黄葉に載せて君を想う

憂鬱な朝

昨日彼女は約束の場所には来なかった。

5年と言う月日は約束を無かった事にするには十分過ぎるほどの時間がある。

約束した時はお互いに間違いなく想い合っていただろう。しかし、５年間ずっとその時の気持ちを維持するというのはとても大変な事であり、とても難しいと言う事は俺も身を持って体験したからわかる。

当時携帯を持っていなかった俺達は５年間一切連絡がとれなかった。

彼女が何を思い、何を考えているのか全くわからない不安は日に日に自分の心を蝕んで行く。

もしかすると彼女は俺の事を忘れ、俺が一方的に彼女を思い続けているのではないかと思う日もあった。

こんなに苦しい思いをするならいっその事忘れた方が楽なのではないだろうか？とも思った。

けれどその度に約束した日を思い出して俺は彼女を信じて来た。

けれど彼女はそうでは無かった。
昨日来なかったと言う事が彼女の答えなのだ。


彼女は当時の気持ちを無くし、約束を忘れ、別の道を選んだ。

俺はショックで一睡も出来なかった。
気がつけば空は明るくなり始め、新聞配達のバイクの音が朝を告げる。

その後もずっと寝れそうになかった俺はポストに新聞を取りに行くことにした。

こんなに落ち込んでいても朝の空気はとても気持ち良く、自分の心とは関係なく世界は動いているのだなと感じた。

自分がどんなに苦しくても世界は自分に寄り添ってはくれず、俺を置き去りにしていつもと変わることなく新しい一日を迎える。

世界に置いていかれたような孤独感を感じつつ新聞を手に取った。

すると新聞の下に一通の封筒が隠れていた。
封筒を手に取り送り主を見るとそこには彼女の名前があった。