黄葉に載せて君を想う

手紙

　まず最初に謝らせて下さい。約束の場所に行けなくてごめんなさい。がっかりした？それとも案外平気だったりするのかな？

私は約束の場所に行けなかったことをとても悔しく思ってます。あと２週間で会えるはずだったのに、私は今病室にいます。病状は悪化する一方で、今の内に手紙をあなたに書いておこうと思って書いています。

なんの病気なのかは置いといて、私は約束の場所にいけるかわからない状況です。
まだ、諦めたわけではなくて、もしかしたら病状が少し良くなって会いにいけるかも？と思いつつ頑張ってます。でも、もしこの手紙があなたの元へ届いたのだとしたら私はもうこの世に居ません。

私が亡くなった時、手紙を送るよう父に伝えておくつもりです。

じゃあ届いてしまったつもりで手紙を書くね。
5年前、あなたは私に告白をしてくれた時、あの瞬間は嬉しさなんて微塵も感じなくて、悲しさしか感じなかった。
なんで今なの？って。引っ越す事が決まって、私はあなたに対する気持ちを心の奥へ仕舞ってようやく決心が付きそうって時だったのにあなたはそれを壊してしまった。告白された私は仕舞っていた気持ちが溢れ、訳が分からなくなって泣いてしまった。こんな辛いお別れなんて嫌だ。なんて事してくれたんだと思った。
けれどあなたはそれを終わりではなく、始まりにしてくれた。
5年後に再会しようと言ってくれたとき、それまでの辛さがゆっくりと引いていき、これからもあなたを思い続ける事が出来るという喜びが湧いてきた。

私達はこれから始まるんだって思うと、5年くらい乗り越えられるって思えた。

東京に行ってからは一切連絡を取ることが出来なくてすごく寂しかったけどその度にあなたを想い、あなたへの気持ちが大きくなっていくのを感じていたの。

会えない時間があなたへの気持ちを育て、言葉では表せないくらい大きくなり、再会した時にこの想いを全部あなたに捧げたいと思った。

できれば直接想いを届けたかった。

でも、出来なかった。
私はこの手紙が送られた数日前に亡くなっていると思う。
あともう少しで会えたのに・・・・・。

事情を話して病院に来てもらおうか迷ったけど、やっぱり再会するなら約束の場所で一緒に銀杏を観たかったから。
それに、約束の場所でしか会わないと決めれば意地でも病気に勝とうと思える気がするから。

結局病気には勝てなかったけどね。

そういえば手紙と一緒に銀杏の葉を一枚入れたんだけど、私がよく話していた話覚えてる？

青年が想いを寄せる女性に銀杏の葉を取りに行くお話。

私が銀杏の葉に込めた意味はね、青年が女性の為に命をかけたように、あなたの為なら命をかけてもいいって思えるほど愛してるってこと。

あの話には続きがあるんだよ。
女性は亡き青年に想いを伝えるため、村の銀杏の木を増やそうとし、村人達を説得しようとしたの。

もちろん反対されたけど何十年も女性は説得し続けてようやく想いを認められ、女性は亡くなる時に銀杏の葉に二人の恋を「詩的な愛」とし、そして彼に安らかな眠りの想いを込めて「鎮魂」と意味付けた。

それが今では銀杏の花言葉として残っているの。
なんか素敵でしょ。


あなたも銀杏の葉に想いを込めて私に届けてくれると嬉しいな。

あの世で待ってるよ。


最後に、私を5年間思い続けてくれてありがとう。