幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

136,浮遊馬車

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 オークションから帰ってきたが、今日は遅いのでユユさんは屋敷に泊まっていくことになった。
 本来はオレ達はネーシャが寝付けないから海鳥亭の方でいつも寝ているのだけど、今日はユユさんが泊まるということで屋敷で寝ることにした。
 海鳥亭の女将さんにも今日は戻らないことは言ってあるので大丈夫だ。
 何も言わないでいると心配されてしまうのだ。宿屋と客の関係以上に思ってくれているのはすごく嬉しい。
 女将さんやマスターのオレを見る目は孫を見るような感じなのがちょっとくすぐったいけど。


「……ユユさん」

「ネーシャちゃんもこっちだし、私もこっちじゃない?」

「えへへへ~……お嬢様と師匠と一緒です」


 ネーシャはいつものことなのでいいとして、ユユさんも用意させておいたベッドではなくオレのベッドに入ってきて、ネーシャと2人で挟み込まれてしまった。
 ユユさんはネーシャと違ってずいぶん前から鍛冶をしているのでちょっと筋肉質のような気がする。
 でも抱え込まれた腕に感じる感触は女の子のソレだ。
 反対側の腕に感じる感触よりはちょっとだけ硬いけれど。


「……まぁいいか。それじゃおやすみなさい、2人とも」

「はい! おやすみなさいませ、お嬢様!」

「おやすみぃ~」


 言っても無駄なのはユユさんなのでわかっているので早々に諦めることにした。
 2人に挟まれたままふかふかで大きなベッドで目を閉じる。

 屋敷のベッドではなかなか寝付けないネーシャも今日だけは特別なのか、すぐに寝息が聞こえてきた。
 抱え込んだオレの腕は絶対に放さないのはいつものことなので問題ない。

 ユユさんはネーシャよりも早く寝入ったようだ。
 どこぞの射撃とあやとりの名手の如き寝入りの早さだ。

 2人の寝息を聞いていると自然と夢の世界への扉が開いていくような気がした。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 オークションから数日。
 落札した魔結晶をランカスター家に預け、作製を頼んだ物が出来るまでの間は休息と迷宮への準備に充てた。
 迷宮への準備はレーネさんをメインに様々な物を買い込んだ。
 屋敷にないこともないのだけれど、オレは初の中級迷宮ということで楽しみながら買い物し準備を進める。

 準備する物は多い。
 結構な量になったアイテム達だが全てアルのアイテムボックスの中に吸い込まれていった。
 こういうときアイテムボックスの存在は非常にありがたい。
 帰還用魔道具リリンの羽根があるオレ達なら屋敷に置いておくのも出来るけれど、いちいち戻ってこなければいけないのは大変だ。
 帰還用魔道具リリンの羽根だって無限に使えるわけではない。1回使うごとにMPを補充しないといけないのだから。
 まぁMP補充要員がいるから1日に何十回と使わなければ問題にもならないだろうけど。オレもいるし。

 それでも使いたい時にいちいち屋敷に戻るのは非効率だ。
 アイテムボックスならすぐに取り出せるしやはり段違いだろう。
 そのアイテムボックスにしても拡張してない人なら3種類3個までが限界だ。
 普通は貴重なポイントを消費して拡張なんてしない。
 アイテムボックスを拡張させる人は専用の職である、ポーターの人か商人などだろうか。
 いや、商人もそれなりの理由がなければなかなか拡張はしないか。

 結果的にアイテムボックスを拡張させる人は非常に少ない。
 例え街に住んでいてもポイントがあればステータスを増加させるかスキルをゲットした方が有用だしね。

 今のアルのアイテムボックスはLv6。
 500種類入り、1枠300個まで入る。
 1枠に300個入れても301個目は2枠目に入るため実質150,000個のアイテムが入ることになる。
 まぁ実際は1枠300個で埋めるようなことはしないのでもっと少ないがアルのアイテムボックスにはとんでもない量入ることには変わりはない。
 オレもLv4のままにしてあるので必要な物は大体自分のアイテムボックスにいれてある。
 その上レーネさんもアイテムボックスを拡張しているのでオレ達よりは入らないが自分の物は自分で管理できる。

 オレ達が荷物で悩まされることはまずありえないということだ。
 帰還用魔道具リリンの羽根もあり、アイテムボックスもある。オレ達ほど遠出に強いPTもないだろう。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 準備もほとんど終わり、ランカスター家に依頼した物が出来るまでは迷宮の情報を整理したり復習したり、屋敷の施設で訓練したり、各種約束事をこなしたりして過ごす事にした。
 下手に依頼を受けてまた面倒なことに巻き込まれるよりは迷宮に集中することにしたのだ。

 ちなみにエイド君はランクC昇格試験で1日で終わるけど厳しい試験を引き当ててしまって……見事失敗した。
 その日1日落ち込んでいたけれど次の日からはまた戦闘奴隷の人達にしごかれては回復魔法をかけてもらう日常に戻ってきていた。
 エイド君はどうにもくじ運が悪いようだ。南無。

 訓練の他にも孤児院の子達に勉強を教えたり、エリザベートさんに問題を出して解けなくて悔しそうにしているのを笑顔で眺めたり、ユユさんとエリザベートさんがアルの作ったお菓子の取り合いをしているのを呆れながら眺めたり、ネーシャが鍛冶修行でちょっと火傷したと連絡がありすっ飛んでいったらほんとにほんのちょっとだけの火傷で安堵したり、となかなか充実していた。

 あ、もちろんネーシャの火傷は痕など残らないように念入りに治しておいた。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「お嬢様! ここです! あたしが彫ったんです!」

「おぉー。よくやったね、ネーシャ」

「はい!」


 依頼していた物が完成し、屋敷に届いたので今みんなで眺めている。
 ぐるっと眺めて、あるところに差し掛かったところでネーシャが声をあげて自分の作製した部分を教えてくれる。
 そんな可愛いネーシャの頭を撫でてあげる。
 オレより頭3つ分くらい高いネーシャの頭を撫でるにはネーシャ自身にかがんでもらわないといけないけど、ネーシャも慣れたもので――若干期待されていた節もあるが――すぐにしゃがんでくれた。


「でも見た目は普通ねぇ~」

「切り替えを出来るようにしたからね。その分だけ時間がかかったけど」

「常時発動していたら大変ですからね。MP的に」


 一緒に見ていたエリザベートさんの感想は普通だ。
 まぁ見た目は至って普通だから仕方ない。まだ肝心の機構を動かしていないし。
 常時発動型にするとどうしてもMPの消費が馬鹿にならない。
 そこで専用の機構を搭載してもらった。このために必要な魔結晶が増えたがソレはオークションには出品されていなかった。
 でも比較的手に入りやすいし、この機構はゴーシュさんが得意としているものだったので問題なかった。


「それじゃ動かすよー」


 ユユさんが乗り込んで機構を動かす。
 するとかすかな『風』が巻き起こる。


「おぉ~」

「ほんとに浮いてる……すごいわねぇ~」


 各所に配置された魔結晶――『春燕』の効果である初級魔法:風により制御された風が発動し、車体・・を持ち上げる。
 魔結晶――『弧鷹』による軽量化で少ないMP消費で車体を持ち上げることが出来るようになっているため実現していることだ。

 持ち上げられた車体はそのまま重量を感じさせない動きでに引かれていく。


 そうこれは馬車なのだ。


 普通の馬車は街の外で速度を上げると道が整備されていないのもあり、振動が酷い。
 街の中を移動するのに使っている馬車なら振動はほとんどないがそれはアッシュの街の道がかなり整備されているからだ。
 実際に高速馬車で移動するときはかなり激しいアトラクション並の振動がくる。
 しかしこの馬車は車体自体を浮かせてしまうことによりその振動そのものを発生させることがない。

 サスペンションや軸、車輪の改良など色々思いついたのだが、せっかく道具・・に魔結晶を仕込めるというのでファンタジーチックな物にした。


 ユユさんが操る浮遊馬車は軽い力で簡単に動くが、その分ブレーキや風に対して弱い。
 車体がブレると簡単に横転してしまうという欠点もあったがゴーシュさんがその辺はなんとかしてくれた。
 横転対策にバランサーとなる物を作製して対処し、風対策には結界を張ることになっている。
 奇襲対策にもなるし、雨も弾いてくれる。

 ブレーキは浮遊発動機構に組み込まれた出力調整装置で徐々に軽量化を解いていくことで解決させた。
 急ブレーキは車体にダメージが出るが地面と接触させる方向になっている。なるべくなら使いたくない。

 その他にも様々な安全対策を取っている。

 ちなみにこの浮遊馬車はオレの発案の下に作成された新型馬車である。
 そのため他に同じような馬車は存在しない。
 しかしこういう馬車は実は前から案としては存在しているらしいが、問題点が多すぎて実用には至っていなかったそうだ。
 そこにオレの案を詰め込み、実現させた。知識チート万歳。


 まぁ……あとは金銭的な問題だ。
 魔結晶をふんだんに使っているのでこの浮遊馬車はとにかく金がかかっている。
 そんな贅沢品なので一般人は元より貴族などでも軽々しくは作れない。
 ゴーシュさんの技術あってこそでもあるが、オレの知識がなければ作れなかったものではあるし、今後はどうなるかはわからないが現時点では1点物で世界に1つしかない馬車だ。


「軽く街の外を走らせて悪路の対応も実地検証してみましょうか」

「バランサーや結界の調整もしたいしねー」


 完成したとはいえ、世界に1つの馬車なので調整はこれからだ。
 ゴーシュさんの自信作でもあるので大丈夫だと思うが、長い付き合いになるだろうしきっちりとやろう。


 目立つので街中では浮遊装置を解除して普通の馬車として移動させることも出来る。
 ネーシャの掘り込んだ巨大なハンマーを背負った可愛い狐のマークの扉を開けてみんなで乗り込んだ。

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