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第5章
89,決闘終了
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舞い上がった訓練場の砂が澄み切った青空から流れる風で洗われて行く。
ところどころに地面を抉った後が直線状に点在し、その終点にはピクリとも動かなくなった歪な人の形をした物体があった。
シン、と痛いくらいに静まり返った空間に小さな足音が凄まじい重量を伴いながらもゆっくりと刻まれていく。
右肩に乗せたグレートコーンがその重量で作り出す足跡がくっきりと残り、数を増していく。
その数が増えていく毎にゆっくりとオレの周りには氷の槍が形成されていく。すでに月陽の首飾りからはMPを回収済みだ。
氷の槍を形成する前に実は無理やりグレートコーンを打ち出したので少し両肩がズキズキと痛んだのを回復していたりする。
誰かが息を飲む音がはっきりと聞こえた。
回転を始めた氷の槍がその力を存分に吐き出し、立ちふさがる全てのモノを蹂躙せんと唸りをあげ始めれば、痛いほどの静けさが引き裂かれていく。
「そ、そこまで! 勝負ありだ! 終わりだ!」
声の方を見れば緊張した様子のギルドマスターが開始時に居た位置に立ったまま大粒の汗をその強張った顔に貼り付けている。
そんなに怖い顔をしているとネーシャが泣いちゃうじゃないか。
高速回転している氷の槍が停止すると同時に消失する。
射出しなくても具現化された時点でMPは消費されてしまうので、念の為月陽の首飾りからMPを補給しておく。
MPが一瞬で満タン付近まで回復すると同時にギルドマスターが何か紙のようなものに置いた手から赤い光の帯が幾筋も出て行くのが見える。
決闘の契約をした際に見たモノとは少しだけ違ったような気がするけど、どこが違うかは詳しくは分からなかった。
伸びてくる赤い光の帯がオレの右手に接触し、歪に折れ曲がった顎だった物体にも触れる。
1拍の間を置いて現れたウィンドウには奴隷契約完了の証が書き連ねられていた。
「治癒師! 早く治療を!」
「は、はい!」
ギルドマスターが手を置いていた紙は奴隷契約が完了すると同時に溶けるように消えてしまっていた。
バタバタと慌てて歪な顎だった物に駆け寄る治癒師4人。
だがどの表情にも絶望的な色しかない。
まぁ当然だろう。障壁に守られていたとはいえ、オレの攻撃によりそれらは悉く破られている。
相当な障壁だったんだろうが、そう何度も何度ももつものではないだろう。
現にオレの指輪もあまりに強すぎる衝撃だと破られるが、限界まで蓄えられたMPを使ってその衝撃を減らそうとする。さすがに破られても1回で作動不能になってしまわないようにリミッターが設けられているが、2回目でMP切れで使用不能になる。
顎は腐ってもランクS。持っている魔道具もオレの物よりは高性能だろう。だが限界というものは存在するはずだ。
治療を始める前に治癒師達は何かの魔道具を取り出すと、すぐに使用し地面に体ごと顎だった物体を縫いとめる。
治療による痛みで暴れて2次災害にならないようにするためだろう。アレは便利そうだ。
「ぎゃ!」
「ぐあッ!」
だが治療が始まってすぐに縫いとめられた顎が魔道具による拘束を紙の糸のように引き千切って暴れ始めた。
近くで治療を始めていた治癒師がその巻き添えを食らい3m以上吹っ飛ばされている。やっぱりアレはいらないな。
「ぎ、ギルドマスター殿!」
「ちっ! 手間をかけさせる!」
巻き添えを食らわなかった治癒師が仲間の治癒師に治療を施すのとギルドマスターに叫ぶのがほぼ同時。
それを受けてギルドマスターがオレの方に駆けて来る。なんだろう。押さえろって言うなら断るんだけど。
「キリサキ、すまんがヤツに動くなと命令してくれ。契約はLv8だから無意識の反応でも制御できる」
「あぁ、そういうことですか。取り押さえろっていうなら断るつもりだったんですがそれならいいですよ」
そういえば最初に決闘契約をしたときに奴隷の契約Lvも決めていたっけ。
Lv8だとかなりきつい契約になる。
どんな命令にも絶対服従だし、主人に対して悪感情を抱くだけで激痛が走る。
Lv9以上になると理性と呼べる思考がなくなるが、Lv8ではまだ残り逆に厳しい環境になる。
プライドが高かったりすると余計に。
Lv8では理性などのほとんどの思考が残るが、例え意識を失っていても主人の命令は機能する。
これらはLv7以上でないと機能しないそうだ。
「動くな」
オレから言葉が発せられると同時に激しく痙攣していた顎がビタっと動きを止める。
暴れていた時のままおかしな角度の腕や足の状態で止まったので、まるで悪魔付きのような形になっている。正直きもい。ていうかアレの腕や足は骨が粉々のはずなんだがどうなっているんだろう。
「助かった。続けろ!」
前半はオレへ、後半は治癒師達に向かってギルドマスターが叫ぶ。
「ワタリちゃん!」
「わっ」
声に振り向けばぽわぽわの心地よい何かに包まれて視界が真っ暗になっていた。
勢いで取り落とした破城槌が背後で地面に減り込む重い音がしたがどうでもいいだろう。匂いと声とこの柔らかさはメロン……じゃなくてエリザベートさんだろうから。
「エリザベート、ワタリ様から離れなさい」
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁ」
「わわわワタリさん……」
アルの声が聞こえエリザベートさんの力がちょっと抜けたのでマシュマロから顔を出すと鼻フックされている人が見える。
アル……それはひどいと思うよ……。
鼻フックにそんな感想を抱いていると横から最近また少し肉付きがよくなったネーシャが突っ込んできた。
さすがにレーネさんは突っ込んでこないようだ。
泣きじゃくるネーシャと鼻フックで引きずられていくエリザベートさんと今にも泣きそうなレーネさん。
でもアルはいつも通りだ。
いつも通り鼻フックからの華麗なスイングで涙目のエルフさんを投げ飛ばしている。
そんな光景に先ほどまでマグマのように熱く、極寒のように冷えていた心がいつも通りの、いやいつも以上の温かさを取り戻していく。
「みんな心配かけちゃってごめんね」
「お嬢様ぁぁ……」
「わ、ワタリさん……すごかった、です……」
「ワタリ様なのですから当然です」
「あはは」
相変わらずの泣き虫ネーシャがぼろぼろと涙を流しながら、さっきより力強く抱きしめてくる。
レーネさんは涙目のままその瞳を輝かせて、まるで神でも崇めるかのような勢いだ。
アルは本当にいつも通りだ。周りの慌てっぷりなどお構いなしのその様子にまたほっこりする。
「いたいひよぅ……ワタリちゃああん」
「あはは、大丈夫ですか?」
「うん……ワタリちゃん強かったんだねぇ……。それもすっごく……びっくりしたよぉ」
「黙っててすみませんでした。ずっとアルが強いと勘違いしてくれていたのでそのままでいいかなぁと」
「うぅ、まぁいいよ……強くてもワタリちゃんはワタリちゃんだもの」
「そういってくれるとありがたいです」
鼻を押さえて涙を堪えている可愛いエルフさんにまたもやほっこりさせられる。
オレの周りには優しい人が多くて本当に幸せだ。
これも創造神の加護の力が少しとはいえあると思うと感謝してやってもいいかなと思える。
でも性別を変えたのだけはだめだ、おまえは座ってろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく泣き止まないネーシャと瞳を輝かせて膝を突いてまるでお祈りをしているようなレーネさん、鼻を押さえながらも笑顔のエリザベートさんとオレのすぐ傍でいつも通り控えているアルに囲まれているとギルドマスターが厳しい表情で近寄ってきた。
「キリサキ、度々すまんがどうも俺が用意した治癒師では治療が追いつかん。
すまんが治療してくれないか?」
「お断りします」
「な、なぜだ?」
「なぜ私がアレを治療しなければいけないんですか?」
頭を掻きながら背後を親指で示すギルドマスターの依頼を即答で断る。
オレ的には殺すつもりでやったのだから死んでも別に問題ない。アレが敵であることは今でも変わらないのだ。
「い、いや……そ、そうだ! 売ってくれると約束しただろう!
な! 死んでしまっては買い取れない!」
「む……。そういえばそうでしたね……うーん……」
焦ったギルドマスターが一瞬狼狽したがすぐに名案だとばかりに切り返してくる。
確かにそんな約束をしたような気がする。でも別に口約束だし、破っても問題はない。
だが1度した約束である事にはかわりないし、チラッとアルの方を見ると――。
「ワタリ様の為さりたい様に為さってください」
「わかった」
アルが男の子にしては長い、まるでイケメン主人公のような睫を伏せたままそう言ってくれるのでオレもそうすることにする。
「治療はしましょう。でもそのショックで死んでも責任は取りませんよ?」
「わかった」
ギルドマスターに釘を刺して一先ずみんなはその場に残ってもらい治療をする為に変な角度で固まっている物体Xに近づいていく。
アルも付いて来ようとするエリザベートさんにアームロックをかけているのでついてこれない。
仲がいいなぁ、と苦笑しながら懸命に治療している治癒師達の下に行くと治癒師の1人が状況をギルドマスターに報告してくる。
「骨折箇所が全身に及び、各所の骨が内臓にダメージを与えているようで現状を維持する以上のことができそうにありません。早急に司祭様以上の治癒魔法を扱える方が治療しなければ我々のMPが尽きる方が早いでしょう」
「そうか。キリサキ、どうだ?」
「まぁこの程度なら問題ないかと」
「そうか、やってくれ」
オレの返答に報告してきた治癒師の人だけじゃなく、その場で治療にあたっていた治癒師全員が驚いている。
これはちゃんとギルドマスターに口封じを徹底してもらわないといけないな。
「ギルドマスター」
「あぁわかっている。おまえら彼女のことは内密にな。もし漏れるような事があったら……」
ギルドマスターの声が地の底に落ちたような低く、冷たい声になると治癒師達の顔色が真っ青になった。
これなら大丈夫だろう。治癒師の人達には災難だったが、漏らさなければ特に問題ないわけだし。
それにこの顎が奴隷となったことはすぐに知れ渡るだろう。その状況も隠してもすぐにばれる。
だが戦闘能力以外にも回復能力まで有しているとばれると色々と面倒になる可能性がある。
この世界の病院――治療院では高い金を取っている。
そんな高い金を取れる場所ならば権力も持っていて当然だろう。
戦闘能力だけならそんなところから狙われないで済む。この場合に狙われるのは命じゃなくて内部に取り込む方だからよっぽど面倒くさいのだ。
ネーシャを治療した時のようなMPの使い方はせず、痛みを軽減させるよりも治療を優先して初級魔法:体力回復をかけていく。
動くなという命令を忠実に守っている物体Xが小刻みに震えてしまっているが死にはしないようだ。
見る見るうちに治癒師4人が匙を投げた物体Xが復元されていく。
その光景に青かった治癒師達は真っ白になってしまった。
ただでさえオレとコイツの戦闘を目撃してランクSを瞬殺する強さがあることがわかっているのに、その上彼らがいうところの司祭様レベルの治療を使えるのだ。しかも見た目どうみても幼女。そりゃあ真っ白にもなる。
回復による痛みの軽減を行わず、治療に全てのMPを回したからだろうか。30分程度で治療は終了した。
当然MPは何度か空近くまで減ったので月陽の首飾りから補給しながらだ。
スキル構成は変えていなかったので首飾りのMPはもうほとんどない。まったく無駄なMPを使わせてくれる。
「終わりました」
「うむ。ご苦労だった」
治療が終わってギルドマスターに向き直ると、腕を組んで見守っていた筋肉親父は満足げに頷いたのだった。
ところどころに地面を抉った後が直線状に点在し、その終点にはピクリとも動かなくなった歪な人の形をした物体があった。
シン、と痛いくらいに静まり返った空間に小さな足音が凄まじい重量を伴いながらもゆっくりと刻まれていく。
右肩に乗せたグレートコーンがその重量で作り出す足跡がくっきりと残り、数を増していく。
その数が増えていく毎にゆっくりとオレの周りには氷の槍が形成されていく。すでに月陽の首飾りからはMPを回収済みだ。
氷の槍を形成する前に実は無理やりグレートコーンを打ち出したので少し両肩がズキズキと痛んだのを回復していたりする。
誰かが息を飲む音がはっきりと聞こえた。
回転を始めた氷の槍がその力を存分に吐き出し、立ちふさがる全てのモノを蹂躙せんと唸りをあげ始めれば、痛いほどの静けさが引き裂かれていく。
「そ、そこまで! 勝負ありだ! 終わりだ!」
声の方を見れば緊張した様子のギルドマスターが開始時に居た位置に立ったまま大粒の汗をその強張った顔に貼り付けている。
そんなに怖い顔をしているとネーシャが泣いちゃうじゃないか。
高速回転している氷の槍が停止すると同時に消失する。
射出しなくても具現化された時点でMPは消費されてしまうので、念の為月陽の首飾りからMPを補給しておく。
MPが一瞬で満タン付近まで回復すると同時にギルドマスターが何か紙のようなものに置いた手から赤い光の帯が幾筋も出て行くのが見える。
決闘の契約をした際に見たモノとは少しだけ違ったような気がするけど、どこが違うかは詳しくは分からなかった。
伸びてくる赤い光の帯がオレの右手に接触し、歪に折れ曲がった顎だった物体にも触れる。
1拍の間を置いて現れたウィンドウには奴隷契約完了の証が書き連ねられていた。
「治癒師! 早く治療を!」
「は、はい!」
ギルドマスターが手を置いていた紙は奴隷契約が完了すると同時に溶けるように消えてしまっていた。
バタバタと慌てて歪な顎だった物に駆け寄る治癒師4人。
だがどの表情にも絶望的な色しかない。
まぁ当然だろう。障壁に守られていたとはいえ、オレの攻撃によりそれらは悉く破られている。
相当な障壁だったんだろうが、そう何度も何度ももつものではないだろう。
現にオレの指輪もあまりに強すぎる衝撃だと破られるが、限界まで蓄えられたMPを使ってその衝撃を減らそうとする。さすがに破られても1回で作動不能になってしまわないようにリミッターが設けられているが、2回目でMP切れで使用不能になる。
顎は腐ってもランクS。持っている魔道具もオレの物よりは高性能だろう。だが限界というものは存在するはずだ。
治療を始める前に治癒師達は何かの魔道具を取り出すと、すぐに使用し地面に体ごと顎だった物体を縫いとめる。
治療による痛みで暴れて2次災害にならないようにするためだろう。アレは便利そうだ。
「ぎゃ!」
「ぐあッ!」
だが治療が始まってすぐに縫いとめられた顎が魔道具による拘束を紙の糸のように引き千切って暴れ始めた。
近くで治療を始めていた治癒師がその巻き添えを食らい3m以上吹っ飛ばされている。やっぱりアレはいらないな。
「ぎ、ギルドマスター殿!」
「ちっ! 手間をかけさせる!」
巻き添えを食らわなかった治癒師が仲間の治癒師に治療を施すのとギルドマスターに叫ぶのがほぼ同時。
それを受けてギルドマスターがオレの方に駆けて来る。なんだろう。押さえろって言うなら断るんだけど。
「キリサキ、すまんがヤツに動くなと命令してくれ。契約はLv8だから無意識の反応でも制御できる」
「あぁ、そういうことですか。取り押さえろっていうなら断るつもりだったんですがそれならいいですよ」
そういえば最初に決闘契約をしたときに奴隷の契約Lvも決めていたっけ。
Lv8だとかなりきつい契約になる。
どんな命令にも絶対服従だし、主人に対して悪感情を抱くだけで激痛が走る。
Lv9以上になると理性と呼べる思考がなくなるが、Lv8ではまだ残り逆に厳しい環境になる。
プライドが高かったりすると余計に。
Lv8では理性などのほとんどの思考が残るが、例え意識を失っていても主人の命令は機能する。
これらはLv7以上でないと機能しないそうだ。
「動くな」
オレから言葉が発せられると同時に激しく痙攣していた顎がビタっと動きを止める。
暴れていた時のままおかしな角度の腕や足の状態で止まったので、まるで悪魔付きのような形になっている。正直きもい。ていうかアレの腕や足は骨が粉々のはずなんだがどうなっているんだろう。
「助かった。続けろ!」
前半はオレへ、後半は治癒師達に向かってギルドマスターが叫ぶ。
「ワタリちゃん!」
「わっ」
声に振り向けばぽわぽわの心地よい何かに包まれて視界が真っ暗になっていた。
勢いで取り落とした破城槌が背後で地面に減り込む重い音がしたがどうでもいいだろう。匂いと声とこの柔らかさはメロン……じゃなくてエリザベートさんだろうから。
「エリザベート、ワタリ様から離れなさい」
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁ」
「わわわワタリさん……」
アルの声が聞こえエリザベートさんの力がちょっと抜けたのでマシュマロから顔を出すと鼻フックされている人が見える。
アル……それはひどいと思うよ……。
鼻フックにそんな感想を抱いていると横から最近また少し肉付きがよくなったネーシャが突っ込んできた。
さすがにレーネさんは突っ込んでこないようだ。
泣きじゃくるネーシャと鼻フックで引きずられていくエリザベートさんと今にも泣きそうなレーネさん。
でもアルはいつも通りだ。
いつも通り鼻フックからの華麗なスイングで涙目のエルフさんを投げ飛ばしている。
そんな光景に先ほどまでマグマのように熱く、極寒のように冷えていた心がいつも通りの、いやいつも以上の温かさを取り戻していく。
「みんな心配かけちゃってごめんね」
「お嬢様ぁぁ……」
「わ、ワタリさん……すごかった、です……」
「ワタリ様なのですから当然です」
「あはは」
相変わらずの泣き虫ネーシャがぼろぼろと涙を流しながら、さっきより力強く抱きしめてくる。
レーネさんは涙目のままその瞳を輝かせて、まるで神でも崇めるかのような勢いだ。
アルは本当にいつも通りだ。周りの慌てっぷりなどお構いなしのその様子にまたほっこりする。
「いたいひよぅ……ワタリちゃああん」
「あはは、大丈夫ですか?」
「うん……ワタリちゃん強かったんだねぇ……。それもすっごく……びっくりしたよぉ」
「黙っててすみませんでした。ずっとアルが強いと勘違いしてくれていたのでそのままでいいかなぁと」
「うぅ、まぁいいよ……強くてもワタリちゃんはワタリちゃんだもの」
「そういってくれるとありがたいです」
鼻を押さえて涙を堪えている可愛いエルフさんにまたもやほっこりさせられる。
オレの周りには優しい人が多くて本当に幸せだ。
これも創造神の加護の力が少しとはいえあると思うと感謝してやってもいいかなと思える。
でも性別を変えたのだけはだめだ、おまえは座ってろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく泣き止まないネーシャと瞳を輝かせて膝を突いてまるでお祈りをしているようなレーネさん、鼻を押さえながらも笑顔のエリザベートさんとオレのすぐ傍でいつも通り控えているアルに囲まれているとギルドマスターが厳しい表情で近寄ってきた。
「キリサキ、度々すまんがどうも俺が用意した治癒師では治療が追いつかん。
すまんが治療してくれないか?」
「お断りします」
「な、なぜだ?」
「なぜ私がアレを治療しなければいけないんですか?」
頭を掻きながら背後を親指で示すギルドマスターの依頼を即答で断る。
オレ的には殺すつもりでやったのだから死んでも別に問題ない。アレが敵であることは今でも変わらないのだ。
「い、いや……そ、そうだ! 売ってくれると約束しただろう!
な! 死んでしまっては買い取れない!」
「む……。そういえばそうでしたね……うーん……」
焦ったギルドマスターが一瞬狼狽したがすぐに名案だとばかりに切り返してくる。
確かにそんな約束をしたような気がする。でも別に口約束だし、破っても問題はない。
だが1度した約束である事にはかわりないし、チラッとアルの方を見ると――。
「ワタリ様の為さりたい様に為さってください」
「わかった」
アルが男の子にしては長い、まるでイケメン主人公のような睫を伏せたままそう言ってくれるのでオレもそうすることにする。
「治療はしましょう。でもそのショックで死んでも責任は取りませんよ?」
「わかった」
ギルドマスターに釘を刺して一先ずみんなはその場に残ってもらい治療をする為に変な角度で固まっている物体Xに近づいていく。
アルも付いて来ようとするエリザベートさんにアームロックをかけているのでついてこれない。
仲がいいなぁ、と苦笑しながら懸命に治療している治癒師達の下に行くと治癒師の1人が状況をギルドマスターに報告してくる。
「骨折箇所が全身に及び、各所の骨が内臓にダメージを与えているようで現状を維持する以上のことができそうにありません。早急に司祭様以上の治癒魔法を扱える方が治療しなければ我々のMPが尽きる方が早いでしょう」
「そうか。キリサキ、どうだ?」
「まぁこの程度なら問題ないかと」
「そうか、やってくれ」
オレの返答に報告してきた治癒師の人だけじゃなく、その場で治療にあたっていた治癒師全員が驚いている。
これはちゃんとギルドマスターに口封じを徹底してもらわないといけないな。
「ギルドマスター」
「あぁわかっている。おまえら彼女のことは内密にな。もし漏れるような事があったら……」
ギルドマスターの声が地の底に落ちたような低く、冷たい声になると治癒師達の顔色が真っ青になった。
これなら大丈夫だろう。治癒師の人達には災難だったが、漏らさなければ特に問題ないわけだし。
それにこの顎が奴隷となったことはすぐに知れ渡るだろう。その状況も隠してもすぐにばれる。
だが戦闘能力以外にも回復能力まで有しているとばれると色々と面倒になる可能性がある。
この世界の病院――治療院では高い金を取っている。
そんな高い金を取れる場所ならば権力も持っていて当然だろう。
戦闘能力だけならそんなところから狙われないで済む。この場合に狙われるのは命じゃなくて内部に取り込む方だからよっぽど面倒くさいのだ。
ネーシャを治療した時のようなMPの使い方はせず、痛みを軽減させるよりも治療を優先して初級魔法:体力回復をかけていく。
動くなという命令を忠実に守っている物体Xが小刻みに震えてしまっているが死にはしないようだ。
見る見るうちに治癒師4人が匙を投げた物体Xが復元されていく。
その光景に青かった治癒師達は真っ白になってしまった。
ただでさえオレとコイツの戦闘を目撃してランクSを瞬殺する強さがあることがわかっているのに、その上彼らがいうところの司祭様レベルの治療を使えるのだ。しかも見た目どうみても幼女。そりゃあ真っ白にもなる。
回復による痛みの軽減を行わず、治療に全てのMPを回したからだろうか。30分程度で治療は終了した。
当然MPは何度か空近くまで減ったので月陽の首飾りから補給しながらだ。
スキル構成は変えていなかったので首飾りのMPはもうほとんどない。まったく無駄なMPを使わせてくれる。
「終わりました」
「うむ。ご苦労だった」
治療が終わってギルドマスターに向き直ると、腕を組んで見守っていた筋肉親父は満足げに頷いたのだった。
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