Marionette -マルチメイド編-

琉斗六

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Scene.9

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 スタジオでは既に顔を出していた相棒のカズヤとマツヲさんが、朝の雑談に勤しんでいた。
 音楽業界は現在底冷えが激しく、各レーベルは「美味しい話」に餓えている。
 インディーズに所属していた俺達の曲がネットと口コミでブレイクした途端、それまでのツレない態度から掌を返したように、メジャーレーベルが契約の話を持ってきた。
 それから先はトントン拍子で話が進み、TVドラマやCMとのタイアップなんかも、会社がせっせと手を回してくれて、今では俺達も「赤丸急上昇」の人気ミュージシャンだったりする。
 まだそれほど名前が売れてなかった頃は、レコーディングと言ったらスタジオのレンタル代がバカにならないという理由から、俺かカズヤのアパートに詰めて、あーでもないこーでもないと散々話し合って音が決まってから、駆け込みの1発録りをしたモノだ。
 現在はゆとりも出来て、1発録りのライブなアルバムを作る事はなくなった。
 特に今回はマツヲさんの個人所有のスタジオを貸して貰っているので、最初のあーでもこーでもの部分から、こうして集まってぐちゃぐちゃやっているのである。

「ハルカ、結局マリオネット買ったんだって?」

 俺が室内に入ると、早速カズヤが話を振ってきた。

「金1万円也…だったけどね」
「でも、動かないんだろ?」
「動くよ」
「なにー! オマエってばあのポンコツを起動させたのかっ!」
「ポンコツじゃありません。ジャンク品とか言われたけど、柊一サンはちゃんと部屋の掃除も食事の支度も買い物もやってくれてます」
「柊一……サン?」

 カズヤに怪訝な顔をされて俺は自分が口を滑らせた事に気付いたが、しかしそんなのは後の祭りだ。

「オマエ、マリオネットに敬称つけンなよ……」
「マツヲさんだって、チャン付けで呼んでるじゃないですか」
「サンとチャンじゃ、根本からして違うし」
「とにかく、ポンコツじゃありませんから」

 俺は自分でもちょっとアレかと思いながらも、より強く「ポンコツ」の部分にチカラを入れて否定した。

「まぁまぁ、ジャンクだろうがポンコツだろうが、1万円がハルカの希望通りに動作してるなら、お買い得でラッキーだったんじゃん」

 既に妻帯しているカズヤは、それを理由にマツヲさんの「マリオネット布教活動」から逃れている。

「なに言ってンだよ、俺はなぁ、ハルカにもっとこ~~ムッチリプリリンなカッワイイFモデルを買えって勧めたんだぞ! なのにあんな洗濯板以下のMモデルなんか買っちゃってさ! マリオネットの良さを一緒に語れる同士になれたのに、ホントもったいねェよなぁ!」
「でも所詮はロボでしょ? 俺はやっぱり、人間のカミサンが良いッス」
「マリオネットはロボじゃないっちゅーの。ロボってのは、0と1でしかモノを考えられない、YESとNOしかない機械だ! でもマリオネットは植物ベースの生命体で、YESでもなくNOでもない、中庸とか曖昧ってのが理解出来るんだぞ! しかも人間に反抗しないように、ちゃんとチップまで埋め込まれてる優れモノなのだ!」
「そーいうのがイヤなんスよ。最初から尽くす事しか知らないロボなんて、つまんないつーか、それってよーするに来る者拒まずじゃないッスか。マツヲさん以外の誰でもAll OKでしょ」
「マリオネットにはインプリンティング機能っちゅーのが備わってて、ご主人様とそれ以外の区別くらいちゃんと付くンだっつーの! カズヤんトコだって、カズヤとカミサンにそれぞれ1体ずつFとMを買って、伴侶に対する不満をぶちまける相棒にすると良いぞ! 一家に一台、一人に1体、マリオネット! それが夫婦円満の秘訣だな!」
「ジョーダンじゃないッスよ、ソレで離婚した連中、世間にいっぱいいるじゃないですか」
「それはマリオネットを恋人やニョウボと混同してるバカ共だからだっつーの! アレは奴隷で、俺が王様、それが大人のアソビゴコロなの! そーだろうハルカ?」
「さあどうでしょう。ウチの柊一サン、インプリンティングを拒絶してますから……」
「そーいえばそーだっけか?」

 今更思い出したみたいに、マツヲさんは自分の額をノックするみたいに叩く。

「それじゃハルカのマリオネットは、ハルカのコトご主人様だと思ってないわけ?」
「うん」
「それでよく買い物だの掃除だのやってるな?」
「話し合いして、決めたから」
「人間様がマリオネットと話し合いなんかするなっつーのっ!」
「だって仕方ないじゃないッスか。ライティングが出来なかったのは、柊一サンの所為じゃないんだし」
「カッー! おまえはなんなんだよ、そこまで下手に出て、挙げ句にサン付けで呼んでたら、マリオネットがつけあがるだけだろうがっ!」

 マリオネットフリークを自称しているマツヲさんは、マリオネットを完全に「物」だと思っている。
 その認識の方が正しいんだろうし、マリオネットにほとんど興味のないカズヤのような人間にしたって、認識方向は同じだろう。
 だから誰が見ても、俺の方が「イカれてる」って言われるのは、解っているんだけど……。
 それでもやっぱり、柊一の事をそんな風に言われるのは心外だった。

「別に俺、ペット代わりにマリオネット買った訳じゃないし…。つーかマツヲさん、サム君はどーしたンすか?」
「サム君って?」

 いきなり飛び出してきた奇妙な名前に、カズヤは俺からマツヲさんに視線を移した。
 もちろんそんな心外極まりない存在を話題にされて、マツヲさんは苦虫をかみ潰したような顔になっている。

「それが、さ……上手いんだよなあ」
「は?」
「サムのヤツ、スッゲーテクニシャンなの」
「ええっ! マツヲさん…まさか…!」

 カズヤはナニカを察知して恐れ戦いているが、俺にはなんとなくオチが見えていた。

「昨日、テレビ見ながらうたた寝してたら、いつの間にかサムが俺の側に忍び寄っていて………」
「そ……それで?」
「そしたら、ここ数年来の肩こりが、すっかりほぐれちゃってさぁ!」
「なぁんだぁ、マッサージのテクニシャンですか!」

 カズヤは安心したように、あははとか笑っている。

「笑い事じゃないんだぞー! 俺は今日、揉み返しが酷くて首が回らないンだからな!」
「良いじゃないですか、借金で回らなくなったワケでなし」
「家に専用マッサージがいるなんて理想的ッスよ」
「冗談じゃねェよ。アイツ、存在そのものが超! 暑ッッッ苦しーのに、マッサージはテクニシャンだわ、料理は美味いわ、変に陽気で馴れ馴れしいわで、つい気を許しそうになっちゃって、マジで困ってンだよ!」
「つーかそれって、ノリカチャンとマリンちゃんを手放してもサム君は手放せなくなりそうな感じッスねー」
「うわ~! やめろぉぉぉ~~~!」

 究極のオッパイ星人(マツヲさん)は、アイデンティティの崩壊を予感してしまっているらしい。

「じゃあそろそろ機材も温まった頃だから、作業始める?」
「そうだな、ぼつぼつ取りかかろうか?」
「オマエらヒトの話聞け~~~!」

 俺とカズヤは、泣き言モードに入ったマツヲさんを無視して作業を始めたのだった。
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