90 / 183
第5章
89,決闘終了
しおりを挟む
舞い上がった訓練場の砂が澄み切った青空から流れる風で洗われて行く。
ところどころに地面を抉った後が直線状に点在し、その終点にはピクリとも動かなくなった歪な人の形をした物体があった。
シン、と痛いくらいに静まり返った空間に小さな足音が凄まじい重量を伴いながらもゆっくりと刻まれていく。
右肩に乗せたグレートコーンがその重量で作り出す足跡がくっきりと残り、数を増していく。
その数が増えていく毎にゆっくりとオレの周りには氷の槍が形成されていく。すでに月陽の首飾りからはMPを回収済みだ。
氷の槍を形成する前に実は無理やりグレートコーンを打ち出したので少し両肩がズキズキと痛んだのを回復していたりする。
誰かが息を飲む音がはっきりと聞こえた。
回転を始めた氷の槍がその力を存分に吐き出し、立ちふさがる全てのモノを蹂躙せんと唸りをあげ始めれば、痛いほどの静けさが引き裂かれていく。
「そ、そこまで! 勝負ありだ! 終わりだ!」
声の方を見れば緊張した様子のギルドマスターが開始時に居た位置に立ったまま大粒の汗をその強張った顔に貼り付けている。
そんなに怖い顔をしているとネーシャが泣いちゃうじゃないか。
高速回転している氷の槍が停止すると同時に消失する。
射出しなくても具現化された時点でMPは消費されてしまうので、念の為月陽の首飾りからMPを補給しておく。
MPが一瞬で満タン付近まで回復すると同時にギルドマスターが何か紙のようなものに置いた手から赤い光の帯が幾筋も出て行くのが見える。
決闘の契約をした際に見たモノとは少しだけ違ったような気がするけど、どこが違うかは詳しくは分からなかった。
伸びてくる赤い光の帯がオレの右手に接触し、歪に折れ曲がった顎だった物体にも触れる。
1拍の間を置いて現れたウィンドウには奴隷契約完了の証が書き連ねられていた。
「治癒師! 早く治療を!」
「は、はい!」
ギルドマスターが手を置いていた紙は奴隷契約が完了すると同時に溶けるように消えてしまっていた。
バタバタと慌てて歪な顎だった物に駆け寄る治癒師4人。
だがどの表情にも絶望的な色しかない。
まぁ当然だろう。障壁に守られていたとはいえ、オレの攻撃によりそれらは悉く破られている。
相当な障壁だったんだろうが、そう何度も何度ももつものではないだろう。
現にオレの指輪もあまりに強すぎる衝撃だと破られるが、限界まで蓄えられたMPを使ってその衝撃を減らそうとする。さすがに破られても1回で作動不能になってしまわないようにリミッターが設けられているが、2回目でMP切れで使用不能になる。
顎は腐ってもランクS。持っている魔道具もオレの物よりは高性能だろう。だが限界というものは存在するはずだ。
治療を始める前に治癒師達は何かの魔道具を取り出すと、すぐに使用し地面に体ごと顎だった物体を縫いとめる。
治療による痛みで暴れて2次災害にならないようにするためだろう。アレは便利そうだ。
「ぎゃ!」
「ぐあッ!」
だが治療が始まってすぐに縫いとめられた顎が魔道具による拘束を紙の糸のように引き千切って暴れ始めた。
近くで治療を始めていた治癒師がその巻き添えを食らい3m以上吹っ飛ばされている。やっぱりアレはいらないな。
「ぎ、ギルドマスター殿!」
「ちっ! 手間をかけさせる!」
巻き添えを食らわなかった治癒師が仲間の治癒師に治療を施すのとギルドマスターに叫ぶのがほぼ同時。
それを受けてギルドマスターがオレの方に駆けて来る。なんだろう。押さえろって言うなら断るんだけど。
「キリサキ、すまんがヤツに動くなと命令してくれ。契約はLv8だから無意識の反応でも制御できる」
「あぁ、そういうことですか。取り押さえろっていうなら断るつもりだったんですがそれならいいですよ」
そういえば最初に決闘契約をしたときに奴隷の契約Lvも決めていたっけ。
Lv8だとかなりきつい契約になる。
どんな命令にも絶対服従だし、主人に対して悪感情を抱くだけで激痛が走る。
Lv9以上になると理性と呼べる思考がなくなるが、Lv8ではまだ残り逆に厳しい環境になる。
プライドが高かったりすると余計に。
Lv8では理性などのほとんどの思考が残るが、例え意識を失っていても主人の命令は機能する。
これらはLv7以上でないと機能しないそうだ。
「動くな」
オレから言葉が発せられると同時に激しく痙攣していた顎がビタっと動きを止める。
暴れていた時のままおかしな角度の腕や足の状態で止まったので、まるで悪魔付きのような形になっている。正直きもい。ていうかアレの腕や足は骨が粉々のはずなんだがどうなっているんだろう。
「助かった。続けろ!」
前半はオレへ、後半は治癒師達に向かってギルドマスターが叫ぶ。
「ワタリちゃん!」
「わっ」
声に振り向けばぽわぽわの心地よい何かに包まれて視界が真っ暗になっていた。
勢いで取り落とした破城槌が背後で地面に減り込む重い音がしたがどうでもいいだろう。匂いと声とこの柔らかさはメロン……じゃなくてエリザベートさんだろうから。
「エリザベート、ワタリ様から離れなさい」
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁ」
「わわわワタリさん……」
アルの声が聞こえエリザベートさんの力がちょっと抜けたのでマシュマロから顔を出すと鼻フックされている人が見える。
アル……それはひどいと思うよ……。
鼻フックにそんな感想を抱いていると横から最近また少し肉付きがよくなったネーシャが突っ込んできた。
さすがにレーネさんは突っ込んでこないようだ。
泣きじゃくるネーシャと鼻フックで引きずられていくエリザベートさんと今にも泣きそうなレーネさん。
でもアルはいつも通りだ。
いつも通り鼻フックからの華麗なスイングで涙目のエルフさんを投げ飛ばしている。
そんな光景に先ほどまでマグマのように熱く、極寒のように冷えていた心がいつも通りの、いやいつも以上の温かさを取り戻していく。
「みんな心配かけちゃってごめんね」
「お嬢様ぁぁ……」
「わ、ワタリさん……すごかった、です……」
「ワタリ様なのですから当然です」
「あはは」
相変わらずの泣き虫ネーシャがぼろぼろと涙を流しながら、さっきより力強く抱きしめてくる。
レーネさんは涙目のままその瞳を輝かせて、まるで神でも崇めるかのような勢いだ。
アルは本当にいつも通りだ。周りの慌てっぷりなどお構いなしのその様子にまたほっこりする。
「いたいひよぅ……ワタリちゃああん」
「あはは、大丈夫ですか?」
「うん……ワタリちゃん強かったんだねぇ……。それもすっごく……びっくりしたよぉ」
「黙っててすみませんでした。ずっとアルが強いと勘違いしてくれていたのでそのままでいいかなぁと」
「うぅ、まぁいいよ……強くてもワタリちゃんはワタリちゃんだもの」
「そういってくれるとありがたいです」
鼻を押さえて涙を堪えている可愛いエルフさんにまたもやほっこりさせられる。
オレの周りには優しい人が多くて本当に幸せだ。
これも創造神の加護の力が少しとはいえあると思うと感謝してやってもいいかなと思える。
でも性別を変えたのだけはだめだ、おまえは座ってろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく泣き止まないネーシャと瞳を輝かせて膝を突いてまるでお祈りをしているようなレーネさん、鼻を押さえながらも笑顔のエリザベートさんとオレのすぐ傍でいつも通り控えているアルに囲まれているとギルドマスターが厳しい表情で近寄ってきた。
「キリサキ、度々すまんがどうも俺が用意した治癒師では治療が追いつかん。
すまんが治療してくれないか?」
「お断りします」
「な、なぜだ?」
「なぜ私がアレを治療しなければいけないんですか?」
頭を掻きながら背後を親指で示すギルドマスターの依頼を即答で断る。
オレ的には殺すつもりでやったのだから死んでも別に問題ない。アレが敵であることは今でも変わらないのだ。
「い、いや……そ、そうだ! 売ってくれると約束しただろう!
な! 死んでしまっては買い取れない!」
「む……。そういえばそうでしたね……うーん……」
焦ったギルドマスターが一瞬狼狽したがすぐに名案だとばかりに切り返してくる。
確かにそんな約束をしたような気がする。でも別に口約束だし、破っても問題はない。
だが1度した約束である事にはかわりないし、チラッとアルの方を見ると――。
「ワタリ様の為さりたい様に為さってください」
「わかった」
アルが男の子にしては長い、まるでイケメン主人公のような睫を伏せたままそう言ってくれるのでオレもそうすることにする。
「治療はしましょう。でもそのショックで死んでも責任は取りませんよ?」
「わかった」
ギルドマスターに釘を刺して一先ずみんなはその場に残ってもらい治療をする為に変な角度で固まっている物体Xに近づいていく。
アルも付いて来ようとするエリザベートさんにアームロックをかけているのでついてこれない。
仲がいいなぁ、と苦笑しながら懸命に治療している治癒師達の下に行くと治癒師の1人が状況をギルドマスターに報告してくる。
「骨折箇所が全身に及び、各所の骨が内臓にダメージを与えているようで現状を維持する以上のことができそうにありません。早急に司祭様以上の治癒魔法を扱える方が治療しなければ我々のMPが尽きる方が早いでしょう」
「そうか。キリサキ、どうだ?」
「まぁこの程度なら問題ないかと」
「そうか、やってくれ」
オレの返答に報告してきた治癒師の人だけじゃなく、その場で治療にあたっていた治癒師全員が驚いている。
これはちゃんとギルドマスターに口封じを徹底してもらわないといけないな。
「ギルドマスター」
「あぁわかっている。おまえら彼女のことは内密にな。もし漏れるような事があったら……」
ギルドマスターの声が地の底に落ちたような低く、冷たい声になると治癒師達の顔色が真っ青になった。
これなら大丈夫だろう。治癒師の人達には災難だったが、漏らさなければ特に問題ないわけだし。
それにこの顎が奴隷となったことはすぐに知れ渡るだろう。その状況も隠してもすぐにばれる。
だが戦闘能力以外にも回復能力まで有しているとばれると色々と面倒になる可能性がある。
この世界の病院――治療院では高い金を取っている。
そんな高い金を取れる場所ならば権力も持っていて当然だろう。
戦闘能力だけならそんなところから狙われないで済む。この場合に狙われるのは命じゃなくて内部に取り込む方だからよっぽど面倒くさいのだ。
ネーシャを治療した時のようなMPの使い方はせず、痛みを軽減させるよりも治療を優先して初級魔法:体力回復をかけていく。
動くなという命令を忠実に守っている物体Xが小刻みに震えてしまっているが死にはしないようだ。
見る見るうちに治癒師4人が匙を投げた物体Xが復元されていく。
その光景に青かった治癒師達は真っ白になってしまった。
ただでさえオレとコイツの戦闘を目撃してランクSを瞬殺する強さがあることがわかっているのに、その上彼らがいうところの司祭様レベルの治療を使えるのだ。しかも見た目どうみても幼女。そりゃあ真っ白にもなる。
回復による痛みの軽減を行わず、治療に全てのMPを回したからだろうか。30分程度で治療は終了した。
当然MPは何度か空近くまで減ったので月陽の首飾りから補給しながらだ。
スキル構成は変えていなかったので首飾りのMPはもうほとんどない。まったく無駄なMPを使わせてくれる。
「終わりました」
「うむ。ご苦労だった」
治療が終わってギルドマスターに向き直ると、腕を組んで見守っていた筋肉親父は満足げに頷いたのだった。
ところどころに地面を抉った後が直線状に点在し、その終点にはピクリとも動かなくなった歪な人の形をした物体があった。
シン、と痛いくらいに静まり返った空間に小さな足音が凄まじい重量を伴いながらもゆっくりと刻まれていく。
右肩に乗せたグレートコーンがその重量で作り出す足跡がくっきりと残り、数を増していく。
その数が増えていく毎にゆっくりとオレの周りには氷の槍が形成されていく。すでに月陽の首飾りからはMPを回収済みだ。
氷の槍を形成する前に実は無理やりグレートコーンを打ち出したので少し両肩がズキズキと痛んだのを回復していたりする。
誰かが息を飲む音がはっきりと聞こえた。
回転を始めた氷の槍がその力を存分に吐き出し、立ちふさがる全てのモノを蹂躙せんと唸りをあげ始めれば、痛いほどの静けさが引き裂かれていく。
「そ、そこまで! 勝負ありだ! 終わりだ!」
声の方を見れば緊張した様子のギルドマスターが開始時に居た位置に立ったまま大粒の汗をその強張った顔に貼り付けている。
そんなに怖い顔をしているとネーシャが泣いちゃうじゃないか。
高速回転している氷の槍が停止すると同時に消失する。
射出しなくても具現化された時点でMPは消費されてしまうので、念の為月陽の首飾りからMPを補給しておく。
MPが一瞬で満タン付近まで回復すると同時にギルドマスターが何か紙のようなものに置いた手から赤い光の帯が幾筋も出て行くのが見える。
決闘の契約をした際に見たモノとは少しだけ違ったような気がするけど、どこが違うかは詳しくは分からなかった。
伸びてくる赤い光の帯がオレの右手に接触し、歪に折れ曲がった顎だった物体にも触れる。
1拍の間を置いて現れたウィンドウには奴隷契約完了の証が書き連ねられていた。
「治癒師! 早く治療を!」
「は、はい!」
ギルドマスターが手を置いていた紙は奴隷契約が完了すると同時に溶けるように消えてしまっていた。
バタバタと慌てて歪な顎だった物に駆け寄る治癒師4人。
だがどの表情にも絶望的な色しかない。
まぁ当然だろう。障壁に守られていたとはいえ、オレの攻撃によりそれらは悉く破られている。
相当な障壁だったんだろうが、そう何度も何度ももつものではないだろう。
現にオレの指輪もあまりに強すぎる衝撃だと破られるが、限界まで蓄えられたMPを使ってその衝撃を減らそうとする。さすがに破られても1回で作動不能になってしまわないようにリミッターが設けられているが、2回目でMP切れで使用不能になる。
顎は腐ってもランクS。持っている魔道具もオレの物よりは高性能だろう。だが限界というものは存在するはずだ。
治療を始める前に治癒師達は何かの魔道具を取り出すと、すぐに使用し地面に体ごと顎だった物体を縫いとめる。
治療による痛みで暴れて2次災害にならないようにするためだろう。アレは便利そうだ。
「ぎゃ!」
「ぐあッ!」
だが治療が始まってすぐに縫いとめられた顎が魔道具による拘束を紙の糸のように引き千切って暴れ始めた。
近くで治療を始めていた治癒師がその巻き添えを食らい3m以上吹っ飛ばされている。やっぱりアレはいらないな。
「ぎ、ギルドマスター殿!」
「ちっ! 手間をかけさせる!」
巻き添えを食らわなかった治癒師が仲間の治癒師に治療を施すのとギルドマスターに叫ぶのがほぼ同時。
それを受けてギルドマスターがオレの方に駆けて来る。なんだろう。押さえろって言うなら断るんだけど。
「キリサキ、すまんがヤツに動くなと命令してくれ。契約はLv8だから無意識の反応でも制御できる」
「あぁ、そういうことですか。取り押さえろっていうなら断るつもりだったんですがそれならいいですよ」
そういえば最初に決闘契約をしたときに奴隷の契約Lvも決めていたっけ。
Lv8だとかなりきつい契約になる。
どんな命令にも絶対服従だし、主人に対して悪感情を抱くだけで激痛が走る。
Lv9以上になると理性と呼べる思考がなくなるが、Lv8ではまだ残り逆に厳しい環境になる。
プライドが高かったりすると余計に。
Lv8では理性などのほとんどの思考が残るが、例え意識を失っていても主人の命令は機能する。
これらはLv7以上でないと機能しないそうだ。
「動くな」
オレから言葉が発せられると同時に激しく痙攣していた顎がビタっと動きを止める。
暴れていた時のままおかしな角度の腕や足の状態で止まったので、まるで悪魔付きのような形になっている。正直きもい。ていうかアレの腕や足は骨が粉々のはずなんだがどうなっているんだろう。
「助かった。続けろ!」
前半はオレへ、後半は治癒師達に向かってギルドマスターが叫ぶ。
「ワタリちゃん!」
「わっ」
声に振り向けばぽわぽわの心地よい何かに包まれて視界が真っ暗になっていた。
勢いで取り落とした破城槌が背後で地面に減り込む重い音がしたがどうでもいいだろう。匂いと声とこの柔らかさはメロン……じゃなくてエリザベートさんだろうから。
「エリザベート、ワタリ様から離れなさい」
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁ」
「わわわワタリさん……」
アルの声が聞こえエリザベートさんの力がちょっと抜けたのでマシュマロから顔を出すと鼻フックされている人が見える。
アル……それはひどいと思うよ……。
鼻フックにそんな感想を抱いていると横から最近また少し肉付きがよくなったネーシャが突っ込んできた。
さすがにレーネさんは突っ込んでこないようだ。
泣きじゃくるネーシャと鼻フックで引きずられていくエリザベートさんと今にも泣きそうなレーネさん。
でもアルはいつも通りだ。
いつも通り鼻フックからの華麗なスイングで涙目のエルフさんを投げ飛ばしている。
そんな光景に先ほどまでマグマのように熱く、極寒のように冷えていた心がいつも通りの、いやいつも以上の温かさを取り戻していく。
「みんな心配かけちゃってごめんね」
「お嬢様ぁぁ……」
「わ、ワタリさん……すごかった、です……」
「ワタリ様なのですから当然です」
「あはは」
相変わらずの泣き虫ネーシャがぼろぼろと涙を流しながら、さっきより力強く抱きしめてくる。
レーネさんは涙目のままその瞳を輝かせて、まるで神でも崇めるかのような勢いだ。
アルは本当にいつも通りだ。周りの慌てっぷりなどお構いなしのその様子にまたほっこりする。
「いたいひよぅ……ワタリちゃああん」
「あはは、大丈夫ですか?」
「うん……ワタリちゃん強かったんだねぇ……。それもすっごく……びっくりしたよぉ」
「黙っててすみませんでした。ずっとアルが強いと勘違いしてくれていたのでそのままでいいかなぁと」
「うぅ、まぁいいよ……強くてもワタリちゃんはワタリちゃんだもの」
「そういってくれるとありがたいです」
鼻を押さえて涙を堪えている可愛いエルフさんにまたもやほっこりさせられる。
オレの周りには優しい人が多くて本当に幸せだ。
これも創造神の加護の力が少しとはいえあると思うと感謝してやってもいいかなと思える。
でも性別を変えたのだけはだめだ、おまえは座ってろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく泣き止まないネーシャと瞳を輝かせて膝を突いてまるでお祈りをしているようなレーネさん、鼻を押さえながらも笑顔のエリザベートさんとオレのすぐ傍でいつも通り控えているアルに囲まれているとギルドマスターが厳しい表情で近寄ってきた。
「キリサキ、度々すまんがどうも俺が用意した治癒師では治療が追いつかん。
すまんが治療してくれないか?」
「お断りします」
「な、なぜだ?」
「なぜ私がアレを治療しなければいけないんですか?」
頭を掻きながら背後を親指で示すギルドマスターの依頼を即答で断る。
オレ的には殺すつもりでやったのだから死んでも別に問題ない。アレが敵であることは今でも変わらないのだ。
「い、いや……そ、そうだ! 売ってくれると約束しただろう!
な! 死んでしまっては買い取れない!」
「む……。そういえばそうでしたね……うーん……」
焦ったギルドマスターが一瞬狼狽したがすぐに名案だとばかりに切り返してくる。
確かにそんな約束をしたような気がする。でも別に口約束だし、破っても問題はない。
だが1度した約束である事にはかわりないし、チラッとアルの方を見ると――。
「ワタリ様の為さりたい様に為さってください」
「わかった」
アルが男の子にしては長い、まるでイケメン主人公のような睫を伏せたままそう言ってくれるのでオレもそうすることにする。
「治療はしましょう。でもそのショックで死んでも責任は取りませんよ?」
「わかった」
ギルドマスターに釘を刺して一先ずみんなはその場に残ってもらい治療をする為に変な角度で固まっている物体Xに近づいていく。
アルも付いて来ようとするエリザベートさんにアームロックをかけているのでついてこれない。
仲がいいなぁ、と苦笑しながら懸命に治療している治癒師達の下に行くと治癒師の1人が状況をギルドマスターに報告してくる。
「骨折箇所が全身に及び、各所の骨が内臓にダメージを与えているようで現状を維持する以上のことができそうにありません。早急に司祭様以上の治癒魔法を扱える方が治療しなければ我々のMPが尽きる方が早いでしょう」
「そうか。キリサキ、どうだ?」
「まぁこの程度なら問題ないかと」
「そうか、やってくれ」
オレの返答に報告してきた治癒師の人だけじゃなく、その場で治療にあたっていた治癒師全員が驚いている。
これはちゃんとギルドマスターに口封じを徹底してもらわないといけないな。
「ギルドマスター」
「あぁわかっている。おまえら彼女のことは内密にな。もし漏れるような事があったら……」
ギルドマスターの声が地の底に落ちたような低く、冷たい声になると治癒師達の顔色が真っ青になった。
これなら大丈夫だろう。治癒師の人達には災難だったが、漏らさなければ特に問題ないわけだし。
それにこの顎が奴隷となったことはすぐに知れ渡るだろう。その状況も隠してもすぐにばれる。
だが戦闘能力以外にも回復能力まで有しているとばれると色々と面倒になる可能性がある。
この世界の病院――治療院では高い金を取っている。
そんな高い金を取れる場所ならば権力も持っていて当然だろう。
戦闘能力だけならそんなところから狙われないで済む。この場合に狙われるのは命じゃなくて内部に取り込む方だからよっぽど面倒くさいのだ。
ネーシャを治療した時のようなMPの使い方はせず、痛みを軽減させるよりも治療を優先して初級魔法:体力回復をかけていく。
動くなという命令を忠実に守っている物体Xが小刻みに震えてしまっているが死にはしないようだ。
見る見るうちに治癒師4人が匙を投げた物体Xが復元されていく。
その光景に青かった治癒師達は真っ白になってしまった。
ただでさえオレとコイツの戦闘を目撃してランクSを瞬殺する強さがあることがわかっているのに、その上彼らがいうところの司祭様レベルの治療を使えるのだ。しかも見た目どうみても幼女。そりゃあ真っ白にもなる。
回復による痛みの軽減を行わず、治療に全てのMPを回したからだろうか。30分程度で治療は終了した。
当然MPは何度か空近くまで減ったので月陽の首飾りから補給しながらだ。
スキル構成は変えていなかったので首飾りのMPはもうほとんどない。まったく無駄なMPを使わせてくれる。
「終わりました」
「うむ。ご苦労だった」
治療が終わってギルドマスターに向き直ると、腕を組んで見守っていた筋肉親父は満足げに頷いたのだった。
44
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~
たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。
しかも自分は――愛され王女!?
前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。
「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」
いつも優しい両親や兄。
戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。
これは罠? それとも本物の“家族の愛”?
愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。
疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う――
じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。
他サイトでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる