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Scene.18
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数十分後に俺達は、松原サンと合流した。
俺達とは、つまり俺とマツヲさんである。
なんでマツヲさんが一緒なのかというと、松原サンに指定された合流場所が国道沿いのファミレスだったので、マツヲさんの車を借りようとしたら、なぜか本人までついて来ちゃったのだ。
それでも松原サンはタクシーでやってきたから、マツヲさんの車があったのは好都合だったし、それにマツヲさんが運転してくれてたことも幸いした。
後部シートに俺と松原サンが乗り込み、マツヲさんが車を発進させるとすぐ、松原さんが話し始めた。
「ごめんよハルカ君、急に呼び出して」
「それは構わないんですけど、緊急事態ってどういう事なんですか?」
「マイコ女史と白王華が、あのマリオネットを処分しようとしてるらしいんだ」
「ええっ、そんな勝手な! 第一そんなコトしたら、柊一サンが持ってる著作権とか、どーする気なんですか!?」
「俺らも迂闊だったよ。法要の席で女史が歌った時にも、あのマリオネットにバックヴォーカル演らせたりしていたから、てっきり、レンの楽曲とあのマリオネットで一攫千金を狙ってるんだろうとばっかり思ってたんだけど……あの女狐、俺達がそう思うように仕向けてただけなんだ。目的は最初からあのマリオネットの処分だったらしい」
「なんでそんなこと……」
その頃にはもう、俺は気が動転してなにがなんだか解らないくらいで、ハンドルを握ってなくて本当に良かったと思う。
ルーム・ミラーの中から、運転席のマツヲさんがチラッとこちらを見た。
俺は松原サンに口止めされてたから、柊一のことはマツヲさんにも何も言っていなかったけれど、マツヲさんは多聞氏のバックバンドで活動していた松原サンの顔をちゃんと知ってるし、諸々のうわさ話も聞き知っているから、なんとなく状況を把握したのだろう。
「口挟んで悪いですけど、それってつまり、多聞氏の興味を惹いていたハルカのマリオネットに嫉妬してる麻衣子ちゃんが、これ見よがしに復讐しようとしてるって事ッスか?」
「どうやらそういうことらしいんだ。レンがあのマリオネットに著作権を相続させたのは、レンが居なくなったらマイコ女史があのマリオネットを廃棄するって、予想してたからかもしれない。…ホントの所はワカンナイけどね。」
「でも法要があったのは昨日なんでしょう? なんで今日になって?」
「本当にハルカ君には申し訳ないよ。俺もうっかりそんなコトは考えてもみなかったから、女史にどうしても一晩だけ貸して欲しいって頼み込まれて、法要の後にマリオネットを貸しちゃったんだよ!」
「彼女がマリオネットを処分しようとしてるって話は、一体どこからが聞こえてきたんです?」
「俺達、女史が白王華を雇った時から警戒していて、私立探偵を雇って白王華の行動をチェックしていたんだよ。そうしたらアイツが、今日の午後マリオネットの処分場に予約を入れてるって報告が先刻入ってきたんだ」
「今日の午後!」
コトここに至って、俺はようやく「緊急事態」って単語の意味を理解した。
「マツヲさん、急いで下さい!!」
「わかってるって。とりあえずオマエはそこで、渋滞に引っかからないように念じてろ」
「念じますよ思いっきり!! あの、松原サン。マリオネットの処分ってどうふうにするものなんですか?」
「え? いや、それは俺も良くは知らないな…」
首を傾げた松原サンを、先程と同じようにマツヲさんがバックミラー越しに見る。
「そりゃ、硫酸にドボンだろ」
「まさかそりゃないでしょう~」
てっきり、マツヲさんが俺を脅かそうとしているんだと思って苦笑を浮かべても、ミラー越しにこちらを見ているマツヲさんは、モノスゴク真面目な顔つきのままだ。
「………ウソ、でしょ?」
「ウソなモンか。情報を完全抹消する為に完全溶解しちゃうんだ。プレス機でぺっちゃんこにしても、パーツの何が残るか解らないからナ。溶鉱炉タイプと硫酸タイプがあるらしいけど、基本はどっちも同じさ。ロボと違って首から上が外せるモンでもないから、丸ごとドボンだ」
「そんなの酷いじゃないですか! ターミネーターじゃあるまいし!」
「俺の耳元で喚くなよ。動いてるのそのままドボンするわけないだろ、スイッチ切ってからやるから、マリオネット本人はなんにもワカンナイまま、原形も留めずハイサヨウナラさ。当たり前だろ」
「ああ………そうですか。……でも例えそうでも、俺は柊一サンが溶けてなくなっちゃうのなんてイヤです!!」
「解ったから俺の耳元で喚くなっつーの!!」
思わずマツヲさんが座っているシートの背もたれ部分を握りしめ、俺は焦る気持ちのまま前方を睨みつけた。
俺達とは、つまり俺とマツヲさんである。
なんでマツヲさんが一緒なのかというと、松原サンに指定された合流場所が国道沿いのファミレスだったので、マツヲさんの車を借りようとしたら、なぜか本人までついて来ちゃったのだ。
それでも松原サンはタクシーでやってきたから、マツヲさんの車があったのは好都合だったし、それにマツヲさんが運転してくれてたことも幸いした。
後部シートに俺と松原サンが乗り込み、マツヲさんが車を発進させるとすぐ、松原さんが話し始めた。
「ごめんよハルカ君、急に呼び出して」
「それは構わないんですけど、緊急事態ってどういう事なんですか?」
「マイコ女史と白王華が、あのマリオネットを処分しようとしてるらしいんだ」
「ええっ、そんな勝手な! 第一そんなコトしたら、柊一サンが持ってる著作権とか、どーする気なんですか!?」
「俺らも迂闊だったよ。法要の席で女史が歌った時にも、あのマリオネットにバックヴォーカル演らせたりしていたから、てっきり、レンの楽曲とあのマリオネットで一攫千金を狙ってるんだろうとばっかり思ってたんだけど……あの女狐、俺達がそう思うように仕向けてただけなんだ。目的は最初からあのマリオネットの処分だったらしい」
「なんでそんなこと……」
その頃にはもう、俺は気が動転してなにがなんだか解らないくらいで、ハンドルを握ってなくて本当に良かったと思う。
ルーム・ミラーの中から、運転席のマツヲさんがチラッとこちらを見た。
俺は松原サンに口止めされてたから、柊一のことはマツヲさんにも何も言っていなかったけれど、マツヲさんは多聞氏のバックバンドで活動していた松原サンの顔をちゃんと知ってるし、諸々のうわさ話も聞き知っているから、なんとなく状況を把握したのだろう。
「口挟んで悪いですけど、それってつまり、多聞氏の興味を惹いていたハルカのマリオネットに嫉妬してる麻衣子ちゃんが、これ見よがしに復讐しようとしてるって事ッスか?」
「どうやらそういうことらしいんだ。レンがあのマリオネットに著作権を相続させたのは、レンが居なくなったらマイコ女史があのマリオネットを廃棄するって、予想してたからかもしれない。…ホントの所はワカンナイけどね。」
「でも法要があったのは昨日なんでしょう? なんで今日になって?」
「本当にハルカ君には申し訳ないよ。俺もうっかりそんなコトは考えてもみなかったから、女史にどうしても一晩だけ貸して欲しいって頼み込まれて、法要の後にマリオネットを貸しちゃったんだよ!」
「彼女がマリオネットを処分しようとしてるって話は、一体どこからが聞こえてきたんです?」
「俺達、女史が白王華を雇った時から警戒していて、私立探偵を雇って白王華の行動をチェックしていたんだよ。そうしたらアイツが、今日の午後マリオネットの処分場に予約を入れてるって報告が先刻入ってきたんだ」
「今日の午後!」
コトここに至って、俺はようやく「緊急事態」って単語の意味を理解した。
「マツヲさん、急いで下さい!!」
「わかってるって。とりあえずオマエはそこで、渋滞に引っかからないように念じてろ」
「念じますよ思いっきり!! あの、松原サン。マリオネットの処分ってどうふうにするものなんですか?」
「え? いや、それは俺も良くは知らないな…」
首を傾げた松原サンを、先程と同じようにマツヲさんがバックミラー越しに見る。
「そりゃ、硫酸にドボンだろ」
「まさかそりゃないでしょう~」
てっきり、マツヲさんが俺を脅かそうとしているんだと思って苦笑を浮かべても、ミラー越しにこちらを見ているマツヲさんは、モノスゴク真面目な顔つきのままだ。
「………ウソ、でしょ?」
「ウソなモンか。情報を完全抹消する為に完全溶解しちゃうんだ。プレス機でぺっちゃんこにしても、パーツの何が残るか解らないからナ。溶鉱炉タイプと硫酸タイプがあるらしいけど、基本はどっちも同じさ。ロボと違って首から上が外せるモンでもないから、丸ごとドボンだ」
「そんなの酷いじゃないですか! ターミネーターじゃあるまいし!」
「俺の耳元で喚くなよ。動いてるのそのままドボンするわけないだろ、スイッチ切ってからやるから、マリオネット本人はなんにもワカンナイまま、原形も留めずハイサヨウナラさ。当たり前だろ」
「ああ………そうですか。……でも例えそうでも、俺は柊一サンが溶けてなくなっちゃうのなんてイヤです!!」
「解ったから俺の耳元で喚くなっつーの!!」
思わずマツヲさんが座っているシートの背もたれ部分を握りしめ、俺は焦る気持ちのまま前方を睨みつけた。
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