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Ep.09 放課後のきつね日和(前)≪曇りのち陽炎≫
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午前の始業チャイムが鳴っても、教室の空気はまだ連休の名残りで少し重かった。
隣の席のあくびが連鎖して、窓の外の薄い雲まで伸びをしたみたいに見える。
連休は終わった。日常が戻ってきた。
(……何でもない普通の日が、やっぱり好きだ)
ノートの端をそろえ、配られたプリントの角と角を合わせる。そういう小さな整列で、呼吸のリズムが落ち着く気がする。
四限、家庭科。今日は調理実習で「和定食」だ。
班分け表に目を落とすと、俺の名前の隣——
「伏見 朱里」
思わず二度見した。
教室で自然に中心にいるタイプ。声がよく通って、冗談の“間”も外さない。明るいイエローブラウンの髪に、茶色がかった切れ長の目がいつも人懐っこそうに笑っている。甘さと辛さをちょうど綺麗な配分で混ぜられた目を惹く顔立ち。制服は規定の範囲で適度に着崩して、“自分の形”にしている。明るくて、愛嬌があって、空気を読むのが早い——俺とは、たぶん真逆の人種。
二年で初めて同じクラスになったけど、新学期が始まってから、まだまともに話したことはなかった。
家庭科室のステンレスの台に、菜箸とまな板が並ぶ。
半解凍のサバ、刻みネギ、だしパック、卵。ガス台の火がともって、湯気の音が少しずつ増えていく。
「よーし、卵焼き担当、決めよっか。……雨宮、やる?」
「あ、うん。やる」
ボウルに卵を割って、箸を走らせる。黄身と白身が渦を巻く音。四角いフライパンが温まるまでの数秒が、いちばん好きな時間だ。
ケロスケが調理台の影から『くんくん……うまい匂い』と鼻をひくつかせた。
(出てくるなって。“陽の気”で焼けるぞ)
『はいはい。陰キャ・カエル、空気になります』
卵液を一層ずつ流し込んで巻く。端を揃えてきゅっと押さえる。手だけが自動で動くこの感じが、思考を落ち着けてくれる。
「うまっ、プロかよ。家でもやってる系?」
伏見が笑いながらのぞき込み、意外そうな声を出した。きれいな二重のところに、いたずらっぽい影が落ちる。
「……まぁ、弁当作るから」
「へぇ。雨宮って、意外と家庭的なんだ」
名前を呼ばれた瞬間、胸の内側が少しずれた。
(二回目。気のせいじゃない。名前、ちゃんと覚えてくれてるんだ)
それだけのことで、鎖骨のあたりが少しくすぐったくなる。
『家庭的っていうより、生存スキルだろ』
ケロスケのぼやきは、耳の奥で泡のように弾ける。
伏見は味噌汁の味見をして「うまっ」と素直に笑った。その肩の上で、狐の影が一瞬だけ机の縁を撫でた。尻尾の先が、熱の揺らぎみたいにふわりと光る。
——知っている。
伏見 朱里は、“持っている”人だ。
初めて同じクラスになったとき、明るくて中心にいるタイプだという印象以外に、もうひとつだけ目を引いたものがあった。彼のそばには、いつも寄り添うように狐がいた。
姿は淡く、光の加減で消えることもあるけれど、確かにそこに“気配”がある。教室でその存在を認識しているのは、たぶん俺と白河くらいだ。
狐は、強い光を持つ。だから、見ようとしなくても視界に入る。それが理由で、俺は極力——彼の視界に入らないようにしていた。
避けているわけじゃない。ただ、自分が“持っている”人間だと知られたくないだけ。だから俺は、見えないふりを続けてきた。今日も、そうしている。
見なかったことにして、卵焼きに視線を戻す。
「副会長さ、こないだまたテレビ出てたらしいよ」
向こうの台の女子の声、黄色く滲んだ囁きが、湯気の温度と混ざり合う。お玉が鍋の縁に当たる音が、やけに大きく響いた。
(……やめてくれ。いまは、卵だけに集中したい)
焼き魚、味噌汁、卵焼き。器に盛って提出すると、「いいお出汁。味、安定してるね」と先生の声が穏やかに高評価を押してくれた。
班の子たちはわいわい片づけに入って、俺は皿の水気を拭き取る。ステンレスの表面に、濡れた指の跡が曇って、すうっとすぐに消えた。
『こういう晴れも悪くないな』
(同意。今日は、晴れ寄りだ)
台の上に小さく残った卵の香ばしさと、狐の残り香みたいな陽の気配。それらが混ざり合って、胸の奥がゆっくりとあたたかくなる。俺にとっての“晴れ”は、たぶんこういう瞬間だ。
◇
放課後、慌ただしく幾つかの声が雪崩れ込んできた。
「悪い!俺、部活のミーティング!」
「ちょい用事!掃除、頼むわ、えっと……雨野?」
「ちげーよ、雨川だよ。サンキュー!」
「あ、はい……」
教室のドアが軽く跳ねて閉まる。残ったのは、黒板、机の列、俺——“雨宮”です。
(断れよ、のタイミングで、口が勝手に“はい”って言うの、ほんとやめたい)
『また“はい”って言った! はい病』
(病名にすんな)
夕方の光が、窓の枠に沿って斜めに伸びる。黒板消しの匂い、チョークの粉。外からは運動部の掛け声が聞こえてくる。水拭きのバケツの水面が、雑巾を絞るたびに小さく輪を描いた。
掃除を任されるのは、嫌いじゃない。
でも“押し付けられても文句を言わない俺”っていう役を、周りが期待してる気もして、たぶん俺もそれを演じている。
その方が楽だから——いや、嫌われるのが怖いだけ、かもしれない。
黒板の端にチョークの粉が白くたまっている。黒板消しを持って端からゆっくり集めながら、連休明けならこうして静かに始めるのが正解だ、と独り言のように言い訳をする。
◇
「ん?あれ、今日の当番、雨宮だったか?」
ドアのところから聞こえてきた声に振り返ると、伏見 朱里が教室の中に半歩ほど入っていた。
いつものニットを肩に掛け、シャツの袖を肘まで捲っている。片手には巻いたケーブル、ポケットからは小さなピンマイクのケースがのぞいた。体育館の放送席から戻ってきたのだろう。ビニールの匂いと外気の湿気が混じって、彼の周囲だけ温度が違う気がした。
そうだ、伏見は放送部だ。
マイク越しでも分かる魅力ある声。低すぎず、高すぎず、柔らかいのに芯がある。音の輪郭がきれいで、スピーカーから伏見の声が流れてくると、手を止めて聞き入ってる女子たちをよく目にする。聞く側をドキッとも、落ち着かせもするような不思議な響き。“声がいい”って、こういう人のことを言うんだと思った。
「マイク、返し忘れててさ」
指先でピンマイクのケースをコツンと弾く。
「いや……暇、だったんだ」
「マジか。優しいな。てか、真面目すぎ」
「好きでやってるわけでもないけど、嫌いでもない」
そう答えると、伏見は笑って、教卓横のほうきを取った。
「二人の方が早いじゃん。俺も掃除、嫌いじゃないし」
(ありがたい……けど、“陽キャの『嫌いじゃないし』”って、どこまで信用していいんだ?)
『狐の社交力だ。利用していけ』
(利用って、お前……それ失礼だろ)
ほうきが床を掃く音が、二本分のリズムになる。窓の方から差す光が、ほこりの粒をゆらゆらと照らしていた。
伏見はその光を目で追いながら、ふっと目を細めた。
「んー、この教室、空気重くね?」
「GW明けだからじゃない?」
『狐が探ってんな。ちょっと空気が動いてる』
ケロスケのささやきと同時に、机の上で何かが影をひいた。見えないふり——のはずだったのに、視界の端で、尾の先が光を反射する。
狐。
伏見の肩から離れた位置で、肘をつくようにしてジッとこちらを見ている。橙の瞳が静かに光り、縁に淡い炎のような縁取りがある。狐の表情は静かで、笑っているのか、試しているのか分からない。
『……へぇ。掃除“嫌いじゃない”、ねぇ』
狐の声が色を持たない陽炎のように揺らいで届く。
伏見が机の上の“何もないはずの空間”へ目をやり、ほんのわずかに目を細めた。狐と視線を交わしているのだろう。
けれど、声には出さない。——それが、彼の“流儀”なんだろう。
他人の前では、守護生物のことを口にしない。“見えている側”同士の暗黙のマナー。
その沈黙に、無言の信頼みたいなものを感じた。陽の光とほこりと狐の尾、全部が同じトーンで、静かに放課後の教室に溶けていくようだった。
「お前、さ……なんか、雰囲気変わった?」
「えっ」
掃除中の沈黙を破ったその一言が、不意に心臓を掴む。
唐突なのに、どこか真っすぐで。
「前より、空気が澄んでる感じ。なんか、いい」
軽い言い方なのに、“前より”という言葉の響きが耳の奥に残った。胸の奥で小さく引っかかる。
(前より……? 話すの、今日が初めてだよな)
「前よりって?」
反射的に聞き返してしまう。
伏見は少し考えてから、照れたように肩をすくめた。
「んー、あー……と、勘違いかも。話すの今日が初だっけ?」
「……そう、だと思うけど」
「じゃ、初だけど何か懐かしい感じってことで」
“懐かしい”という言葉が、静かに残る。その意味を問うほどの勇気はなくて、代わりに黒板に残る白い筋を拭いた。それきり静かになった。
伏見は気づいた様子もなく、机のほこりを指先で払っている。その指先の動きがなぜかきれいに見えた。笑ってるわけでもなく、飾り気のない仕草なのに。
窓の外の雲は薄く、光はやわらかい。けれど、教室の温度だけがほんの少し上がっていく。
そのわずかな変化を、たぶん彼も気づいていない。——俺だけが、息の仕方を忘れていた。
◇
隣の席のあくびが連鎖して、窓の外の薄い雲まで伸びをしたみたいに見える。
連休は終わった。日常が戻ってきた。
(……何でもない普通の日が、やっぱり好きだ)
ノートの端をそろえ、配られたプリントの角と角を合わせる。そういう小さな整列で、呼吸のリズムが落ち着く気がする。
四限、家庭科。今日は調理実習で「和定食」だ。
班分け表に目を落とすと、俺の名前の隣——
「伏見 朱里」
思わず二度見した。
教室で自然に中心にいるタイプ。声がよく通って、冗談の“間”も外さない。明るいイエローブラウンの髪に、茶色がかった切れ長の目がいつも人懐っこそうに笑っている。甘さと辛さをちょうど綺麗な配分で混ぜられた目を惹く顔立ち。制服は規定の範囲で適度に着崩して、“自分の形”にしている。明るくて、愛嬌があって、空気を読むのが早い——俺とは、たぶん真逆の人種。
二年で初めて同じクラスになったけど、新学期が始まってから、まだまともに話したことはなかった。
家庭科室のステンレスの台に、菜箸とまな板が並ぶ。
半解凍のサバ、刻みネギ、だしパック、卵。ガス台の火がともって、湯気の音が少しずつ増えていく。
「よーし、卵焼き担当、決めよっか。……雨宮、やる?」
「あ、うん。やる」
ボウルに卵を割って、箸を走らせる。黄身と白身が渦を巻く音。四角いフライパンが温まるまでの数秒が、いちばん好きな時間だ。
ケロスケが調理台の影から『くんくん……うまい匂い』と鼻をひくつかせた。
(出てくるなって。“陽の気”で焼けるぞ)
『はいはい。陰キャ・カエル、空気になります』
卵液を一層ずつ流し込んで巻く。端を揃えてきゅっと押さえる。手だけが自動で動くこの感じが、思考を落ち着けてくれる。
「うまっ、プロかよ。家でもやってる系?」
伏見が笑いながらのぞき込み、意外そうな声を出した。きれいな二重のところに、いたずらっぽい影が落ちる。
「……まぁ、弁当作るから」
「へぇ。雨宮って、意外と家庭的なんだ」
名前を呼ばれた瞬間、胸の内側が少しずれた。
(二回目。気のせいじゃない。名前、ちゃんと覚えてくれてるんだ)
それだけのことで、鎖骨のあたりが少しくすぐったくなる。
『家庭的っていうより、生存スキルだろ』
ケロスケのぼやきは、耳の奥で泡のように弾ける。
伏見は味噌汁の味見をして「うまっ」と素直に笑った。その肩の上で、狐の影が一瞬だけ机の縁を撫でた。尻尾の先が、熱の揺らぎみたいにふわりと光る。
——知っている。
伏見 朱里は、“持っている”人だ。
初めて同じクラスになったとき、明るくて中心にいるタイプだという印象以外に、もうひとつだけ目を引いたものがあった。彼のそばには、いつも寄り添うように狐がいた。
姿は淡く、光の加減で消えることもあるけれど、確かにそこに“気配”がある。教室でその存在を認識しているのは、たぶん俺と白河くらいだ。
狐は、強い光を持つ。だから、見ようとしなくても視界に入る。それが理由で、俺は極力——彼の視界に入らないようにしていた。
避けているわけじゃない。ただ、自分が“持っている”人間だと知られたくないだけ。だから俺は、見えないふりを続けてきた。今日も、そうしている。
見なかったことにして、卵焼きに視線を戻す。
「副会長さ、こないだまたテレビ出てたらしいよ」
向こうの台の女子の声、黄色く滲んだ囁きが、湯気の温度と混ざり合う。お玉が鍋の縁に当たる音が、やけに大きく響いた。
(……やめてくれ。いまは、卵だけに集中したい)
焼き魚、味噌汁、卵焼き。器に盛って提出すると、「いいお出汁。味、安定してるね」と先生の声が穏やかに高評価を押してくれた。
班の子たちはわいわい片づけに入って、俺は皿の水気を拭き取る。ステンレスの表面に、濡れた指の跡が曇って、すうっとすぐに消えた。
『こういう晴れも悪くないな』
(同意。今日は、晴れ寄りだ)
台の上に小さく残った卵の香ばしさと、狐の残り香みたいな陽の気配。それらが混ざり合って、胸の奥がゆっくりとあたたかくなる。俺にとっての“晴れ”は、たぶんこういう瞬間だ。
◇
放課後、慌ただしく幾つかの声が雪崩れ込んできた。
「悪い!俺、部活のミーティング!」
「ちょい用事!掃除、頼むわ、えっと……雨野?」
「ちげーよ、雨川だよ。サンキュー!」
「あ、はい……」
教室のドアが軽く跳ねて閉まる。残ったのは、黒板、机の列、俺——“雨宮”です。
(断れよ、のタイミングで、口が勝手に“はい”って言うの、ほんとやめたい)
『また“はい”って言った! はい病』
(病名にすんな)
夕方の光が、窓の枠に沿って斜めに伸びる。黒板消しの匂い、チョークの粉。外からは運動部の掛け声が聞こえてくる。水拭きのバケツの水面が、雑巾を絞るたびに小さく輪を描いた。
掃除を任されるのは、嫌いじゃない。
でも“押し付けられても文句を言わない俺”っていう役を、周りが期待してる気もして、たぶん俺もそれを演じている。
その方が楽だから——いや、嫌われるのが怖いだけ、かもしれない。
黒板の端にチョークの粉が白くたまっている。黒板消しを持って端からゆっくり集めながら、連休明けならこうして静かに始めるのが正解だ、と独り言のように言い訳をする。
◇
「ん?あれ、今日の当番、雨宮だったか?」
ドアのところから聞こえてきた声に振り返ると、伏見 朱里が教室の中に半歩ほど入っていた。
いつものニットを肩に掛け、シャツの袖を肘まで捲っている。片手には巻いたケーブル、ポケットからは小さなピンマイクのケースがのぞいた。体育館の放送席から戻ってきたのだろう。ビニールの匂いと外気の湿気が混じって、彼の周囲だけ温度が違う気がした。
そうだ、伏見は放送部だ。
マイク越しでも分かる魅力ある声。低すぎず、高すぎず、柔らかいのに芯がある。音の輪郭がきれいで、スピーカーから伏見の声が流れてくると、手を止めて聞き入ってる女子たちをよく目にする。聞く側をドキッとも、落ち着かせもするような不思議な響き。“声がいい”って、こういう人のことを言うんだと思った。
「マイク、返し忘れててさ」
指先でピンマイクのケースをコツンと弾く。
「いや……暇、だったんだ」
「マジか。優しいな。てか、真面目すぎ」
「好きでやってるわけでもないけど、嫌いでもない」
そう答えると、伏見は笑って、教卓横のほうきを取った。
「二人の方が早いじゃん。俺も掃除、嫌いじゃないし」
(ありがたい……けど、“陽キャの『嫌いじゃないし』”って、どこまで信用していいんだ?)
『狐の社交力だ。利用していけ』
(利用って、お前……それ失礼だろ)
ほうきが床を掃く音が、二本分のリズムになる。窓の方から差す光が、ほこりの粒をゆらゆらと照らしていた。
伏見はその光を目で追いながら、ふっと目を細めた。
「んー、この教室、空気重くね?」
「GW明けだからじゃない?」
『狐が探ってんな。ちょっと空気が動いてる』
ケロスケのささやきと同時に、机の上で何かが影をひいた。見えないふり——のはずだったのに、視界の端で、尾の先が光を反射する。
狐。
伏見の肩から離れた位置で、肘をつくようにしてジッとこちらを見ている。橙の瞳が静かに光り、縁に淡い炎のような縁取りがある。狐の表情は静かで、笑っているのか、試しているのか分からない。
『……へぇ。掃除“嫌いじゃない”、ねぇ』
狐の声が色を持たない陽炎のように揺らいで届く。
伏見が机の上の“何もないはずの空間”へ目をやり、ほんのわずかに目を細めた。狐と視線を交わしているのだろう。
けれど、声には出さない。——それが、彼の“流儀”なんだろう。
他人の前では、守護生物のことを口にしない。“見えている側”同士の暗黙のマナー。
その沈黙に、無言の信頼みたいなものを感じた。陽の光とほこりと狐の尾、全部が同じトーンで、静かに放課後の教室に溶けていくようだった。
「お前、さ……なんか、雰囲気変わった?」
「えっ」
掃除中の沈黙を破ったその一言が、不意に心臓を掴む。
唐突なのに、どこか真っすぐで。
「前より、空気が澄んでる感じ。なんか、いい」
軽い言い方なのに、“前より”という言葉の響きが耳の奥に残った。胸の奥で小さく引っかかる。
(前より……? 話すの、今日が初めてだよな)
「前よりって?」
反射的に聞き返してしまう。
伏見は少し考えてから、照れたように肩をすくめた。
「んー、あー……と、勘違いかも。話すの今日が初だっけ?」
「……そう、だと思うけど」
「じゃ、初だけど何か懐かしい感じってことで」
“懐かしい”という言葉が、静かに残る。その意味を問うほどの勇気はなくて、代わりに黒板に残る白い筋を拭いた。それきり静かになった。
伏見は気づいた様子もなく、机のほこりを指先で払っている。その指先の動きがなぜかきれいに見えた。笑ってるわけでもなく、飾り気のない仕草なのに。
窓の外の雲は薄く、光はやわらかい。けれど、教室の温度だけがほんの少し上がっていく。
そのわずかな変化を、たぶん彼も気づいていない。——俺だけが、息の仕方を忘れていた。
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