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邂逅
邪神様、目覚めればそこはエルフの里でした
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ゆっくりと目を開けると、街とかではなく、なぜか大きな木の下にいた。
そしてその大きな木を取り囲むように森が広がっていた。
「スタート地点が森って、地図もないのにいきなりハードル高くないか。これって適当に進んだら確実に遭難するよな。いや、すでに遭難してるだろ、これ」
「なに一人でブツブツ言ってるのですか。とても気持ち悪いですよ」
頭上から謎の声が聞こえる。きっと幻聴だ……
「誰もいないのに声が聞こえるなんて、難易度が高すぎて現実逃避してるな、俺」
「なんで私を無視するのか理解に困ります。馬鹿なのですか、悠太様は?」
「なんだこの失礼な幻聴は。ひょっとしてモンスターの精神攻撃なのか」
まわりを見渡すが誰もいない。気配さえ感じない。まぁ、気配察知能力なんて無いけどな。平和な国、日本出身だし。
「だぁかぁらっ、なんで私を無視するんですかっ!」
何かに頭を叩かれた、ちょっと痛い……
見上げると、サポート役で紹介されたクロノアが、俺を仁王立ちで見下ろしていた。
「ああ、すっかりクロノアのことを忘れていたよ。ところでクロノアさん、パンツが丸見えだから降りてきた方がいいと思うぞ」
たちまちクロノアの顔が赤くなり、拳を握って小刻みに震えている。そして怒りを示すかのように赤い瞳で睨らんでいる。これはおそらく警告色だ。身の危険を感じる……
「こぉーのぉー、変態スケベがっ!」
罵倒と共に彼女の両の手から炎の玉が放たれた。
とっさに横に躱すが、炎が肩を掠め、足下で小さく爆散した。
「熱っ! ……ん、あれ、熱く、ない」
そういえば、この外套は魔法耐性があるって言ってたな。女神様、ありがとうございます!
ダメージを与えられなかったクロノアは、ふわりと俺の顔の前まで降りると、俯いて肩を震わせ右拳を構えた。
「待て、待てって! 俺は親切心で教えただけだから。それに、ちびっ子のパンツになんか興味ねぇから!」
「ゆ、ゆうに事欠いて、ちびっ子だとか、興味がないとか……」
肩を震わせ俯いたまま、更に怒りが増していく。すごく怖い!
「ごめんなさい、許して下さい、クロノア様!」
佐藤流秘奥義、土下座二式を俺は繰りだす。
跳躍してからの美しい土下座が決まる。
如何なる敵も、この秘奥義の前では怒りを鎮める、はずだった。
突如後頭部に衝撃が走り、顔が大地に沈む。
俺はすぐに意識を手放した……
◇
目を覚ますと見知らぬ天井があった。
確認のため、体を起こそうとした時、上から肩を押されて止められた。
「こちらに来たばかりで、精神も身体も本調子とは言えないはずです。まだゆっくり休んでいて下さい」
その声の主が俺の顔を覗き込む。金糸のような美しい髪が俺の頬を撫でた。髪に隠れて彼女の表情はよく分からないが、安全な所なのだと思い目を閉じかけた瞬間、胸元にクロノアがふわりと降りてきた。
「甘やかす必要なんてないわよ」
おいおい、なんてことを言うんだよ、この暴力妖精が!
と、心の中だけで罵っておく。世の中には口には出してはいけない事があると学んだばかりだ。失敗は活かせばいい。
「クロノア、悠太様は我が君が選んだ伴侶。それ以上の無礼は貴方といえども許しませんよ」
「ふん、わかったわよ」
「なんかまだ不満があるようですね。だいたい彼はあなたの主なのですよ。我が君の命に従えないと言うのなら、貴方をこの場で魂ごと消し去りますよ」
なんか怖い、寝たふりしよう。
「もう、ほんと堅物なんだから。ちゃんと使命は果たすから、物騒なことは言わないでよね」
「まあ、素直になれない理由も分からない訳ではありませんが、次からは問答無用で斬り捨てますからね。貴方を通して我が君がご覧になっていることをくれぐれも忘れないように」
◇
次に目が覚めた時には、胸元が少し苦しくて、そっと布団を捲るとクロノアが丸くなって寝ていた。
気持ち良さそうな寝顔を見ていると、なぜだか可愛く思える。やはり小さい生き物には守護欲が湧くのだろうか。
そっと頭を撫でてみると、なんだか手触りが良い。
これはクセになるなと思いながら優しく撫で続けた。
「悪い、起こしちゃったな」
「ふぁ~ 大丈夫。悠太様、おはようございます」
「ああ、おはよう。ところでここはどこなのかな」
「はい、エルフの里です。悠太様が気絶した後、ワルキューレの方が来たので運んでもらいました」
「そうなんだ。それとその話し方、気持ち悪いからやめてくれないかな」
モゾモゾと顔まで這い寄ると頬をおもいっきり両手で引っ張った。
「い、痛いって! なんだよ、お前は!」
「私が大人しく従ってるのが、そんなに気持ち悪いのかな。ねぇ、あなたを殺して、私も罰を受けて、二人一緒に死ぬのも一興よね」
なんか目が怖い! 女神様、大ピンチです!
「わ、わかった。とりあえず、落ち着こうな。ノアはいつも通りだよな。いつも通り平常運転だよな、うん」
「なに訳の分からない事を言ってるの。しかもノアってなによ」
「あっ馴れ馴れしいよな、ごめんな。でもさ、ほら俺達コンビだろ。パートナーには親しみを込めて愛称で呼んだ方がいいかなって」
「ぱ、パートナー。まぁあなたにしては良い考えね。ノアって呼ぶことを特別に許してあげる」
ちょろい、言いくるめたと安心していると、ノックもなくドアが開いた。
「はあーい! 朝から仲良さそうでなによりだね。朝食の用意ができたから、さっさと起きようね」
いきなり知らない人が部屋に入ってきた。
妙にフレンドリーだし。どうせ起こすならノアに絡まれる前に起こしてくれよな、ほんと使えねーな。
「んー悠太さんは、なんか不満でもあるのかなぁー。のんびりしてる暇はないから早く起きてね。さっさと起きないとお仕置きだよー」
えっ、心が読まれてるのか。
「はい、起きます。すぐに支度します!」
初対面なのにいきなり怖い。美人さんなのに怖い。
俺は着替えを急いで部屋を飛び出した。
そしてその大きな木を取り囲むように森が広がっていた。
「スタート地点が森って、地図もないのにいきなりハードル高くないか。これって適当に進んだら確実に遭難するよな。いや、すでに遭難してるだろ、これ」
「なに一人でブツブツ言ってるのですか。とても気持ち悪いですよ」
頭上から謎の声が聞こえる。きっと幻聴だ……
「誰もいないのに声が聞こえるなんて、難易度が高すぎて現実逃避してるな、俺」
「なんで私を無視するのか理解に困ります。馬鹿なのですか、悠太様は?」
「なんだこの失礼な幻聴は。ひょっとしてモンスターの精神攻撃なのか」
まわりを見渡すが誰もいない。気配さえ感じない。まぁ、気配察知能力なんて無いけどな。平和な国、日本出身だし。
「だぁかぁらっ、なんで私を無視するんですかっ!」
何かに頭を叩かれた、ちょっと痛い……
見上げると、サポート役で紹介されたクロノアが、俺を仁王立ちで見下ろしていた。
「ああ、すっかりクロノアのことを忘れていたよ。ところでクロノアさん、パンツが丸見えだから降りてきた方がいいと思うぞ」
たちまちクロノアの顔が赤くなり、拳を握って小刻みに震えている。そして怒りを示すかのように赤い瞳で睨らんでいる。これはおそらく警告色だ。身の危険を感じる……
「こぉーのぉー、変態スケベがっ!」
罵倒と共に彼女の両の手から炎の玉が放たれた。
とっさに横に躱すが、炎が肩を掠め、足下で小さく爆散した。
「熱っ! ……ん、あれ、熱く、ない」
そういえば、この外套は魔法耐性があるって言ってたな。女神様、ありがとうございます!
ダメージを与えられなかったクロノアは、ふわりと俺の顔の前まで降りると、俯いて肩を震わせ右拳を構えた。
「待て、待てって! 俺は親切心で教えただけだから。それに、ちびっ子のパンツになんか興味ねぇから!」
「ゆ、ゆうに事欠いて、ちびっ子だとか、興味がないとか……」
肩を震わせ俯いたまま、更に怒りが増していく。すごく怖い!
「ごめんなさい、許して下さい、クロノア様!」
佐藤流秘奥義、土下座二式を俺は繰りだす。
跳躍してからの美しい土下座が決まる。
如何なる敵も、この秘奥義の前では怒りを鎮める、はずだった。
突如後頭部に衝撃が走り、顔が大地に沈む。
俺はすぐに意識を手放した……
◇
目を覚ますと見知らぬ天井があった。
確認のため、体を起こそうとした時、上から肩を押されて止められた。
「こちらに来たばかりで、精神も身体も本調子とは言えないはずです。まだゆっくり休んでいて下さい」
その声の主が俺の顔を覗き込む。金糸のような美しい髪が俺の頬を撫でた。髪に隠れて彼女の表情はよく分からないが、安全な所なのだと思い目を閉じかけた瞬間、胸元にクロノアがふわりと降りてきた。
「甘やかす必要なんてないわよ」
おいおい、なんてことを言うんだよ、この暴力妖精が!
と、心の中だけで罵っておく。世の中には口には出してはいけない事があると学んだばかりだ。失敗は活かせばいい。
「クロノア、悠太様は我が君が選んだ伴侶。それ以上の無礼は貴方といえども許しませんよ」
「ふん、わかったわよ」
「なんかまだ不満があるようですね。だいたい彼はあなたの主なのですよ。我が君の命に従えないと言うのなら、貴方をこの場で魂ごと消し去りますよ」
なんか怖い、寝たふりしよう。
「もう、ほんと堅物なんだから。ちゃんと使命は果たすから、物騒なことは言わないでよね」
「まあ、素直になれない理由も分からない訳ではありませんが、次からは問答無用で斬り捨てますからね。貴方を通して我が君がご覧になっていることをくれぐれも忘れないように」
◇
次に目が覚めた時には、胸元が少し苦しくて、そっと布団を捲るとクロノアが丸くなって寝ていた。
気持ち良さそうな寝顔を見ていると、なぜだか可愛く思える。やはり小さい生き物には守護欲が湧くのだろうか。
そっと頭を撫でてみると、なんだか手触りが良い。
これはクセになるなと思いながら優しく撫で続けた。
「悪い、起こしちゃったな」
「ふぁ~ 大丈夫。悠太様、おはようございます」
「ああ、おはよう。ところでここはどこなのかな」
「はい、エルフの里です。悠太様が気絶した後、ワルキューレの方が来たので運んでもらいました」
「そうなんだ。それとその話し方、気持ち悪いからやめてくれないかな」
モゾモゾと顔まで這い寄ると頬をおもいっきり両手で引っ張った。
「い、痛いって! なんだよ、お前は!」
「私が大人しく従ってるのが、そんなに気持ち悪いのかな。ねぇ、あなたを殺して、私も罰を受けて、二人一緒に死ぬのも一興よね」
なんか目が怖い! 女神様、大ピンチです!
「わ、わかった。とりあえず、落ち着こうな。ノアはいつも通りだよな。いつも通り平常運転だよな、うん」
「なに訳の分からない事を言ってるの。しかもノアってなによ」
「あっ馴れ馴れしいよな、ごめんな。でもさ、ほら俺達コンビだろ。パートナーには親しみを込めて愛称で呼んだ方がいいかなって」
「ぱ、パートナー。まぁあなたにしては良い考えね。ノアって呼ぶことを特別に許してあげる」
ちょろい、言いくるめたと安心していると、ノックもなくドアが開いた。
「はあーい! 朝から仲良さそうでなによりだね。朝食の用意ができたから、さっさと起きようね」
いきなり知らない人が部屋に入ってきた。
妙にフレンドリーだし。どうせ起こすならノアに絡まれる前に起こしてくれよな、ほんと使えねーな。
「んー悠太さんは、なんか不満でもあるのかなぁー。のんびりしてる暇はないから早く起きてね。さっさと起きないとお仕置きだよー」
えっ、心が読まれてるのか。
「はい、起きます。すぐに支度します!」
初対面なのにいきなり怖い。美人さんなのに怖い。
俺は着替えを急いで部屋を飛び出した。
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