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第4章
71,報告
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冒険者ギルドの扉の前についたとほぼ同時にジーナさんが再び目覚めた。
今度は意識もしっかり戻ったようで少し安心したが、目の前で最愛の人を亡くしたばかりだ。まだ油断はできない。
「ここは冒険者ギルド……?」
「はい、ラッシュの街の冒険者ギルドです。とりあえず、中入って話しましょうか」
意識が戻ったら場所が飛び飛びなのだ。そりゃ混乱もする。
でもすぐに冒険者ギルド前だってこともわかったようだし、一先ずは大丈夫だろう。
冒険者ギルド内は少し混み始めているようだった。
時間も時間なのでなるべく早く終わらせてネーシャを迎えに行きたい。
予定の時間よりちょっと遅くなっているから心配させてしまっているだろうし。
全ての受付にすでに行列が出来ていて余っているテーブルも無さそうだ。
きょろきょろしていると見知った後姿を発見することが出来た。
普段はあちらの方が発見してくるのだが、今日は混み始めているからか少し忙しそうにしていてまだこちらを発見するには至っていなかったようだ。
「エリザベートさん」
「あ、おっかえり~! 怪我ない? 無理しなかった?」
「はい、大丈夫ですよ。それよりちょっと報告したいことがあるんですけど」
「え、何々? やっと私の家に住んでくれる話かな? かな?」
「エリザベート。真面目な用件です」
「私だって真面目ですー!」
「と、とりあえず前に使った個室って使えますか?」
「……わかったわ。じゃあ5番の部屋で待っててくれるかしら?」
アルの真面目な用件と個室で報告という話、アルがまだ背負っているジーナさんの存在などエリザベートさんも気づいて真剣な表情になって即行動してくれる。
こういうところは切り替えが早くてかっこいいお姉さんなんだけどなぁ……。
5番の部屋で3人とも丸椅子に腰を下ろして待っていると、すぐにエリザベートさんは戻ってきた。
「お待たせ。使用許可は取ってきたから大丈夫よ。
それで一体何があったの?」
エリザベートさんが部屋に入り扉を閉めるとドアノブに何かを引っ掛けて青く光らせる。
特に何か変わったことは青く光ってるくらいで何もないけど、あれは一体なんだろうか。
「あ、これは防音の魔道具よ。大事な話はしっかり用心しないとね」
「なるほど。実は特殊進化個体に遭遇したんです」
「……はい?」
きょとん、としたエリザベートさんが目をぱちくりさせる様はすごく可愛いけどそれも束の間。
見る見る顔から血の気が引いていくエルフさんはすっかり真っ白だ。
「ななななななななんですってー!」
盛大に机を叩いて身を乗り出してきたエリザベートさんの反応にちょっとビクっとしてしまったが、それを制してアルが事前の打ち合わせ通りに話し始める。
エリザベートさんもその話を真剣に聞き、ジーナさんもアルの話を聞いて驚いている。
そりゃそうだ。
アルの話は事前の打ち合わせ通りで、駆けつけた謎の武装集団による特殊進化個体との共闘なのだから。
オレは基本的に回復後方支援って感じでPTに参加したってことにしてある。アルはオレの護衛として参加したことにした。
「な、なんて危ないことを!」
「で、でも最初に回復役の人が負傷してしまって私が治したことから緊急事態だから協力してくれってことになってしまったんですよ」
「確かにワタリちゃんの腕ならどこでも欲しがるほどだけど……。特殊進化個体は本当に危険な相手なのよ?
その戦闘を直に見たワタリちゃんならわかるでしょ?」
「はい、すごく強かったです」
「普通は騎士団の精鋭を大隊規模で派遣して半分くらいは殺される覚悟をして倒すものなのよ?」
「そ、そうなんですか……」
エリザベートさんの話はあの強さを考えれば頷けるが、それでは特殊進化個体が何度か現れただけで騎士団が壊滅してしまうんじゃないだろうか。
その思いが顔に出てでもいたのかエリザベートさんが溜め息を吐いて言葉を続ける。
「……ワタリちゃん。特殊進化個体なんて年に1回出るかどうかなんだよ?
そんなものに初の街外依頼で遭遇するなんて……。しかもその謎の武装集団の手を借りたとはいえ倒しちゃうなんて……。はぁ……」
「ご、ごめんなさい?」
「謝っても仕方ないわ。こればっかりは運だもの。というかその謎の武装集団に名前は聞かなかったの?
これじゃあその人達から事情聴取ができないわ」
「すみません、色々とてんぱっていたので……」
「まぁ特殊進化個体と遭遇して倒しちゃうなんてそりゃてんぱるわよねぇ……。私だっててんぱっちゃうわ。
とにかく場所も大体わかったし、戦闘跡は残っているんだから人を派遣して調べてもらうわ。
ギルドカードの討伐記録には特殊進化個体は元の魔物でしか登録されないし、討伐証明の部位はもらえなかったんでしょ?」
「はい、私は回復とか後方支援でしたので」
「ん~。それもどうかと思うんだよねぇ。多分ワタリちゃんがいなかったらそいつら壊滅してたでしょ。
そういう時はきちんと主張しないとだめよ? 冒険者ならもらえる物は全部もらうくらいじゃないと」
「す、すみません」
「まぁいいわ。それでジーナさんといったかしら」
「は、はい! お噂はかねがね伺っております、エリザベート様!」
「まぁ私の噂はどうでもいいわ。あなたには詳しい事情を聞かないといけない。辛いでしょうけどお願いするわ」
「は、はい……」
エリザベートさんにはすでにタグも見せジーナさんに返却もしている。
装備や持ち物については拾った人の物となるため、返そうとしたけどジーナさんに断られた。
タグだけでも持ち帰ってくれて感謝されたほどだ。
そしてわかったことだが、死亡した男の人はジーナさんの結婚相手ではなかった。
だがジーナさんの兄だった。
どちらがマシかといわれても困るし、なんとも微妙な真実ではあったのだが。
ジーナさんの結婚相手は特殊進化個体に追われる間に負傷してしまい、命は取り留めた物の一緒に逃げるのは不可能ということで、2手に別れた。
本来はジーナさんが結婚相手に付き添うのがいいのだろうが、彼女も冒険者であり彼女達のPTでの主要戦力でもあった為特殊進化個体をひきつける役に回ったそうだ。
本来は十分に逃げ切れるはずだったのだが、不幸にも他の魔物の集団と遭遇してしまったりと、不運が連続してしまい逃げ道が限定されるなどして結果的にあんなことになってしまったらしい。
ちなみに特殊進化個体とはどこで遭遇したかというと、ラッシュの街から片道でも4日はかかる森の深部らしい。
迷った末に辿りついたそこで不幸にも遭遇してしまった特殊進化個体に目を付けられたジーナさん一行は数日かけて逃走を試み結果失敗した。
アレ相手に数日も逃げ回り続けたっていうのがすごいと思うが、ジーナさんはLv30超えという強者だったし、結婚相手の人はさらに上という結構な強さのPTだったようだ。
ジーナさんの兄のアーノルドさんが1番弱かったという、それでもLv20代だ。
事情聴取も終わり、ジーナさんは結婚相手の待つ村まで戻るという話だ。
オレ達に何度も何度も感謝して頭を下げてこのお礼は必ずします、と約束していった。
残ったオレ達はというと。
「今回は事なきを得たからよかったけれど!
本来なら死んでしまってもおかしくなかったんだからね! ちゃんと反省しなさい、ワタリちゃん!」
「は、はい……」
「その通りにございます。ワタリ様はもう少し慎重になるべきかと存じます」
「あぅぅ……」
「まったく、だから私は薬草採取なんて危険な依頼はだめだってあれほどいったのよ!?」
「で、でも本来の薬草採取だけなら全然大丈夫でしたよ……」
「だまらっしゃい!」
「はぅ」
「簡単な依頼でもトラブルは付きもの! 今回のは異常なトラブルだったけど、大なり小なりあるものです!
だから」
「まぁそれくらいにしておけ、エリザ」
エリザベートさんの話に割って入ったのは渋い低い声だった。
ドアが開いた音もしなかったし、まったく人の気配もしなかったというのにその人はいつの間にかそこにいた。
「お、お爺ちゃん!?」
「ギルドマスターと呼べ、ギルドマスターと」
「うっ、ぎ、ギルドマスター何か御用ですか?」
「何、特殊進化個体が出たと聞いたのでな」
「ぬ、盗み聞きしたんですか!?」
「おいおい、酷い言い方だな。まるで俺がドアの前で耳をそばだたせていたかのような言い方だな。
そんなことは無駄なことくらいおまえも知っているだろう」
「うっ」
ドアノブに引っ掛けてある魔道具をコンコンと軽く叩きながらギルドマスターはニヤリと笑う。
というかエリザベートさんはギルドマスターのお孫さんだったのか。
確かにギルドマスターはエルフで、すごい美人さんだ。
エルフによくある細い体はしておらず、筋骨隆々としていて野太い感じだが耳は尖っているし、顔立ちはすっきりしていて髪も瞳の色もエリザベートさんと同じ色。
孫がいるような人には見えないのは長命種のエルフだからだろうか。
ネーシャを助けた時にも見せた何らかの権力はギルドマスターが祖父というのもあるのだろうか。でもそれは抜きにしてもさっきジーナさんも噂とか言ってたし、今度エイド君に聞いてみよう。
「た、確かにこの防音の魔道具で音は完全に遮断されますけど……。じゃあ一体どうやって?」
「はっはっは。最初からここにいたからな!」
「……はぁ……」
なんと最初からこの部屋に居たらしいこのギルドマスター。
まったく気づかなかった。
それよりなんでここにいたんだギルドマスター。よほど暇だったのかギルドマスター。
「まったく……。仕事してください、ギルドマスター?」
「有望な冒険者の話を聞くのも立派な仕事だろう? それにやはり聞いていてよかったと思うぞ?
特殊進化個体の討伐報告とはな」
「ま、まぁそうですけど……」
部屋に潜んでいたのは棚に上げてしまったギルドマスターにエリザベートさんがやり込められている。
さすがのエリザベートさんでも上司であり、祖父である人には敵わない様だ。
「何にせよ、討伐ご苦労だった。本来は街に被害が出てしまうほどの大惨事になるところだったろう。
戦闘跡の検分を行った後に正式な貢献度は算出されるだろうが、出来れば討伐証明部位を持ってきて欲しかったな」
「すみません」
「いや、君はまだ冒険者になりたてだからな、仕方あるまい。
だがエリザから話は聞いている。回復魔法の名手だそうだな」
「は、はぁ」
「何、俺もエリザと同じ考えだ。君をどうこうしようとするつもりもない。
困ったことがあったらエリザを通しなさい。出来る限りで力になってあげよう」
「あ、ありがとうございます」
キラキラ光りそうなスマイルを残してギルドマスターが闇に溶ける様に消える。
現れたときと同様インパクトの強い退場シーンだった。
それにしてもギルドマスターにも気に入られた感じか?
なんともお約束というか。
特殊進化個体を本当は単独で討伐したなんて言わなくてよかった。言ったらどうなっていたことか。
その後、ギルドマスターが本当にいなくなったかエリザベートさんが色々部屋でやっているのを苦笑しつつ眺めて、いないことがわかったエリザベートさんのお小言を聞く嵌めになった。
やっぱり最後は。
「私の家で暮らしま」
「ワタリ様、依頼の報告に行きましょう」
「遮るなー!」
いつも通りだった。
今度は意識もしっかり戻ったようで少し安心したが、目の前で最愛の人を亡くしたばかりだ。まだ油断はできない。
「ここは冒険者ギルド……?」
「はい、ラッシュの街の冒険者ギルドです。とりあえず、中入って話しましょうか」
意識が戻ったら場所が飛び飛びなのだ。そりゃ混乱もする。
でもすぐに冒険者ギルド前だってこともわかったようだし、一先ずは大丈夫だろう。
冒険者ギルド内は少し混み始めているようだった。
時間も時間なのでなるべく早く終わらせてネーシャを迎えに行きたい。
予定の時間よりちょっと遅くなっているから心配させてしまっているだろうし。
全ての受付にすでに行列が出来ていて余っているテーブルも無さそうだ。
きょろきょろしていると見知った後姿を発見することが出来た。
普段はあちらの方が発見してくるのだが、今日は混み始めているからか少し忙しそうにしていてまだこちらを発見するには至っていなかったようだ。
「エリザベートさん」
「あ、おっかえり~! 怪我ない? 無理しなかった?」
「はい、大丈夫ですよ。それよりちょっと報告したいことがあるんですけど」
「え、何々? やっと私の家に住んでくれる話かな? かな?」
「エリザベート。真面目な用件です」
「私だって真面目ですー!」
「と、とりあえず前に使った個室って使えますか?」
「……わかったわ。じゃあ5番の部屋で待っててくれるかしら?」
アルの真面目な用件と個室で報告という話、アルがまだ背負っているジーナさんの存在などエリザベートさんも気づいて真剣な表情になって即行動してくれる。
こういうところは切り替えが早くてかっこいいお姉さんなんだけどなぁ……。
5番の部屋で3人とも丸椅子に腰を下ろして待っていると、すぐにエリザベートさんは戻ってきた。
「お待たせ。使用許可は取ってきたから大丈夫よ。
それで一体何があったの?」
エリザベートさんが部屋に入り扉を閉めるとドアノブに何かを引っ掛けて青く光らせる。
特に何か変わったことは青く光ってるくらいで何もないけど、あれは一体なんだろうか。
「あ、これは防音の魔道具よ。大事な話はしっかり用心しないとね」
「なるほど。実は特殊進化個体に遭遇したんです」
「……はい?」
きょとん、としたエリザベートさんが目をぱちくりさせる様はすごく可愛いけどそれも束の間。
見る見る顔から血の気が引いていくエルフさんはすっかり真っ白だ。
「ななななななななんですってー!」
盛大に机を叩いて身を乗り出してきたエリザベートさんの反応にちょっとビクっとしてしまったが、それを制してアルが事前の打ち合わせ通りに話し始める。
エリザベートさんもその話を真剣に聞き、ジーナさんもアルの話を聞いて驚いている。
そりゃそうだ。
アルの話は事前の打ち合わせ通りで、駆けつけた謎の武装集団による特殊進化個体との共闘なのだから。
オレは基本的に回復後方支援って感じでPTに参加したってことにしてある。アルはオレの護衛として参加したことにした。
「な、なんて危ないことを!」
「で、でも最初に回復役の人が負傷してしまって私が治したことから緊急事態だから協力してくれってことになってしまったんですよ」
「確かにワタリちゃんの腕ならどこでも欲しがるほどだけど……。特殊進化個体は本当に危険な相手なのよ?
その戦闘を直に見たワタリちゃんならわかるでしょ?」
「はい、すごく強かったです」
「普通は騎士団の精鋭を大隊規模で派遣して半分くらいは殺される覚悟をして倒すものなのよ?」
「そ、そうなんですか……」
エリザベートさんの話はあの強さを考えれば頷けるが、それでは特殊進化個体が何度か現れただけで騎士団が壊滅してしまうんじゃないだろうか。
その思いが顔に出てでもいたのかエリザベートさんが溜め息を吐いて言葉を続ける。
「……ワタリちゃん。特殊進化個体なんて年に1回出るかどうかなんだよ?
そんなものに初の街外依頼で遭遇するなんて……。しかもその謎の武装集団の手を借りたとはいえ倒しちゃうなんて……。はぁ……」
「ご、ごめんなさい?」
「謝っても仕方ないわ。こればっかりは運だもの。というかその謎の武装集団に名前は聞かなかったの?
これじゃあその人達から事情聴取ができないわ」
「すみません、色々とてんぱっていたので……」
「まぁ特殊進化個体と遭遇して倒しちゃうなんてそりゃてんぱるわよねぇ……。私だっててんぱっちゃうわ。
とにかく場所も大体わかったし、戦闘跡は残っているんだから人を派遣して調べてもらうわ。
ギルドカードの討伐記録には特殊進化個体は元の魔物でしか登録されないし、討伐証明の部位はもらえなかったんでしょ?」
「はい、私は回復とか後方支援でしたので」
「ん~。それもどうかと思うんだよねぇ。多分ワタリちゃんがいなかったらそいつら壊滅してたでしょ。
そういう時はきちんと主張しないとだめよ? 冒険者ならもらえる物は全部もらうくらいじゃないと」
「す、すみません」
「まぁいいわ。それでジーナさんといったかしら」
「は、はい! お噂はかねがね伺っております、エリザベート様!」
「まぁ私の噂はどうでもいいわ。あなたには詳しい事情を聞かないといけない。辛いでしょうけどお願いするわ」
「は、はい……」
エリザベートさんにはすでにタグも見せジーナさんに返却もしている。
装備や持ち物については拾った人の物となるため、返そうとしたけどジーナさんに断られた。
タグだけでも持ち帰ってくれて感謝されたほどだ。
そしてわかったことだが、死亡した男の人はジーナさんの結婚相手ではなかった。
だがジーナさんの兄だった。
どちらがマシかといわれても困るし、なんとも微妙な真実ではあったのだが。
ジーナさんの結婚相手は特殊進化個体に追われる間に負傷してしまい、命は取り留めた物の一緒に逃げるのは不可能ということで、2手に別れた。
本来はジーナさんが結婚相手に付き添うのがいいのだろうが、彼女も冒険者であり彼女達のPTでの主要戦力でもあった為特殊進化個体をひきつける役に回ったそうだ。
本来は十分に逃げ切れるはずだったのだが、不幸にも他の魔物の集団と遭遇してしまったりと、不運が連続してしまい逃げ道が限定されるなどして結果的にあんなことになってしまったらしい。
ちなみに特殊進化個体とはどこで遭遇したかというと、ラッシュの街から片道でも4日はかかる森の深部らしい。
迷った末に辿りついたそこで不幸にも遭遇してしまった特殊進化個体に目を付けられたジーナさん一行は数日かけて逃走を試み結果失敗した。
アレ相手に数日も逃げ回り続けたっていうのがすごいと思うが、ジーナさんはLv30超えという強者だったし、結婚相手の人はさらに上という結構な強さのPTだったようだ。
ジーナさんの兄のアーノルドさんが1番弱かったという、それでもLv20代だ。
事情聴取も終わり、ジーナさんは結婚相手の待つ村まで戻るという話だ。
オレ達に何度も何度も感謝して頭を下げてこのお礼は必ずします、と約束していった。
残ったオレ達はというと。
「今回は事なきを得たからよかったけれど!
本来なら死んでしまってもおかしくなかったんだからね! ちゃんと反省しなさい、ワタリちゃん!」
「は、はい……」
「その通りにございます。ワタリ様はもう少し慎重になるべきかと存じます」
「あぅぅ……」
「まったく、だから私は薬草採取なんて危険な依頼はだめだってあれほどいったのよ!?」
「で、でも本来の薬草採取だけなら全然大丈夫でしたよ……」
「だまらっしゃい!」
「はぅ」
「簡単な依頼でもトラブルは付きもの! 今回のは異常なトラブルだったけど、大なり小なりあるものです!
だから」
「まぁそれくらいにしておけ、エリザ」
エリザベートさんの話に割って入ったのは渋い低い声だった。
ドアが開いた音もしなかったし、まったく人の気配もしなかったというのにその人はいつの間にかそこにいた。
「お、お爺ちゃん!?」
「ギルドマスターと呼べ、ギルドマスターと」
「うっ、ぎ、ギルドマスター何か御用ですか?」
「何、特殊進化個体が出たと聞いたのでな」
「ぬ、盗み聞きしたんですか!?」
「おいおい、酷い言い方だな。まるで俺がドアの前で耳をそばだたせていたかのような言い方だな。
そんなことは無駄なことくらいおまえも知っているだろう」
「うっ」
ドアノブに引っ掛けてある魔道具をコンコンと軽く叩きながらギルドマスターはニヤリと笑う。
というかエリザベートさんはギルドマスターのお孫さんだったのか。
確かにギルドマスターはエルフで、すごい美人さんだ。
エルフによくある細い体はしておらず、筋骨隆々としていて野太い感じだが耳は尖っているし、顔立ちはすっきりしていて髪も瞳の色もエリザベートさんと同じ色。
孫がいるような人には見えないのは長命種のエルフだからだろうか。
ネーシャを助けた時にも見せた何らかの権力はギルドマスターが祖父というのもあるのだろうか。でもそれは抜きにしてもさっきジーナさんも噂とか言ってたし、今度エイド君に聞いてみよう。
「た、確かにこの防音の魔道具で音は完全に遮断されますけど……。じゃあ一体どうやって?」
「はっはっは。最初からここにいたからな!」
「……はぁ……」
なんと最初からこの部屋に居たらしいこのギルドマスター。
まったく気づかなかった。
それよりなんでここにいたんだギルドマスター。よほど暇だったのかギルドマスター。
「まったく……。仕事してください、ギルドマスター?」
「有望な冒険者の話を聞くのも立派な仕事だろう? それにやはり聞いていてよかったと思うぞ?
特殊進化個体の討伐報告とはな」
「ま、まぁそうですけど……」
部屋に潜んでいたのは棚に上げてしまったギルドマスターにエリザベートさんがやり込められている。
さすがのエリザベートさんでも上司であり、祖父である人には敵わない様だ。
「何にせよ、討伐ご苦労だった。本来は街に被害が出てしまうほどの大惨事になるところだったろう。
戦闘跡の検分を行った後に正式な貢献度は算出されるだろうが、出来れば討伐証明部位を持ってきて欲しかったな」
「すみません」
「いや、君はまだ冒険者になりたてだからな、仕方あるまい。
だがエリザから話は聞いている。回復魔法の名手だそうだな」
「は、はぁ」
「何、俺もエリザと同じ考えだ。君をどうこうしようとするつもりもない。
困ったことがあったらエリザを通しなさい。出来る限りで力になってあげよう」
「あ、ありがとうございます」
キラキラ光りそうなスマイルを残してギルドマスターが闇に溶ける様に消える。
現れたときと同様インパクトの強い退場シーンだった。
それにしてもギルドマスターにも気に入られた感じか?
なんともお約束というか。
特殊進化個体を本当は単独で討伐したなんて言わなくてよかった。言ったらどうなっていたことか。
その後、ギルドマスターが本当にいなくなったかエリザベートさんが色々部屋でやっているのを苦笑しつつ眺めて、いないことがわかったエリザベートさんのお小言を聞く嵌めになった。
やっぱり最後は。
「私の家で暮らしま」
「ワタリ様、依頼の報告に行きましょう」
「遮るなー!」
いつも通りだった。
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