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二代目転移者と白亜の遺産
14話 白の虐殺
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「なんで! なんでこんなことになったんだ!」
男から取り留めなく溢れる涙は、地面へと落ちることなく胸に抱いた少女の胸元へと落ちていく。
「このクソみたいな世界で! ようやく幸せになれると思ったのに!」
岩の壁は薄らと発光し、黒髪の男の嘆きが反響する。
その場所は異様な光景が広がっていた。
全裸で首が折れ曲がった少女を抱き抱える男の周りには、武装した男達の死体が散らばっている。
十人くらいだろう。無数の剣であちこちを串刺しにされた者、圧倒的な質量で押し潰されたであろう者、針が内部に向かって突き出している人形――鉄の処女と呼ばれる処刑器具からは、閉じた内部から血が溢れ出ていた。
「......なんで、なんでなんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――」
狂ったように嘆き続ける男だったが、突然、ピタリと静止する。
男はここで、一つの決意を固めた。
男はそっと少女の亡骸を地面へと下ろすと、静かに立ち上がる。
「『創造』」
どこからとも無く布を創り出した男は、魔法で布を湿らせると、様々な体液によって汚れた少女の体を丁寧に拭いていく。
拭き終わると、今度は服を創り出す。苦労しながらも着せると、最後に転がっていた左手首を手に持つ。
その指の薬指に嵌る指輪を見て一瞬顔を歪めるが、強く目を瞑った後、血の出ていない断面同士を合わせる。
「『修復』」
光が収まり元通りになったのを確認すると、男は少女を背負って静かに歩き出す。
洞窟内に靴音を響かせ、一歩、また一歩と深い洞窟の奥を目指して歩く。
どす黒い復讐の炎を心の中で燃やしながら。
この三年後、アロンディア聖国で一つの事件が起こる。
死者数延一万人を超えたその事件は、四十七年経った今でも、こう呼ばれている。
『白の虐殺』と。
△ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △
静けさの漂う暗い森、夜空には満月が雲の隙間から地上を照らす。
一定の間隔で梟の鳴く声が森へと響き、時折息を潜ませる生物の気配が僅かに動いていた。
そんな森の開けた場所に建つ一件の小屋に、近付く者がいた。
小屋の横には伐採された木々が積まれ、小屋の窓から漏れた明かりで照らされている。
小屋の入口に立った影は、おもむろに扉を強く叩く。
そこに住む住人にとって、深夜の突然の訪問は予想外だったのだろう。少し苛ついた態度で、中年の男は扉を勢いよく開ける。
「なんだ! こんな時間に――」
しかし、顔を赤くして怒鳴った男の声は、途中で途切れることになる。
無造作に振るわれた刃によって、男の肉体労働によって鍛えられた胴体を残し、切り離された首が扉の外へと転がった。
その惨状を引き起こした男の顔を、開いた扉から出た明かりが照らす。
光の眩しさに顔を顰め、手を目の前にやった黒髪の少年は、煩わしそうに残った男の胴体を掴み、小屋の外へと放り捨てる。
そしてそのままフラフラと小屋の中へと入ると、藁の敷いてある簡易なベッドへと体を投げ出し、すぐに寝息を立て始めた。
……そこで、その少年の胸元から丸い影が飛び出す。
その影は跳ねて移動すると、開いたままの扉から小屋の外に出て、転がったままの男の死体を溶かし吸収していく。
すっかり跡形もなくなったのを確認した丸い生き物は、満足そうに体を一度震わせると、小屋の中へと帰っていく。
扉を閉めて明かりを消したのを確かめた彼女は、寝ている少年へと寄り添う。
変わらない静謐な雰囲気を取り戻した森の中で、小屋にいる丸い影はいつまでも揺れ動いていた――
男から取り留めなく溢れる涙は、地面へと落ちることなく胸に抱いた少女の胸元へと落ちていく。
「このクソみたいな世界で! ようやく幸せになれると思ったのに!」
岩の壁は薄らと発光し、黒髪の男の嘆きが反響する。
その場所は異様な光景が広がっていた。
全裸で首が折れ曲がった少女を抱き抱える男の周りには、武装した男達の死体が散らばっている。
十人くらいだろう。無数の剣であちこちを串刺しにされた者、圧倒的な質量で押し潰されたであろう者、針が内部に向かって突き出している人形――鉄の処女と呼ばれる処刑器具からは、閉じた内部から血が溢れ出ていた。
「......なんで、なんでなんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――」
狂ったように嘆き続ける男だったが、突然、ピタリと静止する。
男はここで、一つの決意を固めた。
男はそっと少女の亡骸を地面へと下ろすと、静かに立ち上がる。
「『創造』」
どこからとも無く布を創り出した男は、魔法で布を湿らせると、様々な体液によって汚れた少女の体を丁寧に拭いていく。
拭き終わると、今度は服を創り出す。苦労しながらも着せると、最後に転がっていた左手首を手に持つ。
その指の薬指に嵌る指輪を見て一瞬顔を歪めるが、強く目を瞑った後、血の出ていない断面同士を合わせる。
「『修復』」
光が収まり元通りになったのを確認すると、男は少女を背負って静かに歩き出す。
洞窟内に靴音を響かせ、一歩、また一歩と深い洞窟の奥を目指して歩く。
どす黒い復讐の炎を心の中で燃やしながら。
この三年後、アロンディア聖国で一つの事件が起こる。
死者数延一万人を超えたその事件は、四十七年経った今でも、こう呼ばれている。
『白の虐殺』と。
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静けさの漂う暗い森、夜空には満月が雲の隙間から地上を照らす。
一定の間隔で梟の鳴く声が森へと響き、時折息を潜ませる生物の気配が僅かに動いていた。
そんな森の開けた場所に建つ一件の小屋に、近付く者がいた。
小屋の横には伐採された木々が積まれ、小屋の窓から漏れた明かりで照らされている。
小屋の入口に立った影は、おもむろに扉を強く叩く。
そこに住む住人にとって、深夜の突然の訪問は予想外だったのだろう。少し苛ついた態度で、中年の男は扉を勢いよく開ける。
「なんだ! こんな時間に――」
しかし、顔を赤くして怒鳴った男の声は、途中で途切れることになる。
無造作に振るわれた刃によって、男の肉体労働によって鍛えられた胴体を残し、切り離された首が扉の外へと転がった。
その惨状を引き起こした男の顔を、開いた扉から出た明かりが照らす。
光の眩しさに顔を顰め、手を目の前にやった黒髪の少年は、煩わしそうに残った男の胴体を掴み、小屋の外へと放り捨てる。
そしてそのままフラフラと小屋の中へと入ると、藁の敷いてある簡易なベッドへと体を投げ出し、すぐに寝息を立て始めた。
……そこで、その少年の胸元から丸い影が飛び出す。
その影は跳ねて移動すると、開いたままの扉から小屋の外に出て、転がったままの男の死体を溶かし吸収していく。
すっかり跡形もなくなったのを確認した丸い生き物は、満足そうに体を一度震わせると、小屋の中へと帰っていく。
扉を閉めて明かりを消したのを確かめた彼女は、寝ている少年へと寄り添う。
変わらない静謐な雰囲気を取り戻した森の中で、小屋にいる丸い影はいつまでも揺れ動いていた――
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