幼女と執事が異世界で

天界

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第3章

62,弟子入り初日終了

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 ランカスター魔道具店店主ゴーシュ・ランカスターの娘、ユユ・ランカスターにネーシャが弟子入りした初日は特に何事もなく終了した。
 とはいっても時間にして6時間程度だったろうか。心配だったので店番をするという条件でお店で待機していたのだけど、客は1人も来なかった。
 心配していたゴーシュさんの怒声も聞こえてこず、温厚なユユさんは当然そんなことをするわけもなくネーシャもいい笑顔で戻ってきた。


「お疲れ様、ユユさん、ネーシャ。どうだった?」

「お待たせしました、お嬢様。はい、今日は色々な道具を見せてもらいました」

「さすがに初日から何かを作らせるようなことはないからねぇ。まずは道具の使い方とか覚えてもらって、だね」

「ですよねー。加護持ちでもさすがに最初からぽーんと出来るほど簡単な物じゃないないですよね」

「もちろんよ。鍛冶は奥が深いからね! でも明日からはちょっとずつやってもらうから気合いれてきてねぇ~」

「は、はい! 頑張ります!」

「じゃあ今日はお暇しよっか。ネーシャも始めての体験で疲れたでしょ?」

「あ、えっと。大丈夫です! まだまだいけます!」

「あはは。でも明日もあるし、今日の勉強をしてないから宿に戻ろうか」

「はい!」

「じゃあまた明日ねぇ~」

「はい、また明日」

「師匠、また明日です!」

「むふふ。やっぱりいいよねぇ、師匠だよ師匠!」

「あはは……」


 ユユさんはニヤニヤで表情がかなり緩くなってしまっている。
 よっぽど弟子が出来たことが嬉しいのか。ネーシャも初日は問題ないみたいだったし、2人共はりきってるみたいだから期待しておこう。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 宿に戻ると、アルとネーシャは部屋に戻って日課となっているネーシャのお勉強タイムだ。
 初日くらいはお休みにしてもいいんじゃないか、とアルに提案したけど初日だからこそ疲れませんので続行します、と言われてしまった。
 アルにはアルのネーシャ育成計画があるみたいだし、任せたのだから信頼することにしている。
 なんといってもアルなんだからそこまで厳しいことはやらないだろう、たぶん。

 2人は部屋に戻ったがオレはというと、ネーシャの弟子入り初日ということでマスターにちょっとだけ豪華な夕飯をお願いしに食堂にきている。
 まだ夕方の時間には早いので仕込みの時間のようで食堂には客が1人もいない。
 いつもウェイトレスをしているアルを口説こうと必死のお姉さんが掃除をしているだけであとは厨房の方で慌しくしているようだ。


「あら、お客さんのお嬢様じゃない。どうしたの?」

「あ、アリエルさん。マスターは今忙しいですよね?」

「今仕込みしてるからね。厨房は戦争状態よ」

「あー……やっぱりそうですかぁ」

「なになに? 何か用なの? 伝えておこうか?」

「あ、はい。今日の夕飯なんですけど、追加料金を払うのでちょっと豪華にしてもらおうかと」

「へぇ、何かいい事でもあったの? あ、もしかしてアル様が何かすごいことでもしたの?」


 あ、アル様……。
 毎日食堂で口説いているのは知っているけど、アルを様付けしているのは知らなかった。
 基本的にアルが口説かれている時はネーシャと話すか周りの話に聞き耳を立てて情報収集をしているか、だから。

 まぁでもアル様、か……。
 案外似合ってるかもしれない。今度アル様って呼んであげよう。どういう反応が返ってくるか楽しみだ。


「いや、えっと。今日うちのネーシャが弟子入り初日だったので、無事終わったのを祝おうかと」

「へぇ~……。ほんとあなたは変わってるわねぇ。普通奴隷を祝ったりしないわよ?」

「うちのネーシャは家族みたいなものですから」

「ふ~ん。まぁアル様みたいな格好良い人の近くにいれるんなら私も奴隷になりたいけどね~……。あぁ……アル様の奴隷になりたい……」


 箒を握り締めてウットリとトリップしてしまったウェイトレス――アリエルさんをなんとか現実に引き戻してマスターに言伝を頼むと、そそくさと退散する。
 オレのことをネーシャもアルも様付けで呼んでいるからどこかの貴族のお嬢様だと思っているようであまりアルのことを根掘り葉掘り聞いてくるようなこともない。
 でもこの人は割とフレンドリーに話してくる人なのでそれもどこまで通じているかわからないので長話は禁物だ。
 アルに関する情報は渡す気はないし、口説くのを応援する気もない。まぁ口説くのは自由だけどね。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 部屋に戻ると今日もアルによる侍女教育が行われている。
 今のところまだ読み書き算数レベルでも初歩の初歩の計算の段階だけど、少しずつ礼儀作法なんかも教えているみたいだ。
 部屋に入ると今日の服装である薄緑のワンピースの下に隠してある短剣やら何やらを、外してアルに渡す。
 使っていないけれど手入れをするのだ。手入れはやりすぎると逆効果なので点検する程度だ。
 装備の回収や外行き用の服から部屋着への着替えの手伝いなんかも侍女の役目ということで、普段よりゆっくりとネーシャに勉強させる為に行う。
 でもオレに恥ずかしい思いをさせないためにもゆっくり過ぎず適度な速度で行われていく。
 着替えたらすぐに髪をセットする。この辺もネーシャに覚えさせる為に普段よりゆっくりだ。
 ただ、アルの技術はプロ顔負けのレベルだと思うのでネーシャはすごく大変だと思う。

 真剣な表情でアルの一挙手一投足を見つめているネーシャだけど、毎日見せていてもその腕前には感嘆の息が漏れてしまうようだ。
 今度ネーシャの髪をセットしてもらって眺めさせてもらおう。

 簡単に――ゆっくりとはいえ、そこはアルの手際なので完璧に――外行き用から部屋用にチェンジすると2人もテーブルに戻る。
 ネーシャは先ほどの続きで砂ノートに何かを書いている。
 アルは装備の点検とオレが着ていた服を浄化したり畳んだりしている。

 まだ夕飯には時間もあり、やることもないので店番中にやっていた編み物道具を取り出し続きを行う。

 店番中に新しく作り始めたマフラーモドキだが、6時間くらいやっていたのに出来上がったのは横10cmくらい縦2cmくらいのマフラーの端っこの部分だ。

 所謂ガーター編みというやり方らしいのだが、これがなんとも汚い酷く歪な出来なのだ。
 トレーニングの一環とはいえ悲しくなる出来だ。

 とりあえず、悲しんでいても仕方ないので続きをやることにする。
 ガタガタなガーター編みだけど、決して駄洒落じゃない。本当に見た目がそうなんだから困る。
 ゆっくりだけど丁寧さを心がけながら黙々と編みこんでいく。
 まぁまだ全然慣れていないのではっきりいって亀の歩みのようなのろのろペースだ。

 部屋の中にはネーシャの砂を弄る音とアルの指導の声、外から入ってくる街中の喧騒のみだ。
 ゆったりとした時の流れを感じさせる空間で4段目までなんとか作成し終わったガタガタのマフラーモドキをあまり見ないようにアイテムボックスに仕舞う。

 結構やっていたが果たして本当にこれがトレーニングになるのだろうか……。
 アルの助言でなければとっくに投げ出している編み物だが、さすがに長時間やるのは今日はもう無理だ。

 開けている窓から外がまだ夕方にもなっていないことを確認して魔法の練習に移る。
 エリザベートさんは空が赤くなって少ししたらいつも来る。
 それまでに筋トレ以外のトレーニングをしてしまうのも日課だ。
 筋トレは別に見られても問題ないのでエリザベートさんが居ても普通にやっている。

 最近はエリザベートさんもお肉がね……お肉がね……、と翳の入った表情で呟きながら参加しているくらいだ。
 その割には夕食はよく食べているけれど。

 編み物に比べると魔法の練習はスムーズでやりやすい。
 器用増加をつけているせいもあるのだが、これをつけないでやると部屋の中ではとてもじゃないが練習できないので仕方ない。

 指先ほどに小さく圧縮した真っ白い高温の炎を自由自在に動かす。
 ただそれだけでは部屋の温度が上昇してしまうので、普段はつけていない初級魔法:風で見えない壁で四方を固め、その中で動かしている。
 魔法はMPを消費した段階で次の魔法が撃てるようになる。
 なので長時間維持できるようにイメージした風の結界の中で多種多様な魔法を自在に動かしたり、形を変えたりして訓練するのだ。

 この訓練により岩食いペンギンを一撃で倒せる氷の槍や広範囲に広げる炎などが使えるようになった。
 他にも色々な形の魔法が使えるようにはなったが、戦闘で使えるようなのは結構少ない。


「ワタリ様、そろそろエリザベートが来る時間にございます」

「おっと、もうそんな時間か」


 アルの声に夢中になっていた氷の像の製作をやめて固定していた魔法を解除する。
 魔法は基本的にMPを消費してイメージ通りに作り上げられる物だが、作り上げた物はイメージ1つで消してしまえるのだ。
 ただ手元を大きく離れたりすると難しくなるので、その辺はイメージの伝達される距離が問題らしい。
 練習では当然部屋内だけなので一瞬で消すことができる。


 魔法の練習をやめて、ちょっとかいていた汗を浄化で綺麗にしてもらって数分しないうちにエリザベートさんがノックもそこそこに部屋に飛び込んできた。


「たっだいまー! 愛しのワタリちゃんは元気にしてたかなー?」

「おかえりなさい、エリザベートさん」

「お、おかえりなさいです、エリザベートさん」

「ここはあなたの部屋ではありませんよ、エリザベート」

「ぶーぶー。いいじゃん、毎日きてるんだしさー。もう私のうちも同然だよー」

「では宿代を払ってください」

「わーん。ワタリちゃん、アル君がいじめるよー」


 大体毎日こんなやり取りがなされているので、もう慣れたものだ。
 まぁネーシャはまだ慣れないようであたふたしているけど、それも可愛いので問題ない。

 エリザベートさんとアルとネーシャのコントを微笑ましく眺めながら、夕飯までの時間を楽しく過ごした。

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