幼女と執事が異世界で

天界

文字の大きさ
136 / 183
第7章

135,オークション Part,4

しおりを挟む
 熱気が激しく渦巻いていた会場が一瞬にして静寂に包まれた。
 たった一言がこの静寂を生み出したのだ。

 ここは正式なオークション会場だ。入札の取り消しは行えない。
 金額を提示してしまった時点で支払能力がなければ即奴隷に落とされる。
 全財産を処分して提示した金額の残りの額が自分を買い取る場合の金額となる。
 入札の発言は非常に重く、重要視される。
 それがオークションだ。

 そのオークションで発せられた一言。


「4000万」


 嘘でも冗談でもない。一度入札してしまった以上取り消しは不可能だ。
 4000万という、ランクSを身売りした場合の金額を遥かに超える額に会場に渦巻いていた熱気は一瞬にして消え、呑まれてしまった。


「どうしたのじゃ、オークショニア。続けよ」


 壇上のオークショニアすらも呆気に取られて一言も発することができないでいたところに幼い少女の声のようにも、妖艶な大人の女性の声にも聞こえる不思議な声がかけられる。
 その声にハッとした様に再起動を果たしたオークショニアがこれ以上の入札がないか会場に問いかける。
 しかし当然ながら4000万という金額を超える入札はない。


 ちなみに1000万スタートでいきなり4000万という金額を入札するのはマナーでいえば当然、違反だ。
 しかしこのマナーというのが曲者で、絶対遵守しなければいけない鉄の掟……というわけではない。
 なるべくなら守ってみんなでオークションを楽しみましょう、という程度のマナーでしかない。
 通常は入札は最低でも最高入札額の10分の1。最高の場合は最高入札額の1.5倍まで、となる。
 この場合最低額が1000万なので最高でも1500万がマナー上の最高入札額になる。
 最低でも100万単位での入札になるので普通に入札が始まっても相当盛り上がったと思うけど。

 しかし実際はマナーなど知ったことではない、という意思がひしひし、と伝わってくる空気をまったく読まない一刀両断の一言。
 最後の最後に持ってきたサプライズ中のサプライズで盛大に盛り上げてフィナーレとしようとしていたところにこれではオークショニアも唖然としてもしかたないだろう。


 結果的に4000万を超える入札はなく、あの不思議な声の人物がこのランドール史上初となる魔結晶を落札した。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 最後のサプライズ以外は特に問題もなくオークションは終了したのだが、どうもあの不思議な声を聞いたときからレーネさんの様子が若干おかしくなっていたのにオレは気づいている。
 他の皆は4000万発言に驚愕し、それどころではなかったので気づかなかったのは仕方ないかもしれない。
 いやきっとアルなら気づいていただろう。でもオレのことならともかくレーネさんなので特に何もアクションを起こさなかっただけだろう。

 レーネさんとはPTを組みっぱなしなので他の人に気づかれずに念話で内緒話が可能だ。
 今はもう割りと普通にしていることから大したことでもないかもしれないけれど一応聞いてみるだけ聞いてみよう。


【レーネさん、さっきの声に聞き覚えがあるんですか?】

【えっ……。さすがです、ワタリさん……。気づかれたのですね】

【もちろん言いたくなかったらいいですよ。
 でも話してすっきりすることもあるかもしれないですからね】


 強制する気はないし、ニッコリ微笑んでレーネさんを見上げるとレーネさんも微笑んでくれる。


【あの声には聞き覚えがあります。忘れようとしても忘れられません。
 あの声の人物は兄様が騎士団を辞める原因となった人物ですから……】

【グレーさんが……? そうだったんだ……】

【はい……。あの方はこの国の姫様です】

「はい?」

「うん? どうしたの、ワタリちゃん?」

「あ、えっとなんでもないです、よ?」

「そう? でも眠くなったりしたら私の胸を貸してあげるからいつでも言ってね?」

「あはは……」


 レーネさんの予想外の言葉に念話ではなく、素で声が出てしまった。
 しかしエリザベートさん、その場合は胸を貸してどうするんですか。そのロケットおっぱいを枕にしろというのですか。


【お姫様ですか……? まぁ確かにお姫様なら4000万ラードを払えてしまうのはわかりますけど……。
 ていうかお姫様が原因でグレーさんは騎士団辞めたんですか?】

【はい……。あの方は兄様に……その……とても御執心だったんです】


 ご執心……えぇと……つまり好きだったのかな? そうだよね? そういうのだよね?


【それでその……兄様に熱烈なアタックを繰り返して……次第に周りにも被害が及ぶようになりまして……】


 な、なんというかすごいお姫様もいたもんだ。
 周りに被害が出るような熱烈なアタックってどういうのだろう……。文字通りに物理的にアタックしてきたんだろうか……。


【さすがに持て余した兄様が王に直訴もしたんですが、王はとても姫様を可愛がっておいででして……。むしろ早く……その……孫の顔がみたいとまで仰っていたそうで……】

【お姫様を可愛がっているけど孫の顔もみたい、と……。グレーさんも相当気に入られていたんですね】

【はい……。なので逃げ道がなくなってしまう前に、ということで兄様は騎士団を辞めて冒険者に……。
 冒険者なら例え王といえど束縛はできません。
 もし束縛するのならば国を出てしまえばいいのですから】


 ……なんというか、もっとこうグレーさんの騎士団を辞めた理由は重い感じの暗い話かと思っていたのだが……なんだろうこの……どうでもいい感。


【あ、グレーさんが気に入られていたということは……。レーネさんは大丈夫だったんですか?
 ていうか大丈夫だったら騎士団に残ってたか】

【えっと……。私は何かがあったというわけではないです。
 兄様に憧れて入った騎士団ですので兄様がいなければ居る理由もありませんでしたし】


 レーネさんってグレーさん大好きだよね。
 でもそんなに大好きなグレーさんのPTに戻らずにオレのところに居続けてくれる。
 これは絶対グレーさんに勝ってるよね……ふふ。


【もしかしたら姫様が私達に接触してくる可能性があります】

【……へ? あ、そうか。そうだよね。熱烈アタックを繰り返してたような人が騎士団辞めて逃げたくらいで諦めるわけないよね。
 レーネさんも一緒に辞めてるし、何より家族だから居場所とか知ってるかもしれないと思うのも当然か。
 というか今まで接触なかったんですか?】

【えぇ、なぜかはわかりませんがありませんでした。
 たぶん兄様が色々と取り計らってくださっていたんだと思います】

【今まで色々してくれてたのに今回はもうないんですか?】

【その……ワタリさんに……全部任せるって……言ってました】


 ふむ……。今までは大事な妹をいろいろと影から守っていたけど、今はオレ達がいるから任せる、と。

 これはフラグ立ってるな……。

 熱烈アタックを繰り返すほど行動的なお姫様。
 オークションでその存在を認識。
 グレーさんの丸投げ発言。

 あぁ……。絶対フラグ立ってるよこれ……。







      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 落札した魔結晶の支払いはVIP席ことVIP部屋で出来た。
 アルがさくっと支払いを済ませて魔結晶を受け取り、エリザベートさんとユユさんがお菓子をお土産に包んでもらってから屋敷へと戻った。
 途中で件のお姫様からの何かしらの接触があるかと思ったが特にそんなことはなかった。
 だが気を抜いてはいけない。なぜなら絶対フラグ立っているからだ。
 以前のポーションお姉さんのときだって特殊進化個体モンスターを引き当てたし、ドリルさんの時もなぜか転送に巻き込まれてたし。

 あ、この2つどっちも特殊進化個体モンスター絡みか……。
 もしかしたら今度も特殊進化個体モンスターが絡むのだろうか。

 以前よりもずっと戦闘能力は向上しているし、特殊進化個体モンスターの素材は非常に有用だ。
 今なら歓迎してもいいかもしれない。
 でも危険なことには変わりないので油断は禁物だ。
 それに必ずしも特殊進化個体モンスター絡みというわけではないだろうし。

 とにかくお姫様のことは一応頭の隅に留めておいて気を取られすぎないようにしよう。


 無事に狙っていた魔結晶の入手も済み、オークションは幕を閉じた。
 平穏無事とは言いがたいが、まだ実害はないので注意レベルだ。

 レーネさんに降りかかる迷惑ならオレ達に降りかかるのと同義だ。
 例え相手が王族だろうと関係ない。
 降りかかる火の粉は払うまで、だ!


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

この優しさには絶対に裏がある!~激甘待遇に転生幼女は混乱中~

たちばな立花
ファンタジー
処刑された魔女が目を覚ますと、敵国の王女レティシアに逆行転生していた。 しかも自分は――愛され王女!? 前世とは違う扱いに戸惑うレティシア。 「この人たちが私に優しくするのは絶対に何か裏があるはず!」 いつも優しい両親や兄。 戸惑いながらも、心は少しずつ溶けていく。 これは罠? それとも本物の“家族の愛”? 愛を知らないレティシアは、家族の無償の愛に翻弄されながらも成長していく。 疑り深い転生幼女が、初めて“幸せ”と出会う―― じんわり心あたたまる、愛されファンタジー。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...