Marionette -マルチメイド編-

琉斗六

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Scene.13

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 夕方、スタジオを出る際に新田店長からのメールが着信してることに気付いたので、俺はその足でショップに向かった。
 マリオネットは「家電」って分類になっているけど、店長のショップは主にL-typeを扱ってるから、営業時間はホビーショップ同様に昼過ぎから深夜だったりする。
 だから俺が到着したときは、店のショーウィンドウにも煌々と灯りが点き、店内はお客さんでにぎわっていた。
 奥のカウンターに顔を出すと、店長がそこで待ちかまえていた男を紹介してきた。

「待ってたんだよ、ハルカ君。こちら、弁護士の白王華サン」
「こんばんわ」

 ニッコリ笑って立ち上がり、俺に右手を差しだしてきた白王華という男は、肩幅の広い逆三角形の体型を誇示するかのように、派手なアルマーニのスーツなど着込んでいる。
 いかにも「やり手の新鋭弁護士です!」って雰囲気を、前面に押し出しているようだ。
 だがそのいかにもなピカピカさが、逆に胡散臭いニオイをふんぷんと撒き散らしている。
 満面の笑顔は選挙カーに乗って己の名前を連呼している立候補者にソックリで、いかにも「営業!」な鉄面皮スマイルは、内心じゃ俺をナメてかかっているのがありありだし、オマケにこの男ときたらイヤにでっかくて、上から見下ろされるのも不愉快だった。
 それでもとりあえず握手をしてやったら、

「ココでは新田サンのオシゴトの邪魔になりますから、お店の奥をお借りして、話はそちらでいたしましょう」

 そういって、ひとりでスタスタと奥に行ってしまう。

「店長、なンすかありゃ?」
「ハルカ君が買ってった、例の素体の件で、どうしても話があるっつって来たんだよ」
「メールには、前オーナーのコトで話があるって書いてありましたよね?」
「だから話があるのは、あのヒトなんだって」

 新田店長も白王華氏がウザいらしく、お荷物を押し付けるように、俺を店の奥にグイッと押し込んで仕切りの扉を閉めてしまった。
 仕方なく部屋に入ると、白王華氏はまるっきり自分の事務所にでもいるような感じで俺にソファを勧めてきた。

「どうぞそちらへ」
「話ってなんでしょう?」
「では、本題に入らせていただきます」

 おもむろにアタッシュケースを開くと、何枚かの書類を取り出してきた。

「話というのは他でもありません、複合型人工知能ヒューマンタイプ・モデル ”Shuichi” の件ですが……こちらの書類のサインはアナタのサインに間違いありませんか?」
「え…、ああ、そうですけど…」
「実は私、依頼を受けてモデル ”Shuichi” を探していまして。依頼人様の素性は控えさせていただきますが、モデル ”Shuichi” が先日こちらのショップから中古品として売却された事を知り、買い戻す為にお伺いしております」
「買い戻し?」
「新田店長に伺ったところ、モデル ”Shuichi” は未ライティングのまま、そちらに販売されてますね?」
「え……、まあね」
「未ライティングのマリオネットではご不便も多い事でしょう。そこで、こちらの引き取り条件ですが……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「なにか問題でも?」
「問題もなにも、俺は売るなんて一言も言ってないだろ?」
「しかしアナタはお買いあげ後に、何度もこちらに問い合わせをされていますね? それはつまり、未ライティングのモデル ”Shuichi” を持て余しているということでしょう?」
「俺がいつ柊一サンを持て余しているなんて言ったよ!」

 勝手に決めつけられてムッとした俺が噛み付くと、白王華は一瞬妙な顔をしたが、それは直ぐ慇懃無礼な薄笑みに隠された。

「オーナーを認識出来ていないマリオネットは、場合によっては非常に危険ですよ」
「別に、突然暴れたりした事なんか、全然ないぜ」
「ライティングが出来ないマリオネットは、複合型人工知能規定の安全基準から外れています。本来なら回収もしくは解体されるべき素体です」
「俺は正規の手続きをして柊一サンを買ったんだから、とやかく言われる筋合いはナイね」

 弁護士殿は殊更大袈裟に溜息を吐いてみせる。

「通常ならばお話する訳にはいかないのですが、仕方ありません。私にモデル ”Shuichi” の回収を依頼してらっしゃるのは、前・オーナー様の奥様なんです」
「奥さん? なんでオーナーが自分で依頼してないんだよ?」
「前・オーナー様は、3ヶ月前に死亡しています」
「………マジ?」
「もちろんです。こんなことを偽っても、何の益もありませんから」

 弁護士殿のこの一言は、柊一にとっては最悪の知らせだったが、コイツはそんな事を知りもせず、知る気もないだろう。

「モデル ”Shuichi” は、御主人の死亡時に手違いで売却されてしまったので、未亡人が私に捜索の依頼をされたのです。アナタの買い取り価格や使用の用途は、既に新田さんから伺いました。でもモデル ”Shuichi” は敢えて一般の中古モデルの金額で下請けさせていただきますし、その上に、代替え品として新品のマリオネット量産型を1台提供をさせていただきます。いかがですか、アナタには非常に好条件の取引と思いますが?」
「断る」

 意固地に言い張る俺を、弁護士殿は蔑むような顔で一瞥した。

「しかしお話した通り、ご遺族が手違いで売却されたものなんですよ? その辺りのお気持ちをお察し頂けませんか? こちらの提示した条件にご不満があるのなら、相応に考慮させていただきますし…」

 弁護士の御為ごかしを聴いていたら、俺はどんどん不愉快になってきた。
 遺族の言い分なんて、クサイ情に訴えてきているが、オーナーが死んだ時に手違いで売却されちゃう程度に、遺族は柊一に無関心だったんじゃないか。
 どう気が変わったのか知らないが、今さら回収したいなんて言われたって柊一を渡す気になれる訳がない。

「条件がどうのって話じゃなく、俺には、柊一サンを売る気はナイんだ」
「どうしても…ですか?」
「遺族の気持ちを察しろっていうなら、俺にも解らなくもないさ。でもマリオネットってのは嗜好品だぜ? 新品と交換すれば済むもんじゃないことぐらい、元・オーナーの家族なら解るんじゃないの?」

 俺の返事に白王華氏はそれまでの薄ら笑いを引っ込めて、あからさまに不愉快な顔を見せた。

「そうですか。では買い取りのお話は改めての機会にさせていただきましょう。それとは別に、モデル ”Shuichi” を来月の15日に、1日借り受けさせて頂きたいのですが?」
「………どういう事ッスか?」
「来月の15日に前・オーナー様の追悼法要が行われるので、その席にモデル ”Shuichi” を出席させたいというご遺族様の意向でして」
「俺も同行出来るワケ?」
「それは無理です。先にも述べました通り、マリオネットの前・オーナーの身元などは一切秘密ということになっておりますから、双方の身元はあかさないのが原則です。私が先ほど依頼主様の素性を明かした事も、この場限りの話として守秘していただきます」
「ああそう、じゃあ柊一サンは貸せないね。確かに破格値で買ったマリオネットだが、持ち逃げされちゃたまったモンじゃないし。アンタを信用しろって言われたって、俺はアンタがホントにちゃんとした弁護士かどうかも判らないんだぜ?」
「そうですか……。では仕方ありません、ご遺族様はモデル ”Shuichi” の出席を強く望まれておりますから、現オーナーがどうしても同行を御希望いう事で、考慮していただきます」

 白王華氏の態度は全くもって失礼極まりないし、こんな弁護士をいけしゃあしゃあと寄越す「ご遺族様」ってのにも、俺はまったく同情出来なくなっていた。
 だが以前のオーナーの身元を知るには、この話を受けるのが一番手っ取り早いだろう。
 俺はどう返事をすべきか迷っていた。

「いかがでしょう?」

 弁護士氏が急かすように、促してくる。

「少し考えさせて貰えますか」
「日にちが迫ってますので、出来るだけ早くお返事を頂きたいのですが。……まぁ、今すぐに…と言うのも無理からぬご様子ですから」

 当てつけがましくと言うか、恩着せがましくと言うか「仕方ねェから待っててやるよ」てな顔をされてムッとしたが、ココで即座に返事をしたら後々まで悔やむ事になりそうだ。

「解りました、じゃあ早めに返事出来るようにします」

 白王華氏はおもむろに、アルマーニの内ポケットから小さなケースを取り出すと、中から一枚カードを取り出した。

「では、こちらが私の名刺です。そこに書かれている番号にご連絡ください」

 俺は名刺を受け取ると、もう挨拶もせず早々にその場を切り上げたのだった。
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