アストレイヴ 〜中二病召喚計画〜

よしまさ

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第26話 「サーペントジェネラル」

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迅は静かな宿の部屋で、分厚い本を読みふけっていた。
タイトルは――『属性魔法学Ⅰ』。ルーカスから借りたものだ。

「魔法の始まりは、女神イデアの回復の力を人に分け与えたことが起源である。
魔族との戦いに疲弊する民に、女神は回復と光の加護を与えた。
そして他の神々にも自分の民を助けて欲しいと呼びかけ、火と水、天と地、それぞれの神々が力を貸すこととなった。火の大魔導士イグナ。水の大魔導士セレナ。天の大魔導士ルゼル。地の大魔導士ガルマ。彼らはそれぞれの属性の基礎となる魔法を開発し、魔法適性のあるものに教え、魔物を倒し、ヴェルステリアの領土を守った。神々と4大属性の祖、4賢者の物語である――」

本をパタンと閉じ、迅はニヤリと笑った。

「なるほどな……。やっぱり、魔法って“作る”もんなんだな。」

だが、現実はそう甘くない。
(とはいえ、俺には“属性適性なし”って烙印ついてるしな……。ハンデ持ちもいいとこだ)

「おーい!出勤時間だぞー!」
ドアの向こうから、健介の声が響いた。



迅たちのパーティーは、いまやDランク。
索敵・奇襲・バフと迅の支援が光り、安定した戦果を上げていた。

迅は前衛の健介と中衛のヴィックスをサポートし、要所で敵陣をかき乱す。
短剣に塗った毒と、巧妙な立ち回りで戦況を動かす。
そしてエッジの火炎魔法――それを最大限に活かすため、油や火薬を組み合わせる連携戦術を確立していた。

地味だが、迅こそがパーティーの縁の下の力持ちだった。



「今日の依頼は――『サーペントジェネラル討伐』。報酬3000ゴールドだってよ!」
ヴィックスが嬉しそうに依頼書を掲げる。

「報酬3000!? マジか! これ倒したらバカンス行こうぜ!」

「……サーペントジェネラルか」
迅の顔が曇る。

「体長20メートル。毒属性持ち。洞窟内戦闘で火炎系禁止。火薬も落盤リスク。背後に回っても尻尾がある。勝ち筋……薄いな。これはやめた方が――」

「なに弱気になってんだよ!」ヴィックスが食い気味に割り込んだ。

「迅のバフで防御上げて、奇襲アイテムで攪乱! 高音玉も閃光花も電撃玉も全部使う! あとは迅のコード魔法で足止めだ! 一気に叩く! それで決まりだ!」

「おい、あんなの足止めできる保証もないんだぞ。それに毒霧があるだろ!」

「毒消しを山ほど持ってけばいいだけだろ!」

ふたりの言い合いが激しくなる。
たまらず健介が間に入った。

「……はいストップ! 一旦落ち着け!」
大きく息を吐き、真剣な目で二人を見る。

「ヴィックスの作戦で行く。だが、ヤバいと思ったら即撤退。それでいいな?」

「……わかった。」
ヴィックスが頷く。

「撤退判断は俺が出す。いいね?」
迅が続け、全員が同意した。



準備は完璧だった。
毒消し薬は通常の三倍。補助アイテムも全種フルセット。
そして彼らは、ゴルダン鉱山の奥へと足を踏み入れる。

組合員からの説明によれば――

「2ヶ月前から山奥の坑道にサーペントジェネラルが棲みついて採掘ができねえ。しかも最近は、卵まで産みやがってな。」

「つまり、子どもサーペントがウジャウジャってわけか。へへ、蛇狩りの時間だぜ!」
ヴィックスが槍を構える。

坑道内のそこかしこで、小型サーペントがうねっていた。
順調に数を減らし、最奥の大広間へと到達する。

「……行くぞ。作戦通りに」

「ヤバかったら撤退、忘れるなよ」

迅は仲間にバフをかけ、閃光花・高音玉・電撃玉・煙幕――すべてを同時に投げた。

眩い光と爆音。
洞窟内を震わせるほどの衝撃。
巨大な影が、もぞりと動く。

「今だ!」

三人が突撃――煙幕の中、迅はコード魔法を展開しようと手をかざした。

――が、その瞬間。

轟音。
サーペントジェネラルの尾が、視界を裂いた。

ドゴォッ!!

健介とヴィックスが壁に叩きつけられる。
立ち上がろうとした健介の身体に、蛇の牙が突き立った。

鋼の鎧を貫き、毒が流れ込む。

一瞬、指が痙攣した。
――次の瞬間、彼の姿は霧のように消えた。

死。

「迅!逃げろ!!!」

ヴィックスの叫びが洞窟に響く。

迅は我に返り、走った。
ヴィックスは逆方向へ――自分が囮になるために。



鉱山の外。
全力疾走の末、二人は膝をつく。

「くそっ……! くそっ!! 一瞬じゃねぇか!!」

迅は地面を拳で叩いた。

「撤退の合図すら出せなかった……!」

エッジも肩を震わせながら呟く。

「……あれは、バケモンだった。止めるべきだった。俺も……」



町に戻ると、宿の前に見慣れた二人の姿があった。
装備も武器もない。まるで一般人のような風貌で。

「おお、よかった……お前ら、生きてたか」

ルーカスが笑顔を見せた。

「いやー、やられたわ。迅の言った通り……いや、それ以上にヤベェ化け物だったな」
健介が苦笑する。

「大丈夫なのかよ、お前ら……?」
迅の声は震えていた。

「マジでトラウマだよ。痛ぇし、絶望感すげぇしな」

「でもまあ、いつかはこうなると思ってたしな。覚悟はできてたよ。装備もそろそろ替えたかったし、丁度いいさ」

その言葉に――迅の何かが切れた。

「……何が“丁度いい”だよ!友達が死ぬ瞬間を、見せつけられたんだぞ!」

怒鳴り声が響く。

他の3人は顔を上げることもできない。

迅はそのまま踵を返し、夜の通りへ消えた。

(何が“トラウマ”だよ……俺の方が、よっぽどだろ……)

脳裏には、健介が噛み砕かれる瞬間――
血の飛沫と、目の光が消える瞬間が、今も焼き付いて離れなかった。
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