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第二章 新生活、はじめるよ!

阻む者

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 早朝、朝日を浴びて心を整える。
 レンジの刀を左手に持ちながら。

 なにかが覚醒したのか、常よりマナの巡りが良い。マナの流れが手に取るようにはっきりと自覚できる。

 そのまま目を閉じてしばらく集中していると突然なにかがふわっと全身を包んだ。

 鮮やかな紅蓮の炎が私を包み込んでいる。
 そして自分の力が強大になったことを理解した。

「これが力の解放なんだ。レンジが、私を導いてくれたんだね」

 私はゆっくりと穴の中に入っていった。

 纏う紅蓮の炎が火の粉を飛ばすように風に乗って散っていく。

「必ず助けるから、待っててね」


 ◇


 リィーナ様が我が君と同じ鮮やかな紅蓮の炎を纏った。
 まだこちらの世界に渡り日が浅いのにも関わらずに。
 その天賦の才には驚かされる。

「ルージュ、このまま一気に進むよ」

 そう告げてリィーナ様は駆けだした。
 そのリィーナ様の横には人の大きさくらいのアイスドラゴンがクオンを背に乗せている。
 私達も後を追うようについていった。

 冥界のモンスターや悪魔はあの場所から姿を現してきたが、リィーナ様が悉く瞬殺していく。
 その華麗に舞うように相手を斬る姿が、その剣筋が我が君とだぶる。

『リィーナはな。回復役の振りをした攻撃役なんだよ』

 以前、レンジ様が微笑みながらそう言っていたのを思い出す。

 確かにそうですね。私達の出番がありません。

「ロータ、セリーヌ、凛子。リィーナ様に遅れをとってはなりませんよ!」

 私達は左右に分かれ、リィーナ様の加勢に入る。

 そのままの勢いで駆け抜け、冥界の門へ難なくたどり着いた。


 ◇


「ねえ、門が三つもあるんだけど」
「リィ、こっち」

 クオンが左の門を指差した。
 ユキナからレンジ様を探すならクオンが一番だとは聞いていたが本当なのだろうか。
 迷わずにすぐ指を差されるとつい疑ってしまう。

「リィーナ様。クオンが信じられませんか」

 ドラゴン姿のユキナにそう訊かれるが、ユキナのその声と姿が一致しなくて余計に思考を乱される。

「……ユキナ。その姿で話されると混乱するからどうにかして。それと、私はクオンを信じてるから」

 如何にもゲームやアニメに出てくるあのグニョグニョしたエフェクトの中に勇気を出して足を踏み入れた。

 思っていたよりすっと通り抜けられた。少し警戒して損したと思うほどに。

「ん、肌寒いね」
「そうですね。あ、リィーナ様後続が来るまで少しお待ちください」

 先へ進もうとしたところでルージュに止められた。
 しかし、ここが冥界なの。なんか普通に廃墟となった地下都市みたいなんだけど。

 今回同行しているのはルージュ、セリーヌ、凛子、そしてロータの四人を筆頭に第二軍二千騎のワルキューレを率いてここまで来た。
 その二千騎のワルキューレは異常に士気が高い。皆、借りは返すと燃えていた。

 そんな頼りになる者達とのレンジ奪還戦だ。失敗するはずがない。と、期待している。

「ここまでは強敵不在でしたが、この先からが本番ということでしょうか」

(リィーナ様、報告します。穴から破壊神シヴァが眷属を連れて……)
(ちょっと、もしもーし、大丈夫)

「どうなされました」
「スクルドから破壊神シヴァが眷属を連れて。と、途中で念話が途絶えた」

 その言葉に皆は驚きを隠せなかった。

「破壊神だから、きっとこの世界を破壊するつもりなんだよね」

 考える。レンジを救いにいくのか、それとも破壊神を倒しにいくのか。けれど

「レンジなら破壊神を先に倒すと思う。だってこの世界が無くなったら多くの人が悲しむから」

 私はあらためて皆を見渡した。

「破壊神を倒しにいくよ。みんな、世界を守ろう!」

 私達は急いで来た道を戻った。

 レンジごめんね。
 もう少しだけ待っててね。


 ◇


 冥界へ繋がる穴の入口で警戒していた者達の叫び声を聞き、慌てて天幕から出て確認しようとするも視界が遮られるほどの土煙でまったく状況が掴めない。

「敵襲! 敵は、あっ!」

 土煙によって何も見えない中、仲間の危険を知らせる声が聞こえるも言いかけて途絶える。

「総員、速やかに退避せよ!」

 天幕の位置を頼りに後方へ退避した。
 まとまりもなく各自バラバラになっての緊急退避だったせいか、それとも突然の襲撃のせいなのか、後方へ避難できた者は僅かに半数を上回る程度だった。

 未だ前方では取り残された仲間が視界が遮られた状況で戦闘を強いられている。

「皆一斉に風魔法であの土煙を吹き飛ばして!」

 風魔法を使える者達が一斉に魔法を行使した。
 やがて土煙が収まり周囲の視界が戻ると、その敵の姿に自分の目を疑う。

 破壊と再生の神、シヴァ……

「仲間の救出を最優先に迎撃せよ!」

 そう命令を下した後にリィーナ様に念話を飛ばした。
 その最中にまさかの奇襲を受ける。
あの神は離れた私の所まで跳ねてくるとそのまま私を目掛けて三叉の槍を突いてきた。

 念話を切り急いで後方へ跳び退いた。

「ほう、躱したか。さすがはあの女神の眷属といったところか」

 三叉の槍を突き立てた衝撃で地面が大きく抉られている。
 少しでも躱すのが遅れたならばと、つい悪い想像が額に汗を浮かばせる。

「お褒めにいただきありがとうございます。けれど、女神フレイヤ様のこの世界へ何用でございますか」
「この世界を破壊して欲しいと、眷属共が願った故にな。だが、そんなくだらぬ願いで、私自らが動く理由にはならぬ」

 三叉の槍を立て、私を試すように三つ目を向ける。

「随分ともったいぶった物言いですね。けれど、なんの理由があろうと我が君の世界に仇をなすというのならば、敵わぬ相手と分かっていても死力を尽くして抗うのみ」

 私は槍と盾を構え、力を解放する。

「その意気やよし。存分に死力を尽くせ」

 こうして私の勝ち目のない戦いが始まる。
 けれど、この命を燃やし尽くして、少しでも時を稼げればいいだけ。

 ブリュンヒルド、後は頼みます。
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