さよならの代わりに

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姉が残した物

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--地震当日--

「あーやってしまった、急げ急げ」

総司の気持ちとは裏腹に電車は時間にならなければやって来ない。

この日、葉月が19時にホテルの30階にあるレストランを予約してくれていた。

総司はそれに合わせて美容室を17時に予約していた、その後そのままホテルに行く段取りだったのだが、昼寝をしてしまい起きたときには16時30分を回ったところだった。

予約した美容室まで電車を乗り継いで約40分かかる。
なぜこんなに遠い美容室に来ているかと言えば、総司が以前通っていた美容室にお気に入りの美容師が居たのだが、その美容師が退職し、独立をする事になったのだ。

その店が総司の家から離れた場所にあり、40分もかけてわざわざ通っている。

焦る総司の事などお構いなしにゆっくりとホームに電車が入って来た。

美容室の最寄りの駅に付いた時には17時を10分ほど過ぎていた。

ここから徒歩で約10分の所にあるのだが、総司は目の前を通るタクシーを止めて美容室に向かった。


「ごめん!遅れた」

息を切らしながら店内に飛び込んできた総司に、客の視線が注がれた。

店内には施術をうける椅子が3席と、美容師が3人居る小さな店だ。

とはいえ、店内にいる客と美容師の視線を一気に浴びるのはちょっとした圧力があった、その圧力に自分が如何におかしい状況なのか気付かされた。

普通、息切れで美容室には来ないだろう。

総司は恥ずかしくなり、息継ぎをしながらからへこへこと頭を下げた。

「総司さん、お待ちしてましたよ」

そう言って総司を案内してくれたのが総司のお気に入りの美容師だった。

「ごめん、昼寝のつもりだったんだけど寝過ごしてしまった」

美容師は、大したことないよと笑って許してくれた。

「そんな事より今日は奥さんとデートなんでしょ?
バッチリセット致しますので楽しんできてくださいね」

と爽やかな笑顔で言ってくれた。
美容師は総司の後の予定を知っていたので気を使ってペースを上げでカットをしてくれた。

そのおかげで何とか間に合いそうな時間にまで追いつく事ができた。

「本当に助かった!ありがとう!」

総司は心の底から感謝の言葉を述べ、店を出ていった。

美容師は店の外まで見送ってくれた。

-18時00-

予定より早くホテルの近くまで来たので時間を潰そうと辺りを見回したいた。

横断歩道を渡った先に喫茶があったので、そのへ向かう事にした。

タイミング悪く、赤信号に引っかかりしばらく待った。

信号が青に変わり、進もうとした時、後ろから誰かにぶつかられた。

唐突だったため、総司はバランスを取れずにその場に倒れてしまったのだ。

なんなんだよ、と思いながらもぶつかった男は走り去ってしまったので文句を言う相手がいない、ぶつけようのない不満を抱えて立ち上がろうとした時、地震が襲ってきたのだ。

揺れが余りにも激しく、立つことができず、その場にしゃがむ事しかできなかった。

地面が割れ、あらゆる建物のガラスが割れた。

総司は辺りの様子を伺いながら状況を把握しようとしていた。

そして後ろを振り向こうとしたとき、強い衝撃が後頭部に走り、そのまま気を失ってしまったのだ。

------------------------------------------------------

「柚月、当日の記憶を思い出したよ」

柚月は虚ろな目で総司を見た。
ただ見ているだけだ、それで姉が何をしようとしてたのかわかった?とか聞く素振りはなかった。
このまま話しても伝わるか分からなかったが総司は思い出したことをすべて話した。

結局葉月はプロポーズをしようとして、そのまま亡くなったと言う事しかわからなかった。その後、総司と柚月の前に現れ、何をしようとしてたのかわからないままだ。

葉月が亡くなった今、もう手がかりは無いのかもしれない。

どうしようもない状況に総司は思わず視線を床へ向ける。
すると、柚月がメモのような物を持っているのに気づいた。

「柚月、そのメモは何?」

柚月はそう言われてやっと自分が手に何かを持っていることを気づいたのか、メモ開いて中身を確認している。

読んだあと、何も言わずに総司に差し出した。

こう書かれてあった。

私達の小学校、最後の教室に向かって。
箱の中の1ページ目。

いつ書いたメモなのか、分からなかったが急いで書いたのだろう。

要点だけが書かれていた。

俺達が卒業した小学校は避難場所に指定されている、だから入るのは容易だろう。

教室も開放されている可能性があるから行ってみることにした。

「柚月、いけるか?」

柚月はコクリと頷いた。
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