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別荘へ
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「凪? 一刻を争うんだ、学校に移動しながら聞いてくれ。急いでほしい。 ─── そう、おれらの学校、旧校舎の三階に賀久がいる。賀久知ってるだろ中学の時の。そいつを助けてやってくれ。お前ひとりで行くなよ。新校舎のほうに用務員のおっちゃんか誰かいるはずだろ、とにかく誰か応援頼めるだけ頼め。でもすぐにだ!」
『OK。あとニ、三分で着く』
凪の声はいつもと変わらず穏やかで、坂本の緊張も少しとけたようだ。
「お前の足ってそんなに速かったか?」
『今、道端で自転車を拝借したところだ』
「 ─── 誰から?」
『分からないけど、今日中に返しておけばだいじょうぶだろう』
「……不良生徒会長」
呆気にとられた結珂の声が聞こえてしまったらしい。くすくす笑う声がした。
『こっちは心配いらない。志輝、あとはお前がやりたいことをやってこい』
「頼んだ」
坂本は電話を切る。ひとつ深呼吸すると、電話ボックスを出た。
また走り出した坂本を、「ええっ」という表情をしながらも結珂は追いかける。数分で坂本の家に着いた。
慌ただしく鍵を開けて、坂本は中に入っていく。夕方、五時近くで秋空は薄暗い。家に電気がついていないところを見ると、家族の者は留守なのだろう。
玄関口で、息切れを整えようとして休んでいる結珂に、私服に着替えて二階から降りてきた坂本が声をかけた。
「幡多、お前は帰れよ。心配しなくていいから」
「ついてくわよ、だって達弥くんももしかして北海道に行ってるかもしれないじゃない」
靴を履きながら、ちらりと坂本は結珂を見上げる。
「……なんでそう思う?」
「双子って同じ行動を取るときがあるって言うじゃない」
結珂の答えにげんなりしたように坂本は肩を落とした。
「 ─── いや、おれも今はカンで動いてるんだからお前を責められねえよな……」
「坂本も達弥くんと閏くんが一緒にいると思う?」
「正確には『別荘に行かなきゃならない』って気がする。……おい、何だよその目は。おれのカン馬鹿にするとあとで後悔するぜ」
扉を閉めて鍵をかける。
「とにかくお前は家でおとなしくしてろよ」
「イヤ。ついてく」
頑固な結珂に、坂本は厳しい目つきで振り返る。
「何があるか分からないんだぜ」
「何があるってのよ。達弥くんと閏くんに会いにいくだけじゃない。ふたりとも友達だもの、いなくなったの何かあったからかもしれないのに放っておけない」
閏が好きになったのは、結珂のそういうところなのだ。坂本はそれを思い出す。
しかし ─── 絶対そうと決まったわけではないが ─── もしかしたら想像もできない出来事が待っているかもしれない場所に、結珂を連れて行くわけにはいかない。
玄関のすぐ脇、塀を背に結珂は立っている。すぐ目の前まで坂本は歩み寄った。
「これで最後。 ─── 帰れ。おれの噂、知ってんだろ」
「……噂って、」
何、と聞こうとして結珂の動きが止まる。
この前の帰り道、自分で言ったばかりではないか。
「 ─── 女の子とよく遊ぶって、だけでしょ。それにあくまで噂だし」
かすれてしまったけれど、どうにか声が出せた。坂本はふいに手をのばすと、結珂のすぐ横に手をついた。
「ずっとおれと一緒でもいいのか? おれが恐いんじゃなかったのかよ」
「 ────── 」
結珂は黙って坂本を見上げる。結珂を心配してわざとそんなことを言っているのが、よく分かっていた。だから平気だった。
「あたし、手伝うわ」
消え入りそうな声で、でもしっかりとそう言った結珂に、ついに坂本はため息をついて体を起こした。
「しょうがねえな。……分かった。来いよ、だけど東京までバイクだぜ」
「バイク?」
「のんびり乗り換えながら行くよりおれの運転のほうが少しでも早いから」
「ふたり乗り?」
「 ─── なんだその目の輝きは」
「だって一度やってみたかったんだもん」
やれやれと空を仰ぐ坂本。
しかし結珂はその数時間後、早速後悔することになったのだった。
『OK。あとニ、三分で着く』
凪の声はいつもと変わらず穏やかで、坂本の緊張も少しとけたようだ。
「お前の足ってそんなに速かったか?」
『今、道端で自転車を拝借したところだ』
「 ─── 誰から?」
『分からないけど、今日中に返しておけばだいじょうぶだろう』
「……不良生徒会長」
呆気にとられた結珂の声が聞こえてしまったらしい。くすくす笑う声がした。
『こっちは心配いらない。志輝、あとはお前がやりたいことをやってこい』
「頼んだ」
坂本は電話を切る。ひとつ深呼吸すると、電話ボックスを出た。
また走り出した坂本を、「ええっ」という表情をしながらも結珂は追いかける。数分で坂本の家に着いた。
慌ただしく鍵を開けて、坂本は中に入っていく。夕方、五時近くで秋空は薄暗い。家に電気がついていないところを見ると、家族の者は留守なのだろう。
玄関口で、息切れを整えようとして休んでいる結珂に、私服に着替えて二階から降りてきた坂本が声をかけた。
「幡多、お前は帰れよ。心配しなくていいから」
「ついてくわよ、だって達弥くんももしかして北海道に行ってるかもしれないじゃない」
靴を履きながら、ちらりと坂本は結珂を見上げる。
「……なんでそう思う?」
「双子って同じ行動を取るときがあるって言うじゃない」
結珂の答えにげんなりしたように坂本は肩を落とした。
「 ─── いや、おれも今はカンで動いてるんだからお前を責められねえよな……」
「坂本も達弥くんと閏くんが一緒にいると思う?」
「正確には『別荘に行かなきゃならない』って気がする。……おい、何だよその目は。おれのカン馬鹿にするとあとで後悔するぜ」
扉を閉めて鍵をかける。
「とにかくお前は家でおとなしくしてろよ」
「イヤ。ついてく」
頑固な結珂に、坂本は厳しい目つきで振り返る。
「何があるか分からないんだぜ」
「何があるってのよ。達弥くんと閏くんに会いにいくだけじゃない。ふたりとも友達だもの、いなくなったの何かあったからかもしれないのに放っておけない」
閏が好きになったのは、結珂のそういうところなのだ。坂本はそれを思い出す。
しかし ─── 絶対そうと決まったわけではないが ─── もしかしたら想像もできない出来事が待っているかもしれない場所に、結珂を連れて行くわけにはいかない。
玄関のすぐ脇、塀を背に結珂は立っている。すぐ目の前まで坂本は歩み寄った。
「これで最後。 ─── 帰れ。おれの噂、知ってんだろ」
「……噂って、」
何、と聞こうとして結珂の動きが止まる。
この前の帰り道、自分で言ったばかりではないか。
「 ─── 女の子とよく遊ぶって、だけでしょ。それにあくまで噂だし」
かすれてしまったけれど、どうにか声が出せた。坂本はふいに手をのばすと、結珂のすぐ横に手をついた。
「ずっとおれと一緒でもいいのか? おれが恐いんじゃなかったのかよ」
「 ────── 」
結珂は黙って坂本を見上げる。結珂を心配してわざとそんなことを言っているのが、よく分かっていた。だから平気だった。
「あたし、手伝うわ」
消え入りそうな声で、でもしっかりとそう言った結珂に、ついに坂本はため息をついて体を起こした。
「しょうがねえな。……分かった。来いよ、だけど東京までバイクだぜ」
「バイク?」
「のんびり乗り換えながら行くよりおれの運転のほうが少しでも早いから」
「ふたり乗り?」
「 ─── なんだその目の輝きは」
「だって一度やってみたかったんだもん」
やれやれと空を仰ぐ坂本。
しかし結珂はその数時間後、早速後悔することになったのだった。
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