アストレイヴ 〜中二病召喚計画〜

よしまさ

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第63話 対イオリス戦

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第63話 対イオリス戦

森の中を進む三人。
世界樹の麓特有の澄んだ空気のせいか、異様なほど静かだった。

「……そろそろだな。各自、戦闘準備」

迅の声が低くなる。

「え? でも何も――」

真也が言い終わる前だった。

バシュンッ!

目の前の空間が歪み、魔法陣が展開される。
直後、地面を揺らしながら巨大なアイアンゴーレムが出現した。

「うわっ、出た!」

「くそっ……! 事前に打ち合わせしとくべきだった!」

ゴーレムの拳が唸りを上げて振り下ろされる。

だが――

「問題ない」

迅は一歩も動かず、手を掲げた。

ドォン!

ドーム状の対物理障壁が瞬時に展開され、
ゴーレムの拳を弾き返す。

「真也!」

迅は間髪入れず、板状の障壁を真也の足元に水平展開した。

「それに乗れ! その刀の出番だ!」

「説明足りてねぇって――うわっ!?」

真也は半ば投げ出される形で障壁に乗る。

次の瞬間――
障壁がブーメランのような孤を描き、猛烈なスピードで加速した。

「ぶっつけ本番はマズいってぇぇぇ!」

ゴーレムが腕を振りかぶる。
だが、その脇の下を一瞬で通過。

真也は雑音を切り捨て、ただ一瞬に集中する。

――今だ。

キンッ!

金属音が鋭く響き、
ゴーレムの腕が、拳ごと宙を舞った。

「……通る!」

「だろ?」

迅は即座に障壁をUターンさせる。

「次、いくぞ!」

「待て待て体勢が――」

キィィンッ!

反対側の脇を貫き、二本目の腕が地面に落ちる。

ドサッ。

「はい、ラスト!」

「だから体勢を――っ!」

真也は崩れた姿勢のまま、膝をつき、
半ば反射で刀を振る。

キンッ!

水平に走った刃が、
ゴーレムの首を正確に断ち切った。

一瞬の静寂。

次の瞬間、
首を失ったアイアンゴーレムは光の粒子となり、跡形もなく消滅した。

――戦闘終了。

「……終わった?」

「終わったな」

迅は何事もなかったかのように障壁を解除する。

真也は荒く息をつきながら、刀を見下ろした。

「心臓に悪すぎる戦い方なんだけど……」

「慣れれば楽だぞ?」

「慣れたくねぇ!」

森に、ようやく静寂が戻った。


戦闘の余韻がまだ森に残る中、
遠くから軽い足音が近づいてきた。

「おー……なんだ。ジンさんじゃないっすか」

木立の間から現れたのは、
緑のローブに身を包んだエルフの青年だった。

「お仲間さんですか?」

彼はアイアンゴーレムが倒れた痕跡――いや、何も残っていない地面を一瞥し、目を丸くする。

「どうも。門番のイオリスです。いやぁ……この瞬殺っぷりは予想外でした。なかなかの剣をお持ちで」

「い、いえ……俺は振っただけで……」

真也は自分の手柄とも思えず頭を掻いた。

その肩を、迅がぽんと叩いた。

「前回は俺ひとりで相手したからな。あの硬さにはさすがに手こずった。でも今回は――」

ちらりと真也の刀を見る。

「金属担当がいる」

「役割分担みたいに言うな!」

イオリスは苦笑しつつも、納得したように頷いた。
そして、ふと十神に目を向ける。

「こちらの方も……お強いので?」

「……いや、今は全然」

十神は視線を逸らす。

「なるほど……」

イオリスの「察した」顔が少しだけ痛い。

「それで、何か用事が?」

迅が一歩前に出た。

「情報が欲しい。俺たちは創造神ソルのカケラを探してる」

その言葉に、イオリスは眉を上げる。

「ソルのカケラ……。うーん、俺はまだ100歳そこらなんで分からないですね。長老様なら、何か知ってるかも」

迅は面識は無いが、名前は知っている。

「長老シルヴァエル。千年以上生きてるエルフだ」

イオリスは一瞬、目を細める。

「……随分、詳しいっすね」

「最初で最後のお願いだ」

イオリスは肩をすくめる。

「分かりました。聞くだけ聞いてみましょう」

彼はこめかみに指を当て、意識を集中させる。
おそらく念話での会話中だろう、真也にも分かった。

しばらくして、イオリスは頷く。

「……会ってくれるそうです」

「よし」

即断即決。

「ちょ、早くない!?」

真也のツッコミは完全に置き去りだった。



イオリスは交代の門番にその場を任せ、三人を案内する。結界の一部が解かれ、一行は中へ歩き出す。

歩きながら、真也が小声で尋ねた。

「さっきのっ召喚獣って……やっぱり試験?」

「一応そんな感じです。本当はもう一体あるんですけど」

イオリスはちらっと迅を見る。

「ジンさんは顔見知りなんで免除で。どうせ出しても、やられますし」

「信頼されてんのか、諦められてんのか分かんねぇな……」

「ちなみに次は?」

真也が聞くと、迅がさらっと答える。

「ヴェルド・トレント。植物精霊の上位種だ。胞子、拘束、分裂……長期戦確定」

イオリスは深いため息をついた。

「魔力、根こそぎ持ってかれるんで、あまり召喚したくないんすよ……。って、今のは長老様には内緒で」

その言葉に、真也は無言で頷いた。

――召喚士って大変だ。



やがて、長老の住まいへ。

「長老様~。お客さんでーす。話、聞いてやってくださ~い」

次の瞬間。

ゴンッ!

「痛っ!? ちょ、何すんすか突然!?」

背の低い老婆――シルヴァエルが、杖を構えたまま睨みつける。

「イオリス。お前、また同じ相手に負けたのか?」

「いや違っ……! アイアンゴーレムは対雷魔法耐性もつけたし、対物理強化もやったんだって!それでもこの人スパンスパン切ってくからさ。相性が悪かったんだよ!ゴーレムはちゃんと強化してて!」

「言い訳するな。鍛錬が足りん」

「だから長老様の召喚獣を一体――」

「無理だと言っておろう! お前の魔力量では暴走する!」

二人のやり取りを、迅は黙って観察していた。

――召喚獣の構成、術者の魔力容量、結界の位相。
無意識のうちに、情報を拾い上げていく。

やがて、シルヴァエルがこちらを向いた。

「客人よ。門番が弱ければ、里は守れぬ。
こやつに何か助言でもしてみよ」

試すような視線。

迅は先ほどの戦闘を思い返しながら、自分がイオリスの立場ならどうしたかを考える。

「イオリスはさ、まず自分の召喚しているアイアンゴーレムのスキル構成を、もっと正確に把握した方がいい」

迅は指を折りながら、落ち着いた口調で続けた。

「俺が召喚士だったら、初手は様子見なんてしない。開幕は“地震”や“アースクエイク”みたいな全体攻撃スキルを即座に撃つ。理由は単純で、相手の陣形や足場を一気に崩せるからだ」

地面が揺れれば、足を取られ、構えは崩れ、想定していた動きはできなくなる。

「奇襲気味の全体攻撃ってのは、それだけで相手の対応をワンテンポ遅らせられる。そうなれば、主導権は完全にこっちだ。召喚士は後手に回った瞬間に不利になるからな」

迅は次に、防御面の話へと移る。

「それから、アイアンゴーレムには“アースウォール”系の壁スキルが使えるはずだ。あれは一枚じゃなく、複数枚展開できるのも強みだ」

壁が一枚増えるたびに、敵はそれを壊すための攻撃を一回、余計に使わされる。

「攻撃回数が増えるってことは、その分だけ相手は動きを読まれやすくなるし、攻撃後の隙も増える。結果として、敵は常に後手に回ることになる」

そこで迅は、今回の敗因にも触れた。

「正直言って、今回みたいに“硬い装甲を前提にした戦い方”をしたのも良くなかった。世の中には、防御力を無視して斬ってくる武器やスキル使いなんて、いくらでもいる」

アイアンゴーレムは確かに硬い。だが――

「防御力が高いってのは、無敵って意味じゃない。そこを過信したのは、はっきり敗因の一つだと思う」

さらに迅は、攻撃動作の細部まで踏み込む。

「あと重要なのが、攻撃の“振りかぶり”だ。ゴーレムが腕を引いたり、体勢を整えたりする予備動作の瞬間には、必ず隙が生まれる。あそこは狙われる前提で考えた方がいい」

だからこそ、と迅は強調する。

「一発ずつの単発攻撃は避けた方がいい。
 右、左、右と連続で振る。
 あるいは右、左、踏みつけ。
 いっそ、コマみたいに回転しながらのラリアット攻撃でもいい」

攻撃を連続させれば、次の動作へ自然につながり、隙は消えていく。

「要は、攻撃そのものを防御にするって発想だな。攻撃が止まらなければ、狙われる時間も減る。それができなければ、ただの的だな」

迅は最後に、まだ言いたいことがあると言わんばかりに口を開き――

「あとは……」

イオリスが慌てる。

「待って待って待って! そんな高度なの無理!」

「大丈夫です」

迅は真顔で言った。

「召喚獣は、術者の意図を理解します。
ちゃんと向き合えば、応えてくれますよ」

その瞬間。

シルヴァエルの目が、明らかに変わった。

「……ほう」

杖を床に突き、静かに笑う。

「ジンとやら。
おぬし、ただの旅人ではないな」

迅は軽く頭を下げた。

「話を聞こう」



すべてを聞き終えたシルヴァエルは、ゆっくりと口を開く。

「ニズヘルム……世界樹の地下、根元洞窟だ。
ただの岩の塊がポツンとあるだけだったが……今なら分かる」

迅は口角を上げた。

「やっぱり」

「なら、早速行こう」

立ち上がる迅。

だが、その前に――

「待ったァァァ!」

真也が全力で止めに入った。

「一旦、落ち着こう!休息も大事だ。」

迅は首を傾げる。

「悪い…。俺、ここくる前はブラック企業で働いてたんで、つい…」

真也の言葉を聞いて、迅は納得する。

「悪い…、俺、社会人経験、ないもんで…」

「そこ!?」

「明日でいい! 明日!」

「……分かった。明日だな」

こうして三人は、
世界の命運を左右する旅の前夜を、
エルフの里で迎えることになった。

――嵐の前の、静かな休息を。
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