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出会い珈音
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今日は人生の中でもとびっきり最悪な日だ、5年間も付き合っていた彼には振られ、やけになり、居酒屋をはしごしているうちにだいぶ酔ってしまった。
足元はふらつき、酒の匂いを振りまき、そこらのおっさんと変わらない。
意識が、ぼんやりする中僅かな理性が自分を蔑んでいた。
私なにしてるんだろう。
男に捨てられたくらいでこんなに酔ってしまい、醜態を晒してしまっている。
普段はどんなに飲んでも意識はしっかりしていたし、千鳥足になることもなかった。
こんな私に唯一味方になってくれたのは天気くらいだ、私のために泣いてくれている。
そんな雨に傘も刺さずに打たれていると嫌なことを洗い流してくれる気がした。
歩いていると小さな店が見えてきた。
雨宿りを兼ねて、あそこで今日は最後にしよう。
扉を開けるとカウベルがなり、ジャズと珈琲の匂いが珈音(かのん)を包んだ。
酔っていた私は珈琲の匂いをわずかな意識の中で感じていたものの、そこが喫茶店だと理解できるほど意識はしっかりしていなかった。
カウンターに座るとタオルを、渡された。
随分でかいお手拭きだなと思った。
このあと何を頼んだか覚えていない。
水を3杯ほど一気飲みをし、吐き気が襲ってきたのでトイレへと向かった。
こんな醜態も今日で終わりにしよう。
込み上げるものを全部出し、これと一緒に今日のことも水に流して忘れてしまおう。
全部吐いたあと、スッキリした私は眠ってしまった。
どれくらいの時間寝ていたのだろう。
濃霧の中、何も見えていなかったのが薄い霧へ変わったことで少し状況がわかってきたように意識が戻りつつあった。
とりあえず水を流してトイレを出た。
珈琲の匂いを感じ、居酒屋で無いことを、この時理解した。
辺りを見回し、自分の荷物の置かれた席を見つけ、カウンターに座っていたことを知る。
席に着き、辺りを見回し状況を把握しようとする。
カウンターには180センチはありそうな男性がソーサーを磨いていた。
髪型はショートで上げている前髪からは爽やかさを感じる。
カッターの袖から見える腕は逞しく、男性としての魅力が感じられた。
私はこんな男性に醜態をさらしていたのだろうか、覚えていない。
自分の状況を理解できていない間抜けっぷりを悟られたくなくて必死に状況を理解しようとした。
すると男性はメニューを渡してくれた。
メニューにはあらゆる珈琲の名前が書いてあり、何を選べばいいのか全くわからなかったので目に止まったおまかせブレンドを注文した。
かしこまりましたという声が低く、それでいてよく通る声で私は少し、癒やされた。
目の前にサイフォンが置かれ、目でも楽しめると言うのでそれを眺めていた。
するとフラスコから上にあるロートへとお湯が登っていき、ロートの中で透き通ったお湯が黒いコーヒーへと変わっていく。
そして、フラスコへと戻っていく。
私はその流れに自分を見ていた。
私はもうすぐ結婚出来るだろうと、根拠もなく思っていて、気分はフラスコのお湯のように上がっていった。
しかし、今日、彼に違う人が好きになったと言われ、私の心はロートの珈琲の様にじわじわと黒くなっていき、そしてフラスコの底へと落ちていった。
目の前のカップに珈琲が注がれる。
立ち上る湯気をぼんやりと見ているとまた、彼との事を思い出していた。
この5年間、楽しいかったな。
喧嘩もちょくちょくしていたけど、その度にお互いの愛を確かめることが出来た。
そして、この人となら結婚してもいいと初めて思うことが出来た相手でもあった。
それなのに、積み上げた5年間の思い出は、「他に好きな人が出来た」
たった数秒の台詞で崩れ去っていった。
思い出とは何て脆いんだろう。
苦い思いを飲み干してしまいたい、そう思って私は珈琲を一口飲んだ。
とても苦い香りが口いっぱいに広がっていく。
飲み込んだあとも苦さは残る。
苦さというのは中々消える事のない物なのだろう。
私は悲しくなってきた。
この辛い状況もまた中々消える事がないのだろう。
珈琲の苦味が少しずつ引いてきたとき、入れ替わるようにフルーティーな香りが奥からやってきた。
その香りは辛いときに差し出された優しい手のようだと思った。
私は少し救われた気がした。
たとえ、珈琲であっても今寄り添ってくれる事が嬉しかった。
珈琲をソーサーに置き、泣き顔を見られないように珈琲に視線を落とした。
視界が涙でぼやけ、涙が流れるたびに辛いことも流れ出るような気がした。
足元はふらつき、酒の匂いを振りまき、そこらのおっさんと変わらない。
意識が、ぼんやりする中僅かな理性が自分を蔑んでいた。
私なにしてるんだろう。
男に捨てられたくらいでこんなに酔ってしまい、醜態を晒してしまっている。
普段はどんなに飲んでも意識はしっかりしていたし、千鳥足になることもなかった。
こんな私に唯一味方になってくれたのは天気くらいだ、私のために泣いてくれている。
そんな雨に傘も刺さずに打たれていると嫌なことを洗い流してくれる気がした。
歩いていると小さな店が見えてきた。
雨宿りを兼ねて、あそこで今日は最後にしよう。
扉を開けるとカウベルがなり、ジャズと珈琲の匂いが珈音(かのん)を包んだ。
酔っていた私は珈琲の匂いをわずかな意識の中で感じていたものの、そこが喫茶店だと理解できるほど意識はしっかりしていなかった。
カウンターに座るとタオルを、渡された。
随分でかいお手拭きだなと思った。
このあと何を頼んだか覚えていない。
水を3杯ほど一気飲みをし、吐き気が襲ってきたのでトイレへと向かった。
こんな醜態も今日で終わりにしよう。
込み上げるものを全部出し、これと一緒に今日のことも水に流して忘れてしまおう。
全部吐いたあと、スッキリした私は眠ってしまった。
どれくらいの時間寝ていたのだろう。
濃霧の中、何も見えていなかったのが薄い霧へ変わったことで少し状況がわかってきたように意識が戻りつつあった。
とりあえず水を流してトイレを出た。
珈琲の匂いを感じ、居酒屋で無いことを、この時理解した。
辺りを見回し、自分の荷物の置かれた席を見つけ、カウンターに座っていたことを知る。
席に着き、辺りを見回し状況を把握しようとする。
カウンターには180センチはありそうな男性がソーサーを磨いていた。
髪型はショートで上げている前髪からは爽やかさを感じる。
カッターの袖から見える腕は逞しく、男性としての魅力が感じられた。
私はこんな男性に醜態をさらしていたのだろうか、覚えていない。
自分の状況を理解できていない間抜けっぷりを悟られたくなくて必死に状況を理解しようとした。
すると男性はメニューを渡してくれた。
メニューにはあらゆる珈琲の名前が書いてあり、何を選べばいいのか全くわからなかったので目に止まったおまかせブレンドを注文した。
かしこまりましたという声が低く、それでいてよく通る声で私は少し、癒やされた。
目の前にサイフォンが置かれ、目でも楽しめると言うのでそれを眺めていた。
するとフラスコから上にあるロートへとお湯が登っていき、ロートの中で透き通ったお湯が黒いコーヒーへと変わっていく。
そして、フラスコへと戻っていく。
私はその流れに自分を見ていた。
私はもうすぐ結婚出来るだろうと、根拠もなく思っていて、気分はフラスコのお湯のように上がっていった。
しかし、今日、彼に違う人が好きになったと言われ、私の心はロートの珈琲の様にじわじわと黒くなっていき、そしてフラスコの底へと落ちていった。
目の前のカップに珈琲が注がれる。
立ち上る湯気をぼんやりと見ているとまた、彼との事を思い出していた。
この5年間、楽しいかったな。
喧嘩もちょくちょくしていたけど、その度にお互いの愛を確かめることが出来た。
そして、この人となら結婚してもいいと初めて思うことが出来た相手でもあった。
それなのに、積み上げた5年間の思い出は、「他に好きな人が出来た」
たった数秒の台詞で崩れ去っていった。
思い出とは何て脆いんだろう。
苦い思いを飲み干してしまいたい、そう思って私は珈琲を一口飲んだ。
とても苦い香りが口いっぱいに広がっていく。
飲み込んだあとも苦さは残る。
苦さというのは中々消える事のない物なのだろう。
私は悲しくなってきた。
この辛い状況もまた中々消える事がないのだろう。
珈琲の苦味が少しずつ引いてきたとき、入れ替わるようにフルーティーな香りが奥からやってきた。
その香りは辛いときに差し出された優しい手のようだと思った。
私は少し救われた気がした。
たとえ、珈琲であっても今寄り添ってくれる事が嬉しかった。
珈琲をソーサーに置き、泣き顔を見られないように珈琲に視線を落とした。
視界が涙でぼやけ、涙が流れるたびに辛いことも流れ出るような気がした。
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