届け、紙飛行機

book bear

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届いた紙飛行機

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ベランダを隔てている扉を開くと勢いよく風が吹き込んでくる。

髪を撫でる風が心地よく、もっと風を感じたいという衝動に駆られ目を閉じ、全身に集中する。 

耳元で優しく囁く風、首元をふわりと撫でてくれる風、そして全身に力強くぶつかってくる風を感じる。

集中力は高まり、雑念がゆっくりと消えてゆく、深い暗闇へとどんどん沈んてゆく感覚。

そして、自然と一体化した時、心が開放されたように気持ちが良くなる。

深呼吸して、ゆっくりと息を吐いていく。
より深い暗闇へ、そして自我との決別。

本能すら切り捨ててしまう領域へと潜り込んでゆく。

「よし、これなら行ける。待っててね杏里」

右足からゆっくりとベランダへ踏み出す。
かかとからゆっくりと地面から剥がれていく感覚、そしてかかとからゆっくりと地面を踏みしめる感覚に集中し一歩ずつベランダの塀まで進んでいく。

心が凪いでいるのを感じる。
恐怖はない。

そして両手を塀にかけ勢いよく両足で地面を蹴り、足を塀にかける。

塀の外側に足をたらし塀に座った。

素足を風が通り抜けると冷やりと僅かに恐怖心がこみ上げてきた。

雑念がゆっくりと湧き始める。
ここから飛び降りて死んだら杏里の元へ行けるのだろうか?

行けなかったら?

もし、死ねなくて植物状態になってしまったら?

「はぁ・・はぁ・・」

不安と恐怖に押し寄せられ呼吸が乱れだす。

大丈夫だ、この高さなら絶対死ねる。
大丈夫。

それでも心は荒ぶり始める。

「あぁ、駄目だ。また死ねない」

いつもこうだ、あと一歩のところで踏みとどまってしまう。

死ねない自分に嫌悪感を抱く。
生きていても意味がないのに、死ぬこともできないなんて。

ゆっくりと塀からベランダに戻った。

そして今度は何の感覚も感じないまま部屋へ戻る。

心が死んでいる、肉体だけが生きている。
肉体は本能支配されているため眠気に襲われた。

本能のままに僕はベットに入った。けれど眠ることはできなかった。
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