幼女と執事が異世界で

天界

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第2章

38,奴隷商館

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 美味しくて楽しい昼食のあと回る奴隷商を分担する。
 エリザベートさんは特徴と昨日引き取られたという情報しかないので合致する奴隷が居た場合連絡をもらえるようにしておいた。

 連絡の仕方は非常に簡単だ。
 彼女は冒険者ギルド職員。冒険者ギルドでは冒険者の職業に就くと取得可能となるPT編成をサービスで行ってくれる。
 このPT編成が結構曲者で、複数単位での指定の対象となる非常に有用なシステムのくせにPT編成を使用するか、従者や奴隷といった " 主 " を持つ特殊な状況でないとPT状態にはならない。
 しかもPT編成を取得するには1ポイント必要なのだ。
 たかが1ポイントと侮るなかれ、オレみたいな特殊な状況でなければ1ポイントはものすごく貴重だ。
 冒険者のような自分の命をチップにするような職業では1ポイントというのは値千金。
 故に冒険者のような職業の者はPT編成を取得することはほとんどない。
 サポートをメインとしたりする者でも、ポーターですらPT編成を取得する者は稀だ。
 そこで冒険者ギルドでPT編成をサービスで行っている。
 冒険者は死にやすい。死亡率を下げるためにもPTを組む方がよいためPT編成と共にPT紹介も行っている。

 ただしギルド職員が全員PT編成を取得しているわけで当然ない。
 だが役職が高い職員には必須といえるものであるのも確か。
 エリザベートさんもその中に漏れておらずPT編成を取得していた為、PTを組むことにしたのだ。

 PTを組めば念話が使える。これで連絡はばっちりというわけだ。

 ちなみにPT編成で組まれたPTでは " PT編成を使った者 " が最初のリーダーになる。
 リーダーにはいくつかの権利がある。
 1つはPTメンバーを強制脱退させる権利。
 1つはPTを解散させる権利。
 1つはリーダーを委譲する権利。

 PT編成サービスではこのリーダー委譲を使い、PT編成をしてリーダーを移し脱退することでPTを編成することになる。

 尚、PTを組んだ状態でPT編成を使用してPTに参加させる権利はPT内の誰にでもある。
 ただし規定人数の6人までだ。従者や奴隷といった特殊条件者は1人分とみなされず、0.2人分となる。ただし合計6人分を超えることはできないので普通のメンバー5人と奴隷1人だとこれ以上は普通のメンバーは加入できない。
 つまり主人1人と従者か奴隷25人が最大メンバー数となる。

 すでにPTを組んだ状態でサービスを受けるには一度解散させる必要があるのが難点ではある。
 だがPTを組むメリットは非常に大きい。
 単純に戦力が増える他、複数対象となるスキルの恩恵を全員が受けることができる。
 もちろんデバフ系の場合のデメリットもあるが。

 何よりも念話が便利すぎる。
 このためにPTを組むといっても過言じゃないほど念話は便利だ。


【じゃぁ、手早く奴隷商を回ってしまいましょう。なるべく今日中に見つけてあげたいしね!】

【でも本当にいいんですか? ギルドの仕事を早退してまで手伝ってもらうのは……】

「ワタリちゃん。私はワタリちゃんの力になってあげたいの。
 それにもう約束しちゃったでしょ? 一緒に遊びに行くって」

「……はい」


 なんとなく店の外だったので念話で始めた会話も、向き直って真剣な表情になったエリザベートさんが打ち切るように声に出してきた。
 その声は表情と同じく真剣だったが、後半は少しおどけていた。
 この優しいエルフさんのご好意に甘えさせていただこう。
 こんなに親切にしてくれる理由はわからないけど……あ、一緒に遊びに行くためか。
 いやいやそんなまさかね。

 とにかく今は奴隷商だ。
 エリザベートさんにいくつか注意事項なんかを教えてもらったし、とにかくいってみなければわからない。


「ついたら連絡頂戴ね? 逐一連絡しないとだめだよ?
 連絡は大事なんだからね? あ、でも連絡だけじゃなくてもお喋りしながらにする? それがいいわ! そうしましょうね。
 あ、そうだ。はい、昨日喜んでくれてたから飴いっぱいもってきたのよ! はい」

「あ、ありがとうございます」


 なんだか心配性なお姉さんになってしまった可愛いエルフさんから飴を貰って食べる。
 昨日はイチゴ味だったけど、今日はオレンジだ。これも美味しい。

 両手いっぱいの飴は彼女のアイテムボックスから取り出されていたけど、エリザベートさんはアイテムボックス拡張も行っているようだ。一度に10何個と取り出していた。


「それじゃぁ早く見つけてあげようね!」

「はい、よろしくお願いします」


 時間も惜しいのでさっそく分担した奴隷商に足を向ける。
 アルにも飴を1個あげて手を繋いで足早に向かう。お昼を少し過ぎて人通りも多少戻ってきている中を街の中心部に向かって進んでいく。

 ラッシュの街には奴隷商がかなりの数ある。
 アディントン家に引き取りに来た奴隷商の詳細はわからなかったため、全ての奴隷商に総当りすることになってしまったのが痛いところではある。
 でも2手に分かれての作業なので半分で済んだともいえる。エリザベートさんには本当に感謝だ。

 そんなエリザベートさんから宣言通りに念話で通信があり、雑談をしながら道を急いだ。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 1つ目の奴隷商は昼食を摂った店から歩いて10分程度で着いた。早足で移動していたので普通に歩いたら15分程度だろうか。

 店構えは看板がなければわからないくらいに普通だ。
 石造りの建物で3階建て。隣の建物も似たような感じだがこちらには看板がない。一般住宅なのだろうか。
 それくらいに普通の建物なのだ。


【1件目に到着しました。これから中に入ります】

【了解よ。こっちはもう少しかかるかな。受け答えは基本的にアル君に任せてワタリちゃんは堂々としていれば大丈夫よ。
 ワタリちゃんはどこからどうみても貴族のお姫様なんだから!】

【あ、あはは……】

【それじゃ、アル君。うまくやってね?】

【承りました】


 エリザベートさんのお姫様発言にちょっと……いやかなり苦笑するも、アルも喧嘩しなかったのでよしとしよう。
 これからも喧嘩しないで仲良くしてくれよ?

 ドアについてる銅製っぽいノッカーでドアを叩く。もちろんアルが。
 少しの間を置いてドアに備え付けの覗き窓に1対の瞳が現れるがすぐに扉は開いた。


「いらっしゃいませ。ロードリンク奴隷商へようこそおいでくださいました」


 現れたのは初老の紳士。扉を開き中へ促すような慇懃な動作で挨拶をする。
 奴隷商という奴隷を扱う野蛮な商いから、漠然とごついおっさんが出迎えるのかと思ったが拍子抜けしてしまった。

 だが良く考えてみれば当然といえば当然かもしれない。
 奴隷は高い。そんな高い奴隷を買いに来るのは当然お金持ちだ。
 お金持ちを相手にするのに礼儀を弁えぬ態度や威圧にしかならない大柄な体格のおっさんなんて意味が無いどころか、印象が悪くなる。
 そんなところでは買い物はしたくないだろう。

 老紳士に案内されながら中へと入っていく。
 店内は真っ赤な絨毯と華美すぎない装飾の割りとシックな装いだ。
 奴隷商だと知らないできたら絶対わからないだろう。
 2つ星レストランのエントランスだと言われても納得できる。残念ながら3つ星とはいかないが。


「こちらでお待ちください」


 案内された場所はエントランスと同じくシックなデザインの応接室。
 老紳士は部屋を出て行くことはせず、部屋の隅に置かれているティーカートでなにやらカチャカチャしている。お茶でも入れてくれるのだろう。

 連絡はPTを組んでいたら念話が出来るから特に呼びに行く必要もないのだろう。

 老紳士がオレとアルの前に音を立てずに軽く湯気の立つ緑色の飲み物を置く。
 ティーカップは精緻な装飾の入ったひと目見て高いとわかる物だ。
 香ってくる甘い匂いも鼻腔を擽るいい匂い。
 緑茶でも紅茶でもなさそうな飲み物だ。
 飲み物に続いて置かれた小さな入れ物にも精緻な装飾が施されており、カップとは違った趣がある。
 中に入っているのは角砂糖だ。蓋はされていないのですぐわかった。
 紅茶のように砂糖を入れて飲むもののようだ。
 だが、正直これに手を付ける気はない。エリザベートさんからも注意を受けている。
 一部の奴隷商では客を見極めて出した飲み物に睡眠薬などを入れてそのまま奴隷にしてしまうという話だ。
 まぁもちろん頻繁に起こっているわけではないし、相手を吟味するそうだ。

 オレ達にやってくることはまずないだろうが、気をつけるにこしたことはない。


「お待たせいたしました。私が当店の主ヤルバッシュ・ロードリンクでございます。
 今日はどのような奴隷をお求めでございましょうか」


 出された緑色の飲み物が冷めないうちにやってきた男は大分生え際が後退していたが、着ている物はかなり上等。手には指輪をたくさんつけ、首には豪奢なネックレスをつけている。
 ひと目見てどういった階層にいる人間なのかがわかるというものだ。
 ついでに頭には巻き角が2本。人間種族ではないようだ。


「狐族の奴隷はいるか?」


 普段のアルなら絶対にしないであろう口調。事前の打ち合わせがなかったら絶対ぎょっとしてアウトだったろう。


「狐族でございますね。少々お待ちください」

「性別は女。年齢は問わない。奴隷種も問わない」

「畏まりました」


 奴隷種というのは戦闘奴隷などの区別のことだ。
 アルの出した条件は当然探しているあの子の特徴だが、あの子を探しているなんて素直に言うわけにはいかない。
 そんなことを言ってしまえば当然相手は足元を見てくる。
 何かあると勘ぐられれば売り渋ってくるのは当然だからだ。相手は商人。少しでも高く売るためにはどんな手段でも使ってくる。オレ達は有名な貴族やお金持ちではない。
 見た目的には貴族の令嬢とその執事に見えるとエリザベートさんも太鼓判を押してくれたけれど、それもどこまで通用するのかわからない以上下手なことはできない。


「当店にはその条件で該当する奴隷は15人おります。すぐに準備も終わりますので少々おまちくださいませ」


 老紳士から渡された紙束をめくっていたヤルバッシュはすぐにその手を止めてにこやかに告げてきた。
 そこからはセールストークなのか、他にもいい奴隷が色々いますよ、と話し始めてくる。
 目的の子以外には興味もないので聞き流していると、老紳士がヤルバッシュに耳打ちをする。


「準備も整ったようです。ではこちらへどうぞ」


 応接室から奥の扉を潜り少し歩く。
 奴隷商に入ってからはアルと手を繋ぐことはしていない。
 貴族のご令嬢の振りなのでそういったことはしてはいけないのだ。あくまでアルは執事役。手を繋ぐのはご法度らしい。これもエリザベートさんに注意された。
 むしろ私と手を繋いでほしい、と言っていたのは聞かなかったことにしよう、うん。


 両開きの扉のそれなりの広さの部屋の中にはたくさんの女性が並んで立たされていた。
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