幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
117 / 183
第6章

116,ネーシャとユユとティータイム

しおりを挟む
「お嬢様ぁ~……」

「はいはい、もう大丈夫だよ~ネーシャ~」

「怖かったですぅ~……」


 完全に腰が抜けてしまっているネーシャの頭を撫でて慰めてあげるが、いつもの元気なネーシャに戻るにはもう少し時間がかかるかもしれない。

 周りには氷の矢が数本ずつ生えた低ランク冒険者向けの魔物の死体があちこちに転がっている。
 そりゃあもう……あっちこっちに。

 いくら低ランク冒険者向けの雑魚といえどここまで群がった状態では低ランクどころかその上の中級ランクの冒険者PTでも危ういかもしれない。
 しかし周りの魔物は全て死体だ。
 血の少ない魔物でも数が数だけに血臭が周りを完全に覆いつくすほどに溢れている。しかしその血臭もだんだんと減ってきている。
 ネーシャのサラサラの髪を撫でている間にアルとレーネさんが解体作業をしてくれているからだ。


「それにしてもこんなに集まってくるとは予想外だったなぁ~……。ユユさんはまだ気絶したままか……」

「……ぁ、し、師匠ぉ~」


 なんとか落ち着いてきたネーシャだが、まだいつものネーシャとはいえない。それでも気絶してしまっている自身の師匠であるユユさんを介抱すべく抜けている腰を引きずって近づいていく。

 ユユさんは集まってきた大量の魔物を前にして敢え無く恐怖で意識を手放してしまった。
 街で彫金をしている普通? の女の子にはちょっと刺激が強すぎたみたいだ。
 まぁわからないでもない。ちょっと予想外に集まっちゃったからね。
 ネーシャも気絶してしまうかと思ったけれど、勇気を出してオレを守るためにアルと一緒になって盾になろうとしてくれた。足が震えまくって歯の根も合わないほどだったけれどその勇気はものすごい嬉しかった。

 まぁすぐにオレが殲滅したわけだけど。

 所詮低ランク冒険者向けの雑魚。
 何十匹集まろうとどうということもない。
 王族の不文律プリンセス・スマイルを現在のステータスにしてからの初めての実戦運用の格好の舞台にもなってくれたし。


「ワタリ様、お待たせ致しました」

【お待たせしました、ワタリさん。
 ……あの、ユユさんは大丈夫でしょうか?】

「お疲れ様、2人共。ユユさんは怪我もないし、もう少ししたら起きると思うよ。
 それまで休憩にしよっか」

「畏まりました」

【よかったです。でもあの氷の矢の嵐はすごかったですね。さすがワタリさんです!】

「あはは」


 王族の不文律プリンセス・スマイルでMP消費がないのをいい事にまずオレが使ったのは中級魔法:風を5重にして展開した結界。
 これはオレ達の周囲を守るように展開させた。本命の前の布石だ。

 全方位から集まってくる雑魚共を一網打尽にするための本命の魔法。
 まず風の結界の回りに次々に無数の……それこそ数えるのが面倒になるほどの氷の矢を作り出していく。
 MPの消費がないからこそ出来る贅沢な魔法の使い方だろう。
 だがコレで当然終わりではない。

 用意された氷の矢の壁を嵐の如く荒れ狂う風でもって導く。
 荒れ狂いながらも完全に制御された氷の嵐は魔物を蹂躙し、必要以上のダメージを与えぬように次の獲物へと向かっていく。
 風の結界で守られたオレ達には一切の被害を出さず、しかし集まってきた魔物には必要量の暴威を与える。
 数分でまるで中級冒険者でも絶望するような魔物の群れは駆逐されたのだった。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 さてなぜこんな大量の雑魚をかき集めて、さらにはユユさんやネーシャを連れて一掃するようなことをしているのかというと――。


「ネーシャ。レベルはどのくらい上がった?」

「ぁ、はい。えっと……わぁ……27まで上がってます……。すごい……」

「まずまずといったところだね」

「お嬢様の言っていた祝福の力は本当にすごいです……」


 そう、ネーシャ達のBaseLv上げが目的なのだ。


 ネーシャはユユさんの下で彫金修行に明け暮れていたのでBaseLvが一般人の平均以下しかない。
 ラッシュの街は裏通りにさえ入らなければ治安はかなりいい。それでもランカスター家に通うのに毎回送り迎えにいっているほどオレは過保護だ。

 彫金修行で多少の経験値は取得できるようだが、それでもBaseLvが一桁のネーシャのLvは未だに上がらない。それこそ祝福を貰う前のオレのBaseLvみたいに全然あがらないのだ。
 とはいっても、普通の仕事でも全然上がらないのは常識だ。その上ネーシャはまだ修行中。入る経験値は普通の仕事よりずっと少ないのだから仕方ない。


 というわけで、超効率的な狩りをしてネーシャのBaseLvを一気に上げちゃおうという企画を立ち上げたのだ。
 それをいつものランカスター家のリビングで話したらユユさんも参加したいということで一緒に連れてきたのだけれど……ちょっと刺激が強かったらしい。
 まぁユユさんはあれで結構箱入りなところがあるから……。

 でも今回ネーシャもBaseLvが27まで上がったのだから、一緒にPTを組んでいるユユさんも同じくらいには上がっているはずだ。

 PTは組んでいれば経験値が大体平均分配される。
 この大体というのがミソで、完全に平均で分配されるわけではない。それでも平均に近いくらいには分配されるらしいことは冒険者は誰しも経験で知っている。

 厄介なのはPTを組んでいるだけではだめだということ。
 きちんと敵と相対しなければだめなのだ。遠くの安全地帯で待っているだけでは分配されないということだ。
 だが今回のように魔物を集めまくってその中心地から魔法で殲滅するのは有りだ。

 ……距離が問題なのだろうか?


 ちなみに魔物を集めるのには前回同様に魔誘香を使っている。
 それでも結構焚いたのに数十匹程度しか集まってこなかったのは場所や魔誘香の問題ではなく、あの森が異常な状態だっただけだ。
 もう魔誘香の効果も終わっているし、ここでまた焚いても集まってはこないだろう。

 比較的弱い雑魚ばかりがいて、ほとんど人がこないここはギルドである程度情報を集めた結果見つかった場所だ。
 さすがにBaseLvが一桁のネーシャとユユさんを危ない場所に連れて行くのは気が引けたので探したのだ。
 まぁ結果的にはかなりショッキングなものを見せてしまったけれど。


「ぅ……うぅん……」

「あ、お嬢様! 師匠が!」

「ユユさん、気分はどうですか?」

「……あ、あれ……? 魔物は……?」

「お嬢様が全部倒しちゃいました!」

「……はぇ~……。ワタリちゃんはすごいんだねぇ~……。あ、ありがとう~」


 まだ夢見心地といった様子のユユさんがぽわぽわした喋り方で起き上がり、アルから色のどぎつい紅茶を渡されて一息吐く。

 まぁ魔物の解体も終わってスタンピードの跡も氷の嵐で掻き消されている。一見しただけでは現実感がなくても仕方ないだろう。


「それでユユさんはBaseLvいくつ上がりました?」

「はふぅ……ふぇ? えぇと~……はぁ!?」


 オレ特製の蜂蜜がたっぷりと入っている紅茶に蕩けそうな顔をしていたユユさんが虚空を見つめた後、一旦停止して素っ頓狂な声をあげている。
 まぁネーシャも一気に20以上上がったわけだし、ユユさんの反応は想定済みだ。
 ユユさんはしばらく自分のステータスウィンドウがあるだろう虚空をたっぷり数分見つめてやっと再起動を果たした。


「……夢、じゃなかったんだ……ね?」

「もちろんですよ」

「……ワタリちゃんは本当にすごいんだねぇ……。
 ……むふ……むふふ……こんなにポイントがあるよ……むふふふ」


 ショッキングな出来事ではあったがそれ以上にユユさんは自分のステータスウィンドウに表示されているポイントが嬉しいようだ。
 まぁすごくよくわかる。このポイントは実際に本当の力をくれるのだから。


「ネーシャもポイントいっぱい溜まったし、何取るの?」

「あ、はい! お嬢様の仰る通りに取ります!」

「いやいやいや、ネーシャのポイントなんだし、ネーシャの好きにしていいんだよ?」

「……ぇ……。えぇと……でも……」

「ワタリ様のお言葉です。ネーシャの好きに使いなさい」

「は、はい! ありがとうございます、お嬢様! アル先輩!
 ……えぇとえぇと……」


 最初は困惑していたネーシャだったが、アルの言葉が決め手になり受け入れてくれたようだ。
 自分のウィンドウを出してスキルを熱心に見つめている。……しかし他の人から見るとウィンドウは見えないのでなんとも変な感じだ。


 アルのアイテムボックスに収納されていたティーテーブルを囲んで虚空を熱心にみつめる女の子が2人。
 それを微笑ましく眺めるオレ、アル、レーネさん。


 風の結界で守られていたほんの数メートルの円状の空間に生えた下草を爽やかな風が吹き抜けていく。
 その周りには削り取られて荒地と化した元草原が半径数百メートルに渡って広がっている。

 小さな草原でのティータイムはしばらくの間続いたのだった。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...