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一矢の気持ち
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静寂に包まれる中、矢筈を弦にかける。
的に対して体を右に向け、深呼吸をし顔を的の方へ向け、集中する。
道場の外に植えられた桜の花びらが風に乗って矢道の中を舞い散っていた。
しかし弦希(ふさき)の集中力は高まっていたので桜など見えていない。
捉えているのは的のみだ。
右手で筈と弦を掴みそのまま的の方へ弓を上げる。
弦を引くと弓の軋む音が鳴る。
風向きを読み、矢の角度を調節し、息を止めた。
自分の鼓動がはっきりと聞こえてくる。
一定のリズムでゆっくりと脈打っていた。
焦ることなく、安定している証拠だ。
張り詰めた空気があたりに漂っているが弦希はその空気に飲み込まれることなく、その緊張すらも自分の力として飲み込んでいる。
緊張すればするほど集中力が高まってくる。
狙いを付け、弦から指を離した。
桜の散る矢道を、風を切りながら矢が飛んでいく。
風に押され、軌道は少しずつ曲がっていくがそれも計算のうちだ。
静寂の中でトン!という音が響いた。
矢は的のど真ん中に刺さっていた。
弦希はふぅと息を吐いた。
張り詰めた空気が一気に解ける瞬間だ。
「弦希すごいじゃない!ど真ん中だよ!」
と言いながら無邪気にはしゃいでいるのは幼馴染の愛弓(あいみ)。
愛弓は高校3年の割に子供っぽい雰囲気を持っていて三人のムードメーカーとなっている。
そしてもう一人、流石だねと言って来たのが一矢。
一矢はとても優しいが、気が弱いところが欠点だ。
でも気の弱さが彼の慎重さとして現れ、二人が困ったとき冷静な判断をしてくれるという長所にもなっている。
「よし、次一矢の番だ」
緊張から放たれた弦希は清々しい笑顔で言った。
一矢は射場に立ち、深呼吸する。
緊張して手が震えている、心を落ち着かせるんだ。
余計なことを考えれば外してしまう。
筈をかけ、弓を上げる。
鼓動が加速していき、呼吸が乱れた。
そのまま弦を引き、矢を射った。
風を切り、ぶゅっと音がなる。
矢は的の外側に飛び外れてしまった。
一矢はため息を吐き、二人の元へ向かった。
「どんまい、でもまだあと一本あるから次は大丈夫だよ!」
と愛弓が一矢の肩をぽん、と叩き元気付けてくれる。
そのまま愛弓は射場に向かい、落ち着いた様子で矢を射った。
矢は的の右端へ刺さった。
「やったー!当たったよー!」
両手を上に挙げ、ニコニコとしながら愛弓が帰ってきた。
そして二本目、弦希はまた的の真ん中近くを射ることができた。
一矢と愛弓は的を外した。
「お前たちまだまだだな、じゃあ今日は二人のおごりな」
嬉しそうな表情で道具を片付けながら弦希は言った。
三人は弓道部員で、練習終わりに3人でいつも勝負をしている。
ルールはシンプルで二本の矢を放ち、多く的に刺さった人の勝ちだ、刺さった本数が同じ場合、より真ん中に近い方の勝ちとなる。
そして勝った人はジュースを奢ってもらえるというルールだ。
「えーまた弦希が勝ちかー手加減してよね」
愛弓は頬を膨らまし、文句を言いながら更衣室へと入っていった。
一矢と弦希も更衣室に着替えに向かった。
「本当弦希うまいよね、いつになったら勝てるんだか」
「お前だって上手いじゃないか、ただ最近お前あんまり集中できてないよな、何か悩んでいる事でもあるのか?」
「いや、特にそんな事はないよ」
一矢はそうは言ったものの、実は悩みがあった。
高校3年になり、愛弓、一矢、弦希はそれぞれ違う道を進む事が決まっていた。
あと一年で離れてしまうと考えたとき、愛弓の事を意識してしまったのだ。
幼稚園の時からずっと一緒で、離れることに寂しさを感じていたのだが、弦希に対する寂しさとは違った感情が混じっていることに気がついた。
愛弓と離れたくないと、この時自分の気持ちに気づいた。
それ以来、色んな事に集中出来ず、愛弓のことが頭から離れなくなっていた。
それが弓道にも影響が出始めていたのだ。
「ふーん、お前さ、愛弓の事好きだろ」
突然的を射られて、一瞬動揺しかけ一矢は必死に隠そうとしたが、ぎこちない返事をしてしまう。
「はぁ?な、何言ってんだよ、違うよ」
弦希はそんな一矢を見て堪えきれずに笑ってしまった。
「お前ほんと、分かりやすいやつだな」
「だから違うって!」
向きになって言い返した一矢の行動が、愛弓の事を好きだと言う事の現れだと一矢は気づいていない。
「悪かった、怒るなよ。
でもさ、正直になれよ、あと一年で俺たちは離れ離れになる。
お前、夏休みに愛弓の事を誘ったらどうだ?
確か花火大会があっただろ。
愛弓そういうの好きだろうしきっと喜ぶと思うぞ」
しかし、一矢は頑なに認めなかった。
「だから違・・・・」
遮るように弦希は言った。
「じゃあ、俺が愛弓を誘って二人で花火大会行く。
それでもいいんだな?」
一矢は何も言い返すことができなかった。
本心では嫌だと思っていたのだが。
もし、自分の気持ちが愛弓に知られたとき、3人の関係が崩れないか不安だった。
それだけは避けたいと思っていた。
無言の一矢に呆れた弦希はため息をついた。
「仕方ないなやつだな、俺がなんとかしてやるよ。
だからちゃんと気持ちを伝えろ。
お前一生後悔するぞ」
この言葉に一矢は迷った。
思いを伝えなかったら確実に後悔するのは見えている。
しかし、思いを伝えたときどうだろうか、関係が崩れると決まったわけではない、もしかしたら伝えたあとも三人が仲良くやっていける道もあるんじゃないかと思い始めていた。
この気持ちを伝えずに一生後悔を背負っていくのはいやだ。
だから一矢は愛弓に気持ちを伝える事を決めた。
的に対して体を右に向け、深呼吸をし顔を的の方へ向け、集中する。
道場の外に植えられた桜の花びらが風に乗って矢道の中を舞い散っていた。
しかし弦希(ふさき)の集中力は高まっていたので桜など見えていない。
捉えているのは的のみだ。
右手で筈と弦を掴みそのまま的の方へ弓を上げる。
弦を引くと弓の軋む音が鳴る。
風向きを読み、矢の角度を調節し、息を止めた。
自分の鼓動がはっきりと聞こえてくる。
一定のリズムでゆっくりと脈打っていた。
焦ることなく、安定している証拠だ。
張り詰めた空気があたりに漂っているが弦希はその空気に飲み込まれることなく、その緊張すらも自分の力として飲み込んでいる。
緊張すればするほど集中力が高まってくる。
狙いを付け、弦から指を離した。
桜の散る矢道を、風を切りながら矢が飛んでいく。
風に押され、軌道は少しずつ曲がっていくがそれも計算のうちだ。
静寂の中でトン!という音が響いた。
矢は的のど真ん中に刺さっていた。
弦希はふぅと息を吐いた。
張り詰めた空気が一気に解ける瞬間だ。
「弦希すごいじゃない!ど真ん中だよ!」
と言いながら無邪気にはしゃいでいるのは幼馴染の愛弓(あいみ)。
愛弓は高校3年の割に子供っぽい雰囲気を持っていて三人のムードメーカーとなっている。
そしてもう一人、流石だねと言って来たのが一矢。
一矢はとても優しいが、気が弱いところが欠点だ。
でも気の弱さが彼の慎重さとして現れ、二人が困ったとき冷静な判断をしてくれるという長所にもなっている。
「よし、次一矢の番だ」
緊張から放たれた弦希は清々しい笑顔で言った。
一矢は射場に立ち、深呼吸する。
緊張して手が震えている、心を落ち着かせるんだ。
余計なことを考えれば外してしまう。
筈をかけ、弓を上げる。
鼓動が加速していき、呼吸が乱れた。
そのまま弦を引き、矢を射った。
風を切り、ぶゅっと音がなる。
矢は的の外側に飛び外れてしまった。
一矢はため息を吐き、二人の元へ向かった。
「どんまい、でもまだあと一本あるから次は大丈夫だよ!」
と愛弓が一矢の肩をぽん、と叩き元気付けてくれる。
そのまま愛弓は射場に向かい、落ち着いた様子で矢を射った。
矢は的の右端へ刺さった。
「やったー!当たったよー!」
両手を上に挙げ、ニコニコとしながら愛弓が帰ってきた。
そして二本目、弦希はまた的の真ん中近くを射ることができた。
一矢と愛弓は的を外した。
「お前たちまだまだだな、じゃあ今日は二人のおごりな」
嬉しそうな表情で道具を片付けながら弦希は言った。
三人は弓道部員で、練習終わりに3人でいつも勝負をしている。
ルールはシンプルで二本の矢を放ち、多く的に刺さった人の勝ちだ、刺さった本数が同じ場合、より真ん中に近い方の勝ちとなる。
そして勝った人はジュースを奢ってもらえるというルールだ。
「えーまた弦希が勝ちかー手加減してよね」
愛弓は頬を膨らまし、文句を言いながら更衣室へと入っていった。
一矢と弦希も更衣室に着替えに向かった。
「本当弦希うまいよね、いつになったら勝てるんだか」
「お前だって上手いじゃないか、ただ最近お前あんまり集中できてないよな、何か悩んでいる事でもあるのか?」
「いや、特にそんな事はないよ」
一矢はそうは言ったものの、実は悩みがあった。
高校3年になり、愛弓、一矢、弦希はそれぞれ違う道を進む事が決まっていた。
あと一年で離れてしまうと考えたとき、愛弓の事を意識してしまったのだ。
幼稚園の時からずっと一緒で、離れることに寂しさを感じていたのだが、弦希に対する寂しさとは違った感情が混じっていることに気がついた。
愛弓と離れたくないと、この時自分の気持ちに気づいた。
それ以来、色んな事に集中出来ず、愛弓のことが頭から離れなくなっていた。
それが弓道にも影響が出始めていたのだ。
「ふーん、お前さ、愛弓の事好きだろ」
突然的を射られて、一瞬動揺しかけ一矢は必死に隠そうとしたが、ぎこちない返事をしてしまう。
「はぁ?な、何言ってんだよ、違うよ」
弦希はそんな一矢を見て堪えきれずに笑ってしまった。
「お前ほんと、分かりやすいやつだな」
「だから違うって!」
向きになって言い返した一矢の行動が、愛弓の事を好きだと言う事の現れだと一矢は気づいていない。
「悪かった、怒るなよ。
でもさ、正直になれよ、あと一年で俺たちは離れ離れになる。
お前、夏休みに愛弓の事を誘ったらどうだ?
確か花火大会があっただろ。
愛弓そういうの好きだろうしきっと喜ぶと思うぞ」
しかし、一矢は頑なに認めなかった。
「だから違・・・・」
遮るように弦希は言った。
「じゃあ、俺が愛弓を誘って二人で花火大会行く。
それでもいいんだな?」
一矢は何も言い返すことができなかった。
本心では嫌だと思っていたのだが。
もし、自分の気持ちが愛弓に知られたとき、3人の関係が崩れないか不安だった。
それだけは避けたいと思っていた。
無言の一矢に呆れた弦希はため息をついた。
「仕方ないなやつだな、俺がなんとかしてやるよ。
だからちゃんと気持ちを伝えろ。
お前一生後悔するぞ」
この言葉に一矢は迷った。
思いを伝えなかったら確実に後悔するのは見えている。
しかし、思いを伝えたときどうだろうか、関係が崩れると決まったわけではない、もしかしたら伝えたあとも三人が仲良くやっていける道もあるんじゃないかと思い始めていた。
この気持ちを伝えずに一生後悔を背負っていくのはいやだ。
だから一矢は愛弓に気持ちを伝える事を決めた。
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