さよならの代わりに

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命懸けの避難

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総司が車に乗り込むと、シートベルトをつける間もなく、柚月は猛スピードで車を発車させた。
急発進したため、体が席に押さえつけられた。

「そうちゃん!なんであんなとこで座ってたの!」

と総司は怒られた。
怒りをアクセルにぶつけているからこんなに飛ばしているのか、それとも逃げるためなのか、いや、両方だなと総司は考えてた。

「ごめん、ちょっと走り疲れて少しだけ休憩してた」

と、口からでまかせを言ってみたが、無駄だった。

「後で、説教だからね!」

「はい・・・・」

車は山の方へとぐんぐん進んでいく。
街には人もおらず、車も走っていないとはいえ、日々習慣付いている為、信号は守っていた。

「柚月、こんな時なんだから信号無視できないのか?

津波がきてるんだし」

後ろを振り向くと、遠くの方で波が陸地へ乗り込んできでいるのが見えた。

総司と柚月の背筋がゾクッとした。

このままでは本当にまずい。

「出せ出せ出せ!」

総司は柚月を煽った。

赤信号を無視し、車を走らせる。

車よりも津波の方が遥かに早く、あと30メートルあるかないかの距離まで迫っていた。

急げ急げ!と気持ちが焦っていくに連れて、柚月の運転に荒さが出てきていた。

「柚月、落ち着け、事後ったらそれこそ終わりだぞ」

柚月は総司の言葉に何も返さなかった。
というより返せなかったのだ。
それだけ神経を集中させているのだろう。

総司は辺りの確認をしながら細かい指示を出していたが聞こえていなさそうだった。

それでも総司は周りを見ていた。

すると一瞬、人が見えたような気がした。

「柚月!人がいた!」

柚月も迷わず車を止めた。
総司は車を飛び出し、先程の人影のところまで向かう。
すると、腰の曲がった老人があたふたとしていたのだ。

津波の音がもうすぐそこまで聞こえていた。
瓦礫を押し流し、家を破壊する音と水が押し寄せる音が近づいてくる。

やばいと思った総司は老人を背負い、車まで走った。

後部席にのせ、シートベルトを締めてあげる。
老人はパニックに陥り、状況が理解できていないようだった。

ずっと後ろで何やら叫んでいたが構ってはいられない。

止まったついでに柚月と運転を変わった。

バックミラーに視線を送るとすぐそばまで津波が押し寄せていた。

ギアをドライブに入れ、アクセルを全開に踏む。

地震によって地面の状態が良くない中、車が激しく揺られる。

道には瓦礫もあり、それを交わしながら進まなければならなかった。

命の危機が迫り、総司は覚醒状態になっている今、なんでもできるような感覚に陥っていた。

このまま行けば津波の来ないと予想されているエリアまでもう少しだ。

行ける!

そして、何とか安全件に避難した総司はホッとしてスピードを緩めた。
しかし、それも束の間、波はまだまだ押し寄せてきていた。

「嘘だろ!」

総司は叫ぶと再びアクセルを踏む。

焦った総司は、目の前のガラスの破片を踏みつけてしまった。

車のスピードが明らかに落ち始めていた。
それにハンドルがおかしい。
きっとさっきのガラスの破片でパンクしたのだろう。

それでも総司は車を走らせた。
生き延びるにはそれしか方法がなかった。

津波がすぐ後ろに迫っていた。

そして、後輪が津波に飲み込まれ始める。

そして、車は津波に押され始めたのだ。

もう、なすすべが無い、あとは祈るしかなかった。
すると、車はすぐに止まった。

後方を確認すると津波の勢いは、収まっていた。

なんとか津波の来ないギリギリのライン所だったようだ。

三人は腰を抜かしそうになっていたが、第2波がすぐに来るだろう。

のんびりはしていられなかった。

もう一度車を走らせて、何とか避難場所まで逃げることが出来たのだ。

------------------------------------------------------


避難場所に着くと老人はすぐどこかへ去ってしまった。

家族だろうか、老婆と抱き合って泣いていた。


総司と柚月は適当なところに座ることにした。

「葉月に会ったよ」

「どうだった?なにか言ってた?」

「うん、柚月をよろしくねって言ってた。

最後は幸せそうに行ったよ」

そう言って総司は柚月の手を握りしめた。

しばらく二人は命ある今、小さな幸せを噛みしめるように、黙っていた。



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