これは私の物ではない

callas

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 「どういうつもりよ!」
 大きな音をたててサラが部屋に入ってきた。
 
 キアラは破かれたドレスを縫っているところだったが、特に驚いた様子も見せず黙々と作業を続けていた。
 
 「ちょっと!聞いてるの?」
 その態度が癪に触ったのか、サラはズカズカと部屋に踏み込み、手に持っていたネックレスをキアラに投げつけた。
 「こんなもの!私だって要らないわよ!」
 妹に当てるつもりが届かなく、は床に当たってバラバラと辺りに散らばった。
 「ふん!」
 その結果に満足したサラは、鼻で笑うと部屋から出ていった。

 「…………扉は開けたら閉める…常識がないわね」
 作業中のドレスを置いて、床に散らばったネックレスの欠片を集めていく。
 「…………これ…戻るかしら?」
 キアラはそれを机の上に並べて、使えそうなものとそうでないものに仕分けた。元に戻せそうにはなかったので、配列を決めると引き出しからワイヤーを取り出した。
 「こういうこともあろうかと用意しておいて良かったわ」
 ドレスは一先ず置いておいて、キアラは作業に取りかかった──
 
  

 ▽ ▼ ▽


 
 「……う~ん…こんなものかしら……」
 細かい作業に没頭していたら、気づけば窓の外は暗くなっていた。
 「そういえばお腹が空いてるわ」
 キアラは厨房に向かった。彼女が何かに没頭すると食事が疎かになることはよくあることなので、料理長の指示で、何時でも調理台が使えるようになっていた。

 「…………残ってなくてもいいのに」
 目の前に立つ中年の男─料理長に呆れた声で呟く。
 「そう言うなら食事は忘れてほしくないね」
 キアラの頭を優しく撫でる手は、身分を考えればあり得ない話だが、今の彼女にはとても温かく感じた。
 「だって……」
 「だってじゃねぇぞ。まぁまた何かに没頭してたんだろ?それがダメとは言わねぇが、成長期なんだ。食べるときはしっかりと食べる!それからやりたいことをしないといけねぇぞ」
 「…………ガンバル」(ボソッ)
 「よしっ!」
 ニカッと笑った料理長は、最後にキアラの頭を一撫ですると調理にとりかかった。
 「ほら、嬢ちゃんもやるんだろ?」
 「…うんっ!」
 
 横に並んで料理をする姿は、まるで年の離れた親子のようでもあった。
 キアラが記憶が戻ってからの日々で、過去の恨みに押し潰されなかったのは、彼の存在がとても大きかった。
 戻った記憶の中で悪い印象がない分、唯一受け入れることが出来た人だった。もちろん厨房ここで働く人はみんな優しく、キアラの世話をやいた。

 彼らはキアラの突然の行動に驚いたものの、今の彼女に必要なものとして、気さくに接してくれている。その気遣いが恨みばかりの日々を僅かに癒してくれた。
 
 両親も、今のキアラにとって彼らとの時間が大切なものだとわかっている。初めて気づいたときは、自分たちには向けられない顔─記憶が戻る前は見れていた─が、彼らに向けられていることにショックを受けたが、その後は気づいてても見ないふりをすることにした。たまにコッソリと覗き見することはあるが……
 マリアンナの時に味わった悲しみから、彼らも学んだのだ──

 (もう二度と我が子を失わない……)


 ▽ ▼ ▽


 「あっ……キアラ……来週、王家主催の夜会があるの…我が家も全員参加だからきちんと準備しておいてね」
 廊下を歩いていたキアラに母が声をかけてきた。部屋へはまだ近づけないようで、廊下に出てきている時を見計らっては話しかけてくる。それが今のキアラには面倒に感じていた。
 しかし、家を出るまでは利用出来るものは利用しようと決めたので、前世で培った淑女の微笑みを母に向けた。
 「わかりましたわ、お母様。話はそれだけですか?……では」
 悲しげな表情の母に背を向けて、キアラは部屋へと戻った。
 
 「さて、夜会に行く服はこの間縫ったあの服にして……ネックレスはにしましょう」



 ▽ ▼ ▽



 「まぁキアラ可愛いわ!そのネックレスもステ…」
 「お母様!私のドレス見てください!この間新しく仕立ててもらったものです!」
 「……あっ…え……えぇサラ、あなたにとてもよく似合ってるわ。さすが私の娘ね」
 母の言葉を遮って現れたサラは、確かに見事なドレスと宝石を身に付けていた。褒められたサラは、見下すような視線を妹に向けた。
 「…………早く行きましょう」
 キアラはその視線を無視して、早々に馬車に乗り込んだ。

 道中も母は何とかキアラに話しかけようとするが、サラのおしゃべりが止まらず、結局そのまま会場に到着した──

 「ヘルウィンズ公爵夫人、サラ嬢、キアラ嬢。ごきげんよう」
 会場の入り口にはウィルが立っていた。彼は婚約者であるサラをエスコートするためここで待っていたようだ。
 「ウィル様、お待たせしましたぁ」
 甘えるような声でサラが言うのを笑顔で受け止め、次にキアラに視線を向けた。
 「キアラ嬢も……今日もステキな装いですね。そのネックレス…珍しいデザインですね」
 「えぇ…ありがとうございます」
 「ウィル様!そんなのよりも私のも見てください。この日のために新しくあつらえた物なんですのよ」
 婚約者の視線がキアラに向いたことに苛ついたサラは、ウィルの腕を引っ張った。
 「あぁ…君のもとてもよく似合ってる」
 「それにしてもキアラ……あなたそんなネックレスいつ買ったの?初めて見るデザインでとても素敵だわ」
 「お祖母様から頂いたものですわ」
 キアラは自分なりの手直しが上手く言ったことに内心ほくそ笑んだ。
 
 「なっ!私は頂いてないわよ」
 「前回来られたときに頂いたものです。そのときはお姉様も頂いてましたよ?ねぇお母様?」
 「え?……えぇそうね。きちんと私たちの前で頂いたもの。もう忘れたのサラ?」
 「あれとは違うじゃない!それにあれは私が壊っ……」
 「「こわ?」」
 母とウィルが同時に聞き返した。
 「こ…こ…………わ……」
 「ですよね?お姉様」
 サラの言いたいことを代弁すると、鋭い目付きで睨まれた。

 「君は……君はまだこんなことをやっていたのか?」
 ウィルが怒りを含んだ声で尋ねると、サラの肩がビクッとなった。
 「サラ……あなた妹の物を壊すなんて…それもお祖母様からのプレゼントを……」
 「いや……あの…私………ちが…」
 キアラは何やら言い訳をしようとするサラを一瞥し、「そろそろ入らないと始まってしまいますわよ」と開始の時刻が迫っていることを伝えた。

 「サラ……この件は帰ってから話しましょう」
 母の言葉にサラは渋々頷いた。ウィルは何も言わなかったが、婚約者の方を見ようともしなかった。サラは八つ当たりとばかりにキアラを睨み付けた。

 (自業自得でしょうに……)

 その後の雰囲気は最悪だったのだろう。何時ものように早々に立ち去ったキアラは知らなかったが、家に帰ってきたサラは荒れに荒れていた。






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