンと頷いた。

「まぁ、どっちにしろ俺には返品する気なんて無いけどね」
「なぜ?」
「俺は、ダッチワイフが欲しくてマリオネットを買ったワケじゃないから」

 あそこまで「ヤることヤッちゃった後」でこんなコト言っても、なんの説得力もない。
 案の定、柊一はますます不審な顔になってる。

「嘘くさく聞こえるかもだけど、マジで、部屋の片付けしてもらうのが目的だったんだよ」

 俺の返事に、室内を見回した柊一はとても戸惑った顔をして見せた。
 そりゃそうだろう。俺の行動は説得力ナッシングだったが、この部屋の有様は説得力のカタマリだ。

「自分じゃもうどうしようもないし、どうせ片付けてもすぐ散らかしちゃうのは目に見えてるから。俺が散らかした物を端から片付けて、俺が必要な物を言った時にすぐ出してくれるヤツが必要なんだよな、早急に」
「じゃあなんであんなコトしたんだ!」
「可愛かったから…つい、さ」

 返された答えに、柊一は絶句して。
 それから急に、顔を赤らめた。

「どっちにしても、元々ジャンク品扱いで苦情返品お断りって言われてるし。俺が自分で処分するには、金がかかりすぎるし。もし柊一…サン、が部屋の掃除が出来るって言うなら、ココにいてもらった方が、俺は都合が良い…んですけど?」

 どんどん下手に出ている自分が、なんだか妙だナ~と自分でも思いつつも、あまりにも人間的な柊一を前に、後ろめたさが増す一方で、結局俺はマリオネット相手に「敬称」付きで話をする始末になっている。
 そんな俺を、柊一は困り果てたような顔でジイッと見た。

「…………セックスはしたくない」
「はい?」

 唐突な柊一の言葉に、俺はマヌケな声を出す。
 どうやら柊一は、俺の変な態度に戸惑っていた訳でもなんでもなくて、俺の申し出を逡巡していただけだったらしい。

「オマエは、俺を買ったのかもしれないケド。俺はオマエをオーナーだって思えないから、抱かれるのはイヤだ」
「あ~、さいですか」

 マリオネットって、こんなにハッキリした自我があるモンなのか?
 俺は一つ溜息を吐いてから、両手を上げて頷いて見せた。

「も~、しません」
「なら、ココにいてもイイ」
「いてもイイときたね……」

 呆れて苦笑いを浮かべる俺に、柊一は困ったような顔で頬を赤らめた。

「まぁ、いいや」

 実のところ、俺はあんまり物事を深く考えたりとかするのは嫌いだから、そういう意味では割と結果オーライな人間なんである。

「あ~、腹減った。メシにしよ」

 俺はソファから立ち上がると、キッチンに向かう。
 気付けばもう陽は随分傾いていて、部屋の中は夕焼けのオレンジに染まっていた。
 冷蔵庫を開けてみると、自分でも呆れるほど物が入ってない。
 そういえばここ数日はスタジオに缶詰になったり、帰りが深夜早朝だったりでほとんど買い物らしい買い物なんてしていなかった。
 芽が出ちゃってるジャガイモに、賞味期限ギリギリのタマゴ、それにナゼか缶入りコンビーフが1コ、ひえひえになっているだけだ。

「オムレツでも作るか?」
「は、い?」

 振り返ると、俺の後を付いてきたらしい柊一が真後ろに立っていた。

「ジャガイモで?」
「スペイン風」
「へえ~。どうやるの?」

 俺が立ち上がって場所を空けると、柊一は材料を手に流し台がくっついているガスコンロに向かう。
 ジャガイモの皮を剥くのも、タマゴの殻を割ってかき混ぜるのも、実に手際良く。
 見る間に俺の前には湯気の上がったオムレツが、皿に載って出てきた。

「わ、スッゲェ美味そう!」

 冷蔵庫から缶ビールを出して、俺はふと手を止める。

「あのさぁ、柊一サンってメシ食えるの?」
「いいや。固形物を租借して消化する方がエネルギーを浪費するから、液状とかペースト状の物以外は無理だ」
「缶ビール、飲む?」
「アルコールはダメだ」
「ダメ?」
「良くない」

 そう言った後は、説明もない。
 なんか消化吸収出来ない理由でもあんのかね? と訊きたいところだが、この状況じゃ訊きづらい。
 まあ、アルコールをバンバン消費されても困るから、いいけどさ。
 冷蔵庫の中には缶ビールと一緒に野菜ジュースが置いてあった。

「コレOK?」
「問題ない」

 返ってきたのは、簡潔な一言。

「問題ない……ね」

 なんとなく引っかかりを感じて、俺はやや不満気味の声音で復唱しつつ取りだした野菜ジュースの箱を柊一の手に渡す。

「俺、なんか変なコト言ったか?」
「いや、別に。…ただ、そーいう言い方だと『好き』ってワケでもないのかな? …ってさ」
「好きとか嫌いという感覚は無い」
「味、判ンねェの?」
「識別は出来る。傾向をデータベースに記憶して相手の嗜好に合わせる事も出来る。それが出来なければ、オーナーの好みに合わせたメシの支度が出来ないだろ」

 なるほど。

「そこらに座れば?」

 曲がりなりにもココは「ダイニングキッチン」と名乗っている場所だ。
 建造物にホンネとタテマエがあるとしたら、あくまでもタテマエの方の名前になるけれど一応そう呼ぶべき空間になっている。
 ダイニングに相当する場所は「棚?」みたいに狭い、作りつけのテーブル部分のみではあるが、一人モンの俺が一人でメシを食うには不自由しない。
 小さめの液晶薄型テレビが1台と、時々やってきてたむろする、友人達の為に置かれている椅子が4脚ほどある。
 テーブルと同じく作りつけの食器戸棚とか、一体型のガスレンジとか、全体の造りはチャチだが使うのに不便は無い。
 勧めると、柊一はコクンと頷いてから側の椅子に腰を降ろした。
 意外に素直だな?
 つーか、なんか思わず見とれてしまったよ、俺。
 こちらに歩み寄る物腰も椅子に腰を降ろす仕種も、まるで木の上にいた豹がスルンっと降りてきているみたいに、物憂げと言うか優雅というか…大人の色気を纏っている。
 しかし今見せた「頷く」なんて行為は、それとは真逆の子供っぽい仕種以外の何物でもない。
 にも関わらずその真逆の動作に、なんの違和感もなくて、それどころか本気で「可愛い」と思わせるだけの魅力があった。

「なに?」

 見惚れたまま動かない俺を不審に思ったのか、柊一は怪訝な顔を向けてくる。

「いや、別に」

 我に返った俺は、慌てて自分も椅子に座った。

「食事の支度を自分でするのか?」
「ああ? うん。フツーの時は自分でやりますよ~。マズイ物食うのは嫌いだから」
「面倒じゃないのか?」
「嫌いじゃないね」

 答えた俺に、柊一はモノスゴク意外そうな顔をする。

「なにその宇宙人を見るような目は」
「いや、だって・・・は料理なんて面倒だ………って…………」

 言いかけて、それから柊一は何か言葉を探すように目線を彷徨わせた。
 しかしそれもつかの間で、抜け落ちてしまっている単語がなんだったかに気付くと、暗い顔をして押し黙る。
 どんなに考えたって、その単語を思い出す事は柊一には出来ないだろう。
 たぶん、そこに当てはまるべき単語は、前オーナーの名前だろうから。

「面倒と感じるか、美味いモノを食べる方が大事か、そんなのはそれぞれの捉え方だし。俺は料理って結構好きなんだ。何かが出来上がっていく工程って、面白いじゃん。子供(ガキ)の頃に社会見学とか言ってなんかの工場とかに連れて行かれたけど、ベルトコンベアーに乗って流れていった物が、最後に形になってるのがモノスゴク嬉しかったりしたし」

 俺は、ワザと柊一の様子に気付かぬフリをして強引に話を続けると、まるで無神経な様子を装ってテレビをつけた。
 特に見たい番組がある訳でもなく、単に気まずい間があくのがイヤでつけただけのテレビだから、ニュース番組を垂れ流しておく。
 柊一のオムレツはとても旨かったけど、それを褒められるような空気ではなくなってしまった。
 新田店長の言っていた「弊害」ってのとは違うのだろうけれど、確かにこの「強制リセット」ってのはなかなか多くの問題を抱えている。
 そしてそれっきり、会話は途切れてしまった。
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