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邂逅
邪神様、決して人には言えない秘密もあります
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「悠太くん、起きて。ねぇ、起きて」
ま、マルデルなのか……
ここは、どこだ……
「傷は魔法で癒やしたから、もう大丈夫よ」
傷…… ああ、矢で射られたのか
「悠太くんは今まで頑張り過ぎたから、少しゆっくり休みませんか。これからはここで穏やかに暮らしましょうね」
そうか、俺はがんばり過ぎたのか。
あとはマルデルと二人きりでか。それもいいかな。
「そう、わたしと悠太くんの二人きりで。ここにいつまでも一緒にいましょう」
いつまでも一緒か……
でも、クロノア、ヒルデ、ロザミアは……
「あの三人はもう来ないの。わたしがそうしたから」
……マルデルが来ないようにしたの、本当に。
「ええ、本当よ。だって二人きりでずっと愛し合いたいから」
二人きりでずっと……
「ええ、そうよ。あなたと肌を、心を重ねてね。こんな風に」
マルデルが腰の辺りに顔を近づけていく……
「悠太くん、さあ、愛し合いましょう。わたしが永遠の快楽に導いてあげる」
下半身に顔を近づけて衣類越しに唇で刺激する……
「なぜ感じてくれないの、悠太くん。わたしの事が嫌いになったの」
……… ……… ………
「どうして、どうしてなの、悠太くん!」
君は誰。君はマルデルじゃない。
「悠太様、さすがです。今この悪夢から解放して差し上げます!」
宙に一点小さな穴が開くと、そこから眩い光が差し込んでくる。その光は輝きを増して辺り一面を照らしたその時、空間が割れるようにはじけた。
「クソッ、おのれ、ヘカテー!」
「生憎、貴方の相手をしてる程、私は暇じゃないの。さようなら、灰色鴉さん」
うわ! 勢いよく俺は上半身を起こした。
「ゆ、悠太くん!」
マルデル、本物のマルデルだ。
先程の悪夢を忘れたくて俺は彼女を強く抱きしめた。
「ちょっと、苦しいよ、悠太くん」
「あっ、ごめん、マルデル」
マルデルを離すと、隣にはあのヘカテーがいることに気付いた。思わず目が合う。
「あの夢から無事に解放できるかは悠太様次第だったの。あのモリガンに一切誘惑されないなんて流石だわ」
うむ、やはり夢だったのか。恐ろしい夢だった。
「悠太くん、本当に無事で良かった」
「でも悠太様の理想が体現されるのに、よく誘惑されずに。しかも大事なところも反応しないなんて、並の精神力じゃありませんね」
むむ、それは、それには少し心当たりがある。けど言えないよな。四人から四日連続で搾り取られたからだなんて。
「すぐにマルデルじゃないって気付いたからね。俺の愛をなめてもらっては困るよ」
「……なんか隠してません、悠太様」
ボッチのくせに、なんか鋭いな。
「もう、ヘカテー、そのくらいにしなさい。悠太くんの言葉を疑わないの」
お、さすがマルデル。ナイスフォロー!
「ヘカテーもボッチをやめて、愛に目覚めればわかるよ」
「ぼ、ボッチなんかじゃありませんから! お姉様と凛ちゃん以外に魅力を感じないだけです。」
フッ、強がってからに。まだまだじゃのう、ひっひひ。
「お姉様。悠太様が失礼な事を考えているようですので、罰を与えるご許可を」
「もう二人共、いい加減にしなさいっ!」
「イタッ! いたい……」
二人揃って、マルデルに怒られてしまった。
マルデルは一通り怒ったあとに、皆に知らせに部屋を出ていった。
残された俺達は恨めしそうに互いを見た。
「覚えておきなさいよ」
「ふん、そっちこそな」
◇
こうして、わたしの名推理により悠太様は悪夢から帰還された。
わたしは彼の笑顔を見て、心から安堵した。
「ロータ、心配掛けてごめんな。もう、お前にあんな顔はさせないからな」
もう、たまには人の心配より、自分の心配をしてくださいよ。これだから悠太様は……
「ほんと、心配したんですから、もう二度とあんな真似は」
わたしは自分の感情を抑えられず、つくり笑顔もくずれて、話の途中で悠太様の胸に飛び込んで泣いてしまった。
そして、悠太様に何度も、何度も泣きながら謝った。
「ロータは悪くない。悪いのは気を緩めすぎた俺だから」
悠太様はわたしの肩を抱き、頭を優しく撫でてくれた。
その暖かい温もりに、わたしは再び安堵し涙する。
「泣くだけ泣いて、寝るとか、ほんと子供かよ。でも本当に心配させてしまった。ほんと、ロータには悪い事をしたな」
眠りに落ちかけた時、そんな悠太様の声が聞こえた気がした。
いえ、悠太様。あなたを護れなかった私が悪いのです。
「あら、ロータは寝てしまいましたか」
「うん、泣き疲れたみたいだ」
俺の胸の中で眠るロータを、ヒルデは優しい眼差しを向け、薄手の布をロータに掛けてあげた。
「ずっと張り詰めていましたからね。悠太、もう少しだけロータをそのまま寝かせてあげてくれませんか」
ベッド脇の椅子に座るとヒルデはそう言った。
「うん、そうだね。ロータにはかなり心配を掛けさせたみたいだし」
「大変だったのですよ、悠太。あんなに反抗されたのは初めてでしたから」
そう言って、また優しい眼差しをロータに向けて、彼女の頭をそっと撫でた。
「そういえばマルデル様がお怒りでしたよ。悠太に。なんでわたしのあげた外套をいつも羽織っていないんだって」
「え、なんで。だって夏だしさ、暑いじゃん。」
ヒルデは口を隠して小さく笑う。
「そんな理由なんて、マルデル様も気の毒ですね。でも悠太、あの外套を身に付けていれば矢が刺さる事も無かったのですよ」
まあ、そうなのだろうけど、夏向きじゃないよな。
「それに戦の時もマルデル様のくれたマントを着けてなかったのでしょう。あのマントは盾なんかよりもよっぽど防御力があったのにとボヤいていましたし」
「なんかさ。あっちの世界であんなの着たことないから、なんかつい着けるのを躊躇っちゃうんだよね」
ロータを起こさないように、またヒルデは口を隠して小さく笑った。そんな気遣いがとても愛おしくなる。
「そんな事を言ったら、たぶんマルデル様は拗ねてしまいます。聞かれたらもう少し上手く言い訳をしてくださいね」
少しだけ愉快そうに微笑むヒルデについ魅入ってしまう。
彼女と初めて出会った時には、こんな風に笑う彼女を見られるとは思わなかった。
彼女は自身にも他人にもとても厳しいが、それ以上に他人にはずっと優しい。
そんな彼女に出会えた事を、とても嬉しく思う。
「ヒルデ、いつもありがとう」
そんな短い言葉でしか感謝を伝えられない自分を、少しだけ残念に思った。
ま、マルデルなのか……
ここは、どこだ……
「傷は魔法で癒やしたから、もう大丈夫よ」
傷…… ああ、矢で射られたのか
「悠太くんは今まで頑張り過ぎたから、少しゆっくり休みませんか。これからはここで穏やかに暮らしましょうね」
そうか、俺はがんばり過ぎたのか。
あとはマルデルと二人きりでか。それもいいかな。
「そう、わたしと悠太くんの二人きりで。ここにいつまでも一緒にいましょう」
いつまでも一緒か……
でも、クロノア、ヒルデ、ロザミアは……
「あの三人はもう来ないの。わたしがそうしたから」
……マルデルが来ないようにしたの、本当に。
「ええ、本当よ。だって二人きりでずっと愛し合いたいから」
二人きりでずっと……
「ええ、そうよ。あなたと肌を、心を重ねてね。こんな風に」
マルデルが腰の辺りに顔を近づけていく……
「悠太くん、さあ、愛し合いましょう。わたしが永遠の快楽に導いてあげる」
下半身に顔を近づけて衣類越しに唇で刺激する……
「なぜ感じてくれないの、悠太くん。わたしの事が嫌いになったの」
……… ……… ………
「どうして、どうしてなの、悠太くん!」
君は誰。君はマルデルじゃない。
「悠太様、さすがです。今この悪夢から解放して差し上げます!」
宙に一点小さな穴が開くと、そこから眩い光が差し込んでくる。その光は輝きを増して辺り一面を照らしたその時、空間が割れるようにはじけた。
「クソッ、おのれ、ヘカテー!」
「生憎、貴方の相手をしてる程、私は暇じゃないの。さようなら、灰色鴉さん」
うわ! 勢いよく俺は上半身を起こした。
「ゆ、悠太くん!」
マルデル、本物のマルデルだ。
先程の悪夢を忘れたくて俺は彼女を強く抱きしめた。
「ちょっと、苦しいよ、悠太くん」
「あっ、ごめん、マルデル」
マルデルを離すと、隣にはあのヘカテーがいることに気付いた。思わず目が合う。
「あの夢から無事に解放できるかは悠太様次第だったの。あのモリガンに一切誘惑されないなんて流石だわ」
うむ、やはり夢だったのか。恐ろしい夢だった。
「悠太くん、本当に無事で良かった」
「でも悠太様の理想が体現されるのに、よく誘惑されずに。しかも大事なところも反応しないなんて、並の精神力じゃありませんね」
むむ、それは、それには少し心当たりがある。けど言えないよな。四人から四日連続で搾り取られたからだなんて。
「すぐにマルデルじゃないって気付いたからね。俺の愛をなめてもらっては困るよ」
「……なんか隠してません、悠太様」
ボッチのくせに、なんか鋭いな。
「もう、ヘカテー、そのくらいにしなさい。悠太くんの言葉を疑わないの」
お、さすがマルデル。ナイスフォロー!
「ヘカテーもボッチをやめて、愛に目覚めればわかるよ」
「ぼ、ボッチなんかじゃありませんから! お姉様と凛ちゃん以外に魅力を感じないだけです。」
フッ、強がってからに。まだまだじゃのう、ひっひひ。
「お姉様。悠太様が失礼な事を考えているようですので、罰を与えるご許可を」
「もう二人共、いい加減にしなさいっ!」
「イタッ! いたい……」
二人揃って、マルデルに怒られてしまった。
マルデルは一通り怒ったあとに、皆に知らせに部屋を出ていった。
残された俺達は恨めしそうに互いを見た。
「覚えておきなさいよ」
「ふん、そっちこそな」
◇
こうして、わたしの名推理により悠太様は悪夢から帰還された。
わたしは彼の笑顔を見て、心から安堵した。
「ロータ、心配掛けてごめんな。もう、お前にあんな顔はさせないからな」
もう、たまには人の心配より、自分の心配をしてくださいよ。これだから悠太様は……
「ほんと、心配したんですから、もう二度とあんな真似は」
わたしは自分の感情を抑えられず、つくり笑顔もくずれて、話の途中で悠太様の胸に飛び込んで泣いてしまった。
そして、悠太様に何度も、何度も泣きながら謝った。
「ロータは悪くない。悪いのは気を緩めすぎた俺だから」
悠太様はわたしの肩を抱き、頭を優しく撫でてくれた。
その暖かい温もりに、わたしは再び安堵し涙する。
「泣くだけ泣いて、寝るとか、ほんと子供かよ。でも本当に心配させてしまった。ほんと、ロータには悪い事をしたな」
眠りに落ちかけた時、そんな悠太様の声が聞こえた気がした。
いえ、悠太様。あなたを護れなかった私が悪いのです。
「あら、ロータは寝てしまいましたか」
「うん、泣き疲れたみたいだ」
俺の胸の中で眠るロータを、ヒルデは優しい眼差しを向け、薄手の布をロータに掛けてあげた。
「ずっと張り詰めていましたからね。悠太、もう少しだけロータをそのまま寝かせてあげてくれませんか」
ベッド脇の椅子に座るとヒルデはそう言った。
「うん、そうだね。ロータにはかなり心配を掛けさせたみたいだし」
「大変だったのですよ、悠太。あんなに反抗されたのは初めてでしたから」
そう言って、また優しい眼差しをロータに向けて、彼女の頭をそっと撫でた。
「そういえばマルデル様がお怒りでしたよ。悠太に。なんでわたしのあげた外套をいつも羽織っていないんだって」
「え、なんで。だって夏だしさ、暑いじゃん。」
ヒルデは口を隠して小さく笑う。
「そんな理由なんて、マルデル様も気の毒ですね。でも悠太、あの外套を身に付けていれば矢が刺さる事も無かったのですよ」
まあ、そうなのだろうけど、夏向きじゃないよな。
「それに戦の時もマルデル様のくれたマントを着けてなかったのでしょう。あのマントは盾なんかよりもよっぽど防御力があったのにとボヤいていましたし」
「なんかさ。あっちの世界であんなの着たことないから、なんかつい着けるのを躊躇っちゃうんだよね」
ロータを起こさないように、またヒルデは口を隠して小さく笑った。そんな気遣いがとても愛おしくなる。
「そんな事を言ったら、たぶんマルデル様は拗ねてしまいます。聞かれたらもう少し上手く言い訳をしてくださいね」
少しだけ愉快そうに微笑むヒルデについ魅入ってしまう。
彼女と初めて出会った時には、こんな風に笑う彼女を見られるとは思わなかった。
彼女は自身にも他人にもとても厳しいが、それ以上に他人にはずっと優しい。
そんな彼女に出会えた事を、とても嬉しく思う。
「ヒルデ、いつもありがとう」
そんな短い言葉でしか感謝を伝えられない自分を、少しだけ残念に思った。
応援ありがとうございます!
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