幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
69 / 183
第3章

68,ハイパーナイトメアモード

しおりを挟む
 空気を切り裂き唸りを上げて接近する拳を氷の槍が迎撃する。
 鋼鉄のような筋肉を抉り取り貫通していく氷の槍の与える強烈な衝撃でバランスを崩す特殊進化個体モンスターは追撃を放つことができない。
 だがこちらの次弾はまだ健在の残りの腕で砕かれ逸らされる。
 その間に急激な再生により抉り飛ばした腕が復活し、様々な角度から強襲する。

 特殊進化個体モンスターの再生能力は驚嘆の一言だ。
 最初の頃の再生速度を鼻で笑えるくらいに今現在の再生速度はその比ではない。


「……成長……してる?」


 一足飛びでは近寄れない距離まで転移して離れて独りごちる。
 再生速度の飛躍的上昇とそれを利用した肉を切らせて骨を断つような攻撃は完全にこちらの火力と攻撃速度を読みきった行動だ。

 氷の槍で特殊進化個体モンスターの悪魔のような一撃必殺の攻撃を粉砕するには威力が求められる。
 初級魔法で威力を求めるとどうしてもMPの消費が大きくなる。

 1度の攻撃でヤツは片方の腕3本を用いてくる。
 迎撃にも最低3本以上の氷の槍が必要になり、その全てに威力を求める必要がある。
 そうなるとどうしてもMP消費が高く、連続での迎撃には限界が出てくる。
 逸らす程度の威力では追撃が容赦なく降って来る。MPをケチった代償は死という暴利だ。

 魔法を使わないとなると接近しなければいけない。
 それはつまりあの暴威としか表現のしようのない攻撃の圏内に潜り込まなくてはいけないということだ。
 転移を利用した攻撃の場合まだ魔法を使うよりはMP消費が少なく済むがやはり接近することには代わりない。


 覚悟を決める時なのかもしれない。


 この短い時間でヤツはこちらの火力と攻撃速度を見切り戦闘方法を変更してきている。
 おそらく転移を利用した近接攻撃に切り替えてもすぐに対応されるだろう。

 近接と魔法を織り交ぜた短期決戦しかあるまい。


 こちらの覚悟が決まったことから雰囲気が変わったのが伝わったのだろう。
 ヤツの雰囲気も変わったのがわかる。

 すでに完全に回復している6本の腕が一際盛り上がり、4本の足の指が地面を削るように掴みあげる。

 後ろの2本の足がさらに隆起した瞬間、威力を抑えて消費を少なくした巨大な槍が一瞬にして成形され射出される。
 速度もこれまどの槍に比べれば比べる事自体がおかしいくらいに遅い。
 だがすでにヤツは動き出していて大きさ的にもかわせない。そのまま3本の拳が巨大な槍を打ち砕くことを見ぬまま転移が完了する。

 巨槍を打ち出した時には反動をつけて回転し、アイテムボックスからグレートコーンを引き抜く。
 転移完了と同時に叩き付けたグレートコーンは誘拐犯達に当てたような遠心力だけのものではなく、肉を潰し骨を砕きその全てを破壊するための全てをこめた一撃だ。
 巨槍が砕かれる轟音と同時に着弾した破城槌が4本の足のうちの1本を爆発四散させる。

 軸足となっているうちの1本を失ったことによりバランスが崩れた特殊進化個体モンスターだが、倒れるまではいかなかったようだ。

 だが当然それを見届けるはずがなく、上空20m地点に転移したオレはすぐさま威力重視の氷の槍を2本射出する。
 氷の槍を射出した時点で気づいたヤツが着弾直前で腕を2本犠牲にして、氷の槍を打ち砕く。
 キラキラと煌く破片が降り注ぎ、2つの太陽の光を盛大に反射したそれらに紛れて、足場として作り出した氷を蹴り落下スピードも加算した破城槌が頭部を強襲するために超高速で迫る。

 削り飛ばされた腕2本は一瞬で半ばまで再生を完了させていたが間に合わない。
 残った1本がガードに回るがその腕を巻き込み破城槌は暴威を奮う。

 肉を潰し、骨が拉__ひしゃ__#げる感触。
 確実に殺す為の一撃は手加減など一切ない非情なる一撃。

 特殊進化個体モンスターといえども魔物なのだろう。
 血液が少なく魔力がそれを補っている。だが巨体であるが故にその血液量は小さな魔物達より多かったようだ。
 腕がガードの意味をなさず頭部を粉砕して首と骨を同時に潰し、筋繊維と血管をひき潰していく。
 振り切られた反動で1回転する視界に映ったのは噴水とはいかないまでも噴出した緑色の血液。

 念のため転移である程度距離を取る。
 頭部を失ったからか体のバランスを取ることができなくなった特殊進化個体モンスターはふらふらとし、崩れ落ちる。


「……嘘だろ」


 だが崩れ落ちた特殊進化個体モンスターは完全には倒れなかった。
 残った3本の腕で地面を掴み倒れることを拒否し、なくなった首から上の肉が蠢き始めている。

 あの蠢く肉の動きは再生の証。
 すでに何度もその場面を見ているので間違いない。


 頭部が弱点だと思った。
 腕が6本あろうと足が4本あろうと、それを除けば人間のような形状をしているのだ。
 頭部には脳があり、脳が命令を体に伝えている。

 だから脳を叩けば、倒せると思った。
 いくら再生能力があっても脳がなくなってしまえばそこまでだろうと、安易に思ってしまった。

 ここは異世界だ。
 脅威の再生能力を持っている化け物のような生物が生前の常識通りのわけがなかったのだ。


 蠢き再生し始めた肉体はこれまでの腕のような一瞬に近い再生ではなかったがゆっくりと確実に再生していく。
 その間他の体は動かずじっとしている。脳が体の動作の命令を出しているのは間違いないのだろうが、再生能力自体は脳の命令なしでも行えるのだ。

 唖然としながらもそこまで思考が進む。


【ワタリ様!】


 アルの切迫した声に意識が戻り、すぐさま月陽の首飾りからMPを取り出す。

 じっとしているならチャンスだ。
 再生が終わるまで見ている必要などない。唖然としている暇などないのだ。
 仕留められるタイミングで確実に仕留めなければこちらが殺られる。


【さんきゅ、アル!】


 オレが信じられない物を見たために停止してしまっていたのにすぐさま気づいた自慢の従者に礼を言い、すぐさま氷の槍を射出する。
 脳を失って命令系統がなくなったためか迎撃どころか防御すらせずに氷の槍は特殊進化個体モンスターの肉体を抉り削り、ばらばらにしていく。

 だが、ばらばらになった肉体は大きな肉塊ならば肉が蠢き再生を続けようとする。


【アル! これどうすればいいの!?】

【再生している部分を焼き払ってください!】

【了解!】


 まだ蠢いている肉に初級魔法:火を使い焼いていく。
 肉が焼ける匂いが辺りに漂う。
 とても食欲が出るような匂いではなく、逆に食欲が失せ吐き気がこみ上げてくるような匂いだ。

 蠢いていた肉の塊が活動を停止するまで燃やし続け、ほとんど炭化してやっと活動が停止した。
 活動が停止すると同時に例のファンファーレが脳内に何度も響いた。
 どうやらレベルアップしたようだ。
 さすがにあれほどの相手ならばレベルアップしてくれるようだ。これでレベルが上がらなかったらオレはレベル上げが相当辛いことになるからな。
 ステータスを確認するとBaseLvが5になっていた。
 なんと一気に4も上がっている。
 岩食いペンギン21匹倒しても1つもあがらなかったというのにこれはびっくりだ。

 まぁ岩食いペンギンなんかとは比べ物にならない強さだったので当然といえば当然かもしれない。
 経験値も大量なら素材の方はどうなんだろうか。
 そもそも解体が効くのだろうか、これに。


【アル、こいつにも解体って効く?】

【答えは是。特殊進化個体モンスターは魔物が魔結晶を得、さらに大量の魔結晶を取り込むことにより進化した個体にございます。
 故に特殊進化個体モンスターも元は魔物でございますので解体可能にございます】

【了解。解体】


 炭化した肉塊に向かって手を翳し解体すると、漂っていた吐き気を催す匂いもばらばらに散らばった肉の塊も全て消失し残ったのは魔結晶が8つ。
 大きな肉の塊が1つと巨大な爪が2枚だった。

 1匹の魔物から魔結晶が8つ。
 1つでもレアで、魔結晶を持つ魔物は強い固体になるのにそれが8つ。

 あの再生能力と凶悪なまでの強さ。
 レア個体を7匹も取り込んだ結果がこれのようだ。

 一体どれだけ時間をかけて成長した特殊進化個体モンスターだったのだろうか。


「お疲れ様にございます、ワタリ様。
 このアル、ワタリ様の勇姿を目に焼き付けられたこと幸運でございます」

「ハハ……。結構死ぬかと思ったよ?」

「ワタリ様ならば必ずや、やり遂げてくださると確信しておりました」

「出来ればもう相手したくないなぁ。
 ……ジーナさんまだ起きない?」

「答えは是。戦闘開始からまだ10分程度ですのでもうしばらくかかるかと存じます」

「そっか。じゃあ……。あっちのあの人どうしよう? 解体すればいいの?」

「答えは是。死亡した者は解体することによりタグが残ります。それを冒険者ならば冒険者ギルドに、商人なら商業ギルドに、それ以外ならば役所などに届ければソレ相応の謝礼を受け取れます」

「そっか……」

「ワタリ様はこの方を見ていていただけますか?」

「ぇ……。ぁ、うん。ごめんね?」

「私はワタリ様の従者。ワタリ様のお手を煩わせる必要はありません」

「……ありがとう」


 上半身がなくなってしまっているような酷い死体を前に躊躇していると、アルが代わってくれる。
 さり気無く気遣ってくれているのが嬉しい。
 やっぱりアルは最高の従者だ。


 担いでいたジーナさんを地面に寝かせるとアルは一礼して死体の方に向かう。
 その後姿はとても大きく頼もしく見えた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...