メビウスのトンネル

琉斗六

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第22話

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 俺は柊一の背中に腕を回すと身体を抱き上げて、片手で無理に顔を覆っている手を除けさせた。

「ダメですよ。そんな風にしても柊一サンのいやらしい声は、全部漏れ聞こえちゃいますって」

 強引に抱き寄せてキスをすると、俺は自分のジーパンのポケットからジェルのチューブを取りだして、指先に乗せる。
 後ろから窄んだ秘部に指を当てると、ギョッとしたように柊一が目を見開いた。

「や………だっ!」

 俺の胸に手を当てて必死になって押し戻そうとするのを無理に抑え込み、俺は強引に指を体内に潜り込ませる。
 潤滑剤を乗せた指は、いとも簡単に柊一の中に収まった。

「なん……っ!」

 今まで一度も俺は柊一のソコに触れた事はなかったから、そんな事をされるなんて全く予想していなかったらしく、柊一は半ばパニックに陥っている。
 俺は黙って、抗議しようとする柊一の口に自分の口を押しつけて、無理矢理黙らせる。
 そして体内に潜り込ませた指先でジェルを丹念に塗りつけて、ジェルに含まれている媚薬の効果が現れるのを待った。

「ん…………ふ……」

 シャツを握っている手が震えだし、柊一の抵抗が収まったのを見計らって、俺は力を緩めて口唇に触れるようなキスに切り替える。

「や………あ…………」

 指を出し入れする度に、柊一は頭を振って甘い吐息を零した。

「柊一サン、キスして」

 俺が静かな声でせがむと、柊一は口唇を重ね合わせてくる。
 おずおずと差し出された舌に、柔らかく噛み付いて。
 ジェルで粘着質な音を立てさせながら、俺は執拗なまでに優しくほぐしていく。

「ハ………ルカァ…………」

 堪えきれない様子で、柊一は俺の名前を呼んだ。
 平素、感情の起伏を無理矢理抑え込んでいるせいか、一度堰が切れると涙が止まらないらしい。

「ダメ、キスしてなきゃ。…ほら」

 シャツから手を離して、柊一は俺の肩に両腕を回してくる。
 約束通り柊一の声を全てキスで吸い取って、俺は柊一の体内に深く楔を打ち込んだ。

「んんっ!」

 俺にしがみついていた指先に力がこもり、背中のシャツを強く握りしめる。
 ツアーで回っている間、俺は確かに何度か柊一の身体を抱いた。
 しかし、それは柊一の身体を煽り立てるだけで、俺自身は一度も柊一の身体に挿入していない。
 本当の事を言えば、柊一の媚態にそのまま最後までヤッてしまいたい衝動には何度も駆られたが、ギリギリのところで俺は自分をずっと抑えていた。
 なぜなら、柊一の身体には常に酷い暴力の後が残っていたからだ。

 初めのうちは、椿が周りの連中を使って柊一を陵辱していた事までは知らなかったが、最初に触れた時に柊一が既に男に抱かれた経験がある事には気付いたから。
 柊一の性格と、置かれている立場を考え合わせれば、柊一が望んで誰かとそうした行為に及んだとは想像しにくい。
 となれば、おのずと導き出される答えは、虐待の延長にある性暴力しかない。
 そこまで推理した時点で、俺は柊一と最後までする時は、細心の注意を払って優しく快感に蕩かしてやろうと考えていた。
 俺が柊一に強要している行為は、簡単に言えば椿がお取り巻きに命じてやらせている行為と何一つ違いがない。
 少なくとも柊一は、一筋たりとも同性とのセックスなんて望んでないだろうから、不本意な行為を強要されている点では同じなのだ。
 差別化を図るには、癒えきらない殴打の痕や痛々しい傷口に触れないのが一番簡単な方法だろう。

 俺には、多聞氏のように「柊一を椿から解放してやろう」なんていう親切心はない。
 本当の事を言えば、柊一をこうして手に出来るなら、そこに椿が居ようが居まいが関係ない。
 ただ、椿は俺が柊一に近づく事を許さないから、取り除く必要を感じているだけで。
 だから椿よりも俺に傾倒させる為に、甘やかで優しいセックスは必要なのだ。
 柊一の体内を抉ってかき回すと、媚薬で火を点けられた身体を持て余すように、柊一が腰を振る。
 泣きじゃくって途切れ途切れの息を、快感に甘く蕩かしながら。

「……あ………イ………クぅ……」

 ビクビクッと小柄な身体が痙攣して、俺の背中に回されていた指先がワナワナと震える。

「早いよ、柊一サン。…俺、まだ終わってないのに」

 より深く体内に穿つと、艶めかしい身体がビクンッと仰け反った。
 塗り込まれた媚薬の効果は、既に余韻程度になってしまっているが。
 それでも普通以上に敏感になっているソコをそんな風に突き上げられたら、射精の余韻どころか再び煽られる。
 悲鳴じみた嬌声が上がる事は予想済みだったから、俺は柊一の口に手を当てて、声を抑えさせた。

「ご近所に聞こえちゃ困るんでしょ?」

 ギッと睨みつけてくる目線を無視して、俺は固く充血している突起に口唇を寄せる。
 舌で舐めて、口に含んで吸い上げて、最後に軽く歯を立てると、柊一は俺の背中から手を離して、両手で自分の口を覆った。

「ご近所に、聴かせてあげればいいのに。…ああ、でもそんなコトしたら、隣近所の独身男に犯されちゃうね? 柊一サンの声イロッポイから、俺だったら我慢出来ないな」

 笑うと、泣きはらした赤い目許のまま、責めるような目つきで黙って睨まれた。

「次からは、ラブホでデートしましょう。柊一サンが思いっきり声上げて感じまくれるところで、ゆっくり逢瀬を楽しみたいから」

 柊一の後頭部に手を回して、少し強めに抱き寄せる。
 律動を早めて激しく上下させると、柊一は自分から俺にしがみついて声を抑える為に俺の肩口に顔を埋めた。

「あ…………あぁ…………」

 片手で柊一のペニスを握り、体内を抉ると同時にそっちも激しく刺激する。

「…い………イ……あっ!」

 腕の中で震えている柊一の様子に、俺は得も言われぬ満足感を感じた。
 何度も上り詰めさせられた柊一は、気力も尽き果てたみたいに横たわっている。
 しかしその両手は、最後に俺にしがみついた指先がシャツに絡みついた形で、半ば俺に寄り添うような状態だ。
 俺は乱れた髪を梳いてやりながら、傷付いた子猫を労る母猫みたいに柊一の頬にキスした。
 そっと腕を解いてベッドから起きあがると、俺は衣服を整えてからキッチンに向かう。
 便所が共同の下宿に風呂場がある訳もなく、そこに置かれている洗面器に水道の水を満たしてからポットの熱湯を少しだけ足してぬるま湯を作る。
 適当に物色したタオルをそのお湯に浸し、固く絞ってから部屋に戻った。

「そういえば最後の2週間の、柊一サンのいない間、椿サンってばすごく虫の居所が悪くてさぁ。いつもならジャックさんのいない時には多聞サンがフォローに回るけど、今回はほら、多聞サンも一緒に東京に戻っちゃったでしょ? そしたら椿サンが拗ねちゃって、その様子を横で青山サンが茶化してさぁ………」

 ベッドの上に横たわる汚れた身体を丹念に清めながら、俺は他愛のない話を好き勝手に喋りまくった。
 柊一は全く返事もしなかったけれど、されるがままになりながらもずうっと俺の事を目で追っていたから、俺はそのままずっとお喋りをし続けた。
 以前に、冗談交じりに俺が椿から柊一を奪い取りたいと発言した時に、柊一は「迷惑だ」と言った。
 その言葉は、柊一の生真面目で温厚な性格から発した相手への気遣いが含まれていたが、その気遣いは「椿が誰かに危害を加える」事を危惧した言葉…つまり俺個人にはほとんどなんの興味もない状態で発された、近づいてくる全ての他人に示す程度の感情の動きだったが。

 今の柊一は、神巫悠という個人に対して興味を示し始めている。

 柊一の身体を清め、衣服もある程度整えてやり、ついでに時間も時間だったので適当に昼飯の支度をした。
 半ば強姦にも近いセックス…という、いわば「非日常」的な行為の後に、今度はメシを食ったりグタグタと時間を過ごしたりという「日常そのもの」的な行動が続いていく違和感に、柊一は少なからず戸惑っていたようだが。
 それでも柊一は、日が暮れるまでそこに居続けた俺に対して、最後まで抗議すらしなかった。

「柊一サンって、パソコン持ってないんですか?」
「いや、業務に差し支えるから、一応ノートを持たされてるが?」
「じゃあ、モバイルでインターネットとか出来るんだ?」
「なんでそんな事を訊くんだ?」
「柊一サンは安全だって言うけど、携帯にメールすると椿サンに見られるかもしれないモン。俺、椿サンに牽制されてるからさぁ。俺からメール来てるってバレると、柊一サンがまた椿サンに悪いイタズラされちゃうじゃん? だから、ブラウザで送受信の出来るフリーのアドレス持って貰えたら、秘密のやりとりしやすいでしょ?」
「俺は仕事の都合でそれを使う事はあっても、自分から興味を持ってインターネットをやったりしないから、ハルカの言ってる事は暗号以外のナニモノでもないんだが?」
「使い方は知ってる?」
「………たぶん」
「じゃあ、パスワードでログインするタイプの、ツーショット掲示板にしましょ。携帯でも見られるヤツを使えば、手元にパソコンが無い時でもチェック出来るし。パスワードは守って下さいね、俺が椿サンに半殺しにされちゃったら、後味悪いでしょ?」

 ちょっと意地悪く言うと柊一は困ったような顔をして見せたが、やっぱり特に否定的な事を口にするような事はしなかった。
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