届け、紙飛行機

book bear

文字の大きさ
4 / 6

手紙から過去へ

しおりを挟む
この手紙からは生きた証を残したいという意思が現れていた。

僕とは正反対だ、僕は生まれなければよかった、そして生きた証はいらないから僕という存在を無かったことにしてほしいと常に考えている。

こんなに苦しい世界を生きなければならないなら小さな幸せなんていらないから苦痛も一緒に手放したい、いつもそんな考えが頭の中を駆け巡っているくらいだ。

手紙の文字からして女性だろうか、この人からはどんな世界が見えていたのだろう。

きっと、僕とは違って色とりどりで鮮やかな世界が写っていたのだろう。

僕もそんな世界を見れる個体だったなら、きっと、存在を消したいとは思わなかったに違いない。

けれど考えた所で何も変わらない。

それならば、早く死んでしまいたい。

いつまでもモノクロの世界を見ているのは、
もう疲れた。

------


それから僕は何日も何週間も死ねないまま、ただ時間だけが流れていった。

大きなため息を吐いて、ベットから起き上がる。

リビングへ向かうとテーブルにはあの手紙が置きっぱなしにされていた。

捨ててしまうと彼女の生きた証まで捨ててしまうようで、どうしても捨てられずにただそこに置いておくことしかできなかった。

リビングのソファに腰掛けて、なんとなく手紙を読み返す。

もう読まなくても内容は頭に入っていたのだが、暇を持て余した僕は每日読み、気がついたら習慣になっていた。

僕は読むたびに、何故彼女は生きた証を残したかったのだろうと考え込んでしまう。

そんなに生きていた事が大事なことなのだろうか?

証を残してどうしたかったのだろう。

いくら考えても僕にはわからなかった。

でも、興味深いこともわかった。

知らない誰かに自分の思いを届けるというところだ。

この方法なら誰にも言えないこの辛さを吐き出すことができるかもしれないと思った。  

少しでも楽になるのならやってみるのも悪くない気がしていた。

ただ、楽になって生きながらてもいいのだろうか、杏里をあの世で待たせてしまっていいのだろうか。

僕のせいで杏里はあの世へ行ってしまった。

僕のせいで・・・。

思い出したくないあの日のことがじわじわと鬱の種を大きく育て始める。

あぁ、また鬱に襲われる、次こそ死んでしまおう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...