さよならの代わりに

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恐怖はいつも、突然に

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「人が多いね」

行列に並びながら、となりの行列を見て柚月は言った。

「地震があってからもう二週間以上もたったし、貯蓄していた物資が不足し始めた人も多いんだろう」

総司達も食料品が底をついてしまったので、近くの公園で支給されていた物を貰いに来ていた。

行列の先頭には簡易テントが貼っており、そこでボランティアの方達が、一人ひとり物資の入っている袋を手渡していた。

渡す時に頑張りましょうと励まし言葉もかけていた。

そんな姿を見た総司は心が暖かくなる思いだった。

ようやく総司の番がやってきた。

支給窓口で物資を渡してくれたのは70は超えてそうな老人だった。

奥の方から重たそうに物資を持ってきて総司達に渡してくれた。

体力的にも辛そうだったが、辛い表情をせずに老人は

「大変な時ですが、諦めずに頑張りましょう」と笑顔で励ましてくれた。

そんな老人の心ある言葉と行動に二人は心の底からの感謝の言葉を返した。

二人は貰った優しさを、次は自分達が他の人へ差し伸べる番だと思った。

こうして人々は繋がりを作り、共存していくのだ。
こんな時だからこそ、より人との繋がりを大事にしなければならない。

人は一人では生きているわけではないのなだと、二人は改めて実感させられた。

物資を貰って二人は帰路に着いた。

出来るだけ、大きな建物の側には近寄らず歩く事にした。

いつ崩壊してもおかしくない状況だったからだ。

ガラスは飛び散っているし、傾いている建物もあった。

おそらく次揺れたら耐えられずに倒れるであろうビルはそこら中にあった。

ただ、一つだけ、避けては通れない危険な場所があった。

「柚月、急いで潜《くぐ》ってしまおう」

総司はそう言って目の前の高速道路を見ていた。

これが倒れてきたら一溜りも無いだろう。
一瞬で潰されてあの世行きだ。

足早に高速道路の下を歩き始めた、向かいの方からも子供と、母親の二人組が歩いてきていた。

母親は子供と手を繋ぎ渡ろうとしていた。

すると子供は何かを見つけたのか、母親の手を振りほどき、一人でこちら側へと走ってきた。

こら!と母親は子供を叱るが子供はお構いなしだ、母親は仕方なく子供のあとを追いかけようとした時、悲劇は訪れた。

下から突き上げるような衝撃に、その場にいた人達はバランスを崩され、立っているのがやっとの状態になってしまった。

そして激しい揺れが人々を襲った。

逃げようにも、揺れが激しいため前に進むことができなかった。

高速道路の向こうにいる母親は子供を心配そうに見ていた。
 

このまま高速道路が崩れてしまえば総司達と一緒に子供も潰されてしまうだろう。

けれど、今この場で動ける人は居ない、できる事はもう祈る事だけだ。

揺れは激しさを増していく、近くのビルが崩れる音やガラスの割れる音に混じり、人の叫び声も聞こえてくる。

高速道路も揺れ、軋む音が聞こえる、このまま続けば耐えられずに崩れてしまう。

頼む、早く収まってくれ!

ミシミシと高速道路を支える柱が音を立て始めた、ヒビが入り、いよいよ崩れてしまうと覚悟を決めた時、揺れは収まってきた。

だが、油断は出着なかった。

この様子だと、揺れが収まっても柱は高速道路の重さに耐えれず崩れる可能性はあった。

そして、その予想は的中したのだ。

ゆれが止まってすぐ、柱が大きな音を立てて割れたのだ。

「柚月走れ!」

そう言って総司は柚月を高速道路の崩れる可能性のない方向へ押した、柚月はそのままとっさに走った。

柚月は向かいに居る母親の表情をみて、今、後ろで恐ろしい事が起きていることを悟った。

振り向くと、総司は子供の元へ走っていた、その上からは、高速道路が崩れ始めていた。

「総司さん!」

「ゆうとー!」

柚月と母親が同時に叫んだ、しかし、叫び声は崩れさる高速道路の音でかき消された。

嘘・・・・・、総司さんは・・・・?

嫌だ・・・置いていかないで・・私を置いていかないで。

心が折れそうになる柚月の隣を母親は走り抜けていった。

その姿はまだ息子は生きていると、信じていた。

そうだ、まだ、総司さんは死んだと決まったわけではないのだ、助けないと!

柚月は無我夢中で瓦礫をどかし始めた。

お願い!無事ていて!

お願いだから!

生きていると信じているのに、涙が止まらなかった。

次第に心が折れそうになる、もし、もし瓦礫の下で死んでいたら・・・・。

どけた瓦礫から生気のない手がでてきたらどうしよう。

悪い事ばかりが柚月の頭を過る。

「嫌だ・・・無事ていて・・・・お願いだから無事ていて・・・」

必死に瓦礫をどかしていく。
止めたら終わりだ、助ける事を辞めたら、総司さんの命を諦めるのと同じだと言い聞かせて必死瓦礫をどかした。

手に豆ができようと、擦り傷ができとうと関係なかった。
ただ、助けたいと言う事だけを考えて瓦礫をどかし続けた。

しかし、柚月の手は止まってしまった。

目の前に広がる瓦礫をみて、絶望感に負けてしまったのだ。

こんな瓦礫を一人で掘り進めていけるわけが無い、私は無力だ・・・いや、人間そのものが無力なんだ。
災害には叶わない、ただ、成すすべもなく命を奪っていく。

この悲しみを誰にもぶつけることが出来ない、理不尽に奪われた怒りをどこにぶつければいいのかもわからない。

そして、抱えきれなくなった感情は体の内側から壊し始めるのだ。

災害は目に見えない所にも影響を及ぼしていく、そして、人々の心までも壊すのだ。

柚月はその場にへたりこんでしまった。

流る涙を拭うこともせずただ、心が壊れていくのを感じていた。

-柚月ーーー!-

-無事か!?-

「ハハ、幻聴まで聴こえてくる・・・人の心はなんて脆いんだ・・・・」


「いないのか!?柚月!」

柚月ははっと顔を上げた、勢いで涙が飛び散る。

今の声は幻聴じゃなかった。

瓦礫の反対側から声がした。
間違いない!

「総司さん!?大丈夫なの?」

すると返事が帰ってきた。

「柚月か!俺と子供は大丈夫だ!」

「ゆうと!?そこにいるの?」

母親もゆうとに声をかけた。

「お母さん!?お母さん!!」

ゆうとは母の無事を知り泣き始めた、鳴き声が瓦礫越し聴こえてくる。

ゆうとの鳴き声聞いて安堵した母もその場に泣き崩れてしまった。

良かった、ここに居た四人はとりあえず無事だったのだ。

本当に良かった。
柚月もその場に崩れ、溢れ出す涙を両腕で拭った。

その後、崩れていない高速道路の下を急いで渡り、ゆうとと総司は柚月と母の元へ戻った。


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