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第50話 奈落亭
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第50話 奈落亭
境界集落ネクロード──。
名目上はヴェルステリア領の一部だが、魔王領アビスフェルドと接する唯一の関所ゆえ、
双方の住民や行商、賞金稼ぎまで入り乱れる“世界の吹き溜まり”である。
この街に“流れ着く”のは、居場所を失った者たちばかり。
迫害された者、差別された者、社会に馴染めなかった者、犯罪歴持ち、そして賞金首。
人間、獣人、爬人族、ダークエルフ、ヴァンパイア、混血族……
外では“異端”と呼ばれた者たちが、唯一堂々と肩を並べられる、世界で稀有な自由都市だった。
そんなネクロードで最近話題の食事屋ができた。その名も「奈落亭」
⸻
ミストラは十神を連れ、ネクロードで人気急上昇中の魔物料理店「奈落亭」へ案内した。アビスフェルド産肉の直営店でもある。
「凄いことになってます。最近は昼でも入れない店なんですから」
扉を開けた瞬間、店内から喧騒と爆発的な肉の香りが流れ出る。
カウンターではダークエルフの傭兵がヘルボア・ファイアローストにかぶりつき、
奥のテーブルでは爬人族がスパイシーウイングを投げ合い、
壁際では吸血鬼がブラックシチューをストローで啜っている。
メニューを見るだけで喉が鳴る。
・ヘルボア・ファイアロースト
・深淵牛のブラックシチュー
・グレイトオストのスパイシーウイング
・巨大オスト卵のアビスオムレツ
「……破壊力あるメニューしかねぇな」
「それが売りなんですよ。味は保証します」
厨房からはフランの炎魔法を発動する声も聞こえる。
そして奥の特等席──
アビスフェルド三獣盛り“深淵プレート”に真正面からガッつく影があった。
魔王である。
「魔王様、連れて参りました」
「おう十神! 丁度いい、座れ座れ。食え。話はそれからだ」
この豪快さが魔族の王たる所以である。
十神はヘルボア角煮サンドを注文し、ひとくち噛む。
暴力的だが旨い。舌が殴られるような旨さだ。
その時だった。
「十神。お前、魔王になれ」
あまりの唐突さにサンドを喉に詰まらせて床を転がる十神。
横でミストラが頭を抱えた。
「え、ええーっ!!?」
「何だ、やりたくねーのかよ。まあ聞け。俺だって嫌なんだよ魔王なんて。『強い』ってだけで無理やりやらされてよ。
玉座は薄暗いわ、メシは不味いわ、人間どもとはたまに戦わされるわ……」
魔王は山盛り肉にかぶりつきながら続ける。
「だが、お前が来てからよ。インフラも整ったし、飯は旨くなったし、商売は回るし、街は活気づくし……もう俺がやるよりお前の方が適任だろ?」
「いやいや絶対めんどくさいからですよね!」
ミストラが割って入る。
「魔王様! すでに“次期魔王候補”が二人いるんですよ?彼らを差し置いて十神様が就任したら間違いなく戦争になります!」
「あー……アイツらねぇ。ガチで“魔族してます!”って感じで苦手なんだよな」
「苦手って……」
魔王は肉を指でつまみながら、遠くを見る。
「結局アビスフェルドって退屈なんだよ。やることねぇからヴェルステリア侵攻とか、破壊行為とかに走る。ダッセーと思わねーか? なあ十神」
——言われた十神は、胸がズキッと痛んだ。
(……うっ。俺のかつての“世界破壊”野望、めっちゃバカにされてる……!!)
⸻
その夜。
十神は珍しく真面目に、ひとり考えこんでいた。
「俺……最初の頃は、本気でこの世界を破壊することしか考えてなかった。でも最近はさ、ゴミ焼却だったり、街の整備だったり……
気づいたら誰かの役に立ってたんだよな。気がつけば、この世界を破壊するという初心を忘れてしまっていた。
……これって俺、おかしくなったのか?」
隣で話を聞いていたアンコが静かに言う。
「主は、これまで“誰からも認められなかった”のでしょう。だから破壊で存在を示そうとした。
でも今は違います。主の働きで喜ぶ者がいて、感謝する者がいて……破壊ではなく“創造”で満たされることを知ったのです」
「……俺、学習してるってことか」
「ええ。当たり前の人間らしさが芽生えてきただけです。時と環境が変われば、心も変わるのは当然ですよ」
「お前……前世はカウンセラーか?」
「かう……何ですかそれ?」
「いや、いいよ。忘れてくれ」
十神は小さく息をつき、天井を見た。
「……いつかこの世界を破壊して、俺一人残って、その先に何がある?
だったらもう……“作る側”になるのも悪くないよな」
アンコは柔らかな声で答えた。
「私は、主の選択をいつでも尊重します」
その夜──十神の中で、何かが確かに変わった。
破壊の十神は、静かに“創造”へと歩みを始める。
境界集落ネクロード──。
名目上はヴェルステリア領の一部だが、魔王領アビスフェルドと接する唯一の関所ゆえ、
双方の住民や行商、賞金稼ぎまで入り乱れる“世界の吹き溜まり”である。
この街に“流れ着く”のは、居場所を失った者たちばかり。
迫害された者、差別された者、社会に馴染めなかった者、犯罪歴持ち、そして賞金首。
人間、獣人、爬人族、ダークエルフ、ヴァンパイア、混血族……
外では“異端”と呼ばれた者たちが、唯一堂々と肩を並べられる、世界で稀有な自由都市だった。
そんなネクロードで最近話題の食事屋ができた。その名も「奈落亭」
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ミストラは十神を連れ、ネクロードで人気急上昇中の魔物料理店「奈落亭」へ案内した。アビスフェルド産肉の直営店でもある。
「凄いことになってます。最近は昼でも入れない店なんですから」
扉を開けた瞬間、店内から喧騒と爆発的な肉の香りが流れ出る。
カウンターではダークエルフの傭兵がヘルボア・ファイアローストにかぶりつき、
奥のテーブルでは爬人族がスパイシーウイングを投げ合い、
壁際では吸血鬼がブラックシチューをストローで啜っている。
メニューを見るだけで喉が鳴る。
・ヘルボア・ファイアロースト
・深淵牛のブラックシチュー
・グレイトオストのスパイシーウイング
・巨大オスト卵のアビスオムレツ
「……破壊力あるメニューしかねぇな」
「それが売りなんですよ。味は保証します」
厨房からはフランの炎魔法を発動する声も聞こえる。
そして奥の特等席──
アビスフェルド三獣盛り“深淵プレート”に真正面からガッつく影があった。
魔王である。
「魔王様、連れて参りました」
「おう十神! 丁度いい、座れ座れ。食え。話はそれからだ」
この豪快さが魔族の王たる所以である。
十神はヘルボア角煮サンドを注文し、ひとくち噛む。
暴力的だが旨い。舌が殴られるような旨さだ。
その時だった。
「十神。お前、魔王になれ」
あまりの唐突さにサンドを喉に詰まらせて床を転がる十神。
横でミストラが頭を抱えた。
「え、ええーっ!!?」
「何だ、やりたくねーのかよ。まあ聞け。俺だって嫌なんだよ魔王なんて。『強い』ってだけで無理やりやらされてよ。
玉座は薄暗いわ、メシは不味いわ、人間どもとはたまに戦わされるわ……」
魔王は山盛り肉にかぶりつきながら続ける。
「だが、お前が来てからよ。インフラも整ったし、飯は旨くなったし、商売は回るし、街は活気づくし……もう俺がやるよりお前の方が適任だろ?」
「いやいや絶対めんどくさいからですよね!」
ミストラが割って入る。
「魔王様! すでに“次期魔王候補”が二人いるんですよ?彼らを差し置いて十神様が就任したら間違いなく戦争になります!」
「あー……アイツらねぇ。ガチで“魔族してます!”って感じで苦手なんだよな」
「苦手って……」
魔王は肉を指でつまみながら、遠くを見る。
「結局アビスフェルドって退屈なんだよ。やることねぇからヴェルステリア侵攻とか、破壊行為とかに走る。ダッセーと思わねーか? なあ十神」
——言われた十神は、胸がズキッと痛んだ。
(……うっ。俺のかつての“世界破壊”野望、めっちゃバカにされてる……!!)
⸻
その夜。
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「ええ。当たり前の人間らしさが芽生えてきただけです。時と環境が変われば、心も変わるのは当然ですよ」
「お前……前世はカウンセラーか?」
「かう……何ですかそれ?」
「いや、いいよ。忘れてくれ」
十神は小さく息をつき、天井を見た。
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だったらもう……“作る側”になるのも悪くないよな」
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