幼女と執事が異世界で

天界

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第7章

137,実験と手紙

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 街道を走る高速馬車は今のところ普通に走らせているためガタガタ、と結構揺れている。
 それでも普通に小走りで走る程度の速度――5~7km程度?――の速度だ。
 高速馬車はその5,6倍の速度で走ることが出来る。
 その速度で走れば新感覚アクティビティに早代わりするほどの揺れが巻き起こる。

 今回はユユさんとネーシャも乗り込んでいる。高速移動時の揺れがどんなものなのか彼女たちは知らないのでまずは適当に街道を進んで危なくないところまで着いたら揺れを体験してもらうことにした。


「いやあっあああぁっぁぁぁぁぁっッ!」

「おじょっさっまぁぁぁぁ!」

「無理にしゃべると舌噛むよ~」


 慣れたオレなら揺れに合わせて普通に喋れるが2人はそうもいかない。
 ユユさんはその激しい揺れにレーネさんに必死にしがみ付いて悲鳴をあげているし、ネーシャはネーシャでオレにしがみ付いて悲鳴をあげている。

 ある程度走って高速移動時の揺れ体験は終了した。
 2人とも酷く酔ってしまったが吐きはしなかったもののすごくつらそうだ。ちょっと悪いことしたかも。
 少しはマシになるといいかなと思って回復魔法をかけてみると意外にも効いてくれた。
 傷と違ってぶり返しの痛みなどはないようであっさりと2人とも酷い乗り物酔いから普通の状態になった。
 意外な使用方法にちょっと得した気分だ。でも使いどころが微妙すぎる。
 だってオレ達はあの激しい揺れに何時間も揺られても酔わなかったし、これからはその揺れも消えるのだろうから。


「ありがとね、ワタリちゃん」

「ありがとうございます、お嬢様! さすがお嬢様です! もうなんともありません!」

「うん、治ってよかったけど……。回復魔法って変なところに効くのね」


 高速馬車に乗り込み、今度は浮遊機能を起動させての移動だ。
 浮遊機能を起動させると最初だけ若干揺れたがすぐに安定してまったく揺れを感じなくなった。


「それでは出発いたします」


 御者をしているアルの声と共に高速馬車がゆっくりと動き出す。
 景色が移動しているので動いているのはわかるのだが……まったく揺れていない。
 ほぼ無風なので風がどの程度揺れに影響するのかはまだわからないが、生前のプロの運転手が運転するリムジン並の揺れなさだ。
 あのリムジンの滑るような動きと停車時やギアチェンジのスムーズさは驚嘆に値するほどのプロさ加減だったのをよく覚えている。
 だがこの浮遊馬車はそのリムジンに匹敵する。


「ふわぁ~……。お嬢様、まったく揺れてないですよ?」

「うんうん、すごいねぇ~」

「上昇位置も設定通り……。バランサーの起動も問題なし、制御よし……」


 先ほどとはまったく違う、本当に同じ馬車で同じ道を走っているのかと思うほどに違う。
 というか揺れ? 何それってレベルの揺れなさだ。
 ネーシャも口を開けっ放しにして驚いている。ユユさんは各部のチェックや制御面での状態のチェックなどに余念がない。


「……よし、各部チェックよし。
 アルさん、移動速度を上げてください」

「畏まりました」

「アル先輩、頑張ってください!」


 チェックの終わったユユさんからアルに速度アップの要請があり、馬に鞭が入る。
 先ほどの激しい揺れを体験しているからか、ぐっと御者台との仕切り板を掴んだネーシャがアルに声援を送る。

 ネーシャの声援を受け、ぐんぐん速度が上がっていくが揺れは一切起こらない。
 それどころか先ほどは御者台部分から入り込んできていた風なども一切入ってこなくなっている。
 これは浮遊機能と同時に展開されている横転防止の風の結界による効果だ。
 高速移動中は結構強い風が内部に侵入してくるので揺れと相まって激しく体を揺さぶるのだが、今はまったく揺れない上に風もまったく入ってこない。


「お嬢様! お嬢様!」

「うんうん、すごいね~」

「はい!」


 大興奮のネーシャがすごく可愛い。
 確かにあの揺れを体験してから同じ速度なのにまったく揺れていない今では興奮するなというのが無理だろう。
 キラキラ瞳を輝かせて流れていく景色を興奮しながら見入っている。そんなネーシャが可愛くて仕方ない。


 しかし唐突にそれは訪れた。
 順調に高速移動していた浮遊馬車だったが、突然突き上げるような振動が起こったかと思うと斜めに傾く。


「お、お嬢様!? お嬢様!?」

「わわわわワタリちゃあああぁん」

「とと、アル!」

「お任せくださいませ!」


 驚き慌てるネーシャを抱きしめ、ユユさんも捕まえておく。いざという時は速攻で逃げられるようにしておくためだ。
 声をかけたアルはすでに車体が横転しないように制御しようとしている。
 バランサーもあるから多分大丈夫だろうけど、いったい何が起こったのか。


 車体を戻しながらスピードを落としていく。
 バランサーのおかげか、アルの制御のおかげか、とにかく横転することは免れた。


「びっくりしたぁ……。何があったの?」

「おそらく魔物が土の中から出現したようです」

「えぇ? なんつータイミング……」


 魔物が接触したと思われる位置はだいぶ距離があいてしまっていて視認できないので戻ったが、どうやら車体に接触した瞬間にはオーバーキルされたようで死体は確認できなかった。

「そうかぁ……結界は基本的に横や前からの障害の排除だから下は無防備なのか……。これは要修正だね」


 恐らく偶然だろうが実際に起こったことなのでしっかりと対策を立てる必要がある。
 今回は横転しなかったが次はそうとは限らない。
 高速で移動しているのだから横転したときの被害は通常の比ではない。
 速度が速いという事は逆に言えばそれによる事故は比例して甚大になるということだ。


「車体の下にも結界を伸ばして防御範囲を拡大させればいいかな。
 ワタリちゃん、たぶん1日もかからないと思うけどどうかな?」

「はい、お願いします」


 安全確保のためなら否やはない。
 最悪、迷宮に出発する日をずらせばいいだけだしね。
 高速馬車は速度が出せる反面、事故が起こりやすい。
 それでもメリットが大きいので急ぐときには使う場合が非常に多い。

 浮遊馬車はウイユベール初の馬車だ。
 安全対策をしっかりと立て、不安要素はなるべく排除したい。
 そのために必要な時間ならいくらでも捻出するべきだし、絶対にやるべきことだ。


 ラッシュの街へと引き返すことにし、その道中でも移動速度をある程度上げて実験を再開する。
 今度は魔物が出現することもなく順調に街の近くまで来たところで速度を落として屋敷へと帰還した。






      ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「じゃあまた明日来るねぇ~」

「よろしくお願いしますね」

「師匠、また明日です~」

「うん、まったねぇ~」


 普通の状態で馬車をゆっくり走らせていくユユさんを見送り、オレ達も屋敷へと戻る。

 とりあえず車体の下部への結界の拡張以外は問題点が見つからなかったので明日までに仕上げてくれることになった。
 明日もう1度走らせて、実験的に下部に接触するくらいの岩を設置してそこを通過するなどの実験をしたりするそうだ。

 屋敷に戻ってくるとエンタッシュが何やら手紙を預かっているらしく渡してきた。
 封蝋には冒険者ギルドのマークが押されている。
 差出人はギルドマスターだ。


「なんだろう? 伝言じゃなくて手紙でなんて初めてだね?」

「エリザベートを呼んで来ましょうか?」

「うん、そうだね。一応一緒に読んでもらおう。
 エンタッシュ、エリザベートさん呼んで来て」

「畏まりました」


 アルの提案に頷き、念のためエリザベートさんを呼んできてもらうことにした。相変わらずアルに負けないほどのキビキビした動きで深々と頭を下げてその場を後にする老執事。
 普段使っているオレの部屋に戻り、アルとネーシャがお茶の準備を始める。
 レーネさんと一緒にテラスの椅子に座ってエリザベートさんを待つ間にちょっとした雑談などをして時間を潰していると、いつものようにエリザベートさんがノックなしの突撃で扉を開いて入ってくる。


「わったりちゃあああぁぁあん! 私に用事ってなにかな! なにかな!?」

「あーなんか、コレがギルドマスターから」

「むむ……? お爺様から?
 ……ふむ。珍しいね、手紙でなんて」

「あーやっぱり珍しいんですね」

「うん。だってほらあのお爺様だからね。何か言うなら直接か伝言で言うから」

「ですよねー」


 オレのすぐ横に椅子を引っ張ってきて腰掛けるエリザベートさん。
 椅子が接触するくらい近いのだが、まぁいつものことだ。
 そしてネーシャがエリザベートさんに紅茶を淹れてちょっと離れたところに置く。これもいつも通りだ。

 なぜなら……。


「もう! なんでいつもアル君は私の邪魔をするのかな!?」


 アルに引っ張られてネーシャが紅茶を置いた位置まで椅子ごと移動していくエリザベートさんが不満を漏らすがいつものことなので問題ない。

 ちなみに引きずられているはずなのに一切音がしなかったり、テラスの床に傷が付いたりしていないのはさすがアルだ。
 こんなところでも完璧だ。


「さて、じゃあ開けますね」


 不満を漏らすだけで移動させられた位置で――移動しようとするとまた戻されるので――紅茶を飲み始めるエリザベートさんに一言断りを入れてから封筒にペーパーナイフを差し込んだ。


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